ゲームの家庭教師「ゲムトレ」が始動! 不登校・昼夜逆転から朝起きられるようになった子も

専門家に聞く

不登校

2019/10/01

家庭教師がゲームを教える「ゲムトレ」という新しいサービスが、2019年10月1日より正式に始まります。

これまでゲームというと、「ただの遊びでしょ」「やりすぎるとよくない」と言われがちなものでしたが、そこにわざわざ家庭教師をつけることに、違和感を覚える方もいるかもしれません。でも、実は今、ゲームが持つ「子どもを成長させる力」が見直され始めているのです。

それはなぜなのでしょう?

「ゲムトレ」の主催者は「#不登校は不幸じゃない」プロジェクトの発起人で、『学校は行かなくてもいい』(エッセンシャル出版社)などの著作で知られる、起業家の小幡和輝さん。こちらのサービスでも、不登校の子どもたちをメインにすると話します。

このサービスはどのような取り組みなのか、また家庭教師役を務める「ゲームトレーナー」が、子どもたちをどうやって成長させていくのか、ゲームがもたらすよい効果とは何なのかを伺いました。

小幡和輝
起業家/#不登校は不幸じゃない 発起人
 
1994年、和歌山県生まれ。約10年間の不登校を経験。当時は1日のほとんどをゲームに費やし、トータルのプレイ時間は30000時間を超える。その後、定時制高校に入学。高校3年で起業。さまざまなプロジェクトを立ち上げる。2018年より不登校の当事者に向けた居場所づくり「#不登校は不幸じゃない」を立ち上げ。47都道府県すべてで支援活動を行なっている。

ゲームで朝起きるのが楽しみになる?

—— 「ゲームの家庭教師」とはかなり斬新ですが、始めたきっかけはなんだったのでしょう?

当初は不登校を経験した人が講師を務める、オンラインでの家庭教師を考えていました。ただ親御さんからの反応はすごく良かったのですが、嫌がる子どもが多くて。無理やりやらされる、というのは絶対起こってほしくないし、僕自身、同じ立場だったらやらなかったろうなと思ったんです。

—— そこでゲーム、なんですね。

子どもがやりたくなることと考えたとき、自然に出たアイデアでした。僕は不登校時代、ゲームからいろいろ学べたし、友達もたくさんできました。ゲームに救われた人生といってもいい。ゲームを教えることで、不登校支援ができるんじゃないかと思いました。

—— ゲームというと子どもは楽しめても、難色を示す親もいると思いますが、反応はいかがですか?

正式リリース前にメルマガなどを通じて体験してもらっていますが、お陰様で喜びの声をたくさんいただいています。

具体的にはHPの「体験者の声」をぜひ見ていただきたいのですが、親サイドの感想についても子どもが前向きになってくれたというのと、「朝、起きられるようになった」というのがあります。これはゲムトレにおいて非常に大事なポイントなんですが、感謝されることが多いですね。

—— ゲムトレではトレーニングを朝にやるそうですね。

はい。基本的に朝をオススメしています。僕は不登校時代、1日に10時間以上ゲームをしていたのですが、昼夜逆転になったことがありません。その理由は朝9時から始まるフリースクールで、友達とゲームをやることを楽しみにしていたからなんです。

不登校の場合、朝は通学にまつわるイメージなど、ネガティブなこととして受け止められがちです。反対にオンラインのゲームなどは夜盛り上がることが多く、夜型になって生活リズムが崩れやすい。
だから「朝起きたら楽しいことが待っている」というのを大切にしています。

ビデオ通話でトレーニング。ゲームを通してコミュニケーション能力を養おう

—— ゲームを教わることで伸びる能力というのはあるのでしょうか?

以前は「ゲーム脳」という言葉が広まり、偏見を助長していましたが、最近の研究ではゲームをすることで情報処理能力が高まるなどの報告も出ているそうです。

ゲムトレでも教えている「フォートナイト」(注1)は高い反射神経を求められるゲームで、世界トップレベルを目指すには10代でないと厳しいと言われるほどです。また100人同時に対戦を行う関係上、戦略的思考も重要となっています。

—— 10代でないと勝てないゲームなんですね。それはすごい。

今の若い子たちに人気なゲームって非常に高度なんです。親御さんたちもやってみたら驚きますよ。僕だって、もうついていけてないですもん(笑)。

—— 確かに、今のゲームは操作が複雑でやることが多いですね。最近は教育の一環として授業に取り入れられるケースもあると聞いていますが。

プログラミングの授業で「マインクラフト」(注2)という箱庭作成ゲームが日本国内でも用いられた例があります。

最近では、これもゲムトレでも教えている任天堂の「スマブラSP」(注2)がイギリスの情報処理の授業で使われる、というニュースが流れてきました。ゲーム感覚で学ぶことが効果的だということは、世界で知られてきています。

——なるほど、ゲームで頭がよくなる! ということですね。

ただゲムトレの場合はそうした学習が目的、というわけではありません。あくまでゲームをゲームとして楽しみ、ゲームを通じてコミュニケーションをとることを主軸にしています。トレーナーも上から教えるというより、信頼関係を築いてもらい、仲間になっていくような感じですね。

——ゲームの先輩みたいな感じでしょうか。

近いかもしれません。僕もゲームを通して年上の友達ができ、彼らから教わったことが多かったです。世代の離れた友達というのも、視野を広げるのに大事だと思っています。

また、これはゲームの種類にもよるのですが、トレーナー1名と生徒3名くらいの規模でチームトレーニングも行う予定です。そこでチームメイト同士でのつながりができることを期待しています。ゲムトレ内での大会も企画しています。

