もし「死にたい」がよぎったら? コロナ禍、今がつらい中高生のためのSOSの出し方、受け止め方
専門家に聞く
2021/04/07
「コロナ禍、中高生の悩みは深刻化しています。今がつらい人は、まずつらいと感じる自分を許してあげてください。自分や誰かを傷つけたい気持ちになっていても、あなたは何も悪くない。心が懸命に自分を守ろうとしているだけなんです」
こう話すのは、精神保健福祉士の石井綾華さん。NPO法人Light Ring.(ライトリング)代表として、悩みを抱える友人や恋人、家族の力になりたい若者たち(支え手)の支援を行っています。
今、なぜ中高生は生きづらさを感じやすいのでしょう。今がつらい人のSOSの出し方は? そばにいる人はどうやってSOSを受け止めればいいの? 石井さんに聞きました。
コロナ禍、中高生の悩みが深刻になる理由
警察庁のまとめによれば、2020年に自殺した小中高生は過去最多の499人。コロナ禍で、若者は今まで以上に成績や進路、家庭の悩みに追い込まれやすくなっています。
「きっかけは、長い休校期間にあります。学校が再開しても人間関係のトラブルや成績の落ち込み、進路が閉ざされるなどの理由から自信を失った子どもがたくさんいるといわれています」(石井さん、以下略)
家庭内のトラブルから逃げられず、苦しむ若者もいました。なかには、母親の愚痴を聞く時間が増え、それから逃げるためにお風呂に3時間いるといった話も、石井さんのもとに届いたそう。
「2020年は女子高生の自殺率が2倍になりました。自殺の原因には、『進路に関する悩み』や『学業不振』、『親子関係の不和』が多い状況です」
休校期間、身近な人と顔を合わせられなかったことも、若者の悩みを深めた原因の一つだと石井さん。特に、塾の帰り道や学校のランチタイムといったゆとりの時間がなくなったことが大きいと話します。
「悩んでいる本人が生きづらさを吐き出しにくくなっただけでなく、周りの支え手が『何か変だな』と異変に気づくことも難しくなりました。支え手がただそばにいることもできなくなり、悩む側は安心感を得づらかったでしょう」
その結果、中高生の口から「なんとなく生きづらい」という言葉が出ることは減り、「お金がないからこういう進路は選べない。だから死ぬしかない」と家庭の環境が変化する中で具体的な悩みが聞こえるようになりました。石井さんは、2021年を迎えた今も、中高生の悩みはいまだ軽くなることはないと感じています。
今、つらい人はどうSOSを出せばいい?
今、つらくて苦しむ人たちは、どうSOSを出せばいいのでしょうか。
「まず、自分で自分を許したり愛したりしてあげてください。自分自身を追い詰めたくなるのは、心が一生懸命に自分を守って生きようとしているから。『自分なんか救われるはずがない』と考えているかもしれませんが、絶対にそんなことはありません」
SOSを出すのは、とても勇気がいる行為。ただ一方で、気持ちを吐き出すことは自分を楽にもしてくれます。そこで石井さんがすすめるのは、心の声を言葉にしてネットで検索してみること。
「できそうなら、『苦しい 助けて』『眠れない』『生きているのがつらい』……と自分の思いを検索してみてください。そうすることで同じように悩む人に出会えたり、過去同じことで悩んでいた人の記事などを見つけることができたり。『私はひとりじゃないんだな』と、少し楽な気持ちになることができます」
また、その感情との付き合い方のヒントが見つかる可能性もあります。その際は、意識的に“プラスの情報”だけを選ぶようにして。
「もう少しだけ何かできそうであれば、サブアカウントでもいいのでSNSでつぶやいてみて。誰かが見守ってくれる可能性があります。『助けてくれる人なんていない』と感じているかもしれませんが、『友人、知人がつらいときは支えたい』と思っている支え手は意外にいるものです」
できるのであれば、友達に気持ちを打ち明けたり、相談窓口に電話やLINEをしてみたりもしてほしいと石井さんは話します。
電話やLINEの相談窓口を使うときのコツ
電話やLINEで話を聞いてもらえる相談窓口は、数多くあります。
「あなたを救ってくれるところは、きっとどこかにある。ただ、質のばらつきや相性があるので、『最後まで助けてくれる』と思わず『聞いてもらえたらうれしい』くらいの期待度で相談するのをおすすめします」
もし気持ちを話せたなら、相手の反応がどうであれ100点。相性が良さそうであれば続きを話せばいいし、ダメだったら別のところにかければいい、と石井さん。
「極端な話をすれば、相手は誰でも大丈夫です。ある摂食障害の子は、別の用事で信頼しているメーカーの問い合わせ窓口に電話をしたら、オペレーターの人が悩みを聞いてくれて死にたい気持ちがやわらいだと話していました」
重要なのは、「誰かに気持ちを聞いてほしい」という心の声を大切にすること。話せそうなときは、ぜひだれかにあなたの声を打ち明けてみてください。
▼「24時間子供SOSダイヤル」0120-0-78310
https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm▼「子どもの人権110番」0120-007-110
http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken112.html▼「チャイルドライン」0120-99-7777
https://childline.or.jp/▼「いのちの電話の相談」0120-783-556
https://www.inochinodenwa.org/▼一般社団法人日本臨床心理士会、一般社団法人日本公認心理師協会「新型コロナこころの健康相談電話」050-3628-5672
▼「Curetime」(性暴力の悩み相談)
https://curetime.jp
周りにいるつらい人のSOS、どうやって受け止めればいい?
