不登校でも自宅学習で「出席扱い」に! 認められるためのポイントは?
教育問題
不登校
2021/05/26
多くの不登校生たちが持つ、「チャレンジしたい気持ち」をサポートする制度や教育システムの整備は、今急速に進んでいます。
例えば、不登校の児童(生徒)であっても、家庭学習をすることによって学校に出席した扱いにできる 「出席扱い制度」 という制度があります。
この制度 は、不登校生の進学を助けるだけでなく、自己肯定感を高めるものとして期待されていますが、まだまだ認知が広がっていないのが現状です。
- 発達の問題で学校に通えないけど勉強は問題がない
- 進学に際して内申点が欲しい
- 家で勉強を頑張ったことを学校にも認めてもらいたい
そこで、このように感じている不登校生や保護者の方に、制度を知ってもらうため、2021年4月28日、株式会社すららネット( ICT家庭学習システム提供事業)とクラスジャパン小中学園( 小中学校との直接連携によるネットスクールを運営)が共同で、『不登校生の出席扱い制度説明会』をオンライン開催しました。
この記事では、説明会で紹介された、制度の仕組みと実際にあった事例、加えて適用となるためのポイントをピックアップして紹介していきます。
不登校生の出席扱い制度の現状
「出席扱い制度」は2005年より始まりましたが、利用が広まってきたのは最近です。
以下のグラフは、2011年以降、オンライン家庭学習等で出席扱いと認められた人数の推移を示しています。
例年300名に満たない程度の人数でしたが、2019年には2倍を超える608名が制度適用を受けています。ICTを利用した家庭学習について、理解と注目が高まっているのがよくわかります。
参考)児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査/文部科学省
出席扱い制度の目的は?
文部科学省からは、制度の目的と運用された場合のメリットが以下のように示されています。
<目的>
小学生から中学生が対象で、学校復帰を円滑化すること
<メリット>
・自宅学習を認めることで登校する意欲を促す
・中学生については内申点対策にもなる
中学生と保護者にとって、不登校によって抱える大きな不安要素のひとつが、進学における出席日数の問題です。この制度は、そうした不安を解消するために運用されることも想定されています。
ただし、文部科学省としてはあくまで「再度登校が可能になること」を狙いとしていることが重要なポイントでしょう。
制度を利用するためのポイント
「出席扱い制度」は、どうしたら利用できるのでしょうか。
まず大事なポイントは、文部科学省が定める「不登校」にあたるかどうかということです。実は5~10%ほどの割合で、「不登校に該当しない」として適用が認められないケースがあるのだとか。
<不登校の定義>
年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたものに該当していること
では具体的に当てはまる事例、当てはまらない事例を示してみましょう。
▼制度利用NGのパターン
- 骨折で30日以上欠席
- 起立性調節障害で30日以上欠席
▼制度利用がOKのパターン
- 学校の授業についていけない
- 人間関係に悩んでいる
- 発達障害等の事由で特別支援や通級教室に通っている
- 起立性調節障害による欠席が続いたせいで授業についていけない(二次障害扱いとなるため)
病気や障害を欠席の直接的な理由とした場合は「病欠」となり、不登校としては扱われないということを覚えておきましょう。他にも聴覚過敏や書字障害、HSCなどでも出席扱いとなった事例があります。
どのように自宅学習を行えば出席扱いとなる?
自宅学習で出席扱いとなる条件は7つあります。
▼自宅学習が出席扱いになる条件
- 保護者と学校との間に十分な連携・協力関係があること
- ICTや郵送、FAXなどを活用して提供される学習活動であること
- 訪問等による対面の指導が適切に行われること
- 学習の理解の程度を踏まえた計画的なプログラムであること
- 校長が対面指導や学習活動の状況を十分に把握していること
- 学校外の公的機関や民間施設等で相談・指導を受けられない場合に行う学習活動であること
- 学習活動の評価は、計画や内容を学校の教育課程に照らし判断すること
この条件を見ると、「すらら」等の制度に最適化された通信学習システムや、「クラスジャパン」等のオンラインスクール、フリースクールを利用することはもちろんのこと、保護者と学校との連携も重要ということがわかります。
まだ実施経験のある学校が少ない中で制度を利用するには、担任の先生をはじめとした学校側に理解と協力を求めることが欠かせません。
出席扱いとなるための実際の流れ
実際にこの出席扱い制度が適用されるまでの流れを、具体的に見ていきましょう。
STEP1.まずは担任の先生へ相談
保護者から担任教師へ「学校復帰も視野に入れて出席扱いとしてほしい」ことを相談。先生が出席扱いについて知らない場合は文科省資料や、家庭学習教材やスクール資料を提示する。
STEP2.出席扱いの要件を満たしているか確認
担任を通じて教頭や校長に連絡し、校内で協議があるので回答を待つ。保護者に対して質問がある場合も。適用実績のある「すらら」や「クラスジャパン」といった企業・団体ではサポートも行っている。
STEP3.1日の出席扱いルール作り
使用する学習教材や学習設計内容、学習履歴の提出方法に関して、学校との間でルールを決める。その際は、すでに通信教材等によって学習履歴のある状態にしておくと、ノルマのない緩やかなルール運用が行われやすい。
STEP4.出席扱いスタート
ここまで行って、やっと出席扱いになります。
ポイントは「学校復帰前提」
最初に覚えておいてほしいポイントは、あくまでこの制度の目的は「学校復帰」であるということです。多くの学校や先生は、可能であれば児童生徒に登校してほしいと願っています。
登校しないことを前提に話をしてしまうと、学校側も出席扱いとすることを受け入れられず、残念ながら適用とならなかった事例もあるので注意が必要です。
結果的に不登校のままであっても復帰に前向きである意向を示すことが、学校と円滑なコミュニケーションをとるためには重要なのです。
また、学校側は児童生徒が家庭内学習に励んでいる実績があれば、その努力自体は評価してくれる傾向にあります。ただし、それをすぐに出席として扱えるかどうかは教育委員会や自治体との兼ね合いもあり、別問題になる場合も多くあります。
学校側に積極的に働きかけてもらうためにも、学習履歴を目に見える形にして渡すことは効果的で、これによって協力が得られて出席扱いとなった事例も多数あります。
こうした出席扱いに関するノウハウを持った各種教育サービスや民間スクール選びも、重要と言えるでしょう。
「出席扱い」の前の大前提
保護者が子どもの不登校を前にして焦ってしまい、子どもの心のケアが十分にできておらず、実は子どもは学習ができる状態にないというケースもあるそう。
不登校に至る過程で思い悩み、傷ついた子どもの声をまずはきっちりと聞いて、その上で進学を含め今後どうしていくのか耳を傾けること。
これが出席扱いを申請する上での大前提であることは、忘れないでおきたいですね。
内申点はどうなる?