—— 大会に向けて自主練を仲間とすることで、グループでのコミュニケーションもはかれるのですね。

はい、目標を持ったほうが良いと思います。あと、重視しているのはトレーナーとビデオ電話でつなぐということです。

どうしても苦手という子もいるのでもちろん強制ではないのですが、コミュニケーションの練習の一環として、オンラインでも相手と顔を合わせてほしいという思いがあります。朝起きるのと同じく、不登校であっても社会生活を行っていくにあたって大事なことなので。

—— 確かにそうですね。実際、子どもたちの反応はいかがでしょうか。

会話が苦手な子も最初は緊張していてもゲームのことなら話せるということはありますし、トレーナーからゲームのことで褒められたり、仲間として認めてもらえたりすることが嬉しいようです。

—— 学校でゲームのことで認められる、上達を褒められるという機会は、なかなかないですもんね。

不登校の子どもたちをメインに考えているので、会話の機会を作り、笑顔になってほしい、というのが大きいですね。そしてゲームが上手になっていくことを通じて達成感や自己肯定感も高まっていくはずです。        

トレーナーには通信制高校の生徒も。ゲームを通してアルバイト

—— トレーナーにはどういった方がいるのでしょうか?

若い世代が中心です。通信制高校の生徒や専門学生、あと中にはかけだしの芸人さんもいます。みんな全国大会出場経験を持っていたりと、実力者揃いです。

—— 全国大会というと、今メディアでも話題のeスポーツでしょうか。

先ほども紹介した「フォートナイト」という全世界で1億5千万以上の競技人口のいるゲームの大会などですね。小中高生には非常に人気の高いゲームで、ゲムトレでも希望者が多いです。世界大会では3億円の賞金も出ています。

—— 3億円とは驚きです。親世代からすると信じられないかもしれません。

競技人口からするとちっとも不思議なことではないと思いますよ。それだけ世界で注目を浴びている、ということです。

ただ、ゲムトレの場合はトップレベルを目指すといった趣旨ではありません。将棋や囲碁を習いに行くようにゲームの習い事があってもいいんじゃないか、ということです。楽しむことが一番です。

—— そもそも囲碁・将棋もゲームの一種ですものね。

だからゲームを教える仕事があって、習いに行く人がいて当然だと感じます。ゲームを通じて社会と積極的に関わり、コミュニケーションツールとしてくれるようになるといいなぁと思っています。

—— 小幡さんは最近の著書『ゲームは人生の役に立つ。』(エッセンシャル出版社)の中でも「ゲームが仕事になる世界は近づいている」という章で、ゲーム講師の仕事も増えると予測されていますね。

そうですね。執筆時点ではまだ自分で運営するとは考えていなかったのですが(笑)。プロにならなくてもインストラクターなどで食べていける競技というのは、野球やサッカーなどのスポーツも同じですよね。

世界レベルで高額の賞金を狙わなくてもちゃんとした収入にしていけるよう、ゲームトレーナーという職業でゲームという分野の裾野を広げていきたいとは考えています。まずは生徒100人が目標です。

—— ゲームが将来につながっていく、という可能性も今はあるのですね。先ほどトレーナーには高校生もいると聞きましたが、彼らは教えることについてどう感じているのでしょうか?

やりがいを感じてくれているようですね。ゲームという自分の得意なことで対価を得られるというのが嬉しいようです。好きなことを仕事にするっていいですよ。

現場の具体的な指導内容を指示しているわけではないので、自分で判断する必要があって大変ですが、みんなしっかりやってくれていますよ。もちろんトレーナーとはちゃんとミーティングも行っていますし、適性を考えてスカウトしています。

—— 自主性をもって働くことが大事なのですね。

ええ。これは生徒側もそうで、小学生だと少し難しいかもしれませんが、なるべく自主的にトレーナーとメッセージアプリなどを使って次の予定を決めてもらうようにしています。

その中で、平日朝に関しては主に通信制高校のトレーナーに頑張ってもらっています。通信制ならではの時間の使い方をしてもらっていますし、自分で考えて行動してくれる子が多いですね。

—— 時間に自由はあるけれど、自ら動かないといけない側面が通信制にはありますものね。

今の社会の変化の中、僕は従来の枠組みにとらわれず積極的に通信制高校を選ぶ生徒がこれからより増えていくと予想しています。通信制高校によっては一芸によるAO入試だけでなく、一般的な学力によって難関大の合格者がもうすぐ出ると言われているところもあり、大きく期待を寄せています。

注1「フォートナイト」
Epic Gamesによる三人称視点シューティングゲーム。オンライン最大100人で最後の1人になるまで競うモードが人気で、eスポーツとして最盛期を迎えている。プレイ人口は2億人を達成したという報道も。

注2「マインクラフト」
ブロック玩具のような世界で自由に建物を作り、探索を楽しむ箱庭ゲーム。砂場遊びにたとえてサンドボックスゲームとも。2019年、「テトリス」を抜き世界で最も売れたゲームとなったことでも知られる。

注3「スマブラSP」
任天堂の対戦アクションゲーム。正式名称は「大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL」。1999年から始まったシリーズ最新作。任天堂のゲームのキャラクターが勢揃いし、パーティーゲームとしても人気。

<取材・文/中島理>

取材協力

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この記事を書いたのは

中島理

1981年、北海道生まれ。バーテンダー・会社員を経てライターへ転身。ムックを中心に編集や執筆に携わる。引きこもり経験を持ち、若年層の進学・就労にまつわる心の問題に関心。