発達障害の子どもの進路、どう考える? 居場所支援団体に聞いた!

専門家に聞く

2022/04/28

新年度が始まり、中学3年生は進学を意識し始める時期になりました。発達障害と診断されている子や、診断には至っていないけれどグレーゾーンだと感じている子の中には、進路に不安を抱えている人も少なくないでしょう。

「学習で不得意な面があって、高い偏差値の高校は選べないかも……」
「入学できたとしても、授業についていけるのか心配」
と、学力というモノサシで進路を考えると、心配なことは多いかもしれません。

ただ、今はさまざまな個性を持つ子に合わせて、学校も多様化してきています。偏差値一辺倒ではなく、進学後にいかに充実した学校生活を送れるのかも大切な視点です。

そこで、発達障害やグレーゾーンの子どもの進路についてどのように考え、周囲の大人はどうサポートするのがよいのか、多くの中高生から進路の相談にも乗る、居場所支援施設「千代田区障害者よろず相談MOFCA(モフカ)」に聞いてみました。

受付では「もふか」が出迎えてくれます
受付では「もふか」が出迎えてくれます

特性は人それぞれ 自分の「得意・苦手・好き・嫌い」を探そう

「千代田区障害者よろず相談MOFCA(以降MOFCA)」は、障害の有無を問わず東京都千代田区在住、在勤、在学の方とその家族、関係者であれば誰でも無料で居場所として利用したり、悩み事を相談したりできる場所です。

精神保健福祉士、社会福祉士、相談支援専門員、看護師、カウンセラーなどの資格を持ったスタッフが勤務しており、子どもから大人までさまざまな相談に対応しています。
その中で、「中高生から進路の相談を受けることも少なくない」と話す代表の前田利恵子さん(医療・家族心理専門カウンセラー)にお話を伺いました。

 お話を伺った前田利恵子代表(医療・家族心理専門カウンセラー/写真左)と、精神保健福祉士・社会福祉士・相談員の鈴木じろうさん
お話を伺った前田利恵子代表(医療・家族心理専門カウンセラー/写真左)と、精神保健福祉士・社会福祉士・相談員の鈴木じろうさん

まず、発達障害の子どもたちやその保護者から受ける相談の内容にはどんなものがあるのか伺うと、

「学校でトラブルを起こしてしまったらどうすればいいのか、学校の先生にどのようなことをお願いすればいいのかといった日常的な学校生活の対応のほか、学校を卒業した後の就労も踏まえて、どのように進路を選択すればいいのかという相談もあります」

と前田さん。
単に高校進学するだけでなく、その先のことも考えて進路に悩んでいる方が多いようです。

「学校生活が終わり、就労となったときに急に戸惑ってしまう子も多くいますが、“できない”ことだけに目を向けず、焦らずに選択肢を考えてみることが大切です」

では、具体的にどのようなアドバイスをしているのでしょうか。

発達障害とひと言で言っても、一人一人特性は違います。ですから、特性に応じてアドバイスをするのですが、まずは“みんなと同じでないといけない”という考え方から離れて、できること・苦手なこと・やりたいこと・やりたくないことを細かく分けて考えてみると良いと思います」

たとえば、暗記することは得意、騒がしいところで集中するのが苦手……など、細かく棚卸ししていくことからスタートしてみてほしいとのこと。

「高校進学だと、全日制普通科や特別支援学校などのほかにも、通信制高校や定時制高校、工業や農業などの専門高校、また都立高校の場合だとチャレンジスクールやエンカレッジスクールなどの選択肢もあります。
まず棚卸しをしておくと、“この学校では得意でやりたいことはできるけど、毎日教室で授業を受けなくてはいけないのはどうか?”など、学校ごとのメリット・デメリットと本人の特性を比べながら、優先順位をつけていけるのではないでしょうか」

参考

都立高校のチャレンジスクールは定時制高校で、ライフスタイルに合わせて通学時間帯を選べ、生徒それぞれの心に目を向けて事情に配慮した指導をしてもらえる高校。 エンカレッジスクールは全日制高校で、発達障害などの事情にも配慮した学び直しに対応、30分授業や体験学習の導入などの施策が用意されている高校です。 いずれも、中学まではなかなか能力を発揮できなかった生徒をサポートし、やる気を育ててくれます。

こうした公立高校もあれば、好きなことや将来やりたいことに向けて専門的に学べる高校、通学や自宅学習を組み合わせて自分のペースで学習ができる通信制高校など、選択肢は多種多様。
「本人の特性に最もフィットしそうな選択肢を見つけていくことが重要」だと前田さんは言います。

