春名風花「通信制高校は、未来を切り拓く“選択肢”のひとつ」ほどよい距離感が対人関係のリハビリにも

著名人メッセージ

2023/01/25

0歳でベビーモデルとしてデビューし、現在は俳優・声優として活躍中の春名風花さん。9歳から始めたTwitterでも多くのフォロワーを獲得し、その発言が注目を集めてきました。彼女は公立の通信制高校を経て、2022年春に桐朋学園芸術短期大学を卒業しています。

「通信制高校は自分のペースで学びながら、社会とほどよくつながれる場所。集団生活や対人関係に不安のある方にとっても“いい選択肢”のひとつだと思う」と話す春名さん。当時の学びや人間関係の心地よさから、通信制高校に不安を抱える保護者との話し合い方まで、さまざまなお話をしてくれました。

自分のペースで学べるけれど、すべてが自己責任でもある

―― 春名さんは、どうして通信制高校に進学しようと考えたのですか?

芸能のお仕事を頑張りたかったので、受験勉強を必死にやるよりも、たくさんお仕事ができる環境に身を置こうと決めていました。言ってしまえば、高校進学の必要性もさほど感じていなかったんです。

でも、両親に「もし後から学びたくなったとき、高卒資格がないと大変だよ。仕事やバイトをするにしても、学歴は未来の選択肢を広げてくれるから」と言われ、それがすんなり腑に落ちて。じゃあ柔軟に勉強できる通信制がいいのではないかと考えて、公立の通信制高校に進学しました。

―― 通信制高校は、春名さんにフィットしましたか?

しました! 決められたクラスや担任がなく、同級生ともホームルームで軽く顔を合わせる程度……という“ほどよいつながり”が、僕はとても心地よかったです。

それに、勉強も自分のペースで進められるから、ずいぶん楽しく感じました。とくに好きだったのは倫理の授業。自分の考えを提出する作文の課題では、裏ページまで使って意見を書いていました。

そうやって、自分が興味のある学びを自由に深められるのも、通信制高校のいいところだと思います。みんな一緒に授業を受けていて、友達が「この授業つまんない」と言っていたら、自分もその空気に流されてしまいそうだし……。

―― 通信制では、自分のペースや興味関心を尊重しやすい、と。

ただ、すべてが個人の自主性に任せられている分、責任も大きいです。たとえば、卒業だって「必ず3年でしなければいけない」という決まりはない。自分のペースで勉強できる良さはあるけれど、4・5年生になったとしても、誰も特別なフォローはしてくれません。

でも、僕は「3年で卒業したい」と先生に相談していたため、本当に出席が足りなそうなときには声をかけてもらったりはしていました。

―― 芸能のお仕事が忙しいなか、学業とはどのように両立していたんですか?

全日制と違って、登校日は毎週日曜日だけ。それでも私立の通信制よりは通う日数が多かったのですが、仕事は日曜日に入れないよう調整していました。どうしても登校できなかったときには、動画を見てレポートを書けば単位がもらえる、といった救済措置もありましたね。実技の授業を休んでしまうと、家でもやらなければならないのですが……。

―― 実技の授業を、家でやる?

たとえば、家庭科の授業としてかぼちゃの煮物を作るとか。保健の介護実習の代わりには、弟に目隠しをして食事介助をしました。一人でやるのはさみしいかなと思いきや、家族を巻き込むことで、案外楽しくやれていましたね。

そうした代替措置も何回かは利用できるため、仕事と学業の両立は、計画を立ててきちんと進めていけばなんとかなる印象です。自分で計画を立てるのが苦手な人はちょっと苦しいかもしれませんが、面倒見のいい先生に相談したり、最初からサポートが充実している通信制高校を探したりすれば大丈夫だと思います。

同級生や先生と、心地よい距離感でコミュニケーションできる

―― 通信制高校での生活を通じて、春名さんはどんなことを学びましたか?