出席扱いの他にも気になるのが内申点ですね。
内申点は0(評点不能)から5までの段階がありますが、現状では自宅学習の出席扱いは1点となります。2~3点を得るには適応指導教室や別室登校で定期テストを受ける必要があり、4~5点を目指すには学校復帰が必要となります。
自宅学習を頑張ったとしても1点になってしまう。するとどうしても自己肯定感を培えない子どもたちが出てきてしまいます。
すららネットによる校長先生へのヒアリングでは「前例が少なく、他校などでの利用実績がないので成績評価が難しい」との声も挙がっており、この評価基準を変えていくためにも、より細やかなガイドラインが求められています。
そこで登場するのが、今回のイベントで同時に報告会も行われた経産省「未来の教室」で2020年に実施されたプロジェクト『OJac(オンラインジャパンクラス)』です。
OJaCとオンライン学習の可能性
OJac(オンラインジャパンクラス) とは、全国17の自治体が参加するこのプロジェクトは、経産省が担当する民間教育のサイドから教育のイノベーションを図る試みです。
プロジェクトでは不登校の児童生徒を対象とした多角的なICT在宅学習を行い、実証を行うことで、自宅で学んでいても出席と成績評価につながるガイドラインの策定を目指しています。
OJacでは現在までに、 幅広い分野をフォローしています。
- 個々の適性に合わせた最新ICT教材の提供
- チャットを使った担任による意欲のサポート
- 普段足を踏み入れることができない国内外のさまざまな場所をオンライン上で社会科見学
- チャットを利用して趣味を共有する部活に参加する課外活動など
- 各家庭と教育機関との連絡や情報共有を、すべてオンラインでできるように整備
まさに未来の教育といった内容ですね。
近い将来、通学や登校もそれぞれの個性に合った多様な形式が認められ、「不登校」という言葉も廃れる未来が来るのかもしれません。
そしてこの実証が進むことで、学力や学ぶ姿勢に合わせて成績の評価方法も変わっていくことが期待されます。
自分の学びを肯定するための「出席」
今回の説明会・報告会を主催した株式会社すららネットは、出席扱い制度の課題をこう語ります。
「全国18万人いるとされる不登校児童生徒に対して、出席扱い制度を利用したのはまだ608人。利用事例は少なく、認知度も低いのが現状です。特に学校現場サイドでの認知度がまだまだ不足しています」
児童生徒や保護者が活用しようと思っても、学校が制度を知らないというのが大きなハードルになっている、これが大きな課題なのだそう。そこで、現在は広報活動に力を入れていると言います。
「1人でも多くの教育委員会関係者や校長先生、教頭先生など学校関係者に制度について知っていただき、不登校をサポートする選択肢のひとつとして思い起こされるよう、広報活動に力を入れています。
また今回のような不登校の出席扱いに関する説明会を、保護者向けに定期的に行っていければと考えています。
自宅学習の成果が出席という形で学校から認められ、不登校児童生徒が本来の姿や自信を取り戻し、将来に向けてステップを進めてくださることを願っています」
自宅学習の成果が出席という形で学校から認められ、不登校児童生徒が本来の姿や自信を取り戻し、将来に向けてステップを進めてくださることを願っています」
自宅学習の実績を学校に認められた証としての「出席」。学びに対してポジティブな気持ちになるためにも、より多くの子どもたちにチャレンジしてほしいと思います。
<取材協力・資料提供>
2008年設立。ゲーミフィケーションを応用した対話型アニメーション教材「すらら」の研究・企画・開発を行う。「すらら」を活用した学校・学習塾向けコンサルティングも。近年では自宅学習用教材としても活用され、保護者向けのカウンセリングも。
<取材・文/ 中島理 >
この記事を書いたのは
1981年、北海道生まれ。バーテンダー・会社員を経てライターへ転身。ムックを中心に編集や執筆に携わる。引きこもり経験を持ち、若年層の進学・就労にまつわる心の問題に関心。