キャリアの考え方は2種類ある。高校生と企業の出会いをつくる「ぎふ地域留学」に学ぶ、コロナ時代の歩き方

専門家に聞く

2020/10/06

新型コロナウイルス感染症によって私たちの生活は様変わりしました。企業の合同説明会の中止・延期、職場見学の未実施など、その影響は学生の就職活動や課外活動にも色濃く現れています。

学生と企業を繋ぐ機会が姿を消してしまった今、これから社会に出る学生はどのように企業と出会えば良いのでしょうか。そして、不確定な時代にどのようなキャリアを築いていけば良いのでしょうか。

高校生と地域企業の出会いのきっかけをつくる「ぎふ地域留学」を主催するNPO法人G-netの棚瀬規子さんに伺いました

地域の企業や大人との出会いの機会をつくる

岐阜にあるG-netは、地場産業・伝統産業・まちおこしなどの長期実践型インターンシップや中小企業の採用支援などを展開するNPO法人。2001年の創業から19年に渡り、学生のキャリア教育に携わってきました。

中小企業の経営者の元にインターン生として弟子入りし、新規事業や商品開発、販路拡大などに中心的に関わる「長期実践型インターンシップ」。兼業・プロボノという形で、生まれ育った地元や大好きな町に関わる「ふるさと兼業」。

「長期実践型インターンシップ」の受け入れ先企業と学生。

長年、大学生向けのプログラムを提供してきたG-netが、地域密着型の事業を展開する中で見えてきたのが、「高校生向けプログラム」へのニーズでした。

「大学生と面談すると、『大学の学部はなんとなく選んだ』、『憧れの大人に出会ったことがない』、『社会人になってからの働き方を想像できない』との声をよく聞きます。一方、ふるさと兼業に参加する社会人に聞いてみると、学生時代に地域のおもしろい大人に出会った、岐阜をフィールドに活動していた、何かしらの経験が都市部に出て行った今も生きていることが多いのです。そうしたことから、より早い段階で地域と関わるプログラムをつくることへの関心が高まりました」

G-netの本社がある岐阜市は、約40万人が暮らす地方都市。岐阜駅から名古屋駅までは電車で30分足らずの便利な立地にあります。それゆえに、大学進学や就職を機に、名古屋をはじめとする都市への人口流出してしまうのが地域の課題の一つでした。

そこで、「大学進学や就職前に、地域の魅力を知ったり、かっこいい大人と出会ったりできれば、その後の人生が変わるかもしれない」という思いから、高校生と地域の大人が出会う機会として2020年3月からスタートしたのが、『ぎふ地域留学』です。

オンライン化で見えた高校生の可能性

まず2020年3月には、2日間の「ぎふ地域留学」プログラムを実施しました。コロナの影響で、一部内容を変更し全てオンライン実施となりましたが、16名の高校生が参加しました。

1日目はテレビ会議を使いながら岐阜県内6社をオンライン企業訪問、2日目はアウトプットのワークショップ。棚瀬さんは「オンラインで実施することに、不安があった」と振り返りますが、蓋を開けてみると、運営側の想像を超えて高校生の可能性に気づく機会になったそうです。

オンラインイベントには、地元企業と岐阜を中心とした高校生が参加。

「高校生はオンラインへの適応能力が高く、スタンプやチャットを駆使して次々に質問や反応を示してくれました。逆に、オンラインでのイベント運営に慣れない私たちが助けられましたね」

プログラム参加の数日後、「出会った企業をリアルで訪問したい」と三重県在住の高校生が岐阜のG-net事務所を訪れたそう。そんなご縁が重なり、現在は「ぎふ地域留学」の高校生スタッフとしても活躍中です。

「その高校生はN高等学校(学校法人角川ドワンゴ学園の運営する通信制高校)の生徒であることもあり、オンラインツールに詳しい。G-netスタッフだけではなく、繋がりのある地元企業さんがオンラインイベントをする際に相談を受けたり、ツールの使い方講座を実施したりしています。年齢も場所も関係ない。何かしらの武器があれば、仕事ができる時代になったと実感した出来事でした」

3月に実施したプログラムを踏まえ、現在は月1〜2回のオンラインイベントと、夏休み・春休みのフィールドワーク型プログラム(コロナの状況によりオンラインに変更)を開催中。気軽に外出できない中、高校生と地域企業を繋ぐ貴重な機会になっています。

3月のイベントに参加した高校生スタッフが、その後自主企画したYoutube配信イベント。社長による会社説明に加え、カメラを持って工場をご案内していただき、本当に現地を訪れているかのように会社を知る機会となりました。

