中・高生の語彙力アップ、近道となる家庭での取り組みは?

専門家に聞く

2024/07/23

自分の意見を述べたいけれどうまく言葉にできない、文章読解が苦手でよく意味を取り違えてしまう、長い文章は書くのも読むのも苦痛……。
こんな悩みを持っている中・高生は多いのではないでしょうか。
文章を読むのが苦手なために、国語以外の科目の教科書やテストの問題文を読んでもスムーズに理解できず、苦労している生徒もいます。

では、国語力を上げるにはどうしたらいいのでしょうか。ひたすら国語の問題集をやり込んだり、読書量を増やしたり、作文の練習をしたりすればいいのでしょうか?
しかし、「子どもの国語力を上げるために読書をさせようとしても、全然読んでもらえない」という保護者の話もよく聞きます。
また、数学のように「何問か問題を解いて一次方程式をマスターした」とわかりやすく成果が現れるわけでもないため、勉強しようと思っても続かないことも多いでしょう。

そんな国語に苦手意識を持つ生徒が力をつけるために、何かいい方法はないのでしょうか。中学受験専門塾スタジオキャンパスの代表で、大学入試向けの「国語専科」博耕房の代表も務める矢野耕平さんにポイントを聞いてみました。

国語力の土台となるのが語彙力

――国語に苦手意識があると他の科目にも影響しやすいとよく言われますが、そもそも国語力とはどんな力のことを言うのでしょうか。

国語力とは、自分で使える言葉の数がどれだけあるか、また書かれていることを読んで、言外の意味も含めて理解することができるかということです。人間は頭の中でも母語で物事を考えますから、言葉を知っていればいるほど物事を複雑に、深く考えることができます。また、その言葉の意味やどういう場面で使われるかを知っていれば、書かれていないことも推測して意味を理解することができます。

――つまり、思考力やコミュニケーション能力の土台となる力ですね。言外の意味まで理解するというのは、具体的にどういうことでしょうか。

たとえば、ケンカをしていたカップルの彼氏のほうが、「仲直りをしよう」と言って彼女を抱きしめたとします。そこで怒っていた彼女も「もう、バカ……」と言って怒りを収めます。この場合、「バカ」という言葉は本当に相手をバカだと非難しているわけではないですよね。ところが彼氏に国語力がなければ、本当に非難されたのだと思って再びケンカになってしまいます。前後の出来事や文脈から、その言葉がどのような意味を持つかを類推できることも、国語力なんです。

――なるほど。国語力がないと、日常的なコミュニケーションにも困難をきたしてしまいますね。単にテストの点数を上げるためだけでなく、他者とうまく関わっていくためにも語彙力を磨くのは重要そうです。矢野さんは2023年に『わが子に「ヤバい」と言わせない 親の語彙力』(KADOKAWA)を出版していますが、語彙力も国語力のひとつなのでしょうか。

語彙力は、国語力の土台で、どれだけ単語を知っているかということです。知っている言葉の数が少なければ、思考を深めることや人に物事を正確に伝えることができません。文章を読んでも、知らない言葉が多ければ、何が書かれているのか、理解することができませんよね。

――国語力を上げようと思ったら、まずは知っている言葉の数を増やすことが大切だということですね。

日常の中でどれだけ言葉を目にし、向き合う機会があるか

――著書のタイトルには「親の語彙力」とありますが、子どもの語彙力には親の語彙力が関わってくるということでしょうか。

語彙力は日常生活の中で自然と身につく部分が大きいので、親の影響は大きいんです。小さい子どもが言葉を覚えていくときには、辞書を引いたり「この言葉はこういう意味だよ」とひとつひとつ教えてもらったりするわけではないですよね。生活の中で周りの大人たちが使っている言葉を聞いて、覚えていくはずです。ですから、身近にいる親の語彙力が高ければ、子どもも自然とたくさんの言葉を覚えていきます。

――でも中・高生が語彙力を上げたいと思ったときには、親の語彙力を今から上げて……とするのは難しそうです。

要は、普段生活する環境の中にどれだけ豊富な言葉があるかがポイントですから、まずは環境を整えるのがよいと思います。家の中に本や新聞を置いて、親子でそれを読むなど、「やらされる勉強」ではなく自然に身近に言葉がある状態にすることですね。

——目に入る場所に言葉を増やすということですね。

はい。中学生にふさわしい本を選んで読ませようとするのではなく、童話や絵本など小学生向けの本でもいいので、ふと手に取れるようなものを身近に置いておくといいと思います。

——確かに、むりやり読まされる本は、面白いと感じられないことが多いですよね。『わが子に「ヤバい」と言わせない 親の語彙力』には、全国の中学入試で出された問題がたくさん掲載されています。中・高生が語彙力アップの教材としてこの問題にチャレンジするのもよいのではないでしょうか。

それでもいいですが、まずは子どもが勉強として取り組むのではなく、親に挑戦してみてほしいんです。親が言葉に向き合っている姿を見るだけで、子どもは自然と興味を持ったり、影響を受けたりするからです。まず親が解いてみて、子どもに「これ、わかる?」と問題を出して、先生のように教えてみるといった使い方をしてほしいと思っています。親子でコミュニケーションをとりながら解いてみるのがおすすめです。

——勉強としてではなく、一緒に楽しむことが大切なんですね。語彙力を上げる勉強法として、よく「わからない言葉があれば辞書を引きなさい」と言われますが、そうした方法はどうですか?

