能登半島地震から半年……被災地での中高生支援において大切なことは?

専門家に聞く

2024/07/03

2024年1月1日の能登半島地震から、半年以上が経ちました。
内閣府の発表では、6月4日時点での石川県内の避難者数は2854人と、いまだ避難生活が解消されていない人々も多く、引き続き復興へ向けての取り組みが求められています。

一方、夏以降は日本各地で水害も増え、どの地域に住んでいてもいつどのような災害に見舞われるかわかりません。防災意識を高め、万一被災した場合にはどうしたらいいかシミュレーションしておくことは、災害大国においてはとても重要なことです。

中でも、進路選択や受験を控えた中・高生たちは、子どもと大人の中間地点。小さな子どものようなサポートは不要でも、大人と同じように自分たちのことを決められるわけでもなく、さまざまな不安を抱えることになります。
そんな10代の子どもたちへの支援には、どのようなものがあったのでしょうか。
今回は、能登半島地震で子どもたちを支援した認定NPO法人カタリバ(以下、カタリバ)に、支援の内容やそこから見えてきた細かいニーズなど、今後の備えとして知っておきたいことを伺いました。

まずは子どもが子どもらしくいられる場所を

2001年から10代の居場所づくりなどの活動を続けるカタリバでは、これまで東日本大震災や熊本地震をはじめ、震災や水害などで被災した地域で子どもの支援を行ってきています。
2019年には災害時子ども支援「sonaeru(ソナエル)」を設立し、国内での災害発生時に備え、平時から自治体や企業、NPO間で災害時に連携がとれるよう関係を構築。災害発生時にも質の高い教育支援を届けるために取り組んでいます。

能登半島地震の際にも、発災後の1月3日から現地入りして支援活動をしていますが、具体的にどのような活動をされていたのでしょうか。まずは「sonaeru」の責任者・石井丈士(いしい・たけし)さんにお話を伺いました。

「能登半島地震では、まず石川県七尾市の避難所で、1月4日から子どもの居場所を開設しました。冬休みが終わっても、被災地では学校が被災したり避難所として使われたりと、学校としては機能しなくなります。幼稚園や保育園も稼働できなくなる中で、保護者にとっては子どもを預ける場所がなくなり、自宅の復旧や生活再建にかける時間がとれなくなってしまいます。その結果、心身ともに疲労やストレスをため込んでしまうことも多くあります。子どもも同様に、被災した恐い経験や慣れない環境の中で、苦しい思いを抱えることになります。その中で、子どもを安心して預けられる居場所は、保護者にとっても子どもにとっても非常に重要なものとなります」

全力で体を動かしたり大きな声を出したりしたくても、避難所の中では大勢の人がいるため難しく、またがれきが残っていたり道路が寸断されたりしている町の中で自由に遊ぶことができなくなります。大人たちに注意されることなく、子どもが自由に過ごせる安全な居場所をつくることは、被災地支援の中でも急務となるようです。
七尾市の避難所をはじめ、カタリバでは現地のNPOなどと連携、あるいは独自で、石川県内に複数の子どもの居場所を開設していきました。子どもたちはそこでどのように過ごしていたのでしょうか。

「七尾市の場合は図書館を使わせてもらい、自由に遊べる場所、勉強する場所に分け、スタッフが見守る中で過ごしてもらいました。さまざまな避難所や、自宅避難している子どもたちが集まり、友達と再会したり、お互いの状況を伝え合ったりして、気持ちを吐き出せる場所になっていたかと思います。特に中・高生くらいになると、ネガティブな気持ちを家族には言わないほうがいいかなと押さえ込んでいる子も多く、子ども同士が集まれる場所の重要性を感じます」

同じ世代だからこそ共感し合える気持ちもあり、それを口にできる場所も子どもたちには必要なのです。

カタリバでは被災した子どもたちとアスリートが交流する機会もサポートした

進路の変更、進学の断念……苦しみや嫌だったことを言える場も必要

一言で「子ども」と言っても、未就学児や小学生から中・高生まで、年代によって被災地でのニーズは変わります。
その先の進路も考えながら勉強に励んでいる中・高生にとっては、先が見えない避難生活は負担が大きくなるはずですが、どのような様子だったのでしょうか。「sonaeru」のスタッフで現地での居場所支援にあたっていた板敷悦生(いたしき・よしき)さんは、次のように話します。

「限られた場所での支援では、小さい子から中・高生まで、年代ごとに過ごすエリアを分けることは難しいのですが、その中でもそれぞれやりたいことに集中できるように、この時間は遊び、この時間は勉強、と過ごし方を時間で区切るなどの工夫をしました。余震もあり、落ち着いて勉強に集中することは難しい環境ではありましたが、学校が再開されたらすぐにテストがあるという生徒もいて、焦りや不安を感じる子も多かったと思います」

