長引く休校、オンライン授業化が進まないのはなぜ?

生徒・先生の声

教育問題

2020/05/01

2020年2月27日に政府が要請した全国一斉休校。当初は5月のゴールデンウイーク明けから再開の見通しもありましたが、難しいのではとする意見が多くあります。自治体によっては5月31日まで休校とする措置をとっており、延長は避けられないのが現状です。

この休校期間中、学校は生徒たちに宿題を出してはいるものの、その進捗をしっかりフォローすることもままならず、新しい単元を教えることができていない学校もあります。

結果として、多くの子どもたちの学ぶ機会が奪われることになっています。

オンライン授業を推奨する、国・自治体

そこで、一部自治体や一部学校では、子どもたちが家にいながらパソコンやスマートフォンで学習できるように、授業をオンライン化する取り組みを進めてきました。

文部科学省も4月23日に各都道府県の教育委員会にあてて、このような事務連絡を送付しています。

「あらゆる機会に ICT(情報通信技術)を最大限にご活用いただくことが子供たちの学びの機会の保障に効果的であることから、家庭においても ICT を積極的に活用いただきたい」

「教職員が端末を持ち帰る、または自宅の端末を利用するなどして、テレワークを行うことも積極的に推奨」

小中学生がいる低所得者世帯には、モバイルルーターを貸し出すなどインターネット環境の整備を支援する方針も打ち出され、自治体によっては通信費を100%負担するといった取り組みも進められています。

さらに4月27日には、文部科学省が小中校生を対象に、問題集をデジタル化するようなイメージのオンライン学習システムを開発することも発表しました。

なぜできない? 生徒の環境差、セキュリティ……問題が山積

このように、国や自治体も授業のオンライン化を推奨していますが、特に公立学校で授業のオンライン化は現段階でなかなか進んでおらず、何をもってオンライン化とするかも学校によってまちまちとなってしまっています。

それはなぜなのでしょうか。

まずは、公立の学校の先生たちに休校期間中の状況について伺ってみると、このような答えが返ってきました。

「ICTに理解のある数人の職員でオンライン授業の準備はしましたが、管理職からなかなかOKが出ない状態です」(Dさん/30代・公立中学校教員)


「すでに生徒たちに渡してあるワークのどこからどこまでをやるかについて、学校のホームページからお知らせをしているだけというのが現状です」(Sさん/40代・公立高校教員)


「上層部では話が出ているのかもしれませんが、現場の各教員にはまだオンライン化の話は回ってきていません」(Kさん/60代・公立中学校教員)

つまり、オンライン学習をやろうと準備をしていても、学校側が決断できていなかったり、そもそもオンライン化の話が学校の中で持ち上がっていない可能性すらあったりする学校も多いというのが、現状のようです。

そうなってしまう理由についてそれぞれお尋ねすると……。

年配の管理職の先生方が、ICTについてよくわかっていないことが大きな理由だと思います。また、学校のパソコンはセキュリティによってYoutubeやZoom(ズーム/Web会議サービス)などさまざまなツールが使えない状態になっています」(Dさん)

「生徒の家庭によってはインターネット環境が整っていないこともあり、不平等が生じる状態ではオンライン授業はできないという判断のようです」(Sさん)


「学校では情報漏洩を懸念し、外部からの接触を制限する流れがあります。そのため、学校のパソコンからはインターネットも自由に使えませんし、持ち帰りもNG。個人のパソコンで仕事をするのもNGとなっています」(Kさん)

多くの学校では、データをコピーするためのUSBの使用もできなかったり、使えるソフトが限られていたりとセキュリティ対策がガチガチに固められているそう。
また、校長・教頭などの管理職の先生たちがオンラインでの学習をイメージできないことなどが、ネックになっていると考えられます。

そして、家庭のICT環境によって不平等が生じてしまうことも、学校としては対応策を考えなくてはなりません。
タブレットやパソコンなどの端末、モバイルルーターの貸与や、通信料の負担などを決断した自治体もありますが、それを各家庭に導入していくのはまだこれから。

現状ではオンライン学習を始めようにも、生徒・学校どちらも環境が整っていないために、始められないという事情がありそうです。

ただ、そんな中でも、学校がGOサインを出したらすぐに始められるように、準備を進めている先生方も。

「私はビデオ会議ツール“Microsoft Teams”(マイクロソフト チームス)を使って、双方向での授業を考えています。やってみないとわからないので、まずはやってみて、その後臨機応変に、動画配信なども考えられればと。教員同士5〜6人でテスト配信もしてみました」(Dさん)

先生方も、ただ手をこまねいているだけではなく、いろいろな案を出し合いながら子どもたちの学びを進めようとしています。

お金がなければ15秒の動画が精一杯?