辞書を引くのはもちろんいいのですが、わからない言葉が出てくるたびに辞書を引くのは大変です。「A―B―C」と言葉が並んでいたときに、AとCの言葉は知っていてもBは知らないという場合に、AとCの言葉からBを推測してみることも語彙力を上げるには重要です。
実際、学校のテストや入試問題に出てくるすべての言葉を予測して、あらかじめ辞書を引いて覚えておくのは不可能ですよね。でも文脈から言葉の意味を推測する力さえあれば、知らない言葉が出てきたときにも、前後の言葉から推測して、何となく意味をつかむことはできるはずです。

——普段から何でもすぐに調べるのではなく、「どういう意味だろう」といったん考えるようにするわけですね。親も「これってどういう意味?」と聞かれたときには、すぐに教えるよりも「どういう意味だと思う?」など投げかけてみるとよさそうです。

前後の言葉だけでなく、その漢字が他にどんな場面で使われているかを考えてみるのもいいですよ。たとえば「格調が高い」という言葉の意味がわからなくても、「格は、“品格”や“格が高い”のように使われているな。調は“調子”とか、“順調”や“好調”……」と考えていくと、なんとなくニュアンスがつかめていきます。

——そう考えていく中で、言葉の面白さや深さにも気付いていけそうです。

自分事として言葉をアウトプットしていこう

——では、文章を書くのが苦手な場合には、アウトプットする練習もしたほうがいいのでしょうか。

短い文章でも、アウトプットすることは重要です。小さな子どもも誰かに聞いた言葉を口にして、使いながら身につけていきますよね。著書の中では、「ことばのブリッジ」という方法を紹介していますので、中・高生のみなさんも試してみてほしいです。

ことばのブリッジ

3語の言葉を使って、80〜120字で例文を作成してみよう。

<問題例>

  1. 「窺う」「本能」「誇らしい」
  2. 「こわばる」「にくたらしい」「口ぶり」
  3. 「確固」「自我」「腐心」

  • まず、言葉の意味を辞書で下調べして、それぞれ簡単な例文を書き出しておきましょう(「窺う」なら「ライバル会社の動向を窺う」など)。
  • 80〜120字の例文は1文ではなく、2〜3文に分けたほうが読みやすい文章になる可能性が高くなります。
  • 第三者が読んだときに情景が細かく浮かぶように、できるだけ具体的な文章にしましょう。
  • できれば誰かに読んでもらって、感想を聞いてみましょう。

——家庭で取り組むなら、親子それぞれに書いて見せ合うとよさそうですね。「ブリッジ」というのはどういう意味ですか?

一見つながりのなさそうな3つの言葉に、橋をかけるという意味です。これは、自分事として言葉に橋をかけて表現していくことで、ひとつひとつの言葉とじっくり向き合うことができ、言葉を自分のものにしていくことができる方法です。私の塾でもやっているのですが、これを何度も繰り返すことで語彙力はかなり上がっていきます。

——どんな場面をイメージして文章をつくるか、それぞれの個性が出て面白そうです。これも勉強というよりも、上手・下手を考えずにまずは楽しくやってみることがポイントになりそうですね。

そうですね。語彙力に限らず、どんな勉強も「やらされている」と感じた時点で力を身につけることが難しくなるんです。当事者意識を持って学ぶことができなければ、学力は上がりません。学力とは、テストの点や偏差値が高い、低いということではなく、「学ぶ力」そのもののことです。能動的に学び、自らを成長させることができる力が学力です。
そのため、親が勉強をむりやりやらせるのではなく、子どもの「知りたい」という欲求を刺激したり、その欲求を見つけたときにさらに世界を広げていけるきっかけをつくってあげたりすることが大切なんです。

——たとえば電車が好きな子なら、電車が出てくる文章を書いてみたり、路線図から地理を覚えていったりと、興味のあることから広げていく感じでしょうか。

はい。興味を持っていることがあればそこから広げるのがいいですし、その前に興味を持つきっかけづくりを親が意識するとよいと思います。必ずしもお金をかけてさまざまな体験をさせることだけでなく、ニュースを見ながら親子で話し合ってみる、親が読んで面白かった本を紹介するなど、日常の中できっかけをつくる機会はいくらでもあります。子どもがハマってもハマらなくても、何らかの刺激を与え続けることが大切だと思います。

——自分事として学ぶことが、語彙力にしても学力全般にしても向上の近道だということですね。ありがとうございました。

取材協力

矢野耕平さん(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表/国語専科博耕房代表)

1大手進学塾で十数年勤めた後、2007年に中学受験指導スタジオキャンパスを設立。現在は社会人大学院生として法政大学大学院人文科学研究科国際日本学インスティテュート日本文学専攻博士後期課程にも在籍。
近著に『13歳からの「気もちを伝える言葉」事典 語彙力&表現力をのばす心情語600』(メイツ出版)などがある。

<取材・文/大西桃子>

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この記事を書いたのは

大西桃子
ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。