SNSで性被害にあわないために中高生が知っておくべきことは?

専門家に聞く

2024/05/01

今や多くの10代にとってコミュニケーションツールとして欠かせないSNS。しかし、そこには危険もたくさん潜んでいます。

警察庁は3月14日、2023年にSNSがきっかけで犯罪被害にあった18歳未満の子どもが1665人いたことを公表。中でも「児童買春・児童ポルノ禁止法」に係る事案は882人、「不同意性交等」が96人、「不同意わいせつ」が33人と、性に関わる犯罪に巻き込まれるケースが目立つようになってきています。
警察庁「令和5年における少年非行及び子供の性被害の状況」

性的な被害は親や警察、身近な大人に相談しづらく、一人で抱え込んでしまう子どもも多いと言われる中、こうした数字は氷山の一角に過ぎないことが考えられます。

このような被害にあわないために、10代の中高生やその保護者は、どのようなことに注意を払ったらよいのでしょうか。

今回は、デジタル性暴力などに関する相談支援を行っているNPO法人ぱっぷすに、話を伺ってきました。

「傷つけたくない」「嫌われたくない」気持ちが利用される

まずはどのようにしてSNSから性被害につながっていくのかを知っておくことで、危険を察知しやすくなるはずです。
その具体的な事例を、理事長の金尻カズナさんに教えていただきました。

「事例として多いのは、自身の性的画像を送ってしまった、撮られてしまったというものです。一例としては、まずSNSやスマホゲーム上で仲良くなり、最初に相手が自分の顔写真を送ってきて、『君の写真も送って』と言われます。顔写真を送り返すと、『かわいいね』などとリアクションが返ってくるのですが、それが徐々にエスカレートしていき、『ちょっとHな写真も見てみたい』などと言われ、断りづらくなり送ってしまうというケースがあります」

特に、日常生活の中で何かしら不安や孤独を抱えていると、「かわいいね」などの褒め言葉で孤独が埋められたような気持ちになり、過度な要求にも応えるようになってしまう傾向があると言います。また、相手も送ってくれたのだから自分も送らないと、という気持ちにさせられて送ってしまう人も多いのだとか。

「10代の女の子の中には、『男の子は性的なことに興味があるもの』という認識が広がっており、『断ったら傷つけてしまうのでは』『嫌われたくない』と思ってしまう子も多いんです。ですが、要求が過度になって『裸の写真もほしい』と言われたときに、さすがにそこまではと断ると、相手から『これまで送ってもらった写真、どうしようかな』などと脅されてしまう場合もあります」

この相手が実は隣のクラスの男子生徒だったなど、身近な相手や同世代が加害行為をしているケースもあるとのこと。

「こうして入手した性的な画像を、X(旧Twitter)などのSNSを通じて別の人に売ったり、拡散したりする加害者もいます」

お小遣い稼ぎをしようと軽い気持ちでやってしまう加害者もいるかもしれませんが、こうした行為は児童ポルノ製造等罪や、児童ポルノ所持罪・保管罪、児童ポルノ提供罪など、れっきとした罪になります。回ってきた画像を保有したり、さらに拡散したりする行為も同様です。
被害者にならないよう気をつけるだけでなく、やっていいことと悪いことをしっかり学び、加害者にならないよう心掛けることも必要です。

男性でも動画を撮られ脅迫される被害が増加

また、「女性だけでなく男性が同じように、SNSで性被害にあうケースも多い」と金尻さんは言います。特にコロナ禍以降、オンラインビデオ通話が広まってからは、男性が被害にあう事例が増えてきているとのことです。

「たとえば、海外の人たちとコミュニケーションがとれるHelloTalk(ハロートーク)などのアプリ上で、相手の女性が裸でビデオ通話に登場し、『あなたも脱いで』などと言ってくることがあります。海外の人は大胆なんだなと思い、自身も脱ぐと、『動画に撮ったので、拡散されたくなければ10万円を振り込め』などと要求してくるんです。これは組織的な犯罪で、通話に登場する役、脅す役などさまざまな加害者が裏にひそんでいます。『15分以内に振り込まないと……』などと言って、焦らせてパニックにさせ、お金を騙しとるんです」

こうした場合に振り込んでしまうと「お金がある」と見なされてさらに要求が続いたり、お金を払っても写真や動画を拡散されてしまったりするのだそうです。すぐにブロックをして連絡をとらないことが最善策とのことですが、そもそもビデオ通話、動画や写真では絶対に自分の性的な姿を見せないという意識を持つことが必要です。

「Hello Talkなどの言語交換アプリを使ったこの特殊詐欺については、アメリカではFBIも撲滅に乗り出しています。一方で日本人はまだ『男子だから大丈夫』といった油断を持つ人が多く、ターゲットにされやすくなっています。被害者が誰にも打ち明けられずに思い悩み、自殺未遂に至って事件が発覚したケースもあります。この事例だけでなく、今やX(旧Twitter)、Instagram、Discord、Telegramなど、あらゆるSNSにおいて男女関わらず、さまざまな手口で性加害をする人がいることを知っておいてほしいです」