誰かからのSOSを受け取った、誰かの異変に気づいた側は、どう振る舞えばいいのでしょうか。石井さんは「まず、この状況下で誰かを支えたいと思える自分をほめてあげてほしい」と言います。
誰かの異変に気づいたとき、調子が気にかかる誰かに話しかけるときは、どう声をかければいいのでしょう?
「直接会える相手なら、『一緒に帰ろう』と誘ってみてください。LINEなどSNSで『最近、元気なさそうに見えるけど大丈夫?』と直接聞いたり、『最近どう?』『おはよ~』といったスタンプを送ったりするだけでも。それがきっかけになって、『話していいんだ』という気持ちになることもあります。悩んでいる子にとっては大きな救いです」
もしだれかが本音を打ち明けてくれたならば、それはあなたが信用に値する選ばれた人だという証だと石井さん。
「悩みを打ち明けられたときは、『悩んでいるんだね』とその気持ちを受け止めた一言を返すことだけでも、安心感を相手に与えることができます」
悩みを相談した人がもっとも傷つくのは、無視されること、別の話題に切り替えられること、いじられることです。簡単にアドバイスをしてしまうと、逆に相手を追いめてしまう可能性もあるので、悩みを解決してあげようとする必要はありません。
「大切なことは、『解決はしてあげられないかもしれないけれど、いつも近くにいるよ』と伝えて、10分でも話を聞いてあげることです。聞いてくれる人が近くにいるだけで、悩んでいる子は一人じゃないなと思えるようになります。ただ、もし悩みを打ち上げられたあなたに余裕がなくて自分がプレッシャーを感じたり、相手に厳しいことを言いそうだったりしたら、無理せずカウンセラーや相談窓口などをすすめてみてください。その際は、ぜひ『プロに相談したら、その感想を聞かせてね』と伝えてあげてください」
相手は、「専門家に相談することで周りから偏見を持たれるのでは」と心配になるかもしれません。「相談しても友達でいるよ」というメッセージは、悩みを抱える本人の安心感につながって、専門機関を利用しやすくなります。
「ほかにも、もし支え手側が話を聞ける心の余裕がない場合は、正直に『聞きたい気持ちはあるのだけど、ごめんね。今は難しいから次の日曜10時は空いてる?』など、別の日に話を聞く約束をしたりするのもおすすめです。今後の話せる日を決めておけば、相手を安心させられるだけでなく、自分をケアして立て直す時間も確保できます」
自分が話を聞いた後に「今度、余裕があるときに私の話も聞いてくれる?」と相談を持ちかけても。互いに心の重みのケアをする関係を築くことも、お互いの関係が楽になる一歩です。
悩みを聞くときは“ほどよい距離感”を大切に
誰かの悩みを聞いていて、だんだん自分の心が重くなってくることはありませんか? 実は、人の話を「つらいね」「かなしいね」と同じ立場で受け止めていると、聞く側も精神的に疲れてしまうことがあります。
「『そんなことがあったら、(あなたが)つらくなっちゃうよね』というように、(i)メッセージで相手の気持ちを認めつつ、相手と同じ気持ちにならない聞き方を心がけてください。話を受け止めるときは、同じ感情を抱かなくても実は大丈夫なのです」
むしろ話を聞く側が意識的にお互いの距離感を図り、負担が大きくなりすぎないよう、自分の安全を守りつづける方が大切だと石井さんは説明します。
「人の悩みに寄り添うとき、最も重要なのは相談者を孤立させないこと。友人にしろ、恋人にしろ、支え手が折れてしまったら、悩みを抱える本人はひとりぼっちになってしまうかもしれません。LINEなどでSOSを受け取った場合は、『秒で返信』にとらわれないようにして、余裕がなければ、支え手も言葉を探す時間を取るようにしてみてください。1時間待ったら、よりよい言葉を思いついたり、相手のためを思う反応や返答が見つかったりするかもしれません。『冷静になって返したかったから、時間がかかってごめんね』と添えてもいいと思います」
気持ちを文字にした時点で、悩んでいる側はいったん心が落ち着いたり、自分の感情を客観的に見つめられるようになったりします。
