不登校経験者、TikTokに集まれ!「不登校生動画選手権」授賞式で子どもたちの勇気を発見
不登校
先輩に聞く
2023/08/31
20歳未満(※)で不登校を経験した個人を対象に、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」で1分以内の動画を募集した「不登校生動画選手権」。その授賞式が8月18日(金)に東京都現代美術館(東京都江東区)で行われました。
募集した動画のテーマは「学校へ行きたくない私から 学校に行きたくない君へ」。応募作品は約350本に及び、動画再生数は1000万回を超える盛り上がりに。
主催したNPO法人全国不登校新聞社の石井志昂(しこう)さんは、「この時期に開催したことにも意味がある」と言います。
9月は子どもたちの息切れ時期
長期休業明けの9月は、不登校の児童生徒だけでなく、休み前まで頑張って学校に通っていた児童生徒も、不安を抱えがちだと言われています。厚生労働省・警察庁による「令和4年中における自殺の状況」によると、小学生から高校生までの児童生徒の自殺者数は、2022年に過去最多の514人にのぼっています。
こうした傾向を受け、文部科学省は2023年7月10日、各都道府県の教育委員会に対し、児童生徒のSOSをどのように早期発見するかなど、自殺を予防する取り組みについて通知を出しています。
不登校生動画選手権も、こうした傾向を踏まえて、「不登校だからこそ、当事者だからこそ伝えられることがある」という思いを込めて、この時期に開催したとのこと。
「不登校の子が何とかこの世の中をよくしたいと思って一生懸命考えていること、また不登校の子だけじゃなく、実は子どもたちが主体的に社会を見て考えているということが伝わると嬉しいです」と石井さん。
実際、どんな作品が寄せられたのか、受賞作を見ていきましょう。
(※)13歳未満はTikTokの使用はできません。保護者の管理のもとお楽しみいただく必要があります。
フォロワー0人でもゆっくり進んで誰かに伝われば
今回の授賞式では、審査委員賞に5作、優秀賞&学研ココファン・ナーサリー賞に1作、優秀賞&審査委員長賞に1作、最優秀賞に1作が 選ばれ、それぞれ投稿した個人・グループが表彰されました。
優秀賞&学研ココファン・ナーサリー賞に選ばれたのは、りせなさんの作品。
キャンバスに向かって絵画を描いている動画を背景に、「ゆっくり自分なりの世界を探していこう」というメッセージが込められた動画となっています。
受賞したりせなさんは、「当時はまだフォロワーが1人もいない中で、誰か1人でも見てくれればいいなと思って投稿した」「自分の気持ちを絵で伝えられたのがよかったなと思います」とのこと。
審査委員長を務めたタレントの中川翔子さんも「りせなさんにしか描けない絵を描いている姿に心をつかまれました」と話すとおり、個性的で魅力あふれる作品が最後に浮かび上がってくるこの作品。
フォロワーが0人という周りに誰もいないように思えるスタート地点でも、考えていることや思い浮かんだイメージを好きな方法で表現することで、誰かを勇気づけたり、共感し合える仲間と出会ったりすることもできるのではないでしょうか。
不登校をネガティブにとらえるのではなく、自分なりにやりたいこと、自分なりの世界にゆっくり向き合う大切な時間として考えたくなる作品となっていました。
フリースクールという居場所を見つけて心が楽に
優秀賞&審査委員長賞に選ばれたのは、ハリケモノさん。
学校に行けなくなり自分の殻に閉じこもるようになってしまっていたけれど、フリースクールに通うようになってから、さまざまな人との出会いを通じて楽しく過ごせるようになった、という自身の経験をハリネズミのようなオリジナルキャラクターで表現したアニメーションとなっています。
「いろんな人に助けられて、いつかは心が楽になるころを伝えたくて作りました」とハリケモノさん。
現在、フリースクールは全国に500校ほどあり、さまざまな理由で登校していない児童生徒の居場所となっています。フリースクールといっても最近はオンライン形式のフリースクールも登場し、活動の内容は多種多様ですが、主に、学習したり進路相談やカウンセリングを受けたり、自然とふれあったり、芸術やスポーツに親しんだりと、一人ひとりの主体性を大切にした居場所づくりが行われています。
