不登校の小・中学生に多い「HSC」 自己肯定感を育むポイントは?
専門家に聞く
不登校
2020/04/07
「HSC」という言葉をご存知でしょうか。初めて目にする、という方も多いと思います。
「HSC」とは「Highly Sensitive Child」の略称で、日本語では「ひといちばい敏感な子」と紹介されている概念です。
5人に1人の割合で存在するとも言われているこの気質。そうした子どもは他人の気持ちに敏感で、うるさい環境や集団が苦手、といった傾向があり、学校生活に馴染めないことも多いといいます。
今回は、HSCとは何?チェック方法は?といった初歩的な疑問をはじめ、どのように育てていけば良いかを、心療内科・明橋大二医師の著作『HSCの子育てハッピーアドバイス』(1万年堂出版刊、以下同書)を元に解説していきましょう。
HSCに限らず、色々な個性を持つ子どもを育てるためのヒントが見つかるかも知れません。
HSCって何? どんな特徴があるの?
―ひといちばい敏感な子(HSC=High ly Sensitive Child)とは、アメリカの心理学者、エレイン・アーロン氏が提唱した言葉です。私は、病院で精神科医として勤務しながら、スクールカウンセラー、児童相談所の嘱託医として、たくさんの子供たちに出会ってきました。すると子どもたちの中に、感覚的にも、人の気持ちにも、とても敏感な子どもたちがいることに気づくようになりました。(中略)私はぜひ、こういう子どもたちがいることを、多くの人に知ってほしい、そして理解してもらいたいと思い、『The Highly Sensitive Child』という、アーロンさんの本を邦訳し、『ひといちばい敏感な子』というタイトルで平成二七年に出版しました。
(同書P18-20より)
生まれつき繊細で感性が鋭いというHSC。では、具体的にどのような傾向にある子どもを指しているのでしょうか?
HSCについては同書で以下のようにまとめられています。
- HSCとは、「ひといちばい敏感」という特性(5人に1人の割合)
- 生まれつき、よく気がつき、深く考えてから行動する
- 体の内外のことに敏感
- よく気づく得意分野は、人それぞれ(雰囲気や表情、におい、ユーモア、動物とのコミュニケーションなど)
- 悲しみや喜びを、他の子よりも強く感じている
- 感受性が強く、豊かな想像力がある
注意! HSCは病気ではない
ここで注意してほしいのは、あくまでHSCは生まれ持った性質であって、治療が必要な病気ではない、ネガティブなレッテル貼りを企図した言葉ではないということです。
「原因は何だろう」「育て方によるのか」などと思ってしまう人も多いのですが、生まれつきの性質であり、ネガティブなものではないことをまず理解しておきましょう。
HSCという言葉を明橋医師が日本語に翻訳した際に、「敏感すぎる」ではなく「ひといちばい敏感」という表現にした理由を、本書では以下のように説明しています。
―「とても敏感」は、正常な性質の一つですが、「敏感すぎる」は不適切な反応であり、病的なものです。例えば青い目をした人に対して、「あなたの瞳はとても青いね」と言うことはありますが、「あなたの瞳は青すぎる」と言うことはありません。
(同書P46より)
そのうえで、次項では提唱者であるアーロン氏が作成したHSCのチェックリストを見ていきましょう。
いくつ当てはまる? HSCのチェック方法
次の質問に、感じたままを答えてみてください。
子どもについて、どちらかといえば当てはまる場合、あるいは、過去に多く当てはまった場合には、「はい」。
まったく当てはまらないか、ほぼ当てはまらない場合には、「いいえ」を選んでください。
- すぐにびっくりする
- 服の布地がチクチクしたり、靴下の縫い目や服のラベルが肌に当たったりするのを嫌がる
- 驚かされたりするのが苦手である
- しつけは、強い罰よりも、優しい注意のほうが効果がある
- 親の心を読む
- 年齢の割りに難しい言葉を使う
- いつもと違うにおいに気づく
- ユーモアのセンスがある
- 直感力に優れている
- 興奮したあとはなかなか寝付けない
- 大きな変化にうまく適応できない
- たくさんのことを質問する
- 服がぬれたり、砂がついたりすると、着替えたがる
- 完璧主義である
- 誰かがつらい思いをしていることに気づく
- 静かに遊ぶのを好む
- 考えさせられる深い質問をする
- 痛みに敏感である
- うるさい場所を嫌がる
- 細かいこと(物の移動、人の外見の変化など)に気づく
- 石橋をたたいて渡る
- 人前で発表するときには、知っている人だけのほうがうまくいく
- 物事を深く考える
13個以上に「はい」なら、お子さんはおそらくHSCでしょう。しかし、心理テストよりも、子どもを観察する親の感覚のほうが正確です。たとえ「はい」が1つか2つでも、その度合が極端に強ければ、お子さんはHSCの可能性があります。
(同書P33-35より)
このようにまとめると、ご自身の子どもに当てはまる要素、または自分の幼少期に当てはまる要素があると考える方も多いと思います。
