さまざまなシーンで活躍する大人たちに、過去の失敗談を語っていただくこの連載。今回お話を伺ったCGOドットコム総長・バブリーこと竹野理香子さんは、高校時代に不登校と家出を経験。
家出先でいわゆる「ギャル」と呼ばれる仲間たちと出会ったことで価値観が大きく一変し、大学時代の2020年に「ギャルマインドで世の中をアゲにする」ことをミッションにCGOドットコムを設立、2022年に法人化し、注目を集めています。
中学時代までは成績優秀、生徒会長も務めたというバブリーさん。高校進学後、一体どのような経験から今に至ったのでしょうか? 詳しく伺ってみましょう。
「大学進学は当たり前」の優等生から不登校へ……
――バブリーさんは、中学まではいわゆる優等生として学生生活を送ってきたとのことですが、高校で学校に行けなくなったきっかけは何だったのでしょうか。
私は山梨県の田舎の出身で、中学までは勉強も部活もものすごく頑張って、生徒会長も務め、地元の進学校に入学しました。両親とも学校の教員で、厳しいわけではなかったのですが、「大学に行くのは当たり前」という感じで、私もそれを疑問には感じていませんでした。周りからも「勉強ができる子」と思われていたので、「それに応えないと」という思いはありましたね。ですが、いざ高校に入ってみたら、学校の雰囲気に馴染めず、「自分はなんでこの学校にいるんだろう」とわからなくなってしまったんです。
――自分に合わないなと思ったのは、どういう点だったのですか?
高校では私と同じように、勉強や部活を頑張ってきた子がたくさんいました。進学校なので他の学校よりも授業のコマ数が多く、朝から晩まで勉強漬けです。とにかく勉強しなさいという環境で、このまま大人たちに言われるまま勉強して、何かのレールに乗せられて人生が進んでいくのかなと思ったら、苦しくなってしまって。高校1年性の夏から徐々に学校に行けなくなってしまいました。
――不登校の間は、どのように過ごしていたんですか?
すごく悩んでいましたね。それまではずっと周囲が敷いたレールの上を歩きながら育ってきたので、そこから外れるということもしんどくて。3カ月くらいは布団から出られず、家族と食事もできず、話もできませんでした。その状態が家族を悲しませているかもと思うと、それもまたつらくて。普段はとても優しい両親なのですが、学校に行かないことで、「サボっているだけだ」とめちゃくちゃ叱られて、家にも居づらかったです。
――当時は不登校になったことを、ご両親もご自身も失敗だというふうにとらえてしまったんですね。
本当につらかったです。家から出られるようになってからは川辺をうろうろして過ごしたりしていたんですが、田舎なのですぐに噂が広がってしまって、どこにも居場所がないように感じていました。
大阪で出会ったギャルたちのマインドに感動
――そこから、家出を決行することになるんですね。
家で本を読んだり動画を見たりして過ごしていた不登校の期間に、オンラインで同世代の子たちとコミュニケーションをとるようになったんですね。自分の周りとは違うコミュニティで、今まで出会ったことのないような子たちとやりとりをするようになったんです。その中で、大阪在住の同世代の子が「そんなに嫌なら大阪に来なよ」と言ってくれたんです。
――SNSがある時代ならではのお話ですね。インターネットの存在は大きかったですか?
特に地方出身だと、リアルなつながりは本当に限定的になってしまいますよね。でも、オンラインでは世界中のたくさんの人たちとつながれる。それは本当に大きいことだと思います。インターネットを通じて多くの情報が得られるのも良かったと思います。当時、ネットを通じてスティーブ・ジョブズのスピーチを見て感動して、実は彼も大学を中退していると知って、「学校を辞めても生きていけるんだな」と気づかされました。情報をたくさん得られる時代だからこそ、苦しんでいるのは自分だけじゃない、学校を休んでも大丈夫、と知ることもできました。
――家出をして山梨から大阪へ、ずいぶん遠くに行きましたね。
はい。貯めていたお年玉を持って夜行バスに乗って大阪に行き、友達の家に転がり込みました。友達のご両親もいい方で。もちろん私の両親にも話を通してくれて、居候させてくれることになったんです。家出中は、とにかく遊んでいましたね。初めて髪を染めたり、夜の街に出てみたり。今までにない経験をたくさんしました。
――そこでギャルの仲間たちと出会うわけですね。
地元のコミュニティでは見たことのなかったギャルが大阪には大勢いました。仲良くなると、見た目だけでなくハッキリ意見を言うことができる強さのようなものに感動しましたね。CGOドットコムで定義している「ギャルマインド」は、「自分軸」「直感性」「ポジティブ思考」の3つの要素で構成されていますが、山梨にいた頃はそういうマインドを持った人には出会ったことがなかったんです。
――家出はどれくらい続いたのでしょうか。
1年半くらいですね。その間もときどき実家に帰ってはいました。大阪での生活は本当に楽しかったのですが、唯一後悔しているのは、さすがに親に心配をかけすぎたなという点です。心配で眠れなかったり食事もとれなかったりしたと後から聞いて、反省しました。
――高校はどうしたのですか?
