頭の中を埋め尽くす「罪悪感」をどう解消する? 心理学の視点から考える、罪の意識との向き合い方
専門家に聞く
2020/03/17
悪口を言って相手を傷つけてしまった、嘘をついてごまかしてしまった、自分のミスのせいでチームが負けてしまった……。
そんな過去の自分の失敗に対する「罪悪感」。なかには、頭の中が罪の意識で埋め尽くされ、「自分は罰せられるべきだ」と自傷的になる人もいるでしょう。
「罪悪感を抱くのは、成長している証拠。そして、それはあなたの優しさのバロメーターでもあります。悪い面ばかり見えがちですが、良い影響も与えてくれます」。そう話すのは、中高生から社会人まで幅広い層に向けて、心理学講座を開催している株式会社ダイレクトコミュニケーションの代表・川島達史さん。
今回は、心理学の視点から罪悪感の働き、上手なコントロール方法、罪悪感を抱える子どもへの適切な関わり方などについて、川島さんに伺いました。
罪悪感は誠実さや協調性の裏返しでもある
――そもそも心理学では、罪悪感はどのように捉えられているのでしょうか?
『心理学辞典』(※1)によると、「法律上の犯罪ばかりではなく倫理的、道徳的、宗教的規範に背き過失を犯したあるいは犯そうと欲した時に感じる自己を責める感情」と定義されています。
簡単に言うと、誰かが決めたルールや自分自身の行動規範などに背いたときに抱く、自分を責める感情です。
――罪悪感にはどんな種類があるのでしょうか?
ここでは端的に「行動しない罪悪感」と「行動する罪悪感」の2種類で考えましょう。
行動しない罪悪感は、「悪いことをしたのに、相手に謝らなかった」「困っている人を見かけたのに、手助けしなかった」など、本来すべきことをしなかった際に抱くもの。
一方、行動する罪悪感は、「相手を傷つけることを言ってしまった」「友達が大切にしていたものをなくしてしまった」など、本来してはいけないことをしてしまった際に抱くものです。
前者の方が罪悪感の度合いが強くなる傾向があるので、日頃から「これはするべきだ」と感じたら、積極的に行動した方が罪悪感を減らせるでしょう。
――「やらないで後悔するより、やって後悔した方がいい」ということですね。罪悪感はどのような効果・影響を持つ心理機能だと考えられているのでしょうか?
「罪悪感=心身に悪い影響を与える感情」と思う人も多いかもしれません。でも実際は、私たちが行動を改善していく上で大きな役割を果たす、とても大切な感情なんです。
関西学院大学心理科学研究室の有光興記教授が、大学生292名を対象として行ったアンケート調査(※2)によれば、罪悪感は「誠実性」や「調和性」に関連しています。
つまり、罪悪感を感じる傾向にある人ほど信頼でき、周りに協力しようという気持ちが強いということです。
――罪悪感を持つこと自体は決して悪いことではない、と。一方で、強すぎる罪悪感は悪影響もありそうです。
そうですね。過剰な罪悪感は心身ともにネガティブな影響を与えます。
たとえば、何度も罪悪感を抱いた状況を思い出して、ゆううつな気分が続くと、睡眠や食欲などに問題が出てきます。ほかにも「自分は罰せられるべきだ」という思いから「楽しむことは許されない」と感じ、自身の行動を制限してしまうケースもあります。
こうなると、社会活動ができなくなり、どんどん孤立し、なおさら精神状態が悪くなる、という悪循環に陥ってしまう。
ですから、罪悪感を上手にコントロールする技術を身につけ、悪い面を抑え、良い面を生かすことが大切です。
罪悪感を解消するための3つの方法
――誰しもが大なり小なりの罪悪感を抱くものだと思います。一方で、なぜ過剰な罪悪感にさいなまれる人がいるのでしょうか?
幼少期からの教育やしつけが強く影響しているでしょう。親から「悪いことをするな」「嘘をつくヤツは最低だ」といったことをくり返し言われると、その忠告が子ども自身の哲学になってしまうことがあります。
そういう子どもは、何か問題を起こした時に、「自分はとんでもないことをしてしまった」と過剰にネガティブに捉えてしまうのです。
とくに日本では協調性が重んじられ、「他人に迷惑をかけてはいけない」という価値観も広く浸透しています。この影響もあり、罪悪感を強めてしまう人も少なくないでしょう。
――では、過剰な罪悪感に苦しんでいる人は、どうすれば罪悪感を解消できるのでしょうか?
