通信制高校が叶える新しい学びの場! 保護者視点のメリット・デメリットは?

通信制高校

保護者の声

2019/12/03

「不登校の生徒や働きながら高卒資格を得たい生徒のための学校」

通信制高校に対し、こう認識している方は、少しネガティブな印象を持っているかもしれません。しかし最近では、ネットをうまく活用して多様な学びの機会を提供し、生徒ひとりひとりの個性に寄り添った教育を実現する学校として、通信制高校が注目を集めているのです。

そんな新しい高校として注目を集める通信制高校のひとつ、N高等学校(学校法人角川ドワンゴ学園が運営する通信制高校、以下N高)の教育をテーマにしたイベント「N高等学校の多様な学びの実践〜保護者たちとの本音トーク〜」が行われました。

子どもたちの個性を伸ばす子育てを応援する団体「オリジナル子育て」が主催したこのイベントは、11月23日(土)、東京・日本橋にあるサイボウズ株式会社のイベントスペースで開催。当日は鹿児島県や新潟県など遠方から来た人や、親子連れ、教育関係者など多くの人が集まり、オンラインで参加する人もいました。

イベントには、息子さんがN高に通う教育ジャーナリストの後藤健夫さんも登壇しましたが、通信制高校ナビでは、保護者から見るN高のメリット・デメリットに着目してみました。

保護者の満足度8割以上 その教育内容とは?

イベントでは、N高の副校長を務める上木原孝伸さんが、N高が実践している教育について詳しく教えてくれました。

「N高では、偏差値にとらわれたり何となく進学したりということではなく、自ら意欲を持って学び、学ぶことを快感にしてほしいと考えています」

この教育方針のもとN高では、高校卒業資格を得るために必要な学習を、普段はインターネットを使った映像学習で行います。最低年4日必要なスクーリング(学校登校)では、対面授業、特別活動、テストを実施。これがベーシック・プログラムですが、その他にもプロによるプログラミングやイラスト、小説の創作、webデザインなどの授業や、リアルでの職業体験など、自分の興味のあることを学べるN高独自の『アドバンスト・プログラム』 も提供しています。

生徒や教員のコミュニケーションは、チャットアプリ「slack」。ネットコースの生徒たちは毎週このslack上でホームルームを行います。

これについて、SNS上でのさまざまなトラブルを心配する声もあるかもしれませんが、ネットでの炎上やトラブルをさまざま経験してきたニコニコ動画のメンバーが、そこで培った対処法を活かして対処してくれるそう。

自分が学生時代にはなかった形の教育に不安を抱く保護者もいるかもしれませんが、保護者たちからの評判はどうなのでしょうか。

N高が保護者に対し毎年行っている「N高への満足度アンケート」によると、開校した2016年では71.4%だったものが、2017年には81.1%、2018年には83.0%に上昇と、徐々に満足度は上がってきていると言います。

「教員たちは”生徒ひとりひとりとしっかり向き合いたい”という思いを持った人が多いので、生徒たちのサポートも密に行っています。たとえばレポート提出も、期限になってから催促の連絡をするのではなく、学期のはじめからネット上でたくさんやりとりをして進捗を促す工夫もしています」

また、できれば子どもには大学や専門学校などに進学をしてほしいと思う人も多いのではないでしょうか。N高の進学率は大学18.8%、専門学校他36.2%。就職者も含めた進路決定率は81.8%となっています。

気になるデメリットの話題も…

一方で、イベントに参加した保護者からは「こうした新しい教育システムにも、デメリットはあるのでは?」という声も上がりました。

「何をデメリットと感じるかは生徒や保護者の価値観によるので、これがデメリットですとひと言では言えませんが……。ネットを中心にしているために、生徒とも保護者とも連絡がとれなくなってしまったらフォローができなくなってしまうということはあります。

N高は万能薬ではないし、まだ提供できていないものもありますが、できるだけ生徒たちが望む学びを提供できるように努力を続けます。」

100%誰にでも合う教育だとは言い切れないけれど、「学校が生徒を選ぶのではなく、生徒が学校を選んでほしい」と上木原さん。確かに、「ここならやりたいことがやれそうだ」と考えて進路を選んでいけば、ミスマッチは少なくなるはずです。

ソサエティ5.0に合わせた教育が必要

次に登壇したのが、教育ジャーナリストの後藤健夫さん。ご自身のお子さんがN高に通っているということで、親目線を交えてN高、そしてこれからの教育について語ってくれました。

