母親が重たい、干渉が辛い。母子関係に悩む中高生が自分らしく生きていくためのヒント

専門家に聞く

2021/09/07

延々と母親の話し相手をさせられる。母親にひどく干渉され、自分の意見を否定される。大好きな母親が、なぜかちょっと重い……。在宅時間が増えたコロナ禍、母子関係の悩みが深刻化しています。

「母が気に入る自分でなければいけないと思い込んでいませんか? 何でもかんでも子どもが我慢をする必要はありません。親と子どもの人生は、それぞれ別のものなのですから」

こう話すのは、長年、スクールカウンセラーとして多くの悩みに寄り添ってきた臨床心理士、公認心理師の下地久美子さん。

母親はなぜ重たい存在になりがちなのでしょう? 母子関係に悩む中高生が、母親とちょうどよい距離を取り、自分らしく生きるためのヒントを下地さんに教えていただきました。

コロナ禍、母子関係に悩む中高生が増えている理由

――コロナ禍、中高生がストレスを感じやすくなっているというニュースを目にします。母子関係に悩む中高生も増えていますか?

コロナ禍で、母子関係など家庭内に悩みを抱える子が増えているのを感じます。背景にあるのは、コロナ禍の家庭環境の変化です。

親がリモートワークになってともに過ごす時間が増えたり、失業など収入面で不安定になったりすることで夫婦仲をこじらせ、その影響が子どもに及んでいることもあるようです。ストレスによる家庭内の緊張が、DVや育児放棄、母子関係の悪化といった形で現れていると考えられます。

――そもそも、母子関係に悩む中高生たちはどんなことに苦しんでいるのでしょうか。

幼いころから母親の相談相手になったり、買い物に付き合ったり、ときに家事を代ってあげたりと、日常的にお世話をさせられている子が多いです。父親や親戚の悪口を延々と聞かされ、そのことで他の人と良好な関係を結びにくくなる子も少なくありません。

また、趣味やファッション、進路など、あらゆる選択に対してうるさく口出しされるほか、意見を全否定される、他人が言わないような辛辣な指摘をされるといった例もよく耳にします。

コロナ禍になり、子どもに外出をさせない、誰とどこに出かけるのか詳しく言わないと外に出さないなど、行動の自由を厳しく制限する母親もいるようです。

子どもは母親の愛情を求めるものなので、母親に何か言われると「お母さんを助けたい」「お母さんを喜ばせたい」とがんばってしまいがち。ただ、思春期以降になると、「母親の期待に応えたいけれど要求に答えるのがつらい」「芽生えていく自分らしさを優先したいけれど母親を裏切れない」といった、相反する気持ちに引き裂かれていきます。

母親が重たくなるのは、子どもではなく社会のせい

――そもそも、なぜ母親は重たい存在になりがちなのでしょうか。

根本にあるのは、母親が一人で子育ての責任を背負わされがちだという、子どもとは無関係な社会の問題です。

中高生の母親は主に40~50代。彼女たちが出産をしたのは、今よりもずっと「家事、育児は母親の仕事」という固定観念が強い時代でした。子育てをしながら働くことが難しく、結婚や出産で仕事を辞めた人、産休・育休を取って元の仕事ができなくなったり、昇進を諦めたりした人もいたでしょう。

一方で、当時は長時間労働が当たり前の時代でもありました。父親が朝から晩まで家にいないため、中高生の母親世代はパートナーの協力を得られず、子育ての責任を1人で背負ってきた人が多い。

周囲からも「子どもの出来不出来を左右するのは母親だ」というプレッシャーをかけられ、「いい子に育てなければ」とがんばってきたはずです。子どもだけが生きがいになり、依存していく人も少なくありません。

――子どもによりよく生きてほしいという思いが、いつしか「こんなふうに育ってほしい」という理想の押しつけにつながってしまうのはなぜですか?

1つは、母親が目指しているのが「世間的ないい子」「親が描く理想の子」であり、「その子らしく生きられる子」ではないということ。もう1つの理由は、母親側が子どもと自分の境界線を引けていないことです。

産後、母親の仕事は、何もできない赤ちゃんを24時間お世話することから始まります。本来ならば、子どもの成長にともなって、親は少しずつ子どもの手を離し、自立させていかなければならない。しかし、子どもに依存している母親はなかなか子離れができず、いつまでも乳児期のような近い距離で接してしまうのです。子どもを自分の分身のように考えたり、子どもを支配しないと気がすまなかったりする場合もあります。

「あなたのためだから」と、他人でも言わないようなひどいセリフを子どもに浴びせかける母親がいるのは、そのせいです。どこかで、子どもは常に自分の下であるべきだという無意識もあって、無遠慮に介入してくるのでしょう。

――母子関係に悩む子に、性差はあるのでしょうか?

