通信制だと就職できない? 高校生就職のプロに聞いてみた
通信制高校
専門家に聞く
2021/07/10
2020年以降、新型コロナウイルス感染拡大防止のために多くの業種が休業要請、営業時間短縮要請を受け、かつてない危機に見舞われています。そのため、近年は安定していた高校新卒者の就職率にも影響が出てきています。
就職を考えていた、通信制高校生や高卒認定受験者の方も就職状況が気になっている方が多いでしょう。
厚生労働省のデータを元に株式会社ジンジブがまとめた資料によると、
2020年(令和2年)の高卒者を対象とする求人数は約38万人で、前年から20.2%減少。
平成の終盤から求人数、求人倍率ともに増え続けていましたが、ついに下降に転じました。
しかし、求人倍率が下がったとは言え2.64倍あり、求職者数が減ったこともあって就職内定率は前年比0.2%減にとどまっています。
2008年9月からアメリカで始まったリーマンショックの時には、高校新卒者の有効求人倍率※は1を切る状態が5年ほど続きました。つまり、当時のようにひどい状況にまではなっていないということです。
※有効求人倍率とは
厚生労働省が毎月発表する「求職者1人につき、何件の求人があるか」を示した数値。
では実際、コロナ禍での高校生、特に通信制高校生の就職にはどういう影響が出ているのでしょうか。
今回は高卒者のための就職ナビサイト「ジョブドラフト」を運営する株式会社ジンジブに、お話を伺いました。
コロナ禍での2021年度就職活動はどうだった?
「一番影響があったのは、就職活動のやり方ですね。昨年度、つまり2021年度新卒採用の場合は4月から6月まで学校が休校になり、通信制高校でもスクーリングなどができなくなりました。その時期にキャリア教育が全然できないまま、就職活動の時期に入ってしまったわけです」
と、株式会社ジンジブのマーケティング部広報課長・佐藤純子さんは話します。
さらに企業の応募開始が例年の9月から10月からに後ろ倒しになったため、就職活動期間そのものが1ヵ月短くなってしまったと言います。
このことから、かなり厳しい就職活動を強いられた高校生が多かったのだとか。
「高校生の就職活動は、1人が1社ずつ受ける〝1人1社制〟が基本ルールです。1社がダメだったときに後に残る期間が少なく、就職活動の期間自体が延びてしまった人も多かった。また、職場見学や面接を入れる日程がどんどん後ろになってしまったり、内定が出る時期が遅くなってしまったりという影響がありました。
さらに、かなり求人が減った業界もあり、その業界を志望する生徒にとっては厳しいものになりました」
業界別の求人数変化は?
「産業別求人状況 増減数」のグラフによると、「製造業」「卸売業・小売業」「宿泊業・飲食サービス業」が目立って減っているのがわかります。確かにどれもコロナ禍の影響を強く受けた業界です。ただ、製造業に関しては、もともとの求人数が多いため特に減り幅も大きくなっています。
「これらの業界は、もともと高校生が多く就いていた業界でもあり、ここでも高校生への影響が出ています。そして、求人数自体が減っていることに加えて、大卒、専門卒も流れ込んでいる。
また、各企業は毎年7月に求人数を出しますが、9月の応募月までに修正もできるんですね。だから、7月に10人の募集があった企業で、9月になって応募しようとしたら5人に減っていたというケースもあります。大卒、専門卒で先に枠が埋まってしまい、高卒の募集が減ったんですね。高校生の就職の時期が一番遅いので、そこで調整されてしまったわけです」
一方で、それほど影響を受けなかった業界、逆に応募が増えた業界もあります。「建設業」「運送業」、それから「介護業界」などはコロナに関係なく活発でした。
また、スーパーやドラッグストア、ホームセンターなど生活関連の小売業は、「コロナの影響を受けにくいのでは」と考える人が多かったのか、例年よりも多くの応募が集まり、競争率が高くなったようです。
高卒採用に意欲を持っている企業も多数!