結局進学校は退学して、通信制高校に入り直しました。対面での授業は半年に1回で、基本的にはレポートを提出して単位を取得する形でした。授業があるときには大阪から戻って学校に行き、あとは自分で勉強していました。
――自己管理するのは大変ではなかったですか?
大変ではありましたが、自分の好きなタイミングで勉強できるので、その間にバイトをしたり遊んだりしながら、いろんな人に出会うことができて良かったと思います。もともと人に管理されるのが好きではなかったんだと思います。高校を辞めて外に出てみて、初めて自分で意志決定をしようと思えたんですね。自由度が高くなったことで、意志決定する力もついたのだと思います。
――通信制高校を出てから大学に進学されていますが、進路はどのように考えていたのでしょう。
親は、大学には行きたければ行けばいいし、就職してもいいと言ってくれていました。大学進学を選んだのも、大阪で会ったギャルたちの影響が大きかったと思います。ギャルの友人たちはみんなすごく頭のいい子たちだったんですが、家庭の事情などで進学しない子が多かったんです。与えられている選択肢がこんなにも違う子たちがいるんだなと初めて気付いて、そのときに大学に行くという選択肢を考え始めました。自分に行けるチケットがあるなら、大学に行って努力して、救ってくれた子たちに恩返しができるような人間になりたいと思ったんです。
――ご両親も、理解のある方だったんですね。
不登校になったときにはめちゃくちゃ叱られましたが、家出をして距離をとっている間に、両親とも自分とは違う価値観を受け入れようとしてくれたんだと思います。学校を中退した芸能人のリストをつくってくれたり、枕元に尾崎豊のアルバムを置いてくれたり(笑)。大人になってから価値観を変容させるのは難しいと思いますが、寄り添ってくれたことに本当に感謝しています。
ギャルマインドで同調圧力をはねのける!
――大学進学以降のお話も聞かせてください。受験は大変でしたか?
もともと勉強はそんなに嫌いではなかったのですが、めっちゃ大変でした!19歳の秋頃から受験勉強を始めて、毎日10時間くらい机に向かっていましたね。でも、高校中退後の約2年間は本気で遊んでいたので、久しぶりの勉強には楽しさもありました。そしてギリギリで合格できた大学に入ったのですが、通ってみたら自分が学びたい内容ではないと気付いて、改めて別の大学を再受験したんです。再受験を決めることができたのも、高校時代に自己決定力を高めることができたからだと思います。
――勉強に楽しさを感じたというのは、具体的には?