でも、5人に1人という割合でHSCは存在するので、当てはまるからといって心配することはありません。
その敏感さから、発達障がい(自閉スペクトラム症やアスペルガー症候群等)と誤解されることもあるようですが、HSCの特性には人の気持ちをよく察することも含まれるため、それらとも異なると明橋医師は書いています。
また、環境によってHSCになるということはありません。しかし環境の影響を受けやすい性質であるのは事実です。
良い環境で育ったHSCは心身とも健康に育つ傾向にありますが、過酷な環境に置かれたHSCは非HSCの子どもに比べて、うつ状態などのメンタルの問題を抱えやすいと言われています。
そのひとつとして、どうやらHSCは「自己肯定感」を持ちにくい傾向があるようです。
不登校につながるケースも…… HSCと自己肯定感
自己肯定感がいかに大切かについて、明橋医師は下記のように伝えています。
―「自分は生きている価値がある」「自分は大切な存在だ」「生きていていいんだ」「私は私でいいんだ」という、いわば、自分の存在に対する自信です。
自己肯定感は、心の成長の土台になるもので、これが土台になって、初めて、しつけやルール、あるいは勉強、といったものが積み上がっていきます。(同書P107より)
そんな大切な要素を、なぜHSCは持ちにくくなるのか、4つの理由を挙げていきます。 (同書10章より)
① しつけの影響を受けやすい
HSCは真面目でルールを守る傾向にあるものの、ちょっとした否定の言葉を強く受け取りやすく、人格全体を否定されたと感じてしまうことがあるとのこと。周囲はそんなつもりがなくても深く傷つくことがあるそうです。
② 自分に厳しい
自分に厳しいがゆえに、自分をネガティブに見てしまう傾向があり、失敗を重く強く受け止めてしまうことも。
③ 手のかからない、いい子になりやすい
親や周囲の大人の気持ちを敏感に察知し、自分が何を期待されているのかを理解できるために、HSCは手のかからない子と受け取られがちです。それゆえに親や学校の先生から放っておかれることも多く、必要なときに甘えられなくなってしまうこともあるといいます。
④ 集団生活が苦手
行動へ移ることに慎重であったり、人前で注目を浴びることに緊張を感じたりすることで、小学校や中学校の集団生活の中では充分に実力を発揮できず、自信を失ってしまう子も多いのだとか。
加えて、刺激に敏感なHSCは、友達の乱暴なふるまいや悪口について、自分に向けられたものでなくても反応してネガティブな気持ちになったり、学校の先生が大きな声で他の生徒を叱ったりするような状況でも、自分が責められているように感じたりしてしまうことも。
こうしたことが重なって、「学校は地獄のようなところ」と捉えてしまう子どももいるようです。
このようなさまざまな要因で、HSCにとって学校は大変な場所なのだということを周囲の大人は理解し、無理強いは避けるべきでしょう。
ひといちばい敏感な子を育むための大切なポイント
HSCの自己肯定感を育むためにどう対応していけばよいのでしょうか?
同書では大切なポイントを4つ紹介しています。
- 強い語調で叱らない
- いいところを見つけて、ほめるようにする
- 無理をしていないか考えましょう
- 一番の味方であり理解者になる
しかし、HSCの親が上記に配慮して育てていると、「甘やかしている」「過保護だ」「だからわがままになる」という言葉を向けられる機会も多いのだとか。
明橋先生はこのようにアドバイスをしています。
―親の育て方は、子どもの行動の「原因」ではなく「結果」かもしれないと考えてみましょう、と言っています。過保護だから、保育園になかなかなじめないのではなく、もともと敏感な特性があって、新しい環境になかなかなじめない、不安が強い、だから、親御さんがしばらく子どもの相手をせざるをえなくなる。(中略) HSCは空腹や疲労、恥ずかしさやイライラなど不快な状況になると、すぐに不安定になったり、自制心を失い、言うことを聞けなくなったりします。それを避けるために、子どもの要求を受け入れることは決して「甘やかし」ではなく、必要なことなのです。
(同書P104-105より)
HSCはまだ日本では馴染みが薄い概念なので、自分の育て方に不安を覚える人も多いでしょう。子どものペースに合わせるのと同時に、親自身もマイペースに親子一緒に仲良く歩んでゆけると良いのかもしれませんね。
また、子どもの特性をよくつかんで育てていくことで、HSCはその敏感さから素晴らしいセンスを開花させることも多々あるといいます。
HSCに限らず、誰もがその能力を発揮できれば、本人が幸せに生きるだけではなく、他者をも幸せにして生きていくことができるはず。今一度、子どもの良いところを伸ばしていくにはどうしたらいいか、見つめ直していきたいものです。
参考書籍
<文/中島理>
この記事を書いたのは
1981年、北海道生まれ。バーテンダー・会社員を経てライターへ転身。ムックを中心に編集や執筆に携わる。引きこもり経験を持ち、若年層の進学・就労にまつわる心の問題に関心。