2025/02/25

中・高生にもリスクあり?「推し活」依存にならないために

専門家に聞く 

好きなアイドルやキャラクターなどを応援する「推し活」。推し活ブームが広がり始めたと言われているのが、2020年に『推し、燃ゆ』(宇佐見りん著)が芥川賞を受賞した頃で、2021年には新語・流行語大賞に「推し活」がノミネートされています。
現在、中・高生の間でも推し活に励む生徒は多いようで、2023年11月にStudyplusトレンド研究所が全国の中・高生を中心とする5831人にアンケートを実施した「推し活についての調査」では、83.3%の生徒が推し活をしていると回答。
その「推す」対象は、K-POPやJ-POPのアイドル、アニメキャラクターやYouTuberなど多岐にわたっている模様です。

推し活は、毎日の生活に潤いや刺激を与えてくれたり、「推し」から元気をもらえたり、前向きな気持ちになれたりと、本来楽しいはずの活動です。
しかし一方で、多額のお金をつぎ込んでしまったり、推し活に時間を使いすぎて睡眠時間や勉強時間を削ってしまったり、推しの言動にメンタルが振り回されてしまったりといったリスクも、よく聞く話です。
前出の調査では、推し活にお金を使っている中・高生は91%、そのうち70%以上の生徒は月5000円以内に収めていますが、数万円のお金をかけている生徒も各学年に5%前後いるようです。

中・高生の保護者の中にも、推し活によって子どもの生活のリズムが崩れてきたり、成績が下がったりすることを不安視している人は多いはずです。では、中・高生がリスクを避けつつ推し活を楽しむためにはどうしたらいいのでしょうか。今回は、臨床心理士の木附千晶(きづきちあき)さんにお話を伺いました。

楽しいはずの推し活が、生活に支障をきたすケースも

—— 今、10代の多くが推し活を楽しんでいるようですが、のめり込みすぎることによるリスクも指摘されています。特に成長段階にある子どもたちにとって、具体的にはどんなリスクが考えられるのでしょうか。

木附さん:そもそも、「推し活」という言葉が新たにできただけで、以前から好きなアイドルや芸能人を熱く応援する人たちはいましたよね。そのような熱くなれるものがあって、毎日を楽しく過ごしていた人もたくさんいると思います。ですから、まずは過剰に構えすぎずに考えていただきたいと思います。そのうえで、リスクとしては学校の課題が手に付かなくなる、お金を使いすぎてしまう、推し活のために睡眠を削ってしまう、生活リズムが昼夜逆転してしまう、といったケースが考えられます。

—— 安全な推し活か危険信号かの線引きとしては、「日常生活に支障が出ているかどうか」と考えればいいわけですね。

木附さん:推し活に限らず、たとえばお酒も、適量を楽しむ分には食事をより楽しめたり、ストレス発散になったりします。でも、飲み過ぎてしまうと健康や日常生活に支障を来すようになります。推し活も同じで、日常生活に徐々に変化が現れ、いきすぎると親のクレジットカードを無断で使って大金をつぎ込んでしまったり、闇バイトに手を出してしまうといったケースもありますね。

—— アルコール依存症と同じように、推し活も依存症の領域になることがある、と。

木附さん: 「依存」自体は悪いことではないんです。人はそもそも、家族や恋人など、近しく依存できる人がいて幸せを感じることができる生き物ですから。ただ、それがいきすぎて生活に支障が出てくる「依存症」が問題なんです。

—— 今はインターネットで24時間推しの映像やライブ配信を見たり、ファン同士の交流ができたり、オンライン決済で課金できてしまうことから、昔よりは一線を越えるハードルが低くなってしまいましたよね。

木附さん:たしかに、昼夜逆転や過剰な課金がしやすい環境になりましたね。ファンにお金を使ってもらうためのビジネスの過熱化も、社会問題としてはあります。ただ、インターネットがなくなることも、アイドルやアニメを使ったビジネスがなくなることもありませんし、そうしたものを子どもに触れさせないというのも、現実的ではありませんよね。先ほど話したように、推し活自体は毎日を楽しく過ごしたり、元気をもらったり、良い面もたくさんありますから。

—— リスクはあるけれど、過剰に不安視するのではなく、安全な範囲で楽しんでいるか見守るのも保護者の役割ということですね。

依存状態を深めてしまう「満たされなさ」

—— では、もし、わが子の推し活がいきすぎているなと感じた場合には、どう対応すればよいのでしょうか。

木附さん:生活リズムやお金の使い方がおかしくなってきたと感じた場合ですね。いきすぎた推し活をしてしまうのは、依存の状態になってしまっているわけですが、依存症というのは脳内で分泌されるドーパミンの働きに関係しています。ドーパミンは幸福や快感を感じさせる神経伝達物質で、やる気やわくわく感をもたらす働きもあり、生きていくうえでは必要なものです。そして、何らかの行為でドーパミンが放出されて快楽を感じると、それを脳が記憶して、またその行為をしたいという欲求をかき立てます。これが繰り返されて過剰になり、生活に支障をきたすのが、依存症です。ですが、他に楽しいことや幸福を感じることがあれば依存症にはなりにくいため、まずは環境を見直すことが大切です。

