新学期スタート 環境変化で起きる子どものストレスを見逃さないで
教育問題
専門家に聞く
2020/06/16
新型コロナウイルスの影響により全国で休校が続いていましたが、5月・6月と徐々に学校も再開。新学期がようやく本格的に始まりました。今年中学校や高校に入学した生徒たちも、いよいよ新生活のスタートです。
ところで、今年だけに限らず、新学期や入学シーズンは環境の変化になかなかついていけず、心や体に不調を抱えてしまう生徒も出てきます。
環境の変化は誰にとってもある程度の不安や緊張を伴うもの。ただ、進学や転校、進級によるクラス替えなど、子どもたちに訪れる変化はより強く心や体に作用します。
まして現在は学校が今後どうなるのか先行きも不安定な状況です。長い期間休校が続いたため、生活リズムを変えるのが大変な生徒もいます。
そんなときに、周囲はどのようなサポートを心がければいいのでしょうか。また、本人が準備できることにはどんなことがあるのでしょうか。
「自発的に変化を創れる人が、生きやすさを手に入れる」という基本方針のもと、「心理カウンセリングCREAR(クレアル)」を運営しカウンセラーとして活動する蔵野まどかさんにお話を伺いました。
親は学校での成果より、どんな心境で過ごしたかを感じ取れるように
── 新学期や進学などの環境変化によってストレスを溜めてしまう子どもは、やはり多いのでしょうか?
蔵野:どこを基準とするか難しいところですが、新生活でストレスが溜まってしまう子どもさんは必ず一定数おり、少なくないように思います。
── なぜ環境の変化がストレス増大につながってしまうのでしょう。
蔵野:基本的に人間にとって、現状からの変化はストレスになります。新しいことを始めようとしても抵抗するように、「気がつけば元通りのことをしている」ということがあると思います。人間は今までと同じことを続けるほうが楽で、安心するものですから。
ただ、環境の変化を受け入れやすい性格の人と、不得意とする性格の人がいます。そのため同じ新生活をスタートさせた子どもたちの中でも、わりとすぐに順応できて平気そうな子もいれば、ストレスが表情や生活に影響してしまう子も出てくるという差が出るのです。
── 親もこの時期は接し方に迷ってしまうかと思いますが、家庭の中で気を付けなければいけないことはありますか。
蔵野:たとえば学校生活について尋ねるときに、何気なく「友達できた?」などと聞いてしまうと、プレッシャーになる子も多いのではないかと思います。また、「勉強が遅れてしまっているのでは」と気にしすぎてしまう親の場合、子どもたちはそれを敏感に感じとってストレスを感じているという状況もよく見ます。今年は特に休校が長く続きましたから、学習面の遅れを気にする親も多いと思いますが、注意が必要です。
── 学習面に関心を注ぎすぎると「自分のことを見てくれていない」と不安にさせてしまうということでしょうか。
蔵野:深いところでは「自分のことを見てくれない」という不安があるのですが、あくまでも子どもたちが自覚できているのは、そういう具体的な不安よりも、イライラする、もやもやするといったストレスです。
この時期に必要な親のサポートとしては、子どもたちが新生活でどのような成果を生んでいるかを把握しようとするよりも、新しい環境でどのような心境で過ごして帰ってきているのかを“感じ取ろう”と努力することですね。
何でもかんでも知ろうとするのも、多感な年頃には疎ましがられます。表情や雰囲気の異変があれば、たまにはそっとしておくなども必要です。そこの対応を慎重に判断するためには、日頃から子どもたちとのコミュニケーションが取れていることや、今必要そうなことは何かを敏感に察知してあげる習慣があることが重要になります。
今、不安を感じる生徒へ。「すぐに」と焦らず少し視野を広げてみましょう
── 中学生、高校生の生徒自身が「新しい環境に馴染めない」あるいは「馴染めないかもと不安」というときには、どのように考えればいいでしょうか。「友達をすぐに作ろうと必死にならなくてもいい」とか、そこだけが世界じゃないと考えて別のコミュニティにも目を向けるなどはよく言われていることだと思いますが。
蔵野:どちらもすごく大切な考え方だと思います。最近、学生のご相談者様から「スクールカースト」といった言葉を耳にする機会が増えました。馴染むこと自体を目標にしてしまった結果、グループには馴染めたものの、無理を続けなければ周囲とのテンションが合わず、友人関係が苦しい……という相談に来られる方も少なくないのです。
不安になったときには、「馴染むことがゴールではない。自分に合う友達がゆっくり見つかることも十分あり得る」と、その不安事の対象について考え方を広げてみることも必要ではないでしょうか。
── 新型コロナウイルスの影響で3カ月も学校が休校になりました。このブランクがあるからこそ特に気を付けてほしいことはありますか。
蔵野:世の中には、休校中に「早く学校に行きたい」と思っていた子ばかりではありません。学校に行きたくなくて、この3カ月間は心穏やかに過ごすことができていたという子たちが、学校の再開によって精神的に苦しくなっている可能性もあると考えています。
土日、夏休み、春休み、冬休み、どの長期休暇よりも長かったこの3カ月間を終えて、ようやく始まる学校生活に気が重くなっている子もいるはずです。子どもたちが大人に言えていない事情を抱えていることはよくあります。大人には言いづらく、一人で抱えてしまいがちですが、同じように感じている子もたくさんいるということを知っておいてもらいたいと思います。
子どもたち自身には苦しさを一人で抱え込まず、信頼できる人・共感してもらえる人に話すことを。周囲の大人には子どもの表情や変化をよく見ておくことを気をつけてもらいたいです。
今年は学校が異例の休校になっていたこともあり、親のほうも気ばかり焦ってしまいがちです。でも大事なのは、よくも悪くも「こうに違いない」と決めつけてしまわないこと。新型コロナウイルスの影響も、いつまでどのように続くのか、まだはっきりとは見えてきません。大人が先に慌ててしまうのではなく、子どもたちの変化をよく見て、幅広い考え方を許容してあげることも必要ではないでしょうか。
── ありがとうございました。
取材協力
蔵野まどかさん
2014年から心理カウンセラーとして活動。約5年半、大阪南森町のカウンセリングオフィスAXIAにて専属カウンセラーとして勤務し、約2000件の臨床経験を積む。その後、2020年4月にAXIAから独立し、心理カウンセリングCREARを設立。
心理カウンセリングCREAR<取材・文 / 高崎計三 >
この記事を書いたのは
高崎計三
1970年、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年に有限会社ソリタリオを設立。編集・ライターとして幅広い分野で活動中。