堀江貴文×里中満智子トークイベント マンガの魅力って何だろう
専門家に聞く
2017/12/05
「マンガを読むと馬鹿になる」。
『アリエスの乙女たち』や『天上の虹』(以上講談社)など、多くの作品を描いてきた漫画家・里中満智子さんは、幼いころにそう言われたという。
里中さんが選考委員長を務める「これも学習マンガだ!」は、マンガが持つ「楽しさ」「分かりやすさ」「共感力」に注目して、作品を紹介するプロジェクト。2015年には100作品、2016年50作品、さらに2017年に50作品を選出した。
▼マンガ作品に育てられた人生 マンガ家・里中満智子の考える「学習マンガ」とは(前回のレポート)
https://www.tsuushinsei-navi.com/real/expert/5509/
▼選出作品はこちら
http://gakushumanga.jp
2017年は新たに、実業家であり「マンガ新聞」などを手掛ける堀江貴文さんが選書委員に加わり、作品を選考。11月22日(水)に「メディアドゥ セミナールーム」で、追加選出作品の発表とともに選書委員長の里中さんと堀江さんのトークイベントが行われた。
それぞれ選書のポイントは?
里中さん:マンガってどの作品も学習マンガだといえます。選びたい漫画がたくさんあって、本当は1,000作品ご紹介したいくらいです。
私が今回新たに選んだのは『徒然草―マンガ日本の古典』『星守る犬』『フイチンさん』など、「この作品に気づいてほしい」という気持ちで作品を選びました。読んだ人の人生が豊かになる。そう信じて選んでいます。
堀江さん:僕は思わず没頭してしまう作品ですね。『最強伝説黒沢』『闇金ウシジマくん』『羊の木』など……。個人的な好みですが、ノンフィクションのマンガが好きです。
新しいことを始めるときって、その業界の歴史的背景を理解したほうが良いので、歴史から学ぶことが多いんですよ。なので、完全なファンタジー世界にはあまり興味がなくて、事実に基づいてフィクション化したものを読むことが多いです。なので、結果として学習マンガのようなものが多いのかもしれません。
漫画業界は「大人にならずにやっていける世界」
堀江さん:マンガは、いい意味で、メディアや国家権力の影響を大きく受けていないところがおもしろいですよね。
里中さん:たいした勢力と思われていないから、作家の自由にできたというのはありますよ。私の世代では、「マンガを読んでいる奴は馬鹿だ」という時代でした。「セリフが少なくて絵が多いから、読みやすすぎる、子供にそんなものを読ませていたら、脳が発達しない」などと、とても非科学的なことを言われていましたね。
堀江さん:いまだにそんなことを言う人もいますよね。
僕が今回選出した作品の中で、特におすすめの『電波の城』(小学館)は、テレビ局の暗部を描いた作品です。暴力団や宗教団体との癒着、セクハラ問題など、ほかのメディアではなかなか描かれないことをてんこ盛りに描いていて、そこがすごく良いんですよ。
里中さん:メディアの多くはスポンサーの問題がありますが、漫画家はスポンサーとほとんど関係がありません。どこにも遠慮しなくていい、気にするのは読者だけ、という世界で。
堀江さん:その姿勢、すごく良いですよね。某週刊誌みたいに、他人の不幸で飯を食うってことがないじゃないですか。
里中さん:不幸を題材にするとしても、「こういう不幸をなくすにはどうしたらいいのか」と作者が考えて、問題を提案したものが作品になりますよね。
堀江さん:そうそう。みなさん、倫理観というか、常識があって。
里中さん:ひとりで世間に問題を問いているので、それなりの覚悟を持っている方が多いのかと思います。「こんなことを漫画で表現したい」「自分の世界をほかの人に見てもらいたい」から、作品作りが始まっていますからね。それなのに、あちこちに遠慮したり、忖度したりしていたら、何も描けなくなってしまいますから。
里中さん:漫画家ってピュアでもやっていける世界なんですよ。世間知らずでも、計算ができなくても、大人にならなくてもやっていける仕事。それは、幸せだなと感じます。
堀江さん:いい意味で、大人にならなくていいんですね。一方で、たとえば『電波の城』では、しっかりとした取材をして、業界の構造を勉強して、一旦自分で咀嚼してから、自分の作品として生み出していて。
里中さん:「自分が描きたい」と思ったことを調べたり取材したりするのは、みんな一生懸命。そうやって、調べることで自分の作品世界がつくられていきますから、好きなことに対して勉強熱心です。
堀江さん:マンガって、そこまでお金をかけずにものすごく豊かな世界観を表現できるのも良いなと。セリフもネームも絵も、すべてのプロセスを個人で完結できるのは、他にはない表現だと思います。
里中さん:ひとりで映画をつくっているようなものですよね。私の世代だと、「漫画家になってなかったら何になりたかった?」と聞くと、映画監督だっていう人が多かったです。映画を撮りたいとなると、たくさんの人が必要だし、人をまとめる力もいるし、なれるともかぎらない。でも、漫画だったら誰にも認められなくても、ひとりで生み出せますから。
これから漫画を描くには どうしたら絵が上手く描けますか?
