子どもの高校受験が不安… 忘れてはいけない親の対応と気構えとは?

生徒・先生の声

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2021/08/02

いよいよ夏休みがスタート。「夏を制する者が受験を制する」などと言われ、受験生にとっては重要な期間となります。
全国の進学塾では受験に向けて夏期講習が始まり、遊びに行く余裕もなく、すでに勉強スケジュールがびっしりという生徒もいるかもしれません。

一方で、まだ進路希望が固まっていなかったり、なかなか受験生という自覚が持てなかったりする生徒もいるでしょう。

そんな生徒に対して、親は「このままで大丈夫だろうか」「うちの子、本当に高校に進学できるのかしら」「そろそろやる気を出してほしいけど……」と心配が尽きません。

親がやきもきする傍らで、本人はのんびりしているように見えたり、勉強に身が入っていないように見えたり。つい「勉強しなさい」と口を出してしまうけれど、思春期も相まって反抗されてしまい、ますます不安になってきてしまう。そんな光景も、受験生とその親には毎年のように繰り広げられています。

では、これから高校受験を控える子を抱える親は、どのように対応していけばよいのでしょうか。

今回は、進学塾と学内塾(学校の中で補習などの学習支援を行う塾)の両方を経営する、株式会社学びの森オーナー兼代表取締役CEOの髙田康太郎さんにお話を伺いました。

受験生の親の悩みはいつの時代も同じ!

まず、受験生の親が抱える代表的な悩みには、どのようなものがあるのでしょうか。髙田さんの塾では、保護者会や三者面談を頻繁に開き、保護者との対話も重視しながら子どもたちを伸ばすというスタイル。
これまで多くの親の相談に乗ってきた髙田さんは、「親の悩みは昔からずっと変わらない」と言います。

「自分たちが子どもの頃から何十年も変わりませんよね。子どもが家で勉強しない、放っておくとゲームやYouTubeに夢中になってしまう。何も目標がなく毎日ぼんやりと過ごしている。反抗期で言うことを聞いてくれない。そして、みなさん『他の子は受験に向けて頑張っているのに、うちの子だけこの状態なのはまずいのではないか』と思っていらっしゃいます。でも、実は『うちの子だけ』ではなく、むしろそれが子どものスタンダードです

まずは、自分の子どもだけ特別にまずい状況にある、と思い込みすぎないことが大切だと髙田さん。不安や焦りにかられすぎると、それが子どもに伝わり、あまりいい結果を生まないと言います。

「子どもは、親が自分のことで悩んでいると敏感に察知します。そして、思春期の子の場合はそんな親に対して『申し訳ないな』という気持ちを持ちつつも、親を悩ませている自分自身にイライラしてしまったり、解決策がわからずストレスをためてしまったりします。そして、このイライラやストレスを、反抗期になると怒りの感情として親にぶつけてしまう。親はそれによってさらに悩む。こんな負のスパイラルができてしまうんです」

自分の育て方が間違っているのだろうか、言い方が悪いのだろうか……、などと悩む親も多いそうですが、こうした不安をためこまないことが、子どもが受験という機会に成長できる環境を整えることにつながるとのことです。

不安をためこまないためには、「目の前にいる子どもの〝マイナスな部分〟ばかりに目を向けないことが大切」だと言います。他人の子どもと比較をしたり、SNSで「できる子」のキラキラした話をチェックしたりすると、どうしてもマイナス面が目についてしまうので控えたほうがよいそうです。

子どもに目的意識を持たせるために、親の意識を変えよう

そうはいっても、勉強を投げ出していたり、あまり集中していなかったりする子どもの様子を見ると、どうしても不安になってしまうのが親というものです。

不安にかられてしまうときには、どのような行動をとればいいのでしょうか。

「何のために勉強をするのか、子ども自身が目的を見つけられるようにすることが大切です。宿題をすることや、テストでいい点をとることに子ども自身が目的意識を持っていなければ、今の状況は変わることはありません。
でも、子どもに目的を持たせる前に、まずは親自身が考えてみてください。子どもが宿題をやること、受験勉強をすること、学校のテストや模擬試験でいい点数をとること、偏差値の高い高校に入ること、これらがクリアできれば自分は満足できるのか、自問してみてほしいのです。
そして、『いい高校に入れれば、いい大学に入れて、いい会社に入れるから』、という考えが根底にあるようなら、本当にそれが正しいのか、子どもの幸せにつながるのかをもっと深掘りして考えてみてください

進路を決める時期は、親にとっても、子どもがどんな力を身につけて、どんなふうに成長し、どんな大人になってほしいかをじっくり考える機会だと髙田さんは話します。

「大企業に入っても周囲とコミュニケーションがとれず活躍できない人や、上司の愚痴を言いながら毎日過ごす人はごまんといます。さらにはその企業でさえ社会のさまざまな変化によって簡単に倒産してしまう時代です。
YouTuberになりたい、プロゲーマーになりたいという夢を持つ子もたくさんいる。大人はそれを否定したがりますが、現実としてそれらに真剣に取り組んで仕事として成り立たせている人もどんどん増えてきています。
時代がどんどん変わっていることもしっかり見つめながら、我が子がどのような大人になってほしいかを考えていきましょう」

そのうえで、子どもに対して「目的を持って学べるような環境」を作ってあげることが大切だと言います。

目的意識を持たせるためには?

