自分の“やりたいこと”って何? 山田ズーニーさんに聞く「ヒントの見つけ方」

専門家に聞く

2017/01/24

学校や職場になじめず、家から出たくない。でもいつかは外に出ないといけない。怖い。毎日登校・出社しているけど、楽しいわけではない。将来に漠然とした不安を感じている……。

将来、自分がどうしたいかの展望が持てず、虚無感を覚えている人もいるかもしれない。そんなモヤモヤを抱えているとき、一体どう自分の道を切り拓いていくきっかけを得られるのか。

『おとなの進路教室。』(河出書房新社)などの著者でコミュニケーションインストラクターの山田ズーニーさんによれば、「やりたいことがない人はいない」という。それはどういうことなのか。ズーニーさんに話を聞いた。

自分が何に対して不安を覚えているのかもわからない恐怖

――ズーニーさんは38歳で独立し、「これから自分はどうやって生きていったらいいのか」という不安に押しつぶされそうだったと著書にありました。その当時のことを教えてください。

私は16年間勤めていた会社を2000年の3月に辞め、それから4月下旬くらいまでずっと正体のわからない不安を感じていました。

ただ会社を辞めただけ――。それだけのことだと思っていましたし、私は編集者として生きていくという強いアイデンティティもありました。

でも、会社を辞めたことで人や社会とのつながりが断たれたように感じ、ただただ不安でした。あとから思えば、上司がいて読者がいて職場のたくさんの仲間とのかかわりがあって初めて、私は私でいることができていた。会社という居場所を失ったことで、自分が何者かがわからなくなっていくことに怖さを感じていたんですよね。

――居場所があるから自分の存在を認識できる、と。

居場所とアイデンティティって、背中合わせというか一つというか。自分を生かしてくれているのが会社なり学校なりの「場」なんです。

もし中高生で学校へ行くのを辞めたとして不安を感じているなら、それを経験できているのはすごいこと。だって、自分の存在は自分一人では作れないことをその時点で知ることができるから。今そういう状態なのは、無意味じゃありません。

自分のやりたいことを見つける糸口は?

――引きこもっているにしてもそうでなくても、自分の「やりたいこと」が見えずにいる場合、どうしたら不安な気持ちを軽くすることができるのでしょう?

「過去」と「現在」と「未来」をそれぞれ自分に問うてみること。“今”だけを見るから、その一点だけを見てしまって不安になるんです。

「過去」は、たとえば、「今まで生きてきた自分は、何をしているときに生き生きとしていたか?」を自分に聞いてみる。自分で考えてわからないときは、家族や友人に聞いてみてもいい。

私は退職するとき上司から、「山田さんは想いを語っているときが一番生き生きとして楽しそう」って言われたんです。

「想いを言葉で表現すること」は、現在、文章表現インストラクターという私の仕事になっています。そのときは特別私のアイデンティティとは思っていなかったけど、周りの人は私のことを「想いを語ることに歓びを感じる人」と見てくれていたんだ、と。周囲の人に「私ってどんなとき生き生きしてる?」と聞いてみると、新たな自分の発見があります。

「現在」は、「自分が今やるべきことは何だろう?」と自分に聞いてみる。本当に“今”しなきゃいけないことを小さなことでもいいから紙に書き出してみる。そうすると、「洗い物がたまっているから洗わないと」「借りていたDVDを返さないと」など、やるべきことっていっぱいある。そうすると、くよくよしている場合じゃないんですよ。もし、過去に「自分が生き生きとしていたのはホームステイをしていたときだ」という人の場合、「いまやるべきことはちょっとでも英語を勉強することではないか」と気づけたら、過去と現在が結びつきますよね。

――未来のことを考えるのは一番ハードルが高そうですね……。

「未来」は、思い悩んでいるときには全然思い浮かばない。直近を考えると迷ってしまう。

なので、視点を変えましょう。視野を社会へ。ニュースを見ていて、社会のこれが気になるということはありませんか? 「高齢者の運転する車による事故」だったり、「人が自殺すること」だったり。

「いまの社会を見たときに、自分ががどうしてもひっかかる、心がザラザラすることはなにか?」と自分に問いかけてみる。じゃあ未来にその状態が1ミリでも2ミリでも良くなるとしたら、「5年後、10年後、人や社会がどうなっていったらいいか?」と理想の未来を想い描くんです。