「もし相手に何か言われても、返信は自分のペースですると割り切って。時間をおいてもきちんと返事をし続けていれば、『この人からはすぐ返事がなくても大丈夫』と思ってもらえるはずです」
一人で抱え込まず、誰かと一緒に大事な人を守って
NPO法人Light Ring.は、支え手の支援をする団体。悩んでいる友人や恋人、家族の力になりたい若者が、支え方を学んだり、別の支え手とつながったりできるよう、オンラインの居場所を提供しています。
学校の授業の一環として行われる「若者の自殺予防ゲートキーパー研修」は、支え手を育成するプログラム。異変に気付く力、傾聴力、専門家に繋ぐ力を学んだ後、悩みを聞く実践を通して、自分がどのような方法で周囲を支えられるかを考えます。
「『若者向けゲートキーパーの居場所事業ringS』は、支え手を支援する二部構成のプログラムです。一部では支え手が燃え尽きないためのセルフケアを学び、二部ではほかの支え手とそれぞれのケースを持ち寄り、ともに考えます。その人が寄り添う相手に医療的介入の必要なタイミングには、専門家につなぐ支援も行っています」
誰かを支えるのは、体力と精神力がいること。石井さんは、Light Ring.の活動でも、支え手に複数人で大事な人を手助けするようアドバイスしています。
「一人で支えようと思わず、寄り添いたい相手が別の友達やスクールカウンセラー、心療内科など、複数人に生きづらさを吐き出せる状態を作りましょう。相手が助かりやすいだけでなく、支え手自身が行き詰まるのを防ぐこともできます」
石井さんが支え手に必要だというのは、“横の関係”と“斜め上の関係”。横の関係とは、同じ境遇の人たちと互いをねぎらい合える人間関係。斜め上の関係とは、だれかを支えるために必要な情報やアドバイスをくれるスーパーバイザーとの関係です。
支えることに疲れたときには、支え手も誰かに心のうちを明かしてほしいと石井さん。Light Ring.は、その助けになりたいと話します。
「心は元気かな?」と確認する習慣を
新学期は、環境の変化で誰もが不安定になりやすい時期。最後に、石井さんが教えてくれた「異変に気づくためのチェックリスト」を紹介します。ときおり自分や大事な人の様子を振り返りながら、「心は元気かな?」と確認してみてください。
・外見の変化……表情が暗い、毎日同じ服を着ている、なんとなく元気がなさそう、体に不自然な傷があるなど
・言葉の内容・量……普段よりネガティブな発言をしたり、無理に明るく振る舞ったりしている、いつもは口にしないような話をする、不満や他者を攻撃するようなことを言う、言っていることがコロコロ変わるなど
・行動……遅刻や休みが増える、周囲の関わりを断ち一人になりたがる、行動のスピードが遅くなるなど
・食生活……いつもより食べられない、または食べ過ぎる、甘いものや辛いものがひどくほしくなるなど
・嗜好品……コーヒー、お菓子、栄養ドリンク、酒、タバコなどをひどくほしくなる
・睡眠……寝付きにくい、夜中に目が覚める、眠りすぎる、起きられないなど
あなた自身に当てはまることがあれば、それは気持ちが不安定になっている証拠。日の当たる公園でボーッとしたり、友達とおしゃべりをしたり、ときには専門家に頼ったりしながら、この時代を生きのびている価値あるあなたの心をゆっくりと十分にいたわってあげてください。
(取材・執筆:有馬ゆえ 企画・編集:鬼頭佳代/ノオト)
取材先
石井綾華(いしい あやか)さん
NPO法人Light Ring.(ライトリング)代表理事。精神保健福祉士、厚生労働科学研究 革新的自殺研究推進プログラム 研究者、若者自殺対策全国ネットワーク共同代表・設立発起人。2010年より、自殺・孤独・孤立防止の観点から、若者が若者を支える”ソーシャル・サポート”の事業を全国に展開している。
※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2021年4月7日)に掲載されたものです。