「LGBTQ+ってなに?」子どもに聞れたら親はどうすればいい?

専門家に聞く

2023/07/31

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2023年6月、LGBT理解増進法(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)が国会で成立し、施行されました。

この法律では、学校は性的マイノリティに関する理解を深めるため、家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ、教育や啓発、相談体制の整備などに努めるよう規定されています。子どもたちの間でも今後さらに「LGBT」「LGBTQ+」といった言葉を耳にする機会は増えていくと思われます。

では、子どもから「同性愛って何?」「LGBTって?」と聞かれたとき、親はどのように話をすればよいのでしょうか。親自身も当事者や支援者と関わりがなく、実はよく知らなかったり、知らず知らずのうちに偏見を持っていたりすることもあり得ますが、子どもたちに正しく理解してもらうには、どのようにすればよいのでしょう。

今回は、助産師・チャイルドファミリーコンサルタントのやまがたてるえさんにお話を伺い、家庭の中でLGBTQ+とどのように向き合っていけばよいか、アドバイスをいただきました。

まずは知ることが大事! 先進国を中心に理解が進む性の多様性

――同性愛や性同一性障害など性的マイノリティの総称「LGBT」、「LGBTQ+」という言葉はだいぶ広まってきましたが、まだ日本では理解が深まっているとは言えない状況です。性的マイノリティへの理解を増進する法案も成立しましたが、もし子どもに聞かれたら、どのように話をすればよいのでしょうか。

今は、親よりも子どもたちのほうが知っていることが多いかもしれません。
高校では2017年から家庭科、倫理の教科書に「LGBT」の言葉が掲載され、2019年には中学の道徳の教科書、2020年には小学校の保健体育・道徳の教科書でも取り上げられるようになりました。また、今は小・中学校でも教えられている「SDGs」にも、5番目に「ジェンダー平等を実現しよう」という目標があり、ジェンダーという言葉も子どもたちの間では認識されるようになってきています。
性的マイノリティの主人公が出てくる絵本や小説、漫画も増えており、大人よりも子どものほうがいろいろな視点でLGBTQ+について知っている傾向にあると思います。

――たしかに、大人は学校で習ってきていないので、正しく学べる機会がないまま、何となく知っているという人のほうが多そうです。

LGBTはレズビアン(同性を好きになる女性)、ゲイ(同性を好きになる男性)、バイセクシュアル(両方の性を好きになる人)、トランスジェンダー(出生時に割り当てられた性別と性自認が異なる人)だと知っていても、Q+の部分は知らないという人も多いのではないでしょうか。
Qには性的マイノリティ全般を総称する「クィア」と、性自認や性的指向が定まっていない、あるいは定めていない「クエスチョニング」の両方の意味があります。+は、何かひとつの意味ではなく、既存のカテゴリーに当てはまらない多様な性があることを示しています。
日本では長い間、性は男と女の2種類しかないという考え方が浸透していて、私たち大人はその考え方の元で育ってきています。でも海外では、もう少し早くから多様な性のあり方を受け入れている国もあるんですよ。

――海外では、同性婚を認めている国も増えてきていますよね。

現在、同性婚を認めているのは28カ国と台湾です。また、同性カップルを婚姻に相当する関係だと公認するパートナーシップ制度がある国は、16カ国あります。同性婚はアメリカやフランス、ドイツ、イギリスなど欧米諸国を中心に認められていて、パートナーシップ制度はイタリアやスイスなどヨーロッパを中心に取り入れられています。
理解が進んでいるタイでは、性には18種類あるとされているんですよ。生まれたときの性別、性自認や性的指向、性表現のしかたなど、複数の観点の組み合わせで性を見て分類する方法が、タイの中では一般に広まっています。

――なるほど、出生時の性別が女性で性自認が男性という人でも、恋愛対象が女性の人もいれば男性の人もいますし、服装や髪型などの表現もさまざまですよね。その組み合わせによって性にひとつずつ名前がつくということですね。

