子どもに「通信制高校に行きたい」と言われたら?
通信制高校
不登校
2022/01/17
いよいよ受験シーズンに突入、志望校を最終決定する時期となりました。
義務教育を終える中学3年生たちは、春からの進路を自分でしっかり考えなければなりません。しかし、「自分なりに考え通信制高校に行きたいと言ったら親に反対されてしまった」という話はあとを絶ちません。
その背景には、「通信制高校は不登校の子どもが行くところ」「全日制に通えない子が行くところ」という決めつけや、「就職や進学には不利」という思い込みがあるのかもしれません。しかし、保護者世代が学生だった頃の通信制高校と、今の通信制高校とでは、様子は大きく異なります。数十年前の通信制高校のイメージをもとに、むやみに反対するのではなく、保護者もまずは通信制高校の現状をよく知っておく必要があるのではないでしょうか。
NPO法人日本フリースクール協会(JFSA)事務局長の田中雄一さんによれば、「現代の日本では、少子化の進行もあって高校生の生徒数が減少傾向にありますが、その中で通信制高校の生徒は増えている」と言います。それはなぜなのでしょう?
詳しくお話を伺ってみましょう。
多様な学びを選択できるのが今の通信制高校
通信制高校の生徒数が増えている理由として、田中さんは「通信制高校の認知度が上がってきている」ことの他に、次のような変化を挙げてくれました。
「専門コースを持った学校が増えているという背景も大きいでしょう。ゴルフや野球、卓球といった運動系、声優・俳優・イラストレーターといった総合エンターテインメント系などのコースがあります。以前は『不登校の生徒を何とか救おう』ということが中心だった通信制が、現在は大きく多様化しています」
たとえば、ゴルフをやっている子は海外遠征も多いので、日本に帰ってきている間に集中スクーリングという形で対応したり、声優を目指す子が高校の間に講師から3年間教われば、全日制を出てから専門学校や養成所に進む子たちよりもアドバンテージがあったりと、通信制高校ならではのメリットもあるとのことです。
「こうした情報には、今や保護者より子どものほうが敏感ですが、彼らの希望を親が反対するという状況も現実にあります。やはり保護者たちの中では、通信制のイメージが昔のままで更新されていないんですね。だから『全日制で普通に通学してほしい』と思ってしまう」
通信制高校の大きな特徴のひとつは「毎日通学する必要がない」ことです。そのイメージが大きい場合、子どもが「楽そうだから」という理由で通信制を希望しているのではないかと思ってしまうことも多いのだと田中さんは言います。
また、不登校の生徒の場合は、学校側のケアに不安があるというケースもあります。こういった点に関しても、実際はかなり違ってきていると言います。
「自分が通信制に通っていなかった保護者にはなかなかイメージできないでしょうし、不安もあると思います。特に不登校の生徒や発達障害傾向がある生徒の場合には、その不安も大きいでしょう。しかし通信制高校は、先ほどお話しした専門コースだけでなく、通学制度も多様化していて、週5日通えるコースや、週1〜3回の通学があるコース、さらには基本的には自宅でレポートをこなし、特別活動・スクーリングと単位認定の試験のみ来ればよいコースなど、学校によって様々なコースが用意されているんですね。だから子どもの特性によっても選ぶことができるんです」
多様なコースの中から、その子の特性ややりたいことに合ったコースを選べるのが通信制高校。「全日制普通科」という従来の進路以外にも選択肢が広がっていると考えて、どこが自分の子どもに合っているのか1校1校丁寧に見てみると、固定観念から抜け出せるかもしれません。
生徒の状況に合わせて通学ペースも調整
子どもが不登校の場合だと、本人が「毎日通う」ことに不安があり、通信制高校を希望するケースも多く見られます。保護者としては「このまま学校に通わなくても大丈夫なのだろうか」「学校で他の子たちとコミュニケーションをとることも大切なのでは」と心配し、すぐに賛成できないという人も少なくないそう。
しかし現在は、余裕を持って立ち直りのプロセスを歩めるように、自分の状態に合わせて登校できる通学型の通信制高校も注目されています。「毎日通わなくてよい」からこそ、子どもたちのペースに合わせて「心ほぐし」に時間をかけることができるのです。
また、発達障害傾向の子どもの場合は、学力的についていけるかどうかという心配もあると思います。今はそうした子どもたちを受け入れる通信制も増えてきており、そのほとんどで、個別指導の要素も含めながら習熟度別の授業でケアを行っています。
さらに、新型コロナウイルス流行以降の変化として、「オンライン化」が進んだことによって、不登校の生徒たちの学習にも変化が起きていると田中さんは言います。
「特に今の高校2年生は入学時から感染拡大傾向にあり、ほとんどの学校行事が中止となり、ホームルームや授業もほとんどがリモートに切り替えられ、同級生と直接会う機会もなかなかないという状況でした。多くの高校生が戸惑いの中、手探りで進んでいました。現在のように感染状況が落ち着いてきて、登校も再開されていますが、不登校の生徒は、このオンライン化でメリットを受けることができるようになったのです」
通学と対面授業が再開されても、オンライン授業を続ける学校も多く、今までは授業を受けられなかった不登校生徒もインターネットを通して参加できるようになってきているとのことです。
「チャットを活用した対応ができる学校も増えており、そこから通学に結びつく事例もあります」と言うように、通信制高校の中でもインターネットの活用が拡大してきたことで、生徒たちの通学や学習状況も変わってきているようです。
説明会では不安要素をしっかり質問しよう
では、通信制高校を選択肢に入れたとして、学校選びはどうすればいいのでしょうか。
これは説明会など、全日制の場合とそれほど変わらないようです。その上で、ポイントをお聞きしました。
「説明会にはもちろん行ったほうがいいですが、やはり実際に見学してみて、その子に合っているかどうかを確認するのが大事です。実際の授業を見学するとか、部活に参加するとか、朝の登校風景を見てみると、いろんなことがわかってくると思います。また、保護者だけが説明会に参加されることも多いですが、やはり本人が一緒に来て、自分の目でいろいろ見てみると、自分に合う、合わないということが感覚としてわかります」
「特に不登校の場合は、①また不登校になったらきちんとフォローしてもらえるか、②勉強についていけるか、③友達をうまく作れるか、という3点の不安を“安心”に変えられる学校選びが大事です。この点で疑問があったら説明会や授業見学などで、直接聞いてみるのがいいでしょう」
これまではネガティブなイメージを持たれることもあった通信制高校ですが、メリットを生かして自由な時間を運動やアートに費やしたり、自分のペースで勉強したりすることで、志望大学に進む生徒も増えています。それぞれの現状と希望に応じて進路を考えるとき、通信制高校も選択肢に入れることで可能性は大きく広がるかもしれません。
取材協力
事務局長・田中雄一さん
<取材・文/高崎計三>
この記事を書いたのは
高崎計三
1970年、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年に有限会社ソリタリオを設立。編集・ライターとして幅広い分野で活動中。