大阪で出会ったギャルと接していると、「めっちゃ頭いいのに、どうして?」「本当なら超お金持ちになれそうな賢さなのに」と思うことが多く、世の中の仕組みがどうなっているのか知りたいと思ったんです。そういう経験があって、社会の参考書を読んでいると、日本が抱えるいろいろな問題に目を向けることができました。以前は、覚えなきゃいけないと思って勉強していましたが、能動的に学べるようになっていたんです。
――大学時代にCGOドットコムを設立されていますが、どういう経緯だったのでしょう。
起業したい、事業を手がけたいという気持ちはあまりなく、大学3年の頃にギャルマインドで世の中を変えたいと思って、最初は個人で始めました。すると、私と同じように世の中に違和感を感じていて、ビジョンに共感してくれるメンバーが集まってきて、少しずつ大きくなっていったんです。規模を大きくするためにはもう少しお金が必要になって、大学卒業後はダブルワークをする形でいったん就職しました。その後、事業が大きくなっていったので就職先は2年目で退職し、事業に専念ました。
――CGOドットコムでは「ギャル式ブレスト®︎」を企業などに提供していますが、企業にとってはどんなメリットがあるのでしょうか。
日本の企業では、同じような人が同じようなことをディスカッションしているから、同じようなアイディアしか生まれず、画一的な施策にとどまってしまう面があります。人と違う意見を言えば排除されてしまう傾向もありますよね。みんな会社員の自分としての鎧をつけて、こう発言しなければいけない、こうふるまわなければいけないということにとらわれてしまっています。ギャル式ブレスト®︎では、その鎧をとって、同調圧力をはねのけて自分の意見をハッキリ言えるようにすること、互いの意見をポジティブに受け止めることを目指しています。
――ギャルマインドによって、事業を停滞させずに成長に持っていくわけですね。
ギャルの本質は、自分らしくいることを大切にするマインドや、協調性です。自分の言いたいことを言うといっても、わがままを言うわけではなく、チームをよくするために考えてバランスを保つことが重要です。最近は、職場の上下関係の中で、パワハラにならないように上の人が下の人に意見を言うのも難しくなっていますよね。上司と部下に挟まれて、差し障りのないことしか言えなくなっている人も多いと思います。ただ組織が成長するためには、必要だと感じることはしっかり言っていくことが大切だと思います。
周りと違う経験だからこそ、オリジナリティになる
――今の仕事をされる中で、苦労したことはありますか?
ギャルマインドという目には見えないものを商品としているので、なかなか正しく伝わらないもどかしさもありましたね。自分の伝え方や発信の方法がよくなかったのかなと反省したこともあります。「ギャルめっちゃいいんで、一緒にやりましょう!」と勢いで売り込んでいっても、ギャルに対する偏見や、ギャルのイメージが違うことで、うまく伝わらないことは多かったなと思います。
――周りと違うことをして、それを広めていこうとするのには、とてつもないパワーが必要ですよね。
でも、最近はそれを面白がってくれる社会になってきているとも思います。実際に私が就職活動をしていたときにも、私の事業をオリジナリティとして受け止めて面白がってくれる企業が多く、ネガティブにとらえられたことはありませんでした。
――不登校や家出の経験から、自分ならではの強みを手に入れることができたわけですね。
学校に行けなくなっていた時期は、すごくネガティブ思考になっていましたし、自分は失敗したという感覚になっていました。でも、数年経ってみたらそれも自分の面白い歴史のひとつで、今はポジティブにとらえることができています。ですから、今不登校で苦しんでいる人も、数年後にはその経験を他者からポジティブにとらえられたり、評価されたりすることもあって。学校に行く代わりに何か好きなことを突き詰めてみたらいいのではないかなと思います。大多数の人とは違う経験があるからこそオリジナリティが持てるわけですし、それが何か新しいアクションにつながっていくこともあります。
――周囲と同じようにできなければいけない、という考えから抜け出すことが大切ですね。
つらい感情を抱える方もいるかと思いますが、人を批判したい人は何をしても言い続けてくるので、そういう人の言葉は気にせず自分の人生に集中して、意識してみることが大切だと思います。
――ありがとうございました。
取材協力
CGOドットコム総長/バブリーさん(竹野理香子さん)
1996年生まれ。高校中退後、ギャルに感銘を受けたことをきっかけに「世の中のバイブスをアゲる」ことを目指し、合同会社CGOドットコムを設立。主力事業である『ギャル式ブレスト®︎』は、ギャルマインドを軸に、企業のコミュニケーション課題の解決、新規アイデア創出の伴走を行う。またギャルマインドを活用し企業の商品開発やPRをサポートする『ギャル式スタジオ』も展開。今後はダイバーシティ・コミュニケーションの実現に向けて、日本が生んだギャル文化を世界に発信していく。「Forbes Japan 世界を救う希望100人」「日経クロストレンド 未来の市場を作る100社」「はたらくWell-being AWARDS 2024」「JCI JAPAN TOYP 2024(青年版国民栄誉賞)」などを受賞。
<取材・文/大西桃子>
この記事を書いたのは
ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。
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