大きく分けて3つの方法が考えられます。
1.問題の原因は自分以外にもあると考える
罪悪感が強い人は問題が起きた際に、その原因が自分だけにあると考えてしまい、多角的に物事を見られない傾向があります。
だから、「自分も悪いけど、相手の行動にも問題があったし、タイミングも良くなかったかもしれない」のように相手や状況(環境)など複数の原因を考えるようにすると、物事をフラットに見られるようになり、過剰な自責思考も緩和します。
ただ、これは頭では分かっていても、実践は難しいことなので、継続的なトレーニングが必要です。
ポイントとしては、まず「罪悪感を抱いている自分がいるな」と自分を客観視し、一旦気持ちを落ち着かせましょう。
次に、日記でもメモでもいいので、自分が感じていることや問題の原因を書き出してみる。文字にすることで、頭の中のモヤモヤが可視化され、冷静な判断をしやすくなりますよ。
2.罪悪感を抱いた相手に謝る
罪悪感を抱えがちな人は、謝ることが苦手なケースが多いです。とくに10代のうちは「謝罪=負け」という考えが強く、自分の非を認められなかったり、「相手に許してもらえないかもしれない」と失敗を恐れて、謝る勇気が持てなかったり。
しかし、人との付き合いの中でけんかや傷つけ合いはよくあること。そんな時に関係性を修復する術がないと、継続的な人間関係を築けなくなり、どんどん孤立してしまいます。
ですので、自分に非があるなと感じたら謝るのが基本です。その時は、以下の4つを押さえると良いでしょう。
1. タイミングや場所を考える
周囲に人が少なく、お互いに落ち着いて話せる環境を選ぶ
2. 誠実に率直に謝る
ごまかしたり、相手を責めたりせず、謝罪の気持ちを真っ直ぐに伝える
3. 相手の話に耳を傾ける
自分の気持ちを伝えるだけじゃなく、相手の気持ちもしっかり受け入れる
4. 最後は「ありがとう」の気持ちを伝える
自分の気持ちに耳を傾け、自身の気持ちを伝えてくれた相手に感謝する
3.過ちを糧にする
罪悪感を手放す基本は、相手に謝ることです。しかし、罪悪感を抱いた相手がどこにいるのか分からなかったり、特定の相手がいなかったりするケースもあるでしょう。
そんな時は、「罪悪感を背負って前向きに生きていく」という考え方も大切です。私の場合、中学生の時に所属していた野球部での失敗が今に生きています。
ドラマみたいな話なのですが、3年生の引退がかかった最後の大会で、最終回ツーアウト満塁のタイミングで私に打席が回ってきたんです。一発打てば、逆転の大チャンス。しかし、その時の私はヒットを打つことよりも、空振りしないことばかり考えてしまい、フルスイングができなかったんです。それで、ボテボテのゴロを打ち、試合終了。
当時は、「自分がビビってフルスイングをしなかったせいで、チームが負けてしまった」と強い罪悪感を抱きました。しかし、悔やんでばかりいても仕方ないので、その経験を糧に「これからの人生でここぞという場面では、必ずフルスイングしよう」とに考えるようになりました。
過ちを糧にすることで、自分の中で過ちの意味が変わっていきます。自分を許す余裕も生まれ、罪悪感が少しずつ薄れていくでしょう。
罪悪感を抱える子どもに周囲の大人はどう接すればいい?
――親や先生など周囲の大人は、罪悪感で苦しんでいる子どもにどう接すればいいでしょうか?
基本は傾聴です。本来、人には自ら回復する力が備わっていいます。しっかり相手の気持ちを受け止めて、整理すれば、自らの力で立ち直っていくでしょう。
その上で意識するといいのは、「事実」ではなく「感情」に寄り添うこと。「何をしたか?」ではなく「どんな気持ちなのか?」を大切にして、相手の話に耳を傾ければ、より効果的に気持ちの整理ができます。
――子どもが落ち込んでいると、ついアドバイスをしたくなりそうですが、アドバイスは控えた方がいいのでしょうか?
すぐにアドバイスをするのは控えた方が良いでしょう。基本的に人がショックから回復する際には、感情的に落ち込む時期、その出来事や感情を整理して受け入れる時期、その経験を今後に生かす時期という3つのステップを踏みます。
実はちゃんと落ち込むのは大切で、「何も考えないでおこう」と問題を先送りしたり、自分の感情を押し殺したりしていると、うまく立ち直れなくなってしまうんです。だから、落ち込んでいる時期に「そんなの気にすることないよ」「前向きに考えようよ」と励ますと、子どもは回復のステップをうまく踏めなくなる可能性があります。
それに、感情的になっている時に下手にアドバイスをしても、押しつけがましさを感じて、受け入れてくれないことも多いもの。もしどうしてもアドバイスが必要だと思うなら、「自分が同じような経験をした時に、こうやって乗り越えたよ」といったヒントを与えることを意識してみましょう。
――最後に、いま罪悪感にさいなまれている中高生に対して、メッセージをお願いいたします。
罪悪感を抱くのは、成長している証拠。そして、それはあなたの優しさのバロメーターでもあります。罪悪感を消してしまおうと考えず、大切な感情として持っていてほしいです。
もちろん、過剰な罪悪感はあなたの行動を制限したり、精神状態を悪化させたりする時もあります。しかし、その罪悪感をうまくコントロールし、ポジティブな方向に変換できれば、あなたはより魅力的な人になれるはず。
ぜひ罪の意識を上手に付き合う技術を身につけ、前向きな行動につなげていくよう心がけてみてください。
<参考文献>
※1 中島義明、安藤清志、子安増生、坂野雄二、繁桝算男、立花政夫、箱田裕司『心理学辞典』(有斐閣、1999年)
※2 有光興記「罪悪感,羞恥心と性格特性の関係」(2001年)
(企画・取材・執筆:野阪拓海/ノオト 編集:鬼頭佳代/ノオト)
取材先
川島 達史
コミュニケーション講師。精神保健福祉士。これまで10〜70代の3000人以上に雑談スキルを指導。大学院では雑談の研究を行い、会話トレーニングを開発した。自身も対人恐怖症に苦しめられ引きこもりを経験。家族にすら顔を合わせられない状況から抜け出すために、会話術を勉強しては部屋のポスターに向かって各3000回ほど練習。症状が良くなったものもあれば悪化したものもあり、会話術には間違ったやり方や取り入れるコツがあることを体感。社会復帰後は一般企業で働いたのち「ダイレクトコミュニケーション」を設立。自身の体験と生徒の反応、検証データを大事にしながら首都圏と関西圏で講座を開催している。
HP:https://www.direct-commu.com/
You Tube:https://www.youtube.com/channel/UCA5Ux8CdVhJBBkaPqY86gqw
※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2020年3月17日)に掲載されたものです。