高校生が話したいと思えるオトナであるためにはどうしたらいい? ヒントを探しに、D×Pの研修会をのぞきにいきました
専門家に聞く
2019/10/15
この夏、クリスクぷらすの編集会議を高校生アルバイトさんと一緒に行いました。そんな短い時間でも、世代を超えたコミュニケーションを取る難しさを痛感……。
クリスクぷらすの読者でもある、先生や保護者などをはじめとした、中高生に関わるオトナたち。年齢が違う分、場合によっては、大人=支援者、中高生世代=受け手の構造になってしまうこともあります。一体どんな姿勢でいれば、年齢や立場を超えた信頼関係や人間関係を作れるのでしょうか?
そのヒントを求めて向かったのは、認定NPO法人「D×P」。通信・定時制高校に特化した授業「クレッシェンド」は、終了後に高校生が「このオトナになら自分のことを話してもいいかな」「この人と関わって良かった」と思えるようなオトナとの関係づくりを目指したプログラムです。
今回は、そこに参加する社会人・大学生ボランティア向けの事前研修会の内容をレポートしながら、大切にしている3つの姿勢と、その実践方法を紹介します。
関わってよかったと思える出会いをつくる授業「クレッシェンド」
「クレッシェンド」は関西を中心に、関東・札幌の定時制・通信制高校で、1校につき全4回以上、数カ月間かけ行われる対話プログラムです。
授業は、生徒3人に対してオトナ1人の少人数制。オトナとして、D×Pのスタッフと「コンポーザー」と呼ばれる大学生・社会人ボランティアのチームが参加します。原則的には4回の授業を同じコンポーザーが担当しつづける仕組みです。
<プログラムの流れ(一例)>
第1回目:すごろくトークや積み木「カプラ」を使用した高校生とオトナのアイスブレーキング
第2回目:コンポーザーの過去について話を聞き対話する
第3回目:テーマに沿って、生徒とコンポーザーが過去の自分の経験を整理する
第4回目:自分がちょっとでもやってみたいこと(=ユメ)を考え、自由に表現する
大学生や経営者、プロのギャンブラーまで! 多種多様なバックグラウンドの「コンポーザー」
「コンポーザー」は一方的に教える立場ではなく、高校生の話に耳を傾け、一人ひとりの考えを受け入れ、学び合うオトナ。
とはいえ、普段高校生に関わる機会がある人ばかりではありません。大学生から経営者、メーカーの営業、エンターテインメント施設の広報、デザイナー、料理人、人材関連の仕事、そして現在は働いていないけれど仕事を探している人まで、やっていることも年代も多種多様……。ひと味ちがうところだと、政治関係の仕事をしている方やプロのギャンブラーが参加したこともあったそう!
「コンポーザーさんは本当に多種多様すぎて、『どんな人が多いんですか?』と聞かれても、さっと答えられないくらいです(笑)」
そう教えてくれたのは、自身もコンポーザーとして関わったことをきっかけで転職した・D×Pスタッフの玉井慎太郎さん。
とはいえ、土曜または平日夜間の授業時間に合わせ、ボランティアをするのはなかなか大変。何をモチベーションにして参加する方が多いのでしょうか?
「仕事や生活に慣れてきて普段とは違う経験をしてみたい方、普段は別の仕事に就いているものの何か教育に関わりたいと思って参加される方もいます。また、ご自身が高校生のころにしんどさを抱えていて、『なにかできることがあれば』という気持ちを持って来てくださる方は多いですね」(玉井さん、以下同)
否定せずに“関わる”ーーD×Pが大切にする3姿勢
高校生に「関わってよかった」と思ってもらうために、コンポーザー向けの事前準備は2日間に分けて行われます。
内容は、D×Pの目指す社会についての説明やクレッシェンドのワークの実践。その中でも、大切に説明されるのが「コンポーザーに大切にしてほしい大切にする3つの姿勢」です。
<コンポーザーが大切にする3つの姿勢>
1、「ひとまとまり」ではなく「一人ひとり」と向き合う
発達障害の人、女性・男性、不登校の経験がある人だから……とまとめるのではなく、目の前の一人ひとりと向かいます。
2、否定せずに、関わる
相手や自分の考え方、価値観、あり方を否定せずに、なぜそう思うのかと背景に思いを馳せながら関わります。
3、様々な年齢やバックグラウンドの人から学ぶ
年下、年上、生まれた環境、社会的な立場にとらわれず、その人の価値観や考え方から学ぶ姿勢を大切にします。
この姿勢は2012年からクレッシェンドの活動を続けるなかで、D×Pが考えぬいてきたもの。
実は、クレッシェンドが始まった当初は、
・否定しない
・年上年下から学ぶ
・さまざまなバックグラウンドから学ぶ
を大切にする姿勢として掲げていましたが、2017年に現在の内容に文章を改定したとのこと。
「クレッシェンドを続けるうちに課題が生まれたんです。『否定しない』という姿勢。これに囚われてしまい、『否定しない』ために生徒に関わらないという選択をとってしまうことがありました。また、『否定しない』という姿勢を盾にして本音が言えなくなってしまうようなことも起きたんです。
でも、この姿勢の本質はそこではなく、相手の考えも自分の考えも否定せずに、どうやったら相手との関係性をつくっていけるのかを考えるものでありたかった。だから、『否定せずに、関わる』という言葉に変えました」
机につっぷしている生徒がいたらどうする?