コロナ禍の影響はまだ続いていますが、企業の求人数は今後も減り続けるのでしょうか。佐藤さんは、「全体的には、採用意欲は少しずつ回復傾向にあるのでは」と言います。
「企業の大卒採用意欲はそこまで下がってないと言われていますし、昨年よりは持ち直すのではないかと予想されます。ここ数年間、どの企業でも若手の人材が不足していて、若返りしなければというのは共通の課題なんですね。長い目で見ると、採用を絞れば未来の人材育成が難しくなりますから、高卒の採用意欲を持っている企業は、昨年難しかった分、今年はちゃんと採用していこうと考えているところが多いと思われます」
では、この状況で狙い目の業界というのはあるのでしょうか。
「狙い目はどこかというより、高校生の皆さんには幅広い業界を見てほしいです。高校生は特に、自分が知っている会社、見たことのある仕事、両親の仕事などで就職する業界を決めやすい傾向があります。でも、最初から絞ってしまうと選択肢が狭まります。今まで知らなかった企業でも、業績がよくて採用が維持されるところもあれば、高卒の採用意欲が高いところもあります。『こんな業界があったんだ』『こんな企業があるんだ』という感じで、知らない仕事を見てみるほうが、選択肢はより広がるはずです」
なるべく広い視野を持って職場見学や企業研究をすることが、満足して就職活動を終えることにつながるとのことです。
通信制高校でも就職は大丈夫?
では、「通信制高校」の生徒や「高卒認定」の場合の就職はどうなのでしょうか。
これに関して佐藤さんは、「不利な部分はあると思いますが、しっかりと情報収集を行えば大丈夫です」と言います。ただそれは、コロナのためというわけではないようです。
「企業は採用活動をするうえで、高校に向けてPR活動を行いますが、企業側も高校生と同じで、〝知っている高校〟に目を向けがちなんです。
採用PRする学校先を選定する時に、どうしても公立高校、全日の工業・商業・普通科の高校が一般的だと思っているので、通信制高校に求人活動をしようという発想がない企業も多いんですね」
したがって、通信制高校には求人が届く数が少なくなる傾向があるのだとか。
「もう一点、どの高校でもそうですが、先生が就職指導に慣れていないこともあるんです。企業に就職したことのない先生も多く、業界や企業の理解が浅いと生徒に対して求人情報がきちんと届けられていないという事態が起きます。通信制高校では通学の機会が少ないことや、進路指導の担当がそのキャンパスにいないという場合もあり、進路相談がしたくてもできないという状況もあります」
就職情報は自分で掴む姿勢も必要!
コロナ禍の影響と言うよりも、通信制高校の現状として、就職についてのサポートが十分整っていないところが多いという課題はあるようです。では就職したい通信制の生徒は、どうしたらいいのでしょうか。
「まず就職についての情報を、待つ姿勢ではなく自分から積極的に取りに行くことを心がけてほしいと思います。
学校に届く求人の中から探そうとすると、全日制などの学校に比べて情報が少なくなってしまうという現状がありますから、世の中に出ている情報に自分からアクセスすることが大切です。先生にお願いをすれば、ハローワークの求人はある一定のシステムで公開されていますので、希望の業界で探すこともできます。また当社運営の『ジョブドラフト』のようなナビサイトを使えば、先生を通さなくても自分でスマホから企業検索ができます」
どの学校・課程で学んだ生徒から採用したいかというより、会社にマッチした生徒を採用したいと考える企業が多いとのこと。
さらに、ハローワークが主催する合同企業説明会や、『ジョブドラフトFes』など就職支援をする企業主催のイベントに足を運ぶこともオススメだと言います。
「イベントに出展している企業は高卒採用意欲が高く、ウェルカムというところが多いので、担当者と顔を合わせて話をしてみることで、働くイメージがしやすくなり、就職への不安も減るでしょう」
7月には各企業の高卒者への求人が解禁され、9月5日から応募がスタートします。求人情報が出てから進路について考え始めても、9月の応募には十分間に合います。ただそのためには、「7月、8月に気になる企業をいくつも職場見学して、吟味することが大事」とのこと。
「9月の募集の後、10月に追加募集をする企業もありますが、9月に満足な人数が集まれば追加募集をしないところもあります。できれば9月の一次募集にちゃんと応募できるようにしておいたほうがいいと思います」
進路について考えるのは、今からでも十分に間に合います。これまでしっかりとは考えていなかったあなたも、さっそく動いてみましょう。
取材協力・監修
<取材・文/ 高崎計三 >
この記事を書いたのは
高崎計三
1970年、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年に有限会社ソリタリオを設立。編集・ライターとして幅広い分野で活動中。