このように性の要素を分ける考え方としては、現在国連の諸機関でも広く使われている「SOGIE(ソジー)」という概念があります。これはSexual Orientation(性的指向)、Gender Identity(性自認)、Gender Expression(性表現)の頭文字をとったものです。SOGIEで考えれば、LGBTQ+は特別ではないことにもなります。

――SOGIEは私たち一人ひとりにあるものですから、そう考えればLGBTQ+かどうかという垣根はなくなるということですね。

一方で、同性間の合意に基づく性行為が犯罪と見なされてしまう国もアフリカや中東に多く、69カ国もあります。そのうち、死刑となる国は9カ国です。先進国の多くは性の多様性を受け入れる方向になっていますが、遅れている国も多いのが現状なんです。ちなみにG7の中では、国として同性パートナーに対する法的保障がないのは日本だけです。

――日本ではまだステレオタイプに凝り固まっている人が多いということですね。

LGBT増進法案の成立過程においても、バイアスのかかった意見を持っている大人たちは多く見られましたよね。トランスジェンダーについても正しく理解されていない状態のまま議論が進んだ印象を持ちました。
知らないことを怖がったり、“みんな一緒”であることに安心したりする人も多く、無意識に偏見を持ってしまっている大人も多いのではないでしょうか。ですから、自分は「わかっている」と思い込まずに、子どもと一緒に考えてみるというスタンスがいいのではないかと思います。

学校でもLGBTQ+への理解は進んできている

――小学生から高校生までの教科書でLGBTQ+が取り上げられているとのことですが、学校現場での理解や対応も進んでいるのでしょうか。

はい、少しずつ進んでいます。ここ数年でジェンダーレスの制服を取り入れる学校は増えてきていますし、性別を問わず制服を選べる学校もあります。トランスジェンダーの生徒が多目的トイレや職員トイレを利用できるようにするなど、個別の配慮をしている学校もあります。
生徒の呼び方も、「○○さん」「○○くん」と男女で分けずに、全員「○○さん」と呼ぶようになっています。教員への研修や勉強会も行われており、もちろん度合いは個人差も地域差もありますが、全体的に理解は深まっています。

――トランスジェンダーの子どもの場合、中学校に進学するときに、出生時の性で制服が決められるのがつらいという声はよく聞きますが、その心配はなくなってきているということですね。

ジェンダーレス制服がまだできていない学校でも、個別に相談すれば子どもの人権を守ってくれる学校は多いはずです。理解しようと思っている学校が増えてきているということです。
LGBTQ+への対応に限らず、さまざまな面で時代に合わない校則もあるので、子どもの声から見直していこうという動きも出てきています。「制服がつらい」という子が一人いたなら、その子だけではなく他にもつらいと思っている子はいるかもしれません。そういう声から、「その制服の意味は何?」ということを考えるきっかけにしていければいいのではと思います。

――生徒の間でも、性的マイノリティであることが原因でいじめや差別が起こることは少なくなっているのでしょうか。

ゼロとは言いませんが、少なくなっているとは思います。それは、テレビ番組などで性的マイノリティを笑う光景がなくなってきていることも一因でしょう。昔は「オカマ」「ホモ」といった言葉がお笑い番組の中でよく出てきていましたが、今は見かけませんよね。

――なるほど、メディアにおける理解や表現のあり方も子どもたちには大きく影響を与えますからね。そう考えると、子どもが目にすることもあるSNSや動画などで表現するときにも、私たち大人一人ひとりが気をつけていかなければなりませんね。

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自分の子どもが当事者だったら?

