家庭で学んでも、出席扱いになる? 不登校とオンライン学習のいま

専門家に聞く

2020/09/16

新型コロナウイルスが感染拡大で、“STAY HOME”がキーワードになった2020年。家からオンラインで学びにアクセスした人も多かったことでしょう。

いま、オンライン学習は不登校の生徒たちにとっても重要な学びの機会となっています。小・中学校における不登校の生徒数は、全国で約16万人(2018年)。学校に行かなくてもオンライン学習に取り組むことで出席扱いになる制度などはあるものの、まだまだ十分な活用がされていないのが現状です。

オンライン学習のモチベーションや集中力を維持し、うまく活用していくためのポイントはどんなところにあるのでしょうか。

「オンライン学習」が出席扱いになる制度とは?

「教育に変革を、子どもたちに生きる力を」を企業理念に掲げ、オンライン学習教材の提供を通して子どもたちの学習をサポートする株式会社すららネット。広報・北村直子さんにお話を伺いました。

すららネットの北村直子さん

同社で、個人からの問い合わせの半数以上は不登校や発達障害に関するものだそうです。

実は、オンライン学習でも学校の出席扱いになる制度は2005年から実施されています。しかし、2018年度の調査では利用したのが全国で286人と、まだまだ十分に広がっているとは言えません。

北村さんによると、出席扱いとなるオンライン学習には7つの条件があるとのことです。


<不登校生徒の出席扱い要件の7項目>

  1. 保護者と学校との間に十分な連携・協力関係があること
  2. ICTや郵送、FAXなどを活用して提供される学習活動であること
  3. 訪問等による対面の指導が適切に行われること
  4. 学習の理解の程度を踏まえた計画的なプログラムであること
  5. 校長が対面指導や学習活動の状況を十分に把握していること
  6. 学校外の公的機関や民間施設等で相談・指導を受けられない場合に行う学習活動であること
  7. 学習活動の評価は、計画や内容を学校の教育課程に照らし判断すること

参考:不登校児童生徒が自宅においてICT等を活用した学習活動を行った場合の指導要録上の出欠の取扱いについて(文部科学省)
参考:「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」令和元年10月25日

「このなかで一番大事なのは、保護者さんと学校とのコミュニケーションです。まずは担任や学年主任、校長といった先生やスクールカウンセラーに相談してみてください」と北村さんは提案します。

保護者の“自己肯定感”にも目を向けて

「オンライン学習や登校扱いの申請を円滑に進めるためのポイントは、“保護者さんの自己肯定感”です」と北村さんは、ずばり言います。

「弊社では以前、お子さん本人とコミュニケーションを取りながら、学習のサポートをしていました。しかし、学校や塾と違って、オンライン学習に取り組む場所は家庭です。お子さんの悩みには、家庭の環境や過ごしやすさが大きく影響しているとわかってきました」

そこで、同社では“すららコーチ”という専門スタッフが主に保護者さんのサポート。入会時に不登校や発達障害についてお知らせしてもらえば、そういった家庭のサポート経験をもつスタッフが担当しています。

保護者さんをサポートするのは、2005年から早くもeラーニング(オンライン学習)の研究をスタートしていたすららネットならではの関わり方かもしれません。

実はすららネットが関わる不登校の生徒のなかでは、千葉在住の場合に登校扱いとして認定されることが多いんだとか。どんな理由があるのか尋ねてみると……。

「千葉在住のすららコーチのお子さんに学習障害があるんです。当事者だからこそ、不登校のお子さんを育てる保護者さんの気持ちが分かる。たとえば、『こんなふうに育ててしまった自分が悪いのでは』といった罪悪感を持っていることが多いと彼女は知っていました。

でも、本当は自己否定することではないんです。あるお子さんはHSC(繊細さの強い子ども)の傾向があり、(自分が直接関係していない)友達同士のいじめを見ていられず、不登校になっていました。コーチは『正しいものを正しいと思えるのは素晴らしいこと。そんな優しいお子さんを育てた素敵なお母さんなんですね』と伝えたそうです。これは、本気で思っていないと伝わらない言葉だと思います。

保護者さんが自己肯定感を得て子育てに向かっていけると、学習や、登校扱いの申請にもポジティブに影響するんですね」

すららネットのオンライン教材を利用して学習する生徒

「今では、やる気になれば勉強はいつからでも、どこからでも、いくらでもできる環境があります。地理的な制約も大幅に減りました。ただ、保護者さんの『勉強させたい』という気持ちが先行してしまってお子さんのダメージや不安に向き合っていないと、うまくいかないことが多いようです。まずは両者の自己肯定感を取り戻すことが何より大切だと思います」

不登校の当事者からは「難しい」との声も どう対応する?