計画性が身につきましたね。自分でスケジュールを組んでこなしていく能力は、社会に出ても絶対に役立つもの。実際、大学に進んだときも、高校時代から単位制に慣れていたので、履修登録はお手の物でした。

それに、コミュニケーション能力も高まったと思います。自分の学びたいことや卒業時期などの希望を先生に伝えて、そのための方法をすりあわせていく機会が多かったのがよかったですね。大人と話す経験を高校でたくさんしたおかげで、大学や仕事場でも、疑問に思ったことなどをそれまで以上に確認できるようになりました。

―― 確かに、いわゆる「先生―生徒」の上下関係しか経験していないと、自分の意見を臆せずに言うのは難しそうです。

そうなんですよね。それは、大学で演劇を学んでいたときにも感じました。多くの学生は先生との間に、明確な上下関係があると思い込んでいる。でも、大学なんてとくに先生・学生間の関係性は幅広いし、じつは対等に学びを深め合えるかもしれません。

そういうハードルを踏み越える方法を高校時代に身に着けていたおかげで、大学でも先生と良い関係が築けました。結果、限られた時間内でも濃密に教えていただくことができ、スキルアップにつながったと感じます。

―― 年齢や学ぶ目的といった属性がバラバラなのも、通信制高校の特徴です。周りの生徒たちと交流はありましたか?

授業でペアを組んだり、グループワークをしたりすることはありました。体育で母親くらいの年齢の方と一緒に卓球をして、まったくラリーが続かなかったり、お習字の授業で、隣に座ったおばあさまが達筆で「習う必要ないじゃん!」となったり。いろんな年代の方とふれあえるのは、役者の仕事にもプラスでした。

―― 年代がばらばらでも、お友達はできるものですか?

できますよ。でも、すべての人間関係を自分で選べるのが通信制高校です。無理に友達をつくらず、一人で気ままに過ごしていていい。授業でペアを組むときも、出席者が毎回違うから、固定のペアになることはまずありません。

そうすると、初対面の人に対してひどい態度を取れる人ってなかなかいないから、自然とコミュニケーションがおだやかになるんですよ。まるで「お見合い」みたいな感じ。その雰囲気が好きでしたね。お子さん連れで登校している方は、お友達や先生に子どもを見てもらいながら授業を受けていることもありました。

対人関係や集団生活に不安を感じる人の「リハビリ」にも

―― 過去に、春名さんは「通信制高校は、不登校児の受け皿にもなっている」といった旨のツイートをされていました。文部科学省の調査によると、2021年度に不登校だった児童生徒は24万4940人で、過去最多だったそうです。

学校というもののシステムが、時代に合わなくなってきているのかなと思っています。学校に行きたくない子は以前からずっといたんだろうけど、昔は「学校は通うのが当たり前」だった。でも、いまは「行きたくない理由があるなら休んでもいいよね」という空気になってきました。子ども自身の選択によって不登校児が増えているとするなら、悪いばかりの現象だとは思いません。

それにいじめなどの恐怖を感じながら通学したところで、充分な学習効果は得られないと思うんです。だったら、その子にとって心地よい場所で学んだほうがいいはず。これからは、不登校児も含めた「いまの子どもたちに合わせた教育方法」を考える必要があると思います。その選択肢のひとつが、通信制高校なのではないでしょうか。

―― 通信制高校は、いじめや病気などで学校に行けなくなった人たちに対して、どんなメリットがあると思いますか?

「逃げることができる」のは、大きなメリットだと思います。全日制の高校で「学校の空気になじめない」「人間関係がいやだ」となっても、出席が前提のカリキュラムになっている以上、毎日通うことは避けられません。

通信制高校なら基本的に行かなくていいし、そうした「学校の空気」や「人間関係」がそもそもできにくい環境です。いじめなどで対人関係が不安になってしまっているなら、リハビリにも使えると思います。

―― リハビリ?