中には、被災したことにより大学進学を諦めざるを得なくなった高校生もいたと言います。

「大学に進学するつもりだったけれど、高校を卒業したらすぐ実家の家業を手伝うことにしたという生徒もいました。カタリバでは全国からいただいた寄付金を活用して、被災した中学3年生・高校3年生などを対象に、受験費用を補填する緊急支援奨学金の給付も行いましたが、それが届かなかった生徒もいたかもしれないと思います」

家庭の事情が大きく変わってしまう中で、お金さえあれば何とかなったケースばかりではなかったということでしょう。家族や周りの人もみな被災する中で、思い描いた進路を諦めなければならず、苦しい思いをした中・高生も多かったのではないでしょうか。

「受験生の中には、居場所スペースには来ず、避難所の隅で一人黙々と勉強をしていた生徒もいました。ですが、『sonaeru』のスタッフが避難所と連携をとっていく中で、その生徒ともコミュニケーションをとる機会ができると、徐々にいろいろな話をしてくれるようになりました。被災地支援では、関係性の構築から始めることがとても重要で、それができてやっと本音でニーズを教えてくれたり、安心して過ごしてもらえたりするのではないかと思っています」

まず勉強できる環境をハード面から整えることが優先だと考えがちですが、その前に「安心して過ごせる」「どうしたいか本音で言える相手がいる」ことが、被災して傷ついたり不安を抱えたり、保護者に自分の思いを言えずにいる子どもたちにとっては重要だということでしょう。心理的な安全性が確保されてようやく、勉強にも専念できるようになるはずですし、限られた環境の中でも前を向いて未来を考えることができるようになるはずです。

東日本大震災を経験したカタリバのスタッフと交流する高校生たち

被災者から発信される具体的ニーズは的確な支援のスタートに最重要

私たちは、いつどこで災害に見舞われるかわかりません。今後、自分たちが被災したときには、どのようにして自分や子どもたちを守っていけばよいのでしょうか。板敷さんに聞いてみました。

「保護者の立場であれば、復旧作業に専念できる時間や体力、精神的余裕が必要となります。仕事に行こうにも、子どもが学校に行けない状況で他に居場所もなければ、仕事を休まざるを得なくなり、それが経済的にまた負担となるケースもあります。まずは、何とかして子どもが安全に過ごせる居場所をつくることは、大人にとってもマストですから、外部に助けを求めつつ確保できるとよいですね」

カタリバでは、被災した子どもをサポートするための「災害時の子どもの生活ガイド」を公開しています。
そこでは保護者が困ったときに無料で使えるLINE相談も開設していますが、

「相談内容として多いのは、子どもを預けて仕事や復旧作業に行きたいけれど預け先がない、常に一緒にいることでストレスがたまってしまう、子どもの進路が心配、子どもの体に不調があり心配、といったものです。ここからもわかるのが、保護者がいなくても子どもが安全に過ごせる場所や、子どもに関する不安を話せる場所があることが、まず重要だということです。また、同じ被災者同士では『相手はもっとつらい状況かもしれない』と思い、悩んでいても話せないことも多く、外部から関わる人たちにSOSを出すことも大切だと思います」

東日本大震災の時にも、「サバイバーズギルト」と言って、自分が生存できたことに対して罪悪感を感じた人たちが多くいたといいます。同じようなことがさまざまな被災地でも見られ、「自分はまだマシなほうなのに、支援を受けたら申し訳ない」と思い、支援につながらなくなってしまう人もいるのだそうです。
しかし、それでは状況がより悪化してしまったり、被災によって受けた傷から立ち直れなくなってしまったりする可能性もあります。

「まずは、自分がムリをせず生活できるようになるために、ニーズを発信してもらえると、支援もしやすくなっていきます。行政でも民間の団体でも、ニーズがわからないと動けない面もあり、何に困っているか、何が不安かを発信することで、支援が一気に動き出すこともあります」

自分だけの困りごとだと思っていたことが、思い切ってSOSを出すことで、多くの人を救う結果になることもあるかもしれません。
また、支援をする側に立った場合には、被災地の声を「聞く姿勢」をしっかり持つだけでも、助けになる人は多いと言います。

「周りの人に自分の話をしたり、『つらい』と愚痴をこぼしたりすることがなかなかできない中で、外部の人に話を聞いてもらい、『それは不安ですよね』『その状況は大変ですよ』と言ってもらえることで、救われるという人も多くいます」

能登半島地震においては、まだ避難生活が続く人も大勢いる中で、時々でも被災地の情報を確かめ、SNS等で「見ていますよ」ということを示すだけでも、気持ちの支えになれるかもしれません。寄付や復興ボランティアの活動ももちろん重要ですが、中・高生でも誰でもすぐにできる支援も、あるのではないでしょうか。

取材協力

<取材・文/大西桃子>

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この記事を書いたのは

大西桃子
ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。