紙とペンがあれば、モヤモヤは解消できる? 習慣化コンサルタント・古川武士さんに聞く、心が整う「書く習慣」
専門家に聞く
2019/04/23
漠然とした不安や自己嫌悪を感じてつらい、家族や友だちと上手く関係を築けず、すぐに感情をぶつけてしまう、目標のために努力したいのにやる気が出ない……。
そんなときに役に立つのが、「ジャーナリング」です。ジャーナリングとは、ノートや専用のシートに思いつくことをひたすら書き出すことを指します。書き出すことで頭の中が整理され、モヤモヤとした感情が消えたり、問題解決の方法が明らかになったり、目の前のことに集中できたりと、さまざまな効果が得られます。
こうした手法は仕事や趣味に忙しい大人はもちろん、勉強や部活、人間関係で悩む中高生にとっても有意義なもの。そこで今回は『こころが片づく「書く」習慣』(日本実業出版社)の著者であり、習慣化コンサルタントの古川武士さんに、ジャーナリングの効果や中高生におすすめの実践法を伺ってきました。
モヤモヤの言語化で、心にゆとりが生まれる
――そもそも、どうしてジャーナリングをすると、心が整うのでしょうか?
頭の中で堂々巡りしているモヤモヤは、書き出すと明確になり、よりレベルの高い思考ができるからです。
頭の中だけでは物事を曖昧にしか考えられず、しっかり整理できません。その状態のままで過ごすと、不安やタスクが溜まり、心が落ち着かないんです。
一方で、そうした頭の中のモヤモヤを言葉にして書き出すことで、考えが具体化し整理されます。すると、抱えていた不安の原因や取り掛かるべきタスクが明確になり、心にゆとりが生まれるんです。
――心を整える手段は多様ですが、その中でジャーナリングをおすすめする理由は何ですか?
最も大きな理由は、不安の解消や時間管理、目標達成などさまざまな目的に合わせた使い方ができるからです。それに、紙とペンさえあれば、時間も場所も問わず、自分一人で完結できますのもポイント。
『こころが片づく「書く」習慣』では、18種類の「書くワークシート」を用意しました。白紙を使ってもいいのですが、目的に合ったワークシートに書き出せば、より効果的でしょう。
大量のタスクを抱え、気分が重たいときは「未完了リスト」
――「書くワークシート」の中で、中高生におすすめなのはどれでしょうか?
3つあります。1つ目は、勉強とプライベートに分けてタスクを整理する「未完了リスト」です。
複数のタスクがある時って、「アレもコレもやらなきゃいけない!」と混乱して、気分が重たくなりがちです。だからこそ冷静にタスクを整理し、いつまでに何をしないといけないのかを明確にする必要があります。
――未完了リストを上手に使うために、どんなことに気を付ければ良いでしょうか?
細かく具体的にタスクを書くことです。例えば、「夏休みの宿題をやる」だと途方もなく思えますが、「数学の因数分解の単元をやる」だと、何だかできそうな気がしますよね。
細かいタスクにすると取り組むハードルが下がりますし、進み具合も一目で分かるので、モチベーションアップに繋がります。
できないことばかりに目が向いて、自己嫌悪に陥ってしまうときは「振り返りGPS」
――2つ目におすすめなのは、何でしょうか?
2つ目は、Good(良かったこと)・Problem(できなかったこと)・Solution(改善策)の3要素で1日を整理する「振り返りGPS」です。
自分に厳しい人ほど、できなかったことばかりに注目して自己嫌悪に陥りがちです。しかし、実際にはできたこともたくさんあるはず。それに、できなかったことも、「次にどう生かせるか」を考えられれば、できることは徐々に増えます。
――私も毎日、振り返りGPSをしているのですが、たまにGoodがほとんど出ず、Problemばかりになる日があります。GoodとProblemのバランスを取るには、どうすれば良いでしょうか?