そうです。友達をつくってもいいし、つくらなくてもいいという雰囲気があるので。それに僕の通っていた学校は担任制度がない分、先生方がすべての生徒に対して平等に目を向けてくれていました。だから、困ったときにも好きな先生に相談しやすかった。そういう環境でイチから人間関係を築いたり、自分の学びのために先生に意見を伝えたりすることが、コミュニケーションのリハビリになるかもしれません。

ときどき中高生からいじめなどの相談を受けることがあるのですが、自分で居場所を選べていないうちに、絶望して人生を辞めてしまうのだけは避けてほしいと思っています。その人の苦しみは当人にしかわからないし、僕みたいな部外者が「死なないで」なんて引き留める権利はないのだけれど……それでも生きてほしい。自分でもっといい居場所を選べる可能性が残っているんだから、本当にもったいないです。

―― 誰かにとっての「いまよりもっといい居場所」のひとつが、通信制高校かもしれませんね。

いじめや不登校などの問題を抱えていなくても、いままでの集団生活でなんだか押さえつけられていたような感覚がある人には、マッチするのではないかと思います。好きな洋服が着たいとか、バイトを優先して頑張りたいとか、そういう理由で選んだっていいんです。

保護者に、通信制高校に進むのを反対されてしまったら?

―― ただ、通信制では勉強面で全日制に遅れてしまうのではないか……といった不安の声も聞こえてきます。

通信制は、最低限の学びを届ける側面が強いシステムだと僕は思います。学校の授業だけで学んでいたら、確かに全日制の進学校などとは差がついてしまうかもしれません。でも、通信制に通いながら勉強を頑張る方法もたくさんありますよ。宿題や講習が多い学習塾に通うのも、毎日の登校がない通信制高校だったら負担が少ないだろうし。

それに、僕が通信制高校に入学した当時と比べて、いまの社会は学歴関係なく活躍している人が増えてきているように思います。学校という場を「学歴をつくるための場所」でなく「やりたいことを見つけ、未来に繋げていく通過点」だととらえれば、通信制高校を選ぶことに不安はなくなる気がします。

―― それでも保護者から反対されてしまう人は、どうすればいいと思いますか?

自分が通信制に通いたい理由や時代の変化を、丁寧に伝え続けることでしょうか……。理解してくれる大人に説得を手伝ってもらったり、自分の意見に近いネット記事を読んでもらったりするのもいいかもしれません。

そもそも、子どもの人生は子どものものです。大人の目線からでしか見えないメリットやデメリットもあり、「学歴がないと仕事に困る」などと心配なさる気持ちもわかりますが、子どもにとって仕事が人生の生きがいになるかはわかりません。

僕は「進学はした方がいい」という両親の助言に従いましたが、それは押しつけられたからではありません。僕は自分の人生にとって必要のない助言は無視しますし、両親ももし僕が進学しないと覚悟を決めていた場合は、認めてくれたと思います。

一度冷静に懸念点を説明した後でも、子どもが自分の人生を切り拓くため、通信制高校に興味を持っているんだとしたら、保護者がすべきは、進路を否定することではない。

子どもが自分で信じた道を突き進み、その先で困ってしまったときに、そっと助けてあげること。そして、そのための精神的・経済的余裕を持てるように努力することが大切なんだと僕は思います。

……という、この記事のこの部分を、ぜひ保護者の方に読んでいただいてください!

―― 細やかなお気遣い、ありがとうございます!

進路に限らず、周りの反対でやりたいことが選べなかったとしても、人生100年時代です。いつかかならず、自分のやりたいことができる日はくるはず。だからあまり悲観せず「私は絶対に幸せになってやるぜ」という気概をもって、楽しく生きていってほしいなと思います。

取材協力

春名風花さん

2001年生まれ、神奈川県出身。ベビーモデル、子役としてデビュー。その後、俳優や声優として活躍するかたわら、いじめ・社会問題に関する情報発信に取り組むなど多方面で活動中。桐朋学園芸術短期大学演劇専攻55期卒。

(取材・執筆:菅原さくら 撮影:小野奈那子 編集:野阪拓海/ノオト)

参考)
文科省:令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について

この記事をシェアする