学校で授業をするのは教師だけじゃない――通信・定時制高校で授業を行う「D×P」とは

専門家に聞く

2018/01/23

高校の授業といえば、世界史Aや日本史B、倫理、数学I、化学Iなど、教師が行う各教科の授業を思い浮かべる人が多いはずだ。

しかし、たまに外部から講師が招かれ、「特別授業」として生徒に向けて講演をしたり、高校の必履修教科には分類できない授業をしたりすることがあったのではないだろうか。そしてそれらは、高校によっては単位とは認定されていなかったかもしれない。

今回は、学校の外部団体という立場で通信・定時制高校をメインに授業を行い、それが正式に単位として認定されているNPO法人「D×P」を取材した。

D×Pとは

▼認定NPO法人D×P(ディーピー):通信・定時制高校の高校生支援
http://www.dreampossibility.com/

D×Pは2012年に立ち上げられた団体だ。創業者の一人、今井紀明さんは高校生の時(2004年)に子どもたちの医療支援のために渡航したイラクで、現地の武装勢力に人質として拘束された経験を持つ。

D×Pの創業者の一人、今井紀明さん

今井さんは、解放されて帰国した後、社会からの強烈なバッシングを受け対人恐怖症に。引きこもるようになってしまったが、周囲の支えにより立ち直ることができたという。その後、大学4年生の時に当時の1年生とともに行った“「否定しない」のルールのもと「ユメ」を語るディスカッション”がD×Pのプログラムの原点となる。

D×Pの掲げるビジョンは「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望がもてる社会」。子どもも大人も人とのつながりを持ちつつ、ゆるやかに「自分も大丈夫」と思えるような社会にしていくこと。希望を持つことができない若者たちに自分で立ち直ることを強いるのではなく、周囲の手を借りて、次の一歩を踏み出せるようになれれば……との思いで活動している。

D×Pの活動内容は?

主な活動の柱は3つ。

通信制・定時制高校をメインに授業を行う「クレッシェンド」。

クレッシェンド終了後、さまざまな企画を通して他校の高校生や大人とつながっていく仕組み、「アフタークレッシェンド」。

そして、写真展やアート展などの開催、宿泊型インターンシップへの参加など、新たな挑戦や経験によって自信を得ること、そして次のアクションへと導く「チャレンジプログラム」。

社会的に孤立する生徒には人とのつながりを、自分に自信を持てない生徒には「できた!」と実感できる体験を、段階を追って届けていく。

通信制・定時制高校をメインに授業を行う「クレッシェンド」の様子

授業はどんなシステムで行われる?

授業は各校で3~4回に渡り行い、正式に単位認定されるのが特徴だ。大阪府内の定時制高校では、この授業を4割以上の高校が実施している。

授業名の「クレッシェンド」は音楽用語で「だんだん強く」の意味で、徐々に場や人に慣れていけるよう、人との距離を縮め、関係を築くことができるように、という思いが込められている。

授業で生徒と一緒に活動するのは、コンポーザーと呼ばれる20~45歳の大人たち。授業では、高校生の2~5名のグループの中に1人のコンポーザーが入る。基本的に、学校の教師はその輪の中には入らない。

コンポーザーに対しては説明会があり、事前準備の会が開かれ、授業当日にも綿密な打ち合わせをし、終了後には振り返りが行われる。

コンポーザー説明会の様子

コンポーザーには基本の3姿勢が求められる。

1つは「否定しない」こと。たとえ、自分の考えと違う発言があっても、それがどういう思いや感じ方からきているのかを尋ねる。相手を決めつけた表現で返さない。

2つめは「さまざまなバックグラウンドから学ぶ」。それぞれの立場やレッテルを気にせず、1人の人と人として関わるように。

3つめは「年上/年下から学ぶ」。授業は大人から高校生へ一方的に何かを教える場所ではなく、高校生も大人も、お互いに学び合う場なのだ。

実際に授業を見学してみた

今回は、市立札幌大通高等学校(北海道札幌市中央区)で行われた「クレッシェンド」の授業を特別に見学させてもらった。市立札幌大通高等学校は午前部、午後部、夜間部と3部に分かれ単位制を取り入れた定時制高校だ。