一般的に人はProblemを考える方が得意なので、意識的にGoodを増やす必要があります。
そのためには、些細なことでも自分を褒めること。「テスト勉強が3時間できた」「ランニングが30分できた」ほどしっかりしていなくても、「友達に勉強を教えてもらった」「家の周りを散歩できた」などのささやかなものでも、Goodにする。とにかく5つくらいGoodを書き出すと、自然とテンションが上がり、継続しやすくなります。
そして、Solutionは実現可能性のある具体的な目標にすること。「1時間早く起きて勉強する」だと難しいですが、「15分早く起きる」だと、できる可能性が高くなりますよね。それを達成すれば、Goodになります。
――急に行動を変えるのではなく、小さなことから見直していけばいいんですね。
別に、Problemをすぐに解決するSolutionじゃなくていいんです。Problemがあるのは当然なので、明日の自分はどんなことができるかを考えて、徐々にハードルを上げていきましょう。
怠惰な生活習慣を変えたいときは「理想のスケジュール」
――最後3つ目のおすすめを教えてください。
3つ目は、理想と現実のスケジュールを比較して、生活習慣を整える「理想のスケジュール」です。
「ゲームが終わったら勉強しよう」「友達と電話が終わったら風呂に入ろう」となんとなく考えている日は多いと思います。でもそれだと流されて、なかなかその通りに行動ができないんです。
そこで大切なのは、理想と現実のスケジュールを書き、何に時間を使っているのかを整理することです。書き出すと、「部屋の片付けに1時間も使っていた」「朝起きてスマホを見ていたら30分も経っていた」など、理想とズレる原因の生活習慣が浮き彫りになっていきます。
――改善点が明確になる一方で、理想通りに行動するのは難しいです。生活習慣を変える上で、何を意識すれば良いでしょうか?
大切なのは、全てを一度に変えようとしないこと。まず立て直しのポイントを見抜き、そこに集中して改善すると上手くいきやすいです。
例えば、この場合、帰宅してネットサーフィンしている時間が立て直しポイントです。ここを改善できれば、読書や自主練習の時間を確保しやすくなるでしょう。
また、理想と現実のギャップが大きい場合は、数カ月かけて段階的に理想に近づけていく。加えて、非現実的な理想になっていないかも疑ってみるといいでしょう。
自分との対話を習慣化し、自分史上最高を目指す
――ジャーナリングを習慣付けていく上で、注意点はありますか?
1つは「取り組むハードルを下げること」ですね。いざ「書くワークシート」を使って、書く習慣を身に付けようとしてもなかなか難しいと思います。なので、「1日15分だけ何か書くこと」だけをルールにし、スマホでもプリントの裏でもいいのでとにかく書いてみる。そのくらいハードルを下げたほうが続けやすいです。
――形式に囚われすぎず、まずは簡単に取り組めそうなことから始めるのが大切なんですね。
はい。もう1つ大切なのは「自分との対話の質を上げること」です。書くと自分の内面がよく見えてきます。その中で自分をしっかり褒めてあげることが大切です。
例えば、好きな子に告白して振られたとき、「自分は冴えないやつだ」と思うと、やっぱりしんどいですよね。でも実際に告白すごく勇気が必要で、できない人もたくさんいる。その良い面も認めて振り返れれば、気持ちが楽になりますし、次に繋がります。
――最後に中高生に向けてメッセージをお願いします。
勉強や恋愛、性などいろんな悩みを抱え、自分を嫌いになることもあるかと思います。そんなときこそ、些細なことでもいいので自分を褒めてあげてください。そして、小さな目標を立て、一歩ずつ前に進みましょう。
自分史上最高を目指していけば、他人や理想の自分と比較することもないし、「今日はこんなことができた」と毎日いろんな発見があります。そういう習慣があれば、いつの間にかできることが増え、悩みも消えていくはずですよ。
(企画・取材・執筆:野阪拓海/ノオト 編集:鬼頭佳代/ノオト)
取材協力
古川武士さん
習慣化コンサルティング株式会社・代表取締役。関西大学卒業後、日立製作所などを経て2006年に独立。5万人のビシネスパーソンの育成を通じて「習慣化」が最も重要なテーマと考え、日本で唯一の習慣化をテーマにしたコンサルティング会社を設立。オリジナルの習慣化理論・技術をもとに、個人向け講座、企業への行動変容・習慣化の指導を行っている。主な著書に『30日で人生を変える「続ける」習慣』、『新しい自分に生まれ変わる「やめる」習慣』(以上、日本実業出版社)などがあり、20冊80万部を超え、中国・韓国・台湾・タイ・ベトナムでも広く翻訳されている。
※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2019年4月23日)に掲載されたものです。