例を挙げると、「いま高齢者の車の事故がひっかかる」→「公共交通機関がないから車を使わざるを得ない」→「循環バスなどもっと高齢者に優しい交通手段ができるといいのに」と、そういう未来ならイメージできますよね。

――思い当たるものが、将来の自分の“やりたいこと”につながる可能性があると。

そうです。社会を見たとき数あるニュースのなかでもとくに、高齢者・車・交通機関が気になった人は、そこに自然に心が向くというわけですね。仕事はそもそも他者貢献。お金をもらえるレベルで、人や社会を喜ばす苦労を引き取ることが仕事です。

「社会のこの部分を良くするためになら自分は社会的苦労を引き取ってもいい」と思える場所が自分の社会的居場所。

だから、「なんでもいい」ではなくて、どういう方面のどういう苦労ならある程度続けてやっていけるかを考える。

一気に行動するのではなく、小さな行動を積み重ねていく

―― “やりたいこと”を見つけようとするよりも、自分が今興味関心を持っていることを考えていくわけですね。

自分の想いがどっちへ向かっているのか、うっすらとした方向性だけでもがわかったら、アルバイトでもボランティアでもSNSで同じ興味を持っている人とつながるでも、小さな行動から起こしてみるといいと思います。

私はそれを“止まり木”と表現しています。すぐに社会的居場所ができなくてもいい。ちいさな興味を止まり木として、ささやかでも動いてみたり人とかかわってみたり、その様子が良ければ、そこを足場にさらに興味や関心が広がっていきます。そうしたらまた、次の止まり木へと進んでみる。小さな止まり木をいくつか作って、自分の興味の向くささやかなコミュニティができて、そこで情報交換や心の栄養を得てから、しっかり社会とかかわろうと踏み出すのでもいいんです。

「自分には好きなこと、やりたいことがないから働きたくない」という人もいますが、必ずしも仕事と自己実現(自分の好きなこと)が一致していなくてもいいんです。

たとえば、野球が好きで野球選手になった人も素晴らしいですが、「好きなものをあえて仕事にしない人生」もあります。「中高大とずっと野球を好きで続けていたけど、野球選手にはなれなかった、でも、好きな野球は趣味以上のライフワークとして、地元の少年野球のコーチとして続けていく。仕事については、地域のつながりを生み出すことに関心があったので公務員として地元に貢献していく」という人生も、「野球」と「地域のつながりづくり」と、ふたつの世界を行き来できて自由です。

仕事と自己実現をいっしょくたにするから身動きが取れなくなっちゃうので、切り離して考えてもいいんです。

――やりたいことの糸口が見えてきたら、次に起こすべきアクションとは?

自己発信することです。

想いは目には見えません。あなたが人の役に立ついいアイデアを持っていたり、社会に生かせる考えや、経験を持っていても、そのままだと、誰にも理解してもらえません。

「見えない想いに、見えるカタチを与え、引っぱり出して人や社会に通じさせる行為」。これが表現です。中でも、「言葉」というカタチにして、あなたの想いを人や社会に通じさせる行為、これが「文章表現=書くこと」です。

あなたは「書く」という「想いをカタチにする装置」を持っています。

書くことで、あなたの想いをカタチにし、ささやかでもコツコツと発信し続けてください。

そのとき気を付けてほしいのは、嘘をつかないこと。正直な言葉を書いたり話したりするのは勇気がいります。勇気も筋トレと一緒で、毎回毎回、書くときに小さな勇気を出すことで鍛えられ、強くなっていきます。

小さな勇気を積み重ねて、大きな勇気を身に付けていく。あなたには、表現するチカラがありますから。

(南澤悠佳/ノオト)

取材協力

山田ズーニーさん

文章表現・コミュニケーションインストラクター 慶應大学非常勤講師。Benesse小論文編集長を経て独立。フリーランスで大学や企業で文章表現力・コミュニケーション力・プレゼン技法・自己表現力の教育に携わる。著書に『人とつながる表現教室。』『「働きたくない」というあなたへ』(いずれも河出書房新社)など。

ほぼ日刊イトイ新聞―おとなの小論文教室:https://www.1101.com/essay/

Twitter:https://twitter.com/zoonieyamada

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2017年1月24日)に掲載されたものです。

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