スクールカウンセラーとして相談を受けるのは女の子が多いですね。母親は同性である娘に親近感を抱くので、息子よりも頼りやすいのです。

また、同性である娘には、母親は自分を重ねやすい。母親自身が「社会で自分らしく生きることができなかった」というモヤモヤを抱えているがために、娘の未来に必要以上に理想を押しつけたり、自分と同じ苦労をさせないためによかれと思って口出しをしたり、反対に嫉妬して邪魔したりしてしまうのは、よく聞く例です。

あまり表には出てきませんが、「男は弱音を吐いてはいけない」とつらさを打ち明けられないでいる男の子たちもいると想像しています。夫婦仲が悪いせいで息子に父親代わりをさせ、恋人のように頼って気持ちを満たしている母親もいるからです。

重たい母親との付き合い方

――いつまでも手を離してくれない母親と、子どもはどのように付き合えばいいのでしょう。

まず母子関係に悩む子たちには、親と子どもは別々の人生を生きる人同士なのだとわかってほしいですね。「お母さんのことが大好きで、大切だ」という気持ちは、とてもすてきな感情。ただ、なんでもかんでも我慢して母親に付き合わなくても大丈夫。

もし親の夫婦関係に問題があるなら、それは2人が考えるべき問題。精神的に不安定な母親が心配なら、ほかの家族や専門家の手を借りた方が状況は改善しやすい。親子であっても、それぞれの人生はそれぞれが責任を持つものなのです。

子どもの人生は子どもの人生として認められるべき。親だけでなく自分自身も大事にして、嫌なことは嫌、つらいときはつらいと言っていいんですよ。

――母子関係に悩む中高生が自分の意見を言えるようになるためには、どうすればよいですか?

母親とのあいだにきちんと境界線を引くのであれば、「お母さんはそう思うんだね。私はこう思ってるんだ」と、母親の意見を認めつつ、自分の意見を言えるのが理想的です。ただ、母親との関係に悩む子たちの中には、「嫌だ」と言えないばかりか、何が嫌かもわからなくなっている子もいるでしょう。

それならば、最初は自分の意見を育てることから始めましょう。家庭以外の場所でいろいろな人やものと出会い、影響を受ける時間を増やすのがおすすめです。人は、家族以外の人と触れあうことで、少しずつ自分の個性を見つけていくのですから。

今は、「お母さんの価値観=自分の価値観」かもしれません。でも、家の外の世界でさまざまな価値観を持つ人と出会い、それらの価値観を取り入れていけば、自分なりの価値観が育つはずです。

家のなかで母親とうまく距離を取るテクニック

――自宅時間が増えている中高生は、どうすれば母親とうまく距離を取れるのでしょうか。

1つは、物理的に距離を取るために、家庭と学校以外の居場所を作ること。塾や習い事、図書館、自習室のほか、近所に居心地のいい公園やお店を見つけるだけでも助けになります。

家の外に信頼できる人、自分の味方になってくれる人を作っておくと、「一人じゃない」「自分には相談できる人がいる」と思えて救われることも。学校や塾、習い事の友達、先輩、先生でも、学校の保健室やスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーの先生でも、自治体の子どものための相談窓口など、頼れるところは積極的に頼りましょう。

誰かに相談をするとき気をつけたいのは、人には相性とタイミングがあるということ。いい相談相手に恵まれなかったときは「今は合わなかった」と思って、別の人を当たるといいですよ。どこかには必ず味方がいるはずですから。

――家の中で母親と一緒にいるときはどうしたらいいですか?

時間的、空間的に距離を取る工夫ができると、自分自身を守れます。例えば、延々と母親の話し相手をさせられてしまうのであれば、勇気を出して「今日は●時から勉強したいから、それまでにして」と言ってみて。あなたの時間を使うのだから、どれくらい使うかは自分で決めていいのです。

勉強や部活など、自分が今すべきことを言い訳にすると、母親も文句を言いづらい。もし嫌味を言われたり、受け入れてもらえなかったりしても、自分の人生を大切にする時間を意識的に取ってほしいですね。

1日1時間でも、好きな音楽や本に逃げこんだり、信頼できる友達や先輩と連絡を取り合ったり、没頭できる趣味に打ち込んだりできると、心の余裕が生まれやすいですよ。

――空間的に距離を取るにはどうしたらいいですか? 自室のない人は、折りたたみ式の学習用デスクパーティションなどでもいいのでしょうか。

いいと思います。お風呂やトイレに好きな本やマンガ、アロマオイルなどを持ち込んだり、空想の幸せな世界にいるイメージを持ったりと、自分が安心できるアイデアを持っておくと役立ちます。朝、みんなが起きる前に起きて散歩をするだけでも、リフレッシュできるはずです。

保護者と生活をともにせざるを得ない中高生も、いずれは親元を離れ、自分の人生を一人で歩いていくことになります。いつか自分らしい人生を謳歌するために、お母さんともお父さんとも違う自分自身を自ら大事にする練習をしてほしいですね。

スクールカウンセラーとして環境や人間関係に悩む中高生と接して、彼女ら、彼らがなんとかがんばって生きようとしているのだとよく知っています。私は、そんな皆さんのことを心から応援しています。

(取材・執筆:有馬ゆえ 企画・編集:鬼頭佳代/ノオト)

取材先

下地久美子(しもじくみこ)さん

臨床心理士、公認心理師。臨床心理学の研究・心理相談機関「フェリアン」スタッフ。大学院修了後、中・高等学校でのスクールカウンセラー、専門学校学生相談室カウンセラー、保健センター心理判定員など、子どものカウンセリングに携わってきた。現在は大阪市こども相談センター(嘱託)も務める。

https://felien.co.jp/

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2021年9月7日)に掲載されたものです。

この記事をシェアする