
スマートフォンやパソコンなどのIT機器が普及し、日常生活の中でもITは欠かせないものとなっている今、デジタルネイティブ世代の「居場所」にも変化が訪れています。
2025年2月、「テクリエさぎのみや」(東京都中野区)がオープンし、3Dプリンタやレーザーカッター、iPadやゲーミングPCなど、多様なデジタル機材を整えた中高生の居場所としてさっそく賑わっています。
テクリエさぎのみやにはどのような中高生たちが集まり、どのように過ごしているのか? また、今後どのような居場所として地域に根付いていきたいのか? 運営する認定NPO法人CLACK(クラック)の平井大輝代表にお話を伺いました。
多様なデジタル機器でさまざまなもの作りができる
平井さんは、自身が中・高生のとき、家庭の経済的事情によりさまざまなことを諦めざるを得なかった経験から、NPO法人CLACKを立ち上げています。CLACKではデジタル教育とキャリア支援を軸に、高校生が将来、生き抜く力を身につけるための自走支援を行ってきました。
その活動の中で、2025年に新たに立ち上げたのが「テクリエさぎのみや」です。
「家庭の経済的事情などに関係なく、子どもが最新の技術に触れられる機会や、安心できる居場所を用意することで、子どもたちが自分のやりたいことを見つけてくれたらという思いで、テクリエさぎのみやを始めました」
ITが生活のいたるところで活用され、AIも広く普及してきた現代社会ですが、家庭によっては子どもが興味を持っていてもスマートフォンやパソコンを用意できなかったり、インターネット環境が整っていなかったりと、格差があるのが現状です。
そこで、どんな家庭の子でも気軽にITに触れられるようにと、テクリエさぎのみや内にはさまざまなデジタル機器を整備。中高生が無料で自由にそれらの機器を使える居場所となりました。
施設内の設備を紹介してもらうと、iPadやPCなど家庭にもありそうな機器だけでなく、3Dプリンタやレーザーカッターなど、普段なかなか触る機会のなさそうなものも。平井さんに詳しく案内してもらいました。
まずは2階のフロアから。
「3Dプリンタではキーホルダーなどの小物を作ったりできます。ここに置かれているのが、子どもたちが実際に作ったものですね」

「レーザーカッターではカットと刻印ができます。ここに置かれているのはコルク材を使ったコースターです」

施設内ではもちろんWi-Fiも無料で使えますが、その案内ボードもレーザーカッターを使って高校生が作ってくれたのだそうです。
「Wi-Fiは同時に10GBまで接続できますよ」

2階には、メインフロアのほかにもうひとつ部屋があり、中に入るとゲーミングPCやVR(バーチャルリアリティ)機器、撮影用機材が置かれていました。
「このPCは、配信をしたい生徒たちに使ってもらうようにしています。家ではできない子も、ここでチャレンジしてもらえればと思っています」

訪れた中高生はこれらの機材をどれでも自由に使ってよいとのことで、中高生たちは黙々と手を動かしてもの作りを楽しんでいるのだとか。デジタル技術だけでなく、発想力や、考える力も身についていきそうです。
学校に居場所のない子も安心して好きなことを見つけられるように
3階に上がると、2階とはうって変わって、テーブルと椅子が並ぶシンプルなフロアになっていました。ここでは生徒たちはノートPCで作業をしたり、本を読んだり、思い思いにくつろいでいるそうです。

オープンから1カ月の現在、どのような生徒たちが来ているのか尋ねると、
「近隣の中学校・高校に通う子や、近くに住んでいる子たちです。友達同士で来る子もいれば、一人で来る子も。中学生と高校生の割合や男女の割合は、ともに半々くらいですね。1日10人くらいが訪れて、3Dプリンタでもの作りをしながら初対面の子同士が仲良くなったりもしています」
地域のスクールカウンセラーとも連携して、生徒や保護者に情報共有してもらっているそうで、
「学校に居場所がないと感じている子や、不登校気味の子も多いです。グループで来ている子たちもいますが、一人で来る子が楽しく過ごせる場になることが理想ですね。スタッフも3〜4人常駐しているので、程よい距離感を保ちながらコミュニケーションをとったりして、居心地のよい場所づくりを進めています」
中高生だけでなく、社会人や大学生スタッフも一緒に場作りをして、どんな子も気持ちよく過ごせる場を目指しているとのこと。
このように中高生専用のスペースとして2階・3階が開放されているのは、月・火・木・金曜日の13時から20時。「学校に登校していなくても、気楽に訪れてほしい」と平井さんは話します。
ワッフルチケットを使って地域の大人たちとの交流も
テクリエさぎのみやの入り口となる1階は、ワッフル店「ワワワッフル」として営業しています。

店内で飲食できるようになっており、地域の人々がカフェタイムを楽しみに訪れていますが、店の奥にはマンガや本を読みながらくつろげるスペースも。

また、お客さん向けには「中高生が無料で食べられるチケット」も販売されており、チケットを買ってコルクボードに貼っておくと、それを使ってテクリエさぎのみやを使う中高生がワッフルを無料で食べることができるのだそうです。

「ワッフル屋さんとして地域の方に親しんでもらったり、そこからテクリエさぎのみやに興味を持ってもらえたらいいなと思っています。今後は、高校生がこの店でアルバイトできるようにもしていきたいと思っています」
「中高生だけが利用する場所ではなく、地域とのつながりを大切にしていきたい」と平井さん。ずらりと並んだチケットには大人たちからの温かいメッセージが添えられており、使った中高生から「ありがとうございました」「おいしかったです!」と返信が書き込まれているものもありました。
今回の見学では、「子どもの居場所は子どもだけが使うもの」と世代間で分断されるのではなく、できるだけ社会の中で他者との関わりを持ちながら、どんな子どもにも居心地のよい場所をつくろうという工夫を感じることができました。
今後、テクリエさぎのみやが地域の中でどのように発展していくのか、注目し続けたいと思います。
取材協力
<取材・文/大西桃子>
この記事を書いたのは

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。