2024/12/16

通信制高校からの就職は大丈夫? 現状と成功のポイントを聞く!

専門家に聞く 

無理のない登校頻度で高校に通学したい、自分のペースで勉強したい、自分のやりたいことと勉強を両立したい。通信制高校に進学する生徒たちの選択理由はさまざまですが、高校卒業後の進路について具体的にイメージできないまま学校生活を送ってしまい、土壇場で慌ててしまう生徒も多いようです。
実際、文部科学省の「令和5年度 学校基本調査」を見ると、通信制高校を卒業した人のうち、進学・就職以外の状況となっている人が全体の約31.5%。全日制の約4.3%、定時制の約16.5%と比べると、高い水準となっています。

進路が決まらないまま卒業してしまい、困った状況に陥らないようにするためには、高校在籍中にどのようなスケジュールで進路を考え、行動していけばいいのでしょうか。
高校生を中心とした個別就労支援、居場所支援とキャリア教育を行うNPO法人キャリアbaseの理事長・草場勇介さんにお話を伺ってみました。

通信制では進路決定のタイミングに出遅れてしまう生徒も……?

—— 通信制高校では、全日制・定時制高校と比べて、進路が決まらないまま卒業する生徒の割合が高くなっています。草場さんがこれまでさまざまな高校でサポートをされてきた中で、全日制や定時制高校と、通信制高校との間に違いを感じることはありましたか?

草場さん:キャリアbaseは2021年に活動を始め、通信制高校を中心に、公立の全日制高校などとも提携してきました。その中で感じた違いは、通信制高校の場合、高校3年の9月の就職活動に乗り遅れてしまう生徒が多いということです。全日制の高校の場合は、日次や週次のホームルームの中で案内があったり、高校2年生の3月には進路を決めて学校に申告したりと、学校に通う中で進路への道筋が作られていきます。学校にスケジュール管理をされながら進路が決まっていくわけですが、通学の少ない通信制高校の場合、そのスケジュール管理をどうしても生徒自身で進めていかなくてはならないケースが多いんです。

—— 毎日通学するスタイルであれば、学校が管理してくれたり、クラスメイトの雰囲気が変わってきたりすることで、「そろそろ進路を考えなくては」と自然に自分も意識するようになるけれど、通信制高校だとそれが難しい、と。

草場さん:そうですね。私たちが関わってきた中では、全日制高校の就職組の場合は、就職に向けたトレーニングがあるなど、学校側のサポートを受けながら高3の9月には8割方の生徒が就職先を決めていきます。9月には決まらなくても、10〜11月にはほぼ全員が内定をもらえている状態になります。一方、通信制高校の場合、9月の就職活動期にまだ準備ができておらず、何の情報も持っていないという生徒が結構いるんですね。

—— なぜそのような差が出てしまうのでしょうか。

草場さん:これは全日制・通信制にかかわらずですが、まず高校生の就職活動に関してきちんと理解している先生が少ないという背景があると思います。大学などへの進学であれば自分たちにも経験があり、イメージしやすく情報も豊富にあるけれど、高卒就職については経験もなく、ノウハウが蓄積されていないケースが多いんです。しかし開校してから年数の長い全日制高校、定時制高校の場合は、それまでの実績で企業との付き合いができていたり、多くの企業から情報提供があったりすることが多く、毎年その学校から卒業生を数人採用する、という企業も複数あります。通信制高校の場合、年数が浅くそこまで実績を作れていないケースがまだまだ多いのが現状です。

—— なるほど。それで生徒もちょっと頑張って意識しておかないと、となるわけですね。

草場さん:通信制高校の中にももちろん、就職をしっかりサポートしている学校は多いです。それでも、転入組の生徒の場合にはじっくりコミュニケーションをとれていなかったり、進路決定にベストなタイミングで相談できていなかったりすることもあります。先生たちにとっても歯がゆい状況があると思います。

—— 学校の先生たちだけに進路サポートを委ねるのは、負担が大きすぎるかもしれませんね。だからこそ、キャリアbaseのような外部と連携したサポートが重要になってくるのですね。具体的にはどのようなキャリア支援をされてきたんですか?

草場さん:進路指導の先生や校内のキャリアサポートセンターと組んで、高校1〜2年生には自己肯定感を高めるプログラムを実施したり、3年生向けには単位認定にもつながる就職セミナーなどの特別授業を年間10回ほど実施したりしています。

—— キャリア支援が授業の一環に組み込まれていると、生徒たちも自然に意識が向いていきそうですね。

無理なく働ける「ステップアップ採用枠」を設ける企業も

—— 通信制高校には不登校経験や発達障害のある生徒も多く、進路サポートはよりきめ細やかさが必要になってくるのではないでしょうか。

草場さん:そうですね。今のことで精一杯だったり、自分の進路に対して前向きに考えられなかったり、日常の生活リズムを整えることから始めなければいけない生徒も多くいますね。キャリアbaseでは、先生だけではサポートが難しいかなと思われる生徒には、個別の就労支援を行っています。2023年度は、約110名の生徒に伴走型サポートを実施しました。自己分析を手伝ったり、求人情報を一緒に探して志願書の作成をサポートしたり、面接の練習をするなど、一人ひとりにじっくり時間をかけています。

—— 採用する企業側の理解が必要になるケースもありますか?