――では、もし自分の子どもがLGBTQ+だった場合、親はどうしたらよいのでしょうか。自分の子どもとなると悩んでしまう人は多いのではないかと思います。

どの年代の子どもでも、まずは話をしっかり聞くことです。それも、ただ聞くのではなく聞き切ることが大切です。「○○ちゃんにこう言われたんだよね……」「オカマってて言われた、なんかイヤだ」と、ぽろっとSOSを出してくることもあります。
そんなときには「それを言われてどんな気持ちだった?」と、きちんと子どもに身体を向けて、聞く姿勢になってください。
すぐに「こうすればいいんじゃない?」「先生に言おうよ」とアドバイスするのではなく、「ママとパパができることって何かある?」「ママにどうしてほしい?」と声をかけてみましょう。「ママが先生に言っておくから大丈夫」と、子どもが求めていないのに動くのはNGです。まずは、親は味方であることを言葉と態度で示していきましょう。

――親自身が受け入れられず、親子関係が悪くなってしまうという例もよく聞きます。

親も人間ですから、自分にない感覚を受け入れられないことも当然あります。そんな場合は、自分の苦しい気持ちをどうすればいいか、専門家に相談に行ってほしいです。友達などに相談するのもいいですが、できれば専門家に気持ちを話し、受け止めてもらうことが安心への近道になるかもしれません。
LGBTQ+に関する電話や対面相談、LINE相談を行っている団体は全国各地にありますから探してみてください。プライド・パレードを見に行くなど、当事者の人や、支援者、理解者の声を聞いてみるのもよいでしょう。性自認や性的指向、性表現は揺らぎもあるので、その時々で揺らぐ子どもを支えられるように、まずは自分の気持ちを落ち着けることです。

――慌てて子どもを何とかしようとするより、自分自身見つめることが重要ということですね。

たとえば厳しい男社会で生きてきた父親で、考え方を変えるのは難しいという人もいます。でも、価値観を急に変えるのではなく、子どもの味方でいられればいいので、第三者のサポートを受けながら支えていければいいのではないでしょうか。
自分が理解できなくても、理解してくれる第三者につなげることもできます。一般社団法人にじーずなど、LGBTQ+や、そうかもしれない子ども・若者の居場所を作っている団体などもあります。

――家族だけで何とかしようと思わず、外に味方をつくればいいのですね。

外の味方も、ひとつだけでなく、いくつかの相談先に足を運んでみて、自分や子どもが居心地のよいところ、安心できるところを選べるとよいかなと思います。

親子でさまざまな作品に触れてみよう

――性のあり方について子どもと一緒に考えるために、書籍や動画など、いいコンテンツはありますか?

YouTubeや書籍など、LGBTQ+を取り上げているコンテンツは増えているので、まずは子どもに「何か見たことある?」と聞いてみてもいいかもしれませんね。私のおすすめは、『図解でわかる14歳からのLGBTQ+』(社会応援ネットワーク著/太田出版)や、テレビドラマで映画化もされた『おっさんずラブ』(テレビ東京)、映像化もされている漫画『きのう何食べた?』(よしながふみ作/講談社)などです。映画『カランコエの花』(中川駿脚本・監督・編集)は、生徒に考えてもらうために高校でもよく上映されています。

――親子で一緒に学んで、いろいろな話ができるといいですね。

まずは、世の中には一定の人が自分の性に違和感を持っていて、生きづらさを抱えていると知っておくことが重要です。右利きか左利きかでは差別されないはずなのに、LGBTQ+に当てはまると差別されてしまってきたのが、今までの日本です。
学校での性教育も日本はだいぶ遅れてきましたが、性教育もLGBTQ+も同じく人権の教育です。誰にでも自分らしく生きる権利があるという基本的なことだけは、まず押さえておいていただきたいですね。

――今後もさまざまな議論が続けられていくでしょうが、誰にでも等しく人権があるということだけは忘れてはいけませんね。ありがとうございました。

取材協力

やまがたてるえさん

助産師・チャイルドファミリーコンサルタント。臨床経験5年。地域の子育て相談支援16年。個別相談、子育てや性教育講座など、ニーズに合わせた講座開催や、講義のアドバイザリー、起業女性へのアドバイス、本の執筆など多方面で活動中。

公式HP:https://www.hahanoki.com/

<取材・文/大西桃子>

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この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。