キャリアの8割は偶然で決まる――「生き方に正解はない」と思った話

先輩に聞く

2019/09/07

僕は2013年に会社員を辞め、現在はフリーライターとして活動している。合わせると、300人くらいにインタビューをしてきただろうか。

中学生のころの得意科目は、数学や理科。だから、ぼんやりと理系の職業に就くだろうと考えていた。もし、そのころの自分に「いまライターの仕事をやっているよ」と伝えても、100%信じないだろう。

あらためて考えると、「物書き=文系の仕事」という固定観念にとらわれていたのかもしれない。実際、知り合いのライターに話を聞くと、「実はもともと理系なんです」という人が意外と多い。

このWebメディア「クリスクぷらす」のコンセプトは、「多様な生き方」を伝えること。

さまざまな人の話を聞くなかで、生き方は十人十色、いや千人千色だ、と確信するようになった。そして、多様な生き方を知ることは、自分を見つめ直す良いきっかけにもなっている。

今回は、思いがけずライターになった経緯やきっかけなど、僕自身の生き方について振り返ってみようと思う。

「良い偶然」は、計画的に起こせる

会社員になって8年目のころ。このままでいいのだろうか? 仕事だけでなく、今後の人生をどう過ごせばいいのか? 自分にとっての幸せとは? ……など。そんなもやもやした思いを募らせていた。

キャリアについて悩みながら本を読んでいると、ある考え方に出合った。それが「計画的偶発性理論」である。

名前をみるとなんだか難しそうだが、その理論は僕にとって、とてもしっくりくる内容だった。大切なポイントを2つだけ紹介しよう。

1.キャリアの8割は、偶然によって決まる

たとえば、就職活動で第一希望の会社に入社できるかどうかは、そのときになってみないと分からない。もし希望する会社に入れても、「想像と違う」と感じてしまう可能性もあるだろう。

逆に、あまり希望していなかった会社へ入ったら、その仕事がむしろ自分に合っていた、というケースもあるかもしれない。つまり「偶然」だ。

では、もしキャリアの8割が本当に偶然で決まるのだとしたら、夢を思い描いたり目標を立てて実行したりすることは無意味なのだろうか? そこで考えるべきなのが、2つ目のポイントだ。

2.自分によって良い偶然は、計画的に起こすことができる

これは、「自分にとっての“良い偶然”を、意図的に作っていこう」という考え方だ。そんなこと、できるのだろうか?

計画的偶発性理論」を考えたクランボルツ教授は、良い偶然を引き寄せるための行動指針を5つあげている。

  1. 好奇心  ―  新しい学習の機会を模索し続けること
  2. 持続性  ―  失敗したからといってあきらめず、努力し続けること
  3. 楽観性  ―  思い描いたことは必ず実現する、可能になるとポジティブに考えること
  4. 柔軟性  ―  こだわりを捨て、信念や態度、行動を変えること
  5. 冒険心  ―  結果がどうなるか分からない、それでもリスクを取って行動を起こすこと

※参考:ジョン・D・クランボルツ, A.S.レヴィン著,花田光世訳, 大木紀子訳, 宮地夕紀子訳(2005),『その幸運は偶然ではないんです!』(ダイヤモンド社)

ここに挙げた5つの行動指針は、一つひとつを見ればそれほど目新しいものではない。しかし、それゆえ「真理だな」と感じる部分もあった。

この考え方と出会ったから、というと少し大げさではあるけれど、僕は2013年に会社を辞めた。しかも、その時点で次の仕事は決まっていない。無職。いま振り返ると、やや無謀な行動だったのかもしれない。しかし、その後の展開は、自分でもまったく予想がつかないものだった。

「学びたい」という意欲がもたらしたもの

目の前の仕事に追われる会社員時代。何か物足りないなと感じていた原因の一つは、新たな知識を吸収することだった。言い換えれば、「学びたい意欲」。

そこで、退職後はハローワークで失業保険等の手続きをしつつ、興味のありそうな学びの場を探すことにした。

職業訓練の案内をパラパラとめくる中で目についたのが、マーケティング講座。とある大学のサテライトキャンパスで、マーケティングの理論や戦略を学ぶ講座だった。以前からマーケティングに興味をもっていた僕は「これしかない」と、すぐに申し込んだ。

元・広告代理店や企業のマーケティング担当者など、バラエティーに富んだ講師陣。「新しい飲料の商品企画を考え、CM案を作る」課題など、今までまったく経験してこなかったカリキュラムによって、僕は多くの刺激を受けた。