後藤さんによれば、「今の社会はソサエティ5.0と言われているのに、学校は3.0で止まっている」とのこと。ソサエティ1.0が狩猟、2.0が農耕、3.0は工業。このように人間社会は発達してきましたが、学校は3.0止まり。4.0は情報、5.0はサイバー空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させたシステムによって経済発展と社会的課題の解決を両立する、新たな社会と言われています。

「学校で先生が一方的に話す教育は、効率はいいですが、目的は工場で働く人を育てることにあります。これはもう古い。今、教育改革によって脱出する方向に動いてはいますが、N高はそれに先駆けて、主体的な学びができるようになっている。仲間たちと課題を見つけて、その課題をどう解決するかを考えられる環境が整っています」

学校だけでなく、親たちの意識も変遷期にあると後藤さんは言います。

「世間体もあるから制服を着て、朝8時には家を出てほしいと考える親は、N高では見かけません。校則から解放されるだけでも、子どもたちは自由にやりたいことをできるようになります。今の子どもたちに必要なのは、制服よりもパソコン。物事を探究するために情報を集めたり、人と繋がったりする環境です」

大人たちが「学校とはこういうもの」という固定概念を払拭し、今の時代に必要な学びや、学ぶとはどういうことかという本質を理解することが、これからの教育には必要となるようです。

「N高が教育業界に突きつけたのは、”学ぶとは何か”という問いです。先生と対面でなくては学べないのか。これからの時代はデジタルと付き合わなくては生きていけません。デジタルトランスフォーメーション(ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させるという概念)についていけない大人もいますが、果たしてそれでいいのでしょうか」

こうしたお話に、会場に来ていた保護者の皆さんも頷きながら耳を傾けていました。

参加した保護者の感想は?

イベントでは上記お二人のほか、新しい教育の形を実現している方々も紹介され、ディスカッションの時間もとられました。参加者は最後まで熱心に、登壇者たちに質問や相談をしていました。

そこで、今回の参加者たちに、感想を聞いてみることに。

まずは、中1の女の子とその保護者。
お母さんは「進路のことは早めに情報を集めたほうがいいと思って」と、N高を含めてさまざまな高校の情報を集めているとのことですが、中1の娘さんもお母さんに「これってどういうこと?」と難しい言葉は教えてもらいながら、熱心に登壇者のお話を聞いていました。「すごくいろんなことにチャレンジできるのが楽しそう」という娘さんに、もしもN高に入ったら何がしてみたいか聞いてみると、

「片っ端から、全部!」

と目を輝かせていました。子どもの「やりたい」という希望を叶える環境をいかに提供できるかがこれからの教育のキモとなりそうですが、それはつまり、この目の輝きを失わせないということなのかもしれません。

自身が公立学校の教員だという中学生の保護者の方も来ていましたが、こちらは、
「こういう学校があるとは知っていて、情報がほしければ学校説明会に行けばいいのですが、説明会ではいいことしか言いませんよね。だから、ネガティブな面も含めて、よりリアルな情報がほしいと思って参加しました」
と参加理由を話してくれました。

今回のイベントでは、お子さんの進路だけでなく、教育のあり方についても見直すきっかけになったと言います。
「いい意味で裏切られましたね。最近は、発達障害の子どもや、グレーゾーンの子どもも増えています。そういう子たちが授業についていけず、簡単にハネられてしまい、将来の選択肢が狭められてしまうのが現状。でも、どうやって授業についていかせるかではなく、本人がやりたいことを追求できる環境をつくることが大切だと改めて感じました」

その他、保護者の方々の感想として次のようなものが上がってきました。

「不登校でも、本人の学びたいというモチベーションがあればいいと思っています。だから、公立高校も含めて多くの学校でN高のようなシステムを取り入れてほしいです」

「時間や場所に縛られずに勉強することができるのが魅力だと思いました」

参加者の中には、鹿児島県からお母さんと一緒に来たという小学6年生の男の子も。
「古い学校のシステムに、バカバカしいなって感じることがよくあります。時代遅れだなって。僕は学校でプログラミングを学んだり、ゲームを作ったりしてみたい」

また、お父さんと一緒に来ていた中1の女の子は、
「通信制ってどうなんだろうって思っていたけれど、意外とリアルでもつながれるのがわかって、興味がわきました」
とのこと。

子どもたちの「学校ではこんなことをしたい」という希望を、新しい通信制高校では実現できるようになっているようです。

取材協力

オリジナル子育て(Facebook)

その子らしく幸せな人生を送ってもらうために、学びだけでなく、遊びや体験を通して「独創性」や「非認知能力」を高める子育てのノウハウを発信する。

<取材・文/大西桃子>

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この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。