しかしいくら先生たちが努力していても、学校側の設備にも予算を投じていかなければ、思うように進めることはできません。

東京都では、児童・生徒へのICT環境整備を支援し、4月下旬には教員向けにYouTubeで研修動画を配信することを発表しましたが、それでも、すべての学校がすぐにオンライン授業を始められるわけではありません。
東京都のある区議会議員にお話を聞いてみました。

「他区で校長を経験した方がこちらの区に来たら、教育の予算が少なくて驚いたとおっしゃっていました。教育委員会がオンライン化の方針を出さなくても、校長の判断によって導入することはできるのですが、学校が使えるお金が少なければできないことも多いのです。

たとえばある小学校では、YouTubeの限定配信はセキュリティの心配があり難しいということで、学校のホームページ上に動画を掲載する方針となりました。ところが、サーバーの容量が足りずに、15秒くらいのメッセージ動画を配信するのが精一杯だったそうです」

15秒の動画配信をもって「オンライン化」とするには、無理がありますよね。他にも、学校によってスキルのある先生がいないこともネックになっていると言います。

「各先生に1台ずつパソコンはあるんです。でも、セキュリティの問題が解決されて、ある程度いろいろなソフトやサービスを使えるとしても、今度は動画撮影スキル、編集スキル、動画授業を魅力的に見せるスキルなどが必要です。
各学校のホームページを見てもらうとわかると思いますが、学校によって出来がバラバラです。比較的よくできている学校は、たまたまスキルのある先生が作りましたということなのですが、それでも一般企業のホームページなどと比べたら古い感じがしてしまいます」

パソコンを使いこなせない先生の授業だけ質が落ちてしまうなど、バラツキが生じてしまう可能性もあり、やはり課題は山積状態だと言います。

保護者が求めるオンライン化は「コミュニケーション」がキモ

オンライン授業の導入が遅れる一方で、保護者たちの間では日に日にオンライン化への要望は高まってきています。

東京都中野区の保護者が実施した自主アンケート(子どもを持つ保護者640人が回答)によれば、休校中に望む学習支援のあり方について、次のような回答が集まりました。

Q.休校中、どのような学習支援があると嬉しいですか(複数回答可)

  • オンラインによる学習支援・オンライン授業……77%
  • プリント・ドリル・宿題の配付……67%
  • メールによる定期的な連絡・案内……40%
  • テストの実施・添削(郵送・手渡し等)……32%
  • 学習内容に関する質問への回答(電話・メール等)……29%
  • 電話による定期的な連絡・案内……16%
  • 学習支援は特に必要ない……3%

8割近くと最も多くの保護者が望んだのが、やはり学習のオンライン化です。ただし、子どもが授業時間帯にインターネットに繋いで専有できる端末(PC、スマートフォン等)の有無については、「ある」と答えた人が71%。残りの3割は、「あるが兄弟で共有する必要がある(20%)」、「ない(7%)」、「その他(2%)」となっており、子どもたちがそれぞれオンラインで学習する環境は全員に整ってはいません。

さらに、アンケートの主催者によれば、

「両親が共働きで、小学生の子どもを一人で家に残すのが心配なため、職場に連れて行っているという人も。自宅にネット環境があっても、このようにオンライン授業を受けることが難しい子もいます。また、オンライン学習はちゃんと進められているか、授業に参加しているかなど親がサポートすることが大切ですが、それができる余裕のある保護者とできない保護者がいます」

と、ネット環境だけが格差をつくってしまう要因ではないようです。

もうひとつ、このアンケートで注目すべき内容が、保護者が期待するオンライン授業の内容や方法についての回答です。上位5つを見てみましょう。

Q. オンライン授業が開始されたとして、どのような点に期待しますか(複数回答可)

  • ホームルームによるクラスメイトとの会話・挨拶等……65%
  • 休校による学習の遅れを補うこと……61%
  • 双方向型のオンラインならではの探究型学習……45%
  • 可能な限り普段の学校に近い形の授業……42%
  • 録画されたわかりやすい授業の配信……33%

この結果を見ると、多くの保護者が、オンライン授業にコミュニケーションの要素を求めていることがわかります。休校中、学校の友達や先生と話す機会をもてず、メンタルの面を心配する保護者も多いことが、このような結果につながっているようです。

そう考えると、オンライン化を進める学校は、授業を行うのは難しくても、朝の会など子どもたちが話せる場をつくるだけでも、親子ともに安心感が持てるかもしれません。

ただ、1クラス20〜30人の生徒に対して、どこまで双方向の授業やコミュニケーションの場を実現させられるのか、また新たな課題が生まれそうです。

それでも、最初にお話を伺った公立高校教員のSさんはこう言います。

課題はたくさんありますが、やるかやらないかだったら、やるしかないです。そのために学校の先生になったのですから。初めてのことなのでうまくいかないこともあると思いますし批判もあると思いますが、やりながら修正していくしかありません。それが生徒たちのためになると信じるしかないんです」

これ以上、子どもたちの学びを止めることはできないという気持ちは、保護者も先生も同じです。
早く本当に必要な制度や支援が拡充されるよう、何が足りないのか、どうしたらもっとよいものにできるのかを、多くの人が考え、議論を早めていく必要がありそうです。

引用元) 【中野区】保護者による学校休校・オンライン授業 自主アンケート

<取材・文/大西桃子>

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この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。