もう一つの大きなポイントは、新しい仲間に出会えたこと。医療機器の営業マン、ウェディングプランナー、システムエンジニアなど。今までまったく出会うことのなかった人と話すことで、自分がいかに狭い世界で生きてきたのかを痛感した。

しかし、楽しかった講座も3カ月で終了。「まだ学び足りないな」と思った僕は、別の講座を探し始める。それが「編集・ライター養成講座」だった。

正直にいうと、その時点では「編集者やライターになりたい」という意欲は薄かったと思う。むしろ新しい知識を得たい、新たな出会いが欲しい……そんな動機のほうが強かった。

ここでもまた、さまざまな講師や受講生に出会い、刺激を受けた。卒業制作で最優秀賞を受賞し、さらに上級コースへ。そこで出会った編集者から仕事をもらうことで、ライターとしての活動をスタートさせた。

偶然の出会い、その元となる行動とは?

こう書くと、トントン拍子にうまくいったと思われるかもしれないが、実際にはそんなことはない。

会社を辞めてしばらくは普通に転職活動をしていたものの、うまくいかず落ち込んだこともある。また、フリーライターの活動も、最初はなかなか収入が増えなかったり、話が合わない編集者とのやりとりに疲弊したり……。決して順風満帆とはいえない。

しかし、現在の仕事にはある程度満足しているし、会社を辞めたことはまったく後悔していない。

では、僕が経験したここまでの流れを、上に紹介した「5つの行動指針」に当てはめながら振り返ってみよう。

  1. 好奇心 ― マーケティング講座、編集・ライター講座と、学ぶ機会を模索し続けた
  2. 持続性 ― 失敗もありつつ、ライターとしての経歴を積み重ねた
  3. 楽観性 ― 「会社員を辞めてもなんとかなるだろう」と一歩踏み出した
  4. 柔軟性 ― 転職活動をあきらめ、フリーランスの道を選んだ
  5. 冒険心 ― ライターの仕事はまったくの未経験だったが、営業をして仕事を増やした

僕は「5つの行動指針」を常に意識していたわけではない。しかし、「あの行動によって、偶然の出会いがあったのかもしれないな」と思うこともある。

もしかすると、これを読んでいるあなたにも、あてはまることがあるかもしれない。自分にとって良い偶然が起きたら、その元となる行動を思い出してみてほしい。

行動しないこともリスク

自身のキャリアをより良くするためには、何かしら行動を起こすことが必要だ。では、新たな行動を起こすことは「リスク」なのだろうか?

書籍『その幸運は偶然ではないんです!』(ダイヤモンド社)の翻訳を担当した、慶應義塾大学SFC研究所/キャリア・リソース・ラボラトリーの宮地夕紀子さんは、クリスクぷらすのインタビューでこんなことを教えてくれた。

新しいことを始めたい、でも途中で失敗する可能性もある。どうやって成功の確率を高めていくか、その努力が重要なのです。(中略) 行動しなければ何も起きない。長い目でみれば、何もしないほうが大きなリスクとなる可能性があります

引用:良い偶然は計画的に起こせる? 中高生から考える「キャリアデザイン」のはなし

何もしないことにもリスクがある。これは意外と、頭から抜け落ちてしまう考え方かもしれない。

興味や関心は、どんどん移り変わっていく

自分のキャリアを考える、と聞くと、「10~20年後の目標を決め、どう実現していくか、行動計画を作る」といったイメージを持つ人が多いだろう。しかし、自身をとりまく環境はどんどん変化していく。それとともに、新たな興味・関心事が出てくるはずだ。

中高生であれば、いま興味のあることが5年後、10年後も続いているかどうか? 想像してみてほしい。きっと、変化している確率のほうが高いだろう。それは悪いことではない。

大切なのは、環境や興味の変化に応じて、目標や行動プランを柔軟に変えていくこと。「いったん目標や計画を立てたら、その通りに実行しないといけない」と思っている人も多いが、そうじゃない。

いま何がしたいのか。そして今後どうなりたいのか。僕自身、心の中にある小さな声に耳を傾けながら、新しいことにチャレンジしていこうと思う。その生き方が正解かどうかなんて、誰にも分からないのだから。

(執筆:村中貴士 編集:鬼頭佳代/ノオト)

この記事を書いたのは

村中貴士

カレンダーメーカーで企画・制作ディレクターを務めたのち、独立。2015年からフリーライターとしての活動を開始。現在は企業オウンドメディアを中心に、自動車、IT、生き方&働き方、教育、金融、エンタメ系など、さまざまなジャンルで執筆している。『いじめ2.0―新しいいじめとの戦い方』(愛育出版)など、書籍の編集にも携わる。

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※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2019年9月7日)に掲載されたものです。

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