男性だからといって自分は無関係だと思わず、SNS上でのやりとりは慎重に行うことが大切です。

グルーミングを見分けるのは大人でも困難

被害にあわないための第一歩としては、こうした危険がSNSにひそんでいることを早くから知っておくこと。とはいえ、もし起きてしまった場合にはどうしたらいいのでしょうか。
先ほど伺ったように、性被害にあったときに誰にも打ち明けられず、一人で抱え込んでしまう人が多いのも、この問題の深刻な点です。

「私たちのところに相談に来た子の中には、『お母さんにそんな子だと思われたくない』など、親に相談できずにいる子も多いんです。自分も悪いと思い込んでいて、相談したら叱られるのではないか、見放されるのではないかという不安を抱えてしまうんですね」

しかし、SNS上で常にさまざまな人から話しかけられ、性的な視線にさらされることの多い中で、悪意を見極めるのは10代にはかなり難しいことです。
同NPO法人で相談主任を務める内田絵梨さんは、10代の女性がSNS上でどのような声をかけられるのか、グルーミング(性的行為を目的に、大人が子どもと親密な関係を結ぼうとすること)の実態調査を行ったときのことを教えてくれました。

「実験では、14歳の女子中学生としてX(旧Twitter)上に架空のアカウントを作成しました。そこで『友達がほしい』と投稿すると、すぐに10人近くの男性からダイレクトメッセージが送られてきたんです。内容は『何カップ?』など性的なものが多く、2カ月で約200人からメッセージが届きました。こうした中で、性的な話はせずにただ『勉強頑張って』など気遣うようなメッセージを送ってくる男性もいて、大人の私もつい『この人は大丈夫そう』と思ってしまいました。でも、結局その人も、次第に性的なメッセージを送ってくるようになったんです」

性的なメッセージを送り続けられる中で、他の人とは違って信頼できるのではないかと思って心を開いてしまうと、それが落とし穴になってしまうというわけです。一度心を開いてやりとりをしてしまった相手だからこそ、断りづらくなってしまって被害にあう10代は後を絶たないと言います。

「こうしたときに、保護者が『なんでそんなことをやったの!』などと叱っても、子どもの心の傷は深くなるだけです。保護者もSNS上には無数の加害者がひそんでいることを学び、警察や相談機関に相談する、相手をブロックさせるなど、落ち着いて行動することが大切です」
と内田さん。日頃から子どもとしっかりコミュニケーションをとり、つらいことや困ったことがあれば頭ごなしに否定せずにきちんと話に耳を傾けるなど、信頼関係を大切にしておくことも、親に言えずに事態が悪化するのを防ぐことにつながるはずです。

「また、日本の風潮として、デジタル性暴力はいたずらの範疇、子どものやることだ、と軽く見られていることも問題です。人権に関わる大切な問題なのだと、大人たちがしっかり認識しておくことが重要です」

「とる・もつ・みせる・みる」はいずれも性暴力!

最後に、そもそも、相手に性的な画像を送ってほしいと要求したり、撮影したりすることは、なぜ悪いことなのでしょうか。内田さんがわかりやすく解説してくれました。

「性的な写真や動画を『とる・もつ・みせる・みる』、この4つのどれもが性暴力に当たります。なぜなら、自分の体をどうするかについて、意思決定の権利を持っているのはその本人のみだからです。自分の写真や動画を他人が所有し、いつでも見られる状態にあるということは、性的同意を得られる状況ではなくなるということです。性的同意なく、他人が勝手に自分の写真や動画を見たり、また別の他人に見せたりすることは、性暴力に当たるんです」

自分の体のことなのに、写真や動画を撮られてしまうと自分がコントロールできる範疇から出てしまい、見るのを断りたくても断れない状態になってしまう。ゆえに、これは暴力になるということです。

「子どもに『どうしてエッチな写真を撮っちゃいけないの?』と聞かれて、パッと何がどう悪いのか説明できる大人はまだまだ少ないと感じます。大人の恋人同士でも、相手に動画や写真を撮られるのを断れずにOKしてしまったものの、モヤモヤしているという人は少なくありません。でも、それは立派な犯罪なんですよね。どういう犯罪にあたるのか、どう暴力的なのか、まず大人が理解しておくことが必要です」

デジタルネイティブではない世代の大人のほうが、まだ理解が浸透していないというのが現実なのかもしれません。子どもの性被害を防ぐために、社会全体で意識を高めていかなくてはなりません。

取材協力

NPO法人ぱっぷす
理事長 金尻カズナさん

相談主任 内田絵梨さん

「性的搾取に終止符を打つ」をミッションに、デジタル性暴力やAV業界・性産業などで受けた困りごとの相談支援、本人の意に反して拡散した性的画像を削除する活動、アウトリーチ活動、アドボカシー活動、広報・啓発活動などを行う。
https://www.paps.jp/


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(電話・メールで相談を受け付けています)

<取材・文/大西桃子>

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この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。