もし子どもにLGBTと打ち明けられたら? LGBTに関連する新しい言葉“SOGI”の概念とは――「LGBTの家族と友人をつなぐ会」理事インタビュー
専門家に聞く
2018/01/18
近年、LGBTという言葉をテレビやネットで見かけることが多くなり、その認知度は高まりを見せている。
もし自分の子どもからLGBTであることをカミングアウトされたら?
神戸・東京・福岡・名古屋を拠点に、LGBT当事者やその家族のためのミーティングを開催している「LGBTの家族と友人をつなぐ会」の理事に話を聞いた。
「100人いれば100通りの性がある」と子どもが教えてくれた――性の多様性
――「LGBTの家族と友人をつなぐ会」を発足した経緯を教えてください。
「LGBTの家族と友人をつなぐ会」は2006年4月、LGBTの子どもをもつ親同士で発足した会です。発足前の1月、私は息子からゲイだとカミングアウトを受けました。
息子が私に話してくれたことは、当時、どこからも教わらないような内容でした。私は息子から「性の多様性」を教わったんです。
私が知らなかったように、きっと私の周りにも、息子のような子どもが普通にいることを知らない人がいる。子どものサポートに悩む親御さんもきっといるはず。そう思うようになりました。
ある本の中で、海外にはPFLAGというLGBTの子どもをもつ親や友人をつなぐ会があることを知りました。日本にもあればと思い、あちこちに聞いてみましたが、当時の日本にはまだそのような会はありませんでした。
途方に暮れていたところ、ある本をきっかけに一人の大阪府議会議員(当時)とつながることができ、その方が私と同じように子どもからカミングアウトを受けたという親御さんを紹介してくださり、同じ立場の方と集まることができました。それが「つなぐ会」のはじまりです。
――「LGBTの家族と友人をつなぐ会」はどのような活動をしているのでしょうか。
LGBTの子どもをもつ親御さん、家族の方、当事者の方、そしてLGