「働く」ってどういうこと? 東京・五反田のベンチャー企業が中学生向けに合同企業説明会を開いたワケ

先輩に聞く

2017/11/09

参加企業の1つである学研イノベーション。小学校で無料配布する冊子「ソトイコ!」を発行する会社だ。代表取締役社長の中村基孝さん(写真右)とソトイコ !編集長の木村敬一さん

10月21日(土)、東京・五反田にある品川区立日野学園で「ドリームジョブツアーin五反田バレー」が開催された。

本イベントは、中学2年生にあたる8年生約150人と、地元・五反田周辺にオフィスを構えるベンチャー企業24社の社員が話すという企画。ひらたく言うと、大学が就活時に開く合同企業説明会の中学生版だ。

中学2年生と地元のベンチャー企業。普段ほぼ接点のない二者から、一体どんな対話が生まれるのだろうか? 当日の様子をレポートする。

中学生がベンチャー企業に聞きたいこと

「会社を立ち上げる時の仲間は、どういうふうに見つけたんですか?」
「会社の名前は、どうやって決めたんですか?」
「クレームを受けることはありますか?」
「どうやってお金を稼いでいるんですか?」
「どういう時に、仕事のやりがいを感じますか?」

参加した中学生からは、さまざまな質問が飛び出してくる。

参加企業は、近隣にオフィスを構えるベンチャー企業24社。個人事業主、中小企業向けのクラウド会計ソフトを手掛けるfreee、位置情報を使ったスマホゲームを提供するモバイルファクトリー、レシピ動画メディア「kurashiru」を運営するdely、小学校向けのフリーペーパーを発行する学研イノベーション、アフリカ専門の旅行代理店の道祖神、旬八青果店を運営するアグリゲート、資格取得支援を行うサイトビジット、スマートフォンで開閉できるスマートロックを開発するフォトシンスなどだ。

飲食、医療、セキュリティ、教育、エンタメ、製造業とさまざまな業種が参加

中学生の時にしていたのは、シミュレーションゲーム

イベントは、生徒1人が4社の担当者と話す方式。

参加企業のひとつ、セーフィー株式会社は、飲食・小売店などの防犯カメラを手がけるベンチャー企業だ。従来のザラザラとした映像の防犯カメラとは違い、かなりクリアな映像をスマホを使ってリアルタイムで見ることができる。

イベントで、CMO(最高マーケティング責任者)を務める小室秀明さんが映像を見せると、生徒からは思わず、わあっと声があがった。

防犯カメラの映像がスマホで綺麗に確認できる。生徒たちは興味津々

「中学生の時に何をしておくとよかったですか?」という中学生からの質問に対し、「当時はゲームが好きでしたね。特に三国志のようなシミュレーションゲームをよくやっていました。『隣の領地を攻めたら、成功するか失敗するか?』など未来を予測して助けてくれる軍師というキャラクターを気に入って、自分も行動の結果のシミュレーションや意思決定ができるようになりたいと思い、大学では経営のシミュレーションを学べる経営工学という学問を選びました。それは今の仕事にも繋がっています」と小室さん。

「すべての商品やサービスを、自分たちの会社で作っているわけじゃないんです」

「どうやってお金を稼いでいるんですか?」という質問を受けたのは、200種類以上の体験型ギフトを提供するソウ・エクスペリエンス株式会社。レストランでの食事やアウトドア、遺伝子検査、オーダーメイドスーツづくりなど、さまざまな体験をプレゼントできるサービスだ。代表取締役社長の西村琢さんはこう答えた。

「ギフトとして提供しているカフェやレストランなどは、僕たちの会社で運営しているわけではありません。他のカフェやホテルが提供しているサービスを仕入れて、僕たちはギフトというパッケージにして売っている。僕たちは、お客さんがいくらだったら買ってくれるか?や、パッケージにかかる費用、残したい利益なども考えて値段をつけています」

職業そのものだけでなく、「会社の中で働くこと」をもっと知ってほしい

今回のイベントの仕掛け人である未来協育推進機構 事務局長の鶴井正博さんに、この取り組みの意図を聞いた。

「中学生が“仕事”をイメージすると、街中にある小売店の人や駅員さん、教師など、普段の生活で接する職業が思い浮かぶことが多いと思います。職場体験もそういった場所で行われていますよね。ただ、実際に多くの人が勤めることになる“企業の中で働いている人の姿”は、普段の生活や職場体験ではなかなか実感できなかったと思います。今回のドリームジョブツアーでは、そんな見えていなかった仕事や働き方を知って、世の中を見る目が変わればいいと思って企画しました」

参加企業に地元のベンチャーを選んだのはなぜなのか。

「今回イベントを開催した品川区立日野学園のある五反田は、ベンチャー企業が盛り上がっている地域なんです。この変化の激しい世の中で、失敗を恐れず、どんどん挑戦している企業が近所にたくさんある。中学生たちが、そんな挑戦をする大人や企業に出会える場や、考える機会をつくりたかったんです」

限られた時間の中でリアルな大人の姿を見せるために、さまざまな工夫があったという。

「若手の方を中心に、社長と販売担当など、違う業務を担当する方に参加をお願いしました。例えば同じ銀行で働いていても、営業なのか、経理なのか、窓口業務の担当なのかで仕事は全く違います。同じ企業の中でも、働き方は色々ある、と知ってもらいたいですね」

dely株式会社は、取締役と広報担当者が参加

中学2年生という早い時期に、この機会を提供したのは鶴井さんの問題意識に基づくという。

「大学生や高校3年生になってから、初めてリアルな仕事について考えるのでは遅いと思っています。この企画を通して、『自分が興味を持っていることは何なのか』『自分には何が向いているか』を考える機会にしてほしい。今回のイベントの参加企業がベンチャー企業ということで、起業が話のテーマになることも多かったですが、起業やベンチャー企業での仕事をやりたい、やりたくないと判断するのは、あくまでも生徒自身です」(鶴井さん)

「知らない仕事」が、世の中にはたくさんある

参加した生徒からはこんな声があがった。

「自分の知らない仕事がたくさんあった」
「人の役に立つのも大切だけど、自分がやりたいことをやるのも大切だとわかった」
「今自分ができること、好きなことを一生懸命にやることが大切だと聞いた。今を頑張って将来につなげていきたい」

「将来、何になりたいの?」という学生がよく聞かれる質問の答えになるのは職業だけではない。「どんな仕事をするか、どんな働き方をするか」は生活の多くの部分に影響する。しかし、「働くってそもそもどんなことなのか」について考える機会はあまり多くない。

中学生のうちに、「会社の中で働く」を知る機会がもっと増えれば、「将来、何になりたいの?」という質問も、もう少し答えやすく想像しやすくなるのかもしれない。

(取材・文:鬼頭佳代/ノオト 編集:田島里奈/ノオト)

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2017年11月9日)に掲載されたものです。

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