“普通”にとらわれずに考えよう

高校進学を考えると同時に、高校卒業後のことも不安に感じる人もいると思いますが、これについても進学先と同じように、棚卸しをしながら考えれば大丈夫だと前田さんは話します。

「今は発達障害などの診断をされた生徒でも、専門学校などは入りやすくなっています。就労するにしても、やってみたい仕事をピックアップしながら、業務内容を細分化してみて、“事務的な作業は得意” “いろいろな人に挨拶するのは少し苦手”など、どれくらいフィットするかを考えていくことがポイントです」

客観的に特性を見つめ、進学先や就労先も「そこでは1日の間にどんなことをするのか」具体的に細かくイメージしていくと、自分に合った選択肢が見つかりそうですね。この際に、本人と保護者だけで考えるのではなく、第三者に相談するとうまくいきやすいと前田さんは言います。

「誰でも家にいるときの顔と、外にいるときの顔は違いますよね。“外ではこんなふうに行動して、こんなふうに人と関わっている”ということをできるだけ客観的に見るために、外部に相談することは大切だと思います」

MOFCAのような相談機関や、今通っている学校、放課後デイサービスや子ども家庭支援センターといった行政機関など、相談しやすいところにサポートしてもらうと良さそうです。

「“普通”の基準は人それぞれ違って当たり前です。ですから、そもそもみんなと同じペースで学んで、卒業して、進学しなければいけないという日本のシステムに無理があるんです。海外では、“ここまでマスターしたら進級、できるまでは同じ学年をやり直し”にしている国も少なくありません。 こうした日本のシステムの中で不安に思うことはたくさんあるでしょうが、焦らずに将来を探ってほしいですし、私たちもじっくりサポートできればと考えています」

と前田さん。日本という狭い範囲での“普通の進路”という考え方にとらわれずに選ぶことが、その後の人生の充実度にも関わってきそうです。

 MOFCAは勉強したり音楽を聴いたり、本を読んだり自由に過ごせる場所。進路や学校生活についての相談にも乗ってもらえます
MOFCAは勉強したり音楽を聴いたり、本を読んだり自由に過ごせる場所。進路や学校生活についての相談にも乗ってもらえます

子どもから会社員まで、ほっと休める居場所づくり

ここまで「進路選択」を中心にお話を伺ってきましたが、発達障害のある子やグレーゾーンの子が安心して過ごせたり、進路をはじめさまざまなことを気軽に相談したりできる場所というのは、行政が運営する機関を除けばまだ少ないようにも感じます。
〝居場所″として、MOFCAはどのようなことに配慮をされているのか、最後に詳しく伺ってみました。

「MOFCAは発達障害のあるなしや年齢にかかわらず利用できる場所です。実際に子どもが勉強をしに来たり、音楽を聴いたりすることもあれば、同じビルに勤務する会社員の方が休憩に訪れたり、昼寝しに来たりすることも。漫画や本も自由に読んでいただけますし、静かな空間で落ち着きたいときに使える“カームルーム”もあります」

カームルームは照明が直接当たらない設計の個室で、一人静かに過ごせる空間となっています。筆者が取材した日は、ここに来て仮眠をとっている人も。

 照明を落とし、ゆっくり過ごせる個室の「カームルーム」
照明を落とし、ゆっくり過ごせる個室の「カームルーム」

障害のある子や発達に特性のある子を対象にした放課後デイサービスなど、対象を限られた場所には行きづらいという人でも、気軽に自由に使える場所となっているようです。

「MOFCAは、保健所、障害者福祉課、社会福祉協議会、地域包括支援センターや児童家庭支援センターなど、さまざまな機関と連携しています。相談に応じてこうした機関とつなぐこともできますが、相談事がなくても思い思いに過ごしてもらえればと思っています。
スタッフは“うるさすぎない近所の人”という感覚で、話したい日には何でも話してもらえればよいですし、一人でいたいときは離れて見守りますので、安心して来ていただきたいです」

保護者の方も、ちょっとお茶をしに来たり、不安なことを話しに来たりと、「息抜きにも使ってほしい」と前田さん。不定期で音楽イベントやセミナーなども開催されているので、そうした機会に訪れてみるのもよさそうです。

取材協力

https://mofca.net/

こころの息抜きやちょっとした休憩に利用できるスペース。専門のスタッフが、さまざまな相談に乗ります。障害種別や障害者手帳の有無を問わず千代田区在住、在勤、在学とその家族、関係者であれば誰でも無料で利用可能(来所相談は原則前日までに要予約。電話相談は随時受付。詳細はホームページをご覧ください)。東京メトロ東西線竹橋駅直結、パレスサイドビル1階。

<取材・文/大西桃子>

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この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。