夏休みに増加する中・高生のネットトラブル、対策法は?

専門家に聞く

2024/08/02

今年も夏休みがやってきました。友達と遊んだり、家族で出かけたり、好きなことに時間を費やしたり、子どもたちにとっては楽しみなことが盛りだくさんの約1カ月です。
しかし、そんな楽しい夏休みに思いもよらないトラブルに巻き込まれてしまう子どもたちも……。

こども家庭庁は、毎年夏休みの始まる7月を「青少年の非行・被害防止全国強調月間」とし、啓発事業を進めています。令和6年度の実施要綱には、ここ数年はインターネットを通じて「不適切な受発信により、犯罪やトラブルに巻き込まれる機会の増加が引き続き懸念される」とあり、最重要課題として「インターネット利用におけるこどもの性被害等の防止」を挙げています。

「夏休みは保護者や教員の目が届かない時間が増え、子どもたちもインターネットを長時間使う傾向が高まります。SNSでやりとりをして『会いましょう』となった結果、トラブルに発展したり、スマホに依存する状態となって昼夜逆転の生活になったりと、日常生活に大きく影響が出ることもあります」
と話すのは、SNSや10代のネット利用に詳しい、ITジャーナリストで成蹊大学客員教授の高橋暁子さん。
具体的にどのようなトラブルが懸念され、どう対策すればいいのか、伺いました。

SNSで知らない人と出会い、バイトも検索……そこから思わぬトラブルへ

まず、夏休みに増加するインターネットを通じたトラブルには、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。

「SNSやオンラインゲーム上で出会った相手に誘い出されて性被害や誘拐などのトラブルに遭ったり、性的な写真や動画を送らされてしまったり、特殊詐欺などの闇バイトをしてしまったりと、さまざまな事例があります。また、インターネットの利用時間が長くなることでゲームなどに高額課金をしてしまう事例も増えています」

東京都生活文化スポーツ局が2024年2月に行った「家庭における青少年のスマートフォン等の利用等に関する調査」(東京都内の小・中・高生にスマートフォン等を持たせている保護者2000人が対象)では、子どもがインターネットやSNSを通じて知らない人とやり取りしたことがあるかを保護者に尋ねたところ、「ある」19.0%、「ない」57.0%、「わからない」24.1%という結果になっています。
「わからない」と答えた保護者は中学生では30%、高校生では42.8%と、年齢が上がるにつれて、子どもがどう利用しているか把握できなくなる傾向が伺えます。
また、「ある」と答えた人の中で、子どもが中・高生の場合は「SNS のダイレクトメッセージやメール、LINE 等でメッセージの送受信」をしていたケースが約7割で、「顔や身体の写真・動画の送受信をした」と答えた人も中学生で18.5%、高校生で6.8%となっていました。

「インターネットでは年齢や性別、素性を隠したり偽ったりしてやりとりすることができます。同年代や同性だと思って気軽にやりとりしたり、会ったりしてみたら実際は違っていて、誘拐や性被害などに遭ってしまうケースが多いんです。また、オンラインゲームでは対戦相手やチーム戦の仲間とやりとりをしていくうちについ信用してしまい、誘い出されてしまうことも。一人で家にいる時間も長くなる夏休みには、オンラインゲームをすることで孤独を埋めている子もいて、危険性が高まってしまいます」

オンラインゲームでは、仲間とゲームをすることによって高額課金へと誘われてしまうことも多いと高橋さん。

「オンラインゲームの中には、アバターのキャラクターや衣装を好きなものにしたければ、課金する必要があるものもあります。無料で使えるアバターはころころデザインが変わり、好きなデザインに固定することができないゲームも。アバターは、大人が使うSNSのアカウント名と同じようなものですが、これがころころ変わると仲間も『これは誰?』とわからなくなりますし、不都合が生じてきますよね。課金しているかどうかも相手から丸わかりになり、子ども同士だと『1000円くらいなんだから、課金すればいいじゃん』『お金ないの?』などと言われてしまうことも。ゲーム会社もビジネスなので課金が前提となり、他にも課金に誘導する仕掛けはたくさんあるのですが、誘導されるがままに課金して数十万円単位で、子どもによっては百万円以上も使ってしまうというケースが多発しているんです」