目的意識を育てるには、子どもとしっかり向き合うことが必要と高田さんは言います。

「大きな夢でなくても、今挑戦したいことは何か、どんなことができるようになりたいかといった話をしっかり聞き出します。頭ごなしに否定せずに具体的に聞き出すことができたら、そのためにはこういう勉強が必要だ、という話を冷静にすることができるはずです

ゲームを作りたいのなら、数学や英語の基礎学力は必須ですし、YouTubeなどで自己表現をしたいのなら国語力を高めることが大切で、よりチャンスを広げるには英語能力もあったほうがいいでしょう。どんな物事も、基礎的な学力が役立つ場面が出てきます。
つまり、勉強するための理由ができて、自分で決めたことだからこそときには「逃げたいな」と思っても、乗り越えて頑張れるようになるわけです。

子どもが「挑戦したい」と思ったことに対して、大人の価値観で見下したり否定したりせず、そこから努力する姿勢をつくっていくことがポイントだと髙田さん。

「子どもが挑戦できる環境作りはとても重要で、もし子どもに聞いてみても何もしたいことが浮かばない、何も興味を持つ物事がないというのなら、たくさんの種をまくことから始めてください。
たとえば、いろいろな生き方をしている大人たちに会わせてみたり、博物館や美術館や映画館に出かけたり、有名な人の講演会に一緒に参加してみたり。広い世界を見せていく中で、子どもたちは自分が好きなことや、自分に向いていることを探していきます」

受験生であっても、こうしたことをおろそかにして「いい点をとりなさい」「偏差値60以上の高校に入りなさい」と大人がレールを敷いてそのとおりにやらせてしまうと、子どもは「言われたことをやる」能力しか身につかなくなっていくと言います。

「自分自身の目的がなく、言われたことを言われたとおりにやるだけの子ども時代を送っていると、1を言われて10をやるどころか、1を言われても0.1しかできないのが普通くらいの大人ができあがります。これではいくら受験して偏差値の高い高校に入学しても意味がありません」

ですから、子ども自身が「この高校に行ってこういうことがしてみたい」「高校生になったらこれに挑戦したい」という目的意識を持てるように、そのヒントを毎日の生活の中にたくさんまいてあげることが大切なのです。

志望校選びを通して、親も「今の時代」を学んで

では、実際に志望校を選んでいくにはどんなサポートが必要なのでしょうか。

「学校選びの際には、まず親の価値観、好き嫌いを出さないようにしてください。ネットだけの情報で判断してもいけません。子どもが自分自身で選ぶことが大切で、他人の意思がそこに入ってしまうと、目的を達成するために受験勉強を頑張るという気持ちが弱くなってしまいます

夏休み以降はいろいろな高校が説明会や学校見学を実施します。文化祭や部活動の見学もできます。子どもが少しでも興味を持ったら足を運んでみて、本人が選ぶということが、「目的達成のために努力して成長する」姿勢をつくるために必要だとのことです。

「子どもに選ばせると、もっと偏差値の高い学校を選んでほしいと言いたくなるケースもあります。私の教え子でも、自分の偏差値よりも10低い高校を選んで進学した女子生徒がいました。その子は自分が取り組んできたハンドボールが強いからという理由でその高校を選びました。
結果的に、彼女は余裕で合格したその高校で、勉強にもハンドボールにも打ち込んで、毎日生き生きと学校に通っています。偏差値が自分の実力に相応かどうかで学校を決めなければいけないわけではなく、その子が目的を持って生き生きと通えることが大切だと、私も彼女を見て実感したんです」

もし子どもの選択に疑問を抱いたとしたら、その疑問自体を大人は深く考え直してみるべきだと髙田さんは言います。
「偏差値が高いほうがいいに決まっている」と単純に決めつけていないか、反対することで子どもが挑戦する機会をつぶすことにならないか、その子がやりたいことをなぜ優先してはいけないのか。そう考えてみると、自分が古い考えに縛られていることに気づけることが多いのだそうです。

「社会に出て一定の年数が経った大人は、今の自分が人間としての完成像で、もう成長はしないものと思い込みがちです。でも、親や先生など身近な大人が社会の変化に応じて成長する姿を見せているかどうかが、子どもにも大きな影響を与えます。
『勉強しろ』『いい高校に行け』と自分の子ども時代に言われたことを数十年経った今も繰り返すのではなく、変化の激しい世の中で大人も成長して生きていく姿を見せることが、子どもにはいい教えとなるのです。
今は高校にもさまざまな選択肢が出てきて、一概に偏差値だけでその子に合うか合わないかを決められる時代ではありません。ぜひ今の時代を親も一緒に学びながら、子どもの挑戦する力を伸ばしていきましょう」

取材協力・監修

髙田康太郎さん

株式会社学びの森オーナー兼代表取締役CEO。私立関東学院大学を4年次で中退。在学中から学習塾で講師のアルバイトをし、中退後も2年間継続した後、上司との衝突で退職。その後、アルバイトや日雇い、ニートの経験を経てホームレス状態に。しかし、友人の紹介で塾経営を手伝ったのをきっかけに東京都大田区で学習塾の経営者となる。現在は学習塾と7校の学内塾を運営。近著に『勉強ぎらいな子に奇跡を起こす方法』(現代書林)がある。

学びの森:http://www.manabi-mori.net

<取材・文/ 大西桃子 >

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この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。