—— 推し活を禁止したり、時間や金額などのルールを決めたりするのは解決にならないのでしょうか。

木附さん:本人が決めたルールを大事にし、それを守れるようならば良いと思います。重要なことは、「依存対象を取り上げても解決にはならない」ということです。それは、本人の我慢が足りないことが原因ではないからです。根本的な問題としては「満たされなさ」があると考えていただきたいです。

—— 学校や家庭を中心とした生活の中で、楽しいと思えること、幸せを感じられること、夢中になれることがない状態になっている可能性が高いということですね。

木附さん:東日本大震災の後、被災地支援のために福島県に行ったのですが、被災した方の中には何らかの依存症になっていた方が多かったんです。やはり、その背景には大切なものを失ってよりどころがなくなってしまったり、自分のことを近くで見てくれる人がいない環境になってしまったりしたことがあるんですね。子どもが依存症になるのも同じで、孤独を感じる状態や、やるべきことが見つからない状態にあることが、大きな原因となっているんです。

—— 家庭の中で楽しめることや、学校生活などでの目標があればよいのでしょうか。

木附さん:そうなのですが、だからといって保護者が何かを与えようとすることは逆効果につながってしまいます。むしろ、昨今は多くの子どもたちが小さい頃からさまざまなものや機会を与えられすぎることで、自分自身で楽しいことや目標を見つけることができない状態に陥ってしまっているんです。「教育のためにはこれがいい」とさまざまなものを与え、「この学校がいいから受験しなさい」と機会を与え、先回りして子どもの目の前に選択肢を並べてしまう。すると、子どもは自分で悩んで選び取ることや、自分自身で決めた目標を達成することで満たされる感覚を味わうことができません。それを埋めるために、推し活に依存していくわけです。

—— それでは、保護者は何もせずに見守るしかないのでしょうか。

木附さん:大切なのは、子どもの「好き」を認めてあげることです。誰だって、自分が好きなものを否定されるのは嫌ですよね。「やめなさい」と否定するのではなく、「どういうところが好きなの?」「一緒に見せて」と、気持ちを共有する姿勢を見せること。そうすることで、徐々に子どもは保護者が心配する気持ちにも目を向けてくれるようになっていきます。

—— 「自分のことを近くで見てくれている」と感じられる状態にすることが重要なんですね。

子どもにやめさせる前に、大人が環境を見直して

—— ここまでのお話で、推し活に限らず、依存症の状態になってしまうのは本人だけの問題ではないということがわかりました。子どもに多い問題としてよく聞くゲーム依存も、同じですよね。

木附さん:はい。子どもが何かに夢中になりすぎて生活リズムがおかしくなっているなと感じた場合には、その子自身に問題があると考えるのではなく、身近な大人たちがつくる環境に目を向けることが重要です。家の中で両親のケンカが増えている、子どもの話に耳を傾ける時間が減ってきたなど、保護者の関わり方の変化でも、子どもたちは満たされなさを感じ、それを他の何かで埋めようとします。

—— 強く依存するような状態になった場合、本人の力で回復するのは難しいと知っておくことも大切ですね。

木附さん:大人のアルコール依存、ギャンブル依存なども、「やめようと思えばすぐやめられる」「まだそこまで重症ではない」「他の人もこれくらいやっている」と言いつつ続けてしまうもので、それは子どもも同じです。解決のためには依存しなければならない状況を変えることが先なので、保護者はそこを理解し、まずは自分たちがつくっている環境に目を向けてみてほしいですね。

—— ありがとうございました。

取材協力

木附千晶さん

臨床心理士、文京学院大学非常勤講師、子どもの権利条約(CRC)日本代表、公認心理師、家族と子どもセラピスト学会認定セラピスト。IFF・CIAP相談室にて家族療法や依存症についても臨床経験を積み、現在は東京都内でカウンセリングを行う。愛着理論を基盤にした子どもの権利条約や子ども問題全般についての講演や執筆多数。

公式サイト:https://kizuki-chiaki.com/
子どもの権利条約(CRC)日本公式サイト:https://crc-japan.org/

<取材・文/大西桃子>

この記事を書いたのは

大西桃子
ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。
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