無料で楽しむはずが、ちょっとだけと課金してしまい、いつのまにか手に負えないほど膨大な金額になってしまうこともあるのだそうです。

闇バイトについては、株式会社マイナビが15~18歳の高校生を対象に実施した「高校生アルバイト調査(2024年)」によると、現在アルバイトをしている高校生651人のうち「SNSで怪しい求人を見かけたことがある」割合が41.3%で、「実際にトラブルにあった」割合が8.6%となっています。
違法なアルバイトをしてしまう危険性は、バイト探しの方法が変わってきたことにも関係があると高橋さんは言います。

「保護者世代では、アルバイトを探すときは求人情報誌や求人サイトを見ていたと思いますが、今は多くの若者がSNSでアルバイト情報を検索しています。そこで、違法なアルバイト情報に出会い、騙されて特殊詐欺などの手先として荷物を運ぶ、受け取る、お金をおろすといった仕事をしてしまう10代が増えているんです」

実際、同調査でも、アルバイトをしている高校生のうち「SNSでアルバイトを探したことがある」生徒が46.6%、「実際に応募した経験がある」生徒は36.7%にも上っています。
アルバイトの探し方が変わったことで、以前よりも違法なアルバイトに出会う危険性が高くなっているというわけです。
普段学校や部活で忙しい高校生も、夏休みはアルバイトをするチャンスです。そこで犯罪に巻き込まれてしまわないよう、注意しておかなければなりません。

利用ルールは子どもを交えて話し合って決める

では、こうしたさまざまな危険を回避するためには、どのような対策をすればいいのでしょうか。

「日頃から、スマホやタブレットの使い方について家族で話し合うことや、何かあったら相談できる環境にしておくことが大切です」

顔写真や住所、学校名など個人情報を知らない人に伝えない、夏休み中は何時間ならOK、何時までならOKなど、使う前にルールを話し合って決めておくことがまずは基本となりますが、ペアレンタルコントロール(保護者が管理する機能)やフィルタリング機能を入れる方法も有効とのこと。

「ゲームアプリは1時間以内、何時以降はゲームはNGなど、ペアレンタルコントロール機能などを使うことで保護者が子どものスマホ利用をコントロールすることができます。ただ、保護者が勝手にルールを決めて設定するのではなく、事前に子どもとしっかり話をして約束するようにしてください。中・高生になると、そうした設定を解除する方法を調べて保護者の裏をかいてしまう子もいますが、話し合って『ゲームばかりになって睡眠不足や昼夜逆転などになるのが心配。使いすぎやすいものだから、身体のために利用時間を制限してみない?』と意図を伝えることで、抑止になっていきます」

ルールを決めて、「ゲームの時間が終わったら読書しよう」「外に遊びに行こう」など、自分で利用時間をコントロールできるようになることが、将来的に自分自身で管理をしながらスマホやインターネットなどを適切に使える「自立」を促していくと言います。

ゲームやアプリへの課金についても同様に、子どもたちがどのように使っているか現状をふまえて、あらかじめルールを決めておくとよいとのこと。

「頭ごなしにダメと伝えるのではなく、課金の有無について話し合っておき、課金したいなら自分のお小遣いやお年玉で払える範囲にする、とルールを決めておきましょう。親のアカウントを使って課金してしまったり、親のパスワードを見破って支払ってしまったりしたケースも多発していますので、アカウントからは必ずログアウトし、パスワードは子どもに推測できないものにして、決して教えないでください。クレジットカードの利用明細や、アプリストアの領収メールも確認する習慣をつけ、万一不正なことがあればすぐに気付けるようにしておきましょう。スマホのキャリア決済やプリペイドカードでの支払いもできてしまうので、一方的にダメと伝えたことで隠れて課金してしまうのを防ぐためにも、親子で話し合える状態にしておくことが大切です」

加えて、日々ニュース番組などで報道されているインターネットを通じた犯罪について、家庭内で話題に挙げることも抑止につながるとのことです。

「子どもはニュース番組やニュースアプリをほとんど見ないので、実際にどんな危険があるのか、あまり情報を知らない場合も多いです。また今の子どもたちがどのようにインターネットを使っているのか、大人がよく理解していないことで、子どもの危険を察知できないこともあります。ですから、大人が情報をしっかり得ておくことが大切です」