市立札幌大通高校では、D×Pの授業「クレッシェンド」が3回行われた。

第一回目 ~仕事を知る~ 大人の過去の体験談を高校生と対話しながら伝える
第二回目 ~自分を知る、過去を振り返ってみる~ 自分史をつくる
第三回目 ~自分のことをみんなの前で話す~ これからのことや好きなことを話し、意見感想をもらう

筆者が見学したのは、最終回となる第3回目のプログラムだ。

授業前の打ち合わせも、授業後の振り返りも重要な時間だ

コンポーザーたちは授業の始まる30分以上前に集合。打ち合わせで、まずはそれぞれのコンポーザーが今日の気分やどんな風に過ごしたいかを順番に話す。

もうすでに、ここから「クレッシェンド」は始まっている。「空間を楽しみたい」「自分にとってもどんなことになるかなと思う」と、コンポーザーである大人も自分の率直な心の内を語りだす。そして、プログラムの流れ、内容の確認をしたのち、高校生たちの待つ教室へ。

グループに分かれて、“アイスブレイク”が始まる。自己紹介や、お互いのその日のコンディションを確認するための軽いディスカッションを、ABCDとアルファベットの書かれたカードを使い、ゲーム感覚で行う。

雰囲気がほぐれたところで、“ユメお絵描き”へ。1人1枚画用紙が配られ、クレヨンを使い、絵や文字で自分の“ユメ”を描いていく。

“ユメ”……といっても、何か縛りがあるわけではなく、目標、やってみたいこと、好きなこと、卒業後どうしたいか、今年中にやりたいことなど、自分のこれからのことを考えるきっかけになることを描いていく。

周囲と会話しながら楽しそうにクレヨンを選んでいる生徒たちがいれば、1人でじーっと考え込んでいる生徒も。何かを滔々と語っている生徒もいる。

コンポーザーたちは一緒に会話しながら自分たちも絵を描き、手が止まっている生徒にも目を配る。

絵が完成したところで“ユメブレスト”に入る。1人2分程度、描いた絵を見せながら発表していく。

この時の約束は、ただひとつ。「否定しない」ことだ。

周りから質問するのはOK。生徒たちは自分の言葉で人前で話し、認めてもらうことで少しずつ自信をつけていく。

コンポーザーは、生徒に無理に話すことを勧めるのではなく、一人ひとりの様子をうかがい、促したり、引いてみたり、助け舟を出したりしていた。生徒本人にとって、おそらく今まで口に出しづらかった重くて大切なことを、少しだけ表現できる場面もあった。

最後は、“ユメブレスト”をしたグループのメンバーと、応援メッセージや感想等のコメントを書いたカードを交換する。「お年玉みたーい」「名刺交換してるみたい」と一気に教室中がにぎやかに。

ここで授業は終了。その後も教室に残り、コンポーザーを囲んで話し込む生徒の姿も多かった。

まとめ

D×Pの目指す「未来に希望のもてる社会」を作るための取り組みは、生徒一人ひとりに寄り添った地道な心配りの連続だった。そして、高校生と向き合うコンポ―ザーの姿から、これが一方的な奉仕や導きではないことを感じた。お互いに認め合い、学びあうことのできる関係。

教室の中で出来たこのつながりが社会へと広まっていけば、大人も子どももずっと生きやすくなるのだろうなと強く感じた。

(企画・取材・執筆:わたなべひろみ 編集:田島里奈/ノオト)

取材先

D×P

通信制高校・定時制高校の生徒たちに特化してサポートするNPO法人。「人とのつながり」、「成功体験」、そして卒業後の「生きてゆける場」をつくる。社会人・大学生ボランティアとの対話を軸にした授業「クレッシェンド」は、大阪府内の4割以上の定時制高校で開催している。

http://www.dreampossibility.com/

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2018年1月23日)に掲載されたものです。

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