学校に通うのは苦しくなってしまうけれど、フリースクールで自分のペースで過ごすことで、自然と仲間ができたという子どもも少なくありません。
自分が無理なくいられる居場所を見つけ、そこでの出会いを通じて少しずつ気持ちが軽くなっていく。そのことで、自分の思いを誰かに向けて表現してみようと踏み出す勇気が生まれるのかもしれません。
動画の最後には、ハリケモノさんからの「ムリしないで」というメッセージが現れます。学校だけが居場所じゃない、無理をしないでいられる場所が大切ということがよく伝わる作品でした。
理由のない不登校で自分を責めてしまう子どもたちも
最優秀賞に選ばれたのは、新潟県長岡市のフリースクールに通う仲間たち7人グループ、あうるの森。
「学校に行かなくなって楽になったはずなのに、私は自分を責めることが多かった」と、不登校になってからのつらい気持ちがモノクロの学校の光景とともに流れた後、フリースクールの仲間たちとの素敵な出会いが、キラキラした海辺を背景に表現されていく動画となっています。
動画では「いじめられていたわけでも、友達がいなかったわけでもなかった」「でも私は段々と笑顔を作れなくなっていった」と語られていますが、同じように、自分でも何かはっきりした理由かわからないけれどつらかったという子どもは多くいます。
文部科学省の「令和2年度不登校児童生徒の実態調査」で不登校の小学校6年生、中学校2年生に不登校になった理由を聞いたところ、「きっかけが何か自分でもよくわからない」と答えたのは小学生で25.5%、中学生で22.9%にのぼります。理由がわからないことで人から甘えと言われたり、自分自身を責めてしまったりする子どもも多い中、この作品に共感を寄せたり、勇気づけられたりした人もいたのではないでしょうか。
動画の最後には、「環境を変えれば、きっと居場所はある。一歩を踏み出す勇気を」とメッセージが流れます。
代表のひなたさんは、学校とは違うフリースクールの魅力を聞かれ、「友達もできるし、お話もできるし、みんなでゲームもできる。すごくいいところです」「みんな同じ不登校という経験をしていますし、それぞれ事情は違うけれどいろんな子がいて、勉強も自分ができる範囲でちょっとずつ丁寧に進んでいってできるようになる。学校は集団で勉強するけれど、フリースクールは少人数で勉強を教えてくれる」と教えてくれました。
不登校新聞の石井さんが明かしてくれた話では、あうるの森は今回、複数の動画を投稿し、本気で優勝を狙いにきていたとのこと。どんな作品が受けるのか、勝つために何ができるのか、議論を重ねてさまざまな動画をつくり、試行錯誤を経て最後に投稿したのが今回の受賞作だったそうです。
フリースクールの仲間たちと、また1つ素敵な夏の思い出をつくることができたのではないでしょうか。
バズるよりも、自分らしい表現を大切に
他にも受賞した作品を1つひとつ見ていくと、どれも今の自分の気持ちを率直に伝えつつも、同じような不登校の子どもたちを勇気づける強いメッセージが込められていたり、クスッと笑えて心が軽くなるような内容だったりと、さまざまな表現がありました。
この動画投稿選手権を共催したTikTok JAPANの金子陽子さん(公共制作本部・公共政策マネージャー)は授賞式後、「TikTokは多様性を大切にするプラットフォーム。子どもたちにとっても学校に行くだけでなく、もっと多様な場所があってもいい。投稿もバズることが重要なのではなく、それぞれの個性を発信してくれることが大切」と話していました。
みんなが行くから学校に行くことが正しい、みんなが「いいね」を押した投稿がいい投稿…。多数決の理論から、こう感じてしまうことがあるかもしれません。しかし、1人ひとりが自分の居場所を見つけ、自分らしい表現のしかたで、自分の思いを伝えていく。それによって大多数の賛同を得ることよりも、誰か1人でも心を動かしたり、他人や自分自身を勇気づけたりすることができれば、それは素晴らしい表現と言えるのではなでしょうか。
▼不登校新聞公式HP
https://futoko.publishers.fm/
<取材・文/大西桃子>
この記事を書いたのは
ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。