学習時間や進捗の管理、AIによる学習リコメンデーションなどがきめ細かに提供されるサービスがある一方、まだまだ「授業動画を見る」にとどまるサービスも少なくありません。

実際にオンライン学習を経験したことのある中学生にもお話を聞きました。祐希さん(仮名)は、不登校だった時期があります。

「オンライン学習は、ただ一方的に映像を見させられている感じで、授業という実感がなかったです。空腹時にすぐ食べたりできるし、勉強以外にやることがない状況ではないので、テレビやゲーム、ネットなどをしてしまって。家で自主的に勉強するのは難しいです」と率直に語ってくれました。

そのような当事者の困りごとに対して、オンライン学習の現場では、どのような工夫が行われているのでしょうか。

放課後等デイサービス事業などを通して、学校生活や学習に不安がある子どもたちへの支援を行っているNPO法人ダイバーシティ工房では、新型コロナウイルスの影響を受けて、急遽オンライン学習を導入しました。

保護者からは「うちの子はオンライン学習は無理だと思うので、再開するまでお休みします」、「パソコン使い慣れていないのでできるか不安です」といった声も上がったなか、現場で試行錯誤してきたのが、同法人の講師で社会福祉士の武笠隼士さんです。

ダイバーシティ工房の武笠隼士さん

「緊急事態宣言が発令されていた4、5月だけでも延べ2000回以上のオンライン学習支援を実施しました。対象は小学生から高校生。緊急事態宣言が解除された後も3〜4割の子どもたちがオンライン学習を継続しています」

最初は、オンライン通話の接続に手間取ったこともありましたが、LINEで通話をつないでマイクをオンにする方法などを伝え、対処していきました。

実践現場で見られた、オンラインの“心理的安全性”

オンライン学習の現場では、生徒たちの心理面にはどんな変化が起きていたのでしょうか。

「子どもたちはオンラインだと画面から静かに抜けられるので気が楽なようです。教室だと、どうしても目立ってしまうので。『嫌だったら抜けられる』と思えることは、“心理的安全性”につながっていました」

心理的安全性とは、不安や恐れを感じずに物事に取り組める心の状態のこと。子どもによっては、学校の教室や塾といった環境では心理的安全性が守れないこともあります。オンライン学習は、そうした側面では学びに集中しやすいと言えそうです。

「学習に限ったことではないですが、コミュニケーションをとるときには、人と人の間に『クッションのようなもの』が必要だと思っています。

僕が訪問支援をしていたある中学生はゲームが好きで、最初の30分はゲームの話をしてから勉強に入っていました。おそらく、家に僕らが訪問してくると逃げ場がない状況になるので、ゲームを安全地帯にしていたんでしょうね。

でも、オンライン支援になってからは学習時間の比率が増えたんです。オンラインであればゲームというクッションを挟む必要がなくなったのかもしれません。スムーズに勉強に入れるようになっていました。もちろん、ゲームの話は今も少しずつしていますけどね」

直面したオンライン学習のいろいろな「ない」

そして実際に取り組んだなかで、オンライン学習をとりまくさまざまな課題も浮かび上がってきました。その一つがそれぞれ全く異なる家庭環境。いわゆるハード面です。

オンライン学習で色々な「ない」に直面(武笠さん作成資料)

「たとえば、家のリビングで学習をしていると、お兄ちゃんが『俺、それわかるよー』と入ってくることもあります。勉強専用の部屋を用意できればいいのですが、そうできない場合も当然あります。家の外の場所も組み合わせて、学習環境を調整することも必要なのかもしれません。

一方で、寝っころがりながら学んでいて、その方がやりやすいと感じている子もいるので、その点はメリットでしょうか」

どうしても集中力が続かない場合は、どのように対応したのでしょうか。

「小学校低学年の例ですが、『おうちにある一番好きなおもちゃを持ってきて』と言うと、楽しそうにプレゼンをしてくれる子もいました。もっと上の年代でも、本人の“好き”にフォーカスしてあげると、学習にも入りやすいと感じます」

最後に、オンライン学習を支援する上で大切なことを教わりました。

「私たちは、『目的と目標の構造化』を大切にしています。たとえば、保護者さんに連れてこられたものの子ども本人に目的や目標がなければ、学習に向かっていくのは難しいですよね。

本人は、どこにどんなベクトルを持っているのか。勉強はしたくないけれども、将来に漠然とした不安を抱えているとしたら、その気持ちを楽にするために僕たちはこんなサポートができるよ、と関わっていきます。

子どもたちの世界って、狭く見えちゃっているところがあると思います。学校に通うことにしても、『これが正解。だけど、僕それできていない』と考えると、ネガティブにもなってしまいます。でも、『別に大丈夫だよ』と。現代は“正解”のほうに行ったってうまくいく保証もありません。視野を広げてあげることが大切で、オンライン学習はそういった選択肢の一つになっていると考えています」

ダイバーシティ工房では、「全ての子どもたちが多様な価値観に出会い、自立して生きていける社会」を目指し、実際にオンライン学習を受けられる「自在塾」、保育事業、アウトリーチ事業、そしてLINE無料相談「むすびめ」などを通して、これからも子どもたちをサポートしていきます。

いま、浮かび上がってきた課題を解決できる未来へ

まだ過渡期とも言えるオンライン学習ですが、多くの人が体験したことによって、メリットもデメリットも色濃く浮かび上がってきました。

どんな子どもも学びにアクセスできるよう、社会が前進していくことが望まれます。

(取材・執筆=遠藤光太、編集=鬼頭佳代/ノオト)

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2020年9月16日)に掲載されたものです。

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