3つの姿勢の原則は分かっていても、実践は簡単ではありません……。そこで、クレッシェンドで実際に行うワークをコンポーザーとスタッフで事前研修の一環で行います。
「例えば、1回目のワークで僕たちが生徒のいる教室に入ったら、生徒は机に伏せている。そんなとき、皆さんならどう関わりますか? これを実際にそれぞれが考えてみるんです。
『突っ伏しているということは、授業が嫌なのかな』と思うかもしれません。でも、話したいけどどうしていいのかわからないのかもしれないし、日中の仕事で疲れているのかもしれない。生徒のさまざまな可能性が考えられます。そのなかで、どうやって声をかけていくか、自分ならどうするかを考え、それぞれで話し合うんです。そうやって生徒と対話するイメージを持つなかで、実際の関わり方を学んでもらっています」
「もし『3つの姿勢を守らないとだめです』とコンポーザーさんに伝えると、それはその人自身の考えではなくて、D×Pから借りてきたものになってしまうんです。だから、実践を通して考えてもらうことを大切にしています」
クレッシェンドの第2回では、コンポーザーが「過去のジブン」について話す時間があります。この発表練習でも、3つの姿勢を意識できているかをコンポーザー同士でも確認していきます。
この発表は、高校生がコンポーザーを身近な存在だと感じる重要な場。資料の中に、生徒が否定されたと感じる表現がないか、教える立場になっていないか、一方的なコミュニケーションになっていないか? などをお互い考えていきます。
また、お互いの過去を知ることは、コンポーザー同士の信頼関係が生まれるきっかけにもなるそう。そのため、数回しか会っていなくても親しくなれるのだとか。
正解がないから、一緒に考え続けていく
最後に、高校生とオトナがよい関わり方をしていくために大切なことは何か? と尋ねると、玉井さんの答えは「考え続けること」でした。
「例えば、『否定せずに、関わる』という姿勢をどう示すかに正解がありません。生徒もコンポーザーも毎回メンバーが変わるので、そのあり方も変わるはず。だから、それぞれがひとりの人間としてどうしていくかを、一緒に意見交換をして考えてつづけていくのが大切なんです。
クレッシェンドは全4回の授業をつかって、少しずつ生徒との関係を作るプログラム。そのため、毎授業後にコンポーザーさんとD×Pスタッフでふり返っていきます。『こういうとき迷ったんだけど』を話してもらって、その人の中での関わり方の選択肢を少しずつ増やしてほしいと思っています」
なかなか大変そうと思う反面、楽しさもあるそう!
「授業ごとに、生徒に『コンポーザーと関わってよかったと思えるか』をアンケートで聞いています。そこで、初回の授業後には『そう思わない』を選んでいた生徒が、4回目が終わったときには『関わってよかったと思う』を選んでくれることがあるんです。もちろん、数字だけで測れない変化を感じることもあります。
毎回、一人ひとりとの関わり方を深く考えていくのは大変です。でも、今まで聞いたことのない話がポロっと出てきたり、生徒がこれまでになくリラックスしてクレッシェンドの時間を過ごしていたりする様子を見ると、嬉しくなります。
クレッシェンドでは、生徒の悩みを引き出そうとか、生徒がより良い方向に変わることを目指してはいません。生徒が自分の感情を表現できたり、受け入れてもらえるという安心できたりする環境はどんなものなのかを考えて、関わりを重ねていくのが楽しいですね」
相手と自分の個性によって、千差万別になる「関わり方」。文字通り正解はありません。それでも、D×Pさんが大切にする3姿勢、そしてそれらを身に着けていくための考え方は私たちにヒントになりそうです。
(企画・取材・執筆:鬼頭佳代/ノオト 編集:杉山大祐/ノオト)
取材協力
認定NPO法人D×P
通信制高校・定時制高校の生徒たちに特化してサポートするNPO法人。高校生の「つながる場」と「いきるシゴト」をつくっています。社会人・大学生ボランティアとの対話を軸にした授業「クレッシェンド」は、大阪府内の4割以上の定時制高校で開催している。
※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2019年10月15日)に掲載されたものです。