草場さん:はい。まだ企業側も一昔前の通信制高校のイメージを持っている場合があり、採用に不安を感じる担当者がいるのも事実です。しかし、徐々に変わりつつあるとも思います。私たちのほうでも協力的な企業のネットワークを構築しているところで、週2日から働けるなどのステップアップ採用枠を作ってもらっています。インターンのような形で入社して、互いに雇用関係が続けられそうなら正社員として採用するなど、生徒それぞれの状況に合わせて工夫してくださる企業も出てきています。

—— 就職に不安を抱えている生徒にとっては安心ですし、採用されたことで自信にもつながりますね。

草場さん:そうですね。さまざまな事情のある子が働きやすい雇用形態をつくってもらえるよう、企業へ積極的に働きかけている通信制高校も増えてきているんですよ。

—— 実際に見てきた生徒さんの中にはどのようなケースがありましたか?

草場さん:たとえば、場面緘黙(かんもく)があり就職に強い不安を持っていた子がいました。サポートを受けながら就職活動を進める中で前向きになっていき、面接では自分の声でしっかり思いを伝えたいからと声を出す練習をして、ステップアップ採用枠で働き始めた生徒の例があります。

—— 就職活動を通じて前向きに変わっていける生徒もいるんですね。

さまざまな業界で、多様な働き方を認めていく企業が増加中

通信制高校の中で相談できる「校内キャリアサロン」

—— キャリアbaseでは2024年9月から、通信制高校の中に「校内キャリアサロン」をつくって生徒たちをサポートしていますね。どのような取り組みなんですか?

草場さん:それまでは、千葉県を拠点に高校生の居場所支援をしていました。そこでは進路決定の時期よりも前にスタッフたちと人間関係を構築し、コミュニケーションをとる練習などもサポートしてきたんです。それを、今度は通信制高校の中でやろうというのが校内キャリアサロンです。休眠預金を活用した支援事業に採択してもらい、実現することができました。

—— 学校の中にそうした場所ができれば、高校生たちもより身近に、また気軽に利用できますね。

草場さん:2024年12月現在、関東と関西の22キャンパスで展開しています。進路や将来について信頼できる大人に相談できる場所として、週に1度キャリアコンサルタントが出向き、相談に乗ります。オンラインでの相談も可能です。

—— 具体的に方向性が決まっていない人でも、サロンは利用できるんですか?

草場さん:もちろんです。早い段階から気軽に来てもらって、いろいろ話す中で情報を得てもらったり、自分の適性や志望を考えていってもらえればと思います。

—— もともと開設されていた千葉県の居場所支援のほうも、引き続き利用できるんですよね?

草場さん:はい。千葉県柏市の「ふらっぽ北柏」のほか、バーチャル居場所空間「ふらっぽ」があります。ふらっぽ北柏では12月26日に「通信制高校生のためのクリスマス会」を開きますので、ご興味のある方はぜひお越し頂ければと思います。

複数の企業に足を運んで、比較することが重要

—— では最後に、これから通信制高校に進学する生徒や、現在通信制高校の1〜2年生の生徒に向けて、アドバイスをいただけますか。

草場さん:通信制に限らず、高校はあくまでもその次へのステップなので、その先をどうしていきたいかはできるだけ早めに考えられるとよいと思います。早くから情報を収集できていれば、選択肢も広がります。進学したいのであれば気になる学校のオープンキャンパスをいくつか回ってみたり、就職なら早めにいろいろな大人に相談したり話を聞いて仕事への理解を深めていったり。できるだけ生の情報に触れていくことも大切です。

—— 高卒就職を対象にした企業の合同説明会もありますよね。

草場さん:合同説明会に行って、働いている人たちの話を直接聞くのもよいと思います。また、職場見学をさせてくれる会社も多いので、実際に複数の職場に行ってみて雰囲気を見て、比較しながら決めるのがよいと思います。高卒就職の場合、1社しか受けず職場見学もせずに決めてしまう人もいるのですが、最低でも2〜3社は見て比較してほしいですね。

—— 入社してから、「こんなはずじゃなかった」とミスマッチが起こるのを防ぐためにも、実際に足を運んだり比較したりすることは重要ですね。

草場さん:職場見学は就職活動のシーズン前半に行われることが大半で、9月になるともう終わってしまう会社も多いので、早い時期から情報のアンテナを張っておいてほしいです。

—— 卒業後に進学したり働いたりするイメージがまだできず、そこまで前向きに動けないという生徒も多いかもしれませんが……。

草場さん:先輩たちもさまざまな不安を抱えながらも、頑張って乗り越えて働けています。社会の一員となってお金をいただきながら活躍できるという充実感を、ぜひ味わってほしいなと思います。自分にはムリだと思っている人もいるかもしれませんが、案外社会は受け入れてくれますし、高卒就職の内定率も今は良い状況です。どんな人にも活躍の場はあるので、周囲の大人にできるだけ早くから相談してみてほしいです。

—— ありがとうございました。

取材協力

NPO法人キャリアbase
理事長・草場勇介さん

<取材・文/大西桃子>

この記事を書いたのは

大西桃子
ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。
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