たとえば、2019年には大阪府の女子小学生がSNSを通じて30代男性に誘い出され、行方不明になった事件がありました。発見されたのは栃木県で、男性未成年者誘拐の疑いで逮捕されていますが、

「このケースでは当初、捜索範囲が近畿地方に絞られていました。ですが、インターネットでは全国、全世界どこにでもつながってしまいます。そこで知らない大人と出会って、遠くへ連れ去れてしまう可能性もあるんです。そうすると発見も遅れ、最悪命に関わる事件に発展してしまうこともあります。こうした話をした上で、『知らない人とは会ってほしくないけれど、会いたくなったら相談してね』と伝えておくことが大切です」

「会うのは禁止」とルールを絶対のものにするのではなく、現代の10代のスマホの使い方を鑑みて「会いたくなったら相談して」と、話し合う余地があることを伝えることも重要だと高橋さん。

「もし会いたいと相談してきたら、いつどこで誰と会いたいのかを確認し、『信頼できる人かどうか心配だから、事前にビデオ通話か電話で話させて』『送り迎えをさせて』など、とすることで、相手が言っているとおりの人か、信頼できるかどうかを確認しましょう。もしそれが難しくても、子どもから『親にはいつどこで誰と会うか伝えてある』と相手に話してもらうことで、リスクを低減させてください。また許可するにしても、日中、人が多い公共の場所で、できれば複数人で、など条件をつけることをおすすめします」

保護者は現代のネット事情にしっかり目を向けて

また、インターネットによるトラブルでは、子どもが加害者になってしまう可能性があることも、家庭内でしっかり話をしておく必要があります。

「たとえばネットで自分の裸の写真を送ってしまったという場合、女の子が好きな子に言われて送ってしまうケースだけでなく、男の子が友達ウケを狙って裸の写真を送ってしまい、それがシェアされて学校中に広まり、不登校になってしまうケースもあります。こうしたケースでは、被害に着目されることが多いですが、加害者となる可能性もあることを知っておく必要があります。未成年が自分の裸を撮るということは、児童ポルノを製造・所持していることになります。そしてそれを送信、シェアすることも違法です」

拡散されずに自分のスマホや特定の誰かのスマホにしか保存されていないとしても、そのスマホを落としたりなくしたり、盗まれたりして、悪用される場合もあります。ウイルスに感染して、流出する可能性もあります。

また、SNSを使う時間が増えることで、ネットいじめや誹謗中傷をされる可能性も、してしまう可能性も高くなります。

「今は、インターネットによる誹謗中傷が問題視され、侮辱罪による懲役刑、罰金刑などが重くなっています。匿名で書き込んでも、SNSのアプリなどを運営している会社に発信者情報の開示申し立てをする “開示請求”にかかる時間や手間のハードルが、現在は下がっています。民事裁判では12歳以上は判断能力があるとされて、慰謝料を請求されることもあります。こうした現状も、きちんと子どもに伝えておくことをおすすめします」

もしもトラブルが起きた場合には、法務省がインターネット上の誹謗中傷に関する相談窓口を紹介しているので、参考にしてほしいとのことです。

いずれにしても、保護者がまずはインターネットの使い方やトラブルについてしっかり学んだうえで、子どもにしっかり話すことが重要だと高橋さんは言います。

「スマホやアプリを利用させるのも、危険から守るのも、保護者しかできません。守るためには、知識と理解が必要です。特に多いトラブルは、あらかじめペアレンタルコントロール機能などを活用すればほとんどは防げます。利用させる前に、そのアプリでどのようなトラブルが起きているのか、どんな安全設定が用意されているのかを調べて、勉強して設定してほしいのです。
今の子どもたちがどのようにスマホを使っているかを知らず、自分たち世代の感覚で頭ごなしに決めつけて禁止したり取り上げると、子どもは隠れて使おうとします。保護者がカンペキに管理しすぎるのも問題で、子どもたちはいつかは保護者のコントロール下から離れて自立してスマホを使うようになります。そのときまでに、自己管理する練習をさせ、自立して使えるようにすることが目標なのです」

子どもの意見も聞き、保護者も学びながら、家庭内でコミュニケーションをとりつつ大きなトラブルを防いでいきましょう。

取材協力

成蹊大学客員教授/ITジャーナリスト
高橋暁子さん

<取材・文/大西桃子>

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この記事を書いたのは

大西桃子
ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。