堀江さん:聞きたいんですけど、漫画家って、何でみんな絵が上手いんですか。
会場:(笑)
堀江さん:漫画家の西原理恵子さんが開いている「人生画力対決」に、漫画家でもないのに2013年に出たことがあるんですよ。「~ホリエモン出所記念!歌舞伎町前科者祭り!!~」というイベントで(笑)。
石井和義さんと高須クリニックの高須克弥さん、ボブサップさん、そして西原さんと僕が画力を競って、結果、石井さんが一番上手で、僕は一番下手でさらし者になりました。あと、昨日も小池百合子さんというお題で、絵を描いて競う配信をしていたんですよ。そうしたらやっぱり僕だけ下手で。
里中さん:漫画家がみんな絵が上手かっていうと、そうでもないですよ。私も長年書き続けていたら上手になるだろうと思いましたが、いまだにダメなんです。本当に絵が上手な人は、画家を目指すんですよ。誰でも漫画は描けますよ。漫画の絵は上手な絵じゃなくていいですから。その人にしか描けない絵があれば、その人の世界になるから。『ナニワ金融道』なんてそうじゃないですか?
堀江さん:いやいやいや、味があるし、上手いじゃないですか。僕の絵は、そういう意味ではなく、もっとひどいんですよ! 見ます? 僕が描いた小池百合子さん。
(スマホを渡す)
里中さん:……。あ、そうですか。
堀江さん:ほら。困ってる(笑)。
会場:(笑)
里中さん:うーんと、会場にいるみなさんに、この絵をどう説明すればいいかわからないですけど……。「よくできたハニワ」、かな。
会場:(笑)
堀江さん:これから絵が上手くなるにはどうしたらいいんですか?
里中さん:四コマとか一コマ漫画はどうですか?
堀江さん:僕、ストーリー漫画が描きたいんです。
里中さん:今どきの漫画家さんってものすごく絵が上手いんですよね。私もそれを見て悔しく思ったりしますが、私は「絵が描きたくて漫画家になったんじゃない、わたしは個性だけでやってこれたんだ」と思っています。だから、堀江さん、下書きを描いて原作を担当してみてはいかがでしょう。
これからのマンガ業界はどうなる?
堀江さん:今年、吉野源三郎さんの何十年も前から読み継がれている名作『君たちはどう生きるか』が漫画化されて、かなり反響がありましたよね。漫画ってまだまだ可能性がたくさんあるな、と感じました。
里中さん:漫画化って、明治時代にそれまで文語体で書かれていたものを口語体にしたのと同じで、読者が読みやすくなる、ひとつの“翻訳”ですよね。
堀江さん:確かに、作品中に長文が出てきても、漫画の作品内だとつい読んじゃいますね。
今は中国などアジアで漫画が成長していますよね。スマホやタブレットで読むことが普通になり、デジタルが普及して手軽に漫画を描けるようになって、作画の大変さが少なくなってきているのかなと。
日本でこれだけ漫画が発展したのって、流通の問題が大きいと思うんですよ。同じように、中国でそこまでマンガの規模が大きくならなかったのも、流通の問題が大きいのかと。今はスマホのおかげで、その問題が解決されたんだと思います。今後漫画業界も、今後大きく変わるんじゃないですか?
里中さん:「あ、これで描けるんだ」という気持ちになれるのは、大事ですよね。裾野が広がったことで、漫画の描き方、ジャンルもさらに細分化していくんじゃないでしょうか。普及したものの形に合わせて中身を考えることでいうと、デジタルでの漫画媒体というのは、まだ紙媒体からの移行がほとんど。でも、デジタルならではの見せ方は、まだたくさんありますよね。
デジタルだからこそ、情報を多層に入れ込む。たとえば、ストーリーをまず読んで、興味のある人はそのストーリーに隠されたことをさらに深く読み解いていくなど、そういう作品づくりをしていきたいと思います。
どういう形で読者の手に作品が届くかは、今後どんどん変わっていくのではないでしょうか。私はそれに積極的に関わっていきたいし、試してみたい。若い人にもアナログと違う発想で描いてほしいし、自分自身そういう作品を描かなければいけないと思います。
漫画に国境は関係ないし、男性か女性か、学歴も関係ない。だからこそ、漫画は公平で、「女のくせに」と言われずに済む世界。これから先もどんどん可能性が広がっていくと思いますよ。楽しみにしています。デジタルで今後どう配信していくかというのは、堀江さんにもぜひ考えていただきたいです。
堀江さん:頑張ります。漫画はやれていないことが、たくさんありますよね。スマホなど新しいフォーマットが普及したおかげで、これまで発表の場がなかった人が参入したり、世界中でポテンシャルを持った人たちが途中で挫折せず乗り越えられる仕組みができたら、さらにおもしろい作品が出てくると思っています。
(取材・文:松尾奈々絵/ノオト 編集:田島里奈/ノオト)
※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2017年12月5日)に掲載されたものです。