キャリアには「山登り型」と「川下り型」がある

社会が大きく変化する中で、生き方や働き方を見直す人も出てきています。これから社会に出る高校生とっても、大きな転換期になるはず。withコロナ時代を迎えた今、キャリアを築いていくために、どのような考え方が必要なのでしょうか。

「何が起きるかわからない時代になりました。困難もある反面、可能性も感じています。よく学生に話すのですが、キャリア形成の代表的な考え方には2種類あります。一つが『山登り型』、もう一つが『川下り型』です。どちらが良い悪いではありませんが、先行き不透明な今、『川下り型』で考えられると、心が少し楽になると思います」

「山登り型」とは、「社長になる」「教師になりたい」というように明確な職業がイメージできるキャリア選択の仕方。子どもの頃によく聞かれた「将来、何になりたい?」との質問に答えやすいのは、山登り型の考え方を持つ人です。

一方、「川下り型」は、興味があることをまずやってみて、その経験を次に生かしながら仕事を選んでいくキャリア。「おもしろそう」や「好き」な気持ちから小さく挑戦して、選択肢を広げていく考え方です。

「『山登り型」は、『○○になるために○○をする』と積み上げていくタイプのキャリアです。将来を考える上で、おそらく多くの学生が『山登り型』を想像し、自分は何者になりたいのかを考えるでしょう。でも、大人に話を聞いてみると、『川下り型』の人が結構な割合でいることに気づくはず。『川下り型』の考え方もあると知っているだけでも、キャリア選択は変わってくると思います」

棚瀬さんは、大学卒業後、遺跡の発掘調査を行う会社に入社。身近な誰かのためにも仕事をしてみたいと、2013年G-netへ転職。大学連携プログラム、年間200名近くの学生とのキャリア面談、地域の中小企業の採用活動に伴走など幅広く関わっています。

実際、「ぎふ地域留学」でお話をしてもらう社会人ゲストも、意図せず『川下り型』が多いようです。

「例えば、8月のイベントでは、後継ぎとして企業の社長になられた方や自分で起業されている方にお話をお伺いしました。後継ぎや起業家と聞くと、元から『○○をする』と決めているように思われがちですが、実際はそうではない。『何をするか』を先に決めたのではなく、自分の興味があることやおもしろいと思うことから始めて、今に至っている場合はよくあります。チャレンジと失敗を繰り返しながら、キャリアを築いているんです」

「川下り型」でキャリアの選択肢を増やそう

後継ぎや起業家に加え、若手社会人など様々なキャリアを持つ先輩とじっくり話す時間を持てる「ぎふ地域留学」。数々の出会いは、若い感性を刺激し、高校生の働くことの解像度を上げています。

「何者になりたいのかを考えたり、たった一つのものを見つけようとしたりするのは大切ですし、永遠のテーマではあります。でも、『何者かにならないといけない』と焦る必要も悲観する必要もありません。『おもしろいそうだからやってみよう』と、小さく始めることで、将来やりたいことも増えていくんじゃないでしょうか。だって選択肢は多い方がいいですから」

イベントに登壇したゲスト企業。

先の見えない時代、「正解なんてないから、やりたいことをやったらいい」とメッセージを送る社会人ゲストも多いそうです。

「何が正解で何が間違っているかわからないからこそ、まずはやってみる。『DO』を意識した方が安心できるんじゃないでしょうか。興味関心から小さく始めて、失敗も経験しながら、次の仕事に生かしていけばいいんです。『○○になる』ではなくて、『○○が好き』があればいいはず。好きから仕事になることもあるし、趣味になることもある。本当は、それだけでいいんです」

大きな時代の節目にある今、キャリアの話題は、高校生や大学生に限らず誰にとっても関心のあること。時に不安な気持ちになることもあるかもしれませんが、「山登り型」と「川下り型」の考え方を知っているだけで心が楽になりそうです。

時代の移り変わりに柔軟に対応しながら、自由に航海できる「川下り型」のキャリアを支えるのは、人や企業との出会いです。「ぎふ地域留学」のような場から、キャリアの選択肢を増やしていきませんか。

(企画・取材・執筆:北川由依  編集:鬼頭佳代/ノオト)

専門家のプロフィール

NPO法人G-net

2001年創業。岐阜を中心に、地場産業・伝統産業・まちおこしなどをテーマに、中小企業に学生が弟子入りし、社長の右腕として活躍する「ホンキ系型インターンシップ(長期実践型)」や兼業マッチングサイト「ふるさと兼業」を運営。地域の中小企業と主体的に行動する前向きな若者をマッチングし、地域課題解決を目指しています。

https://gifuryugaku.net/

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2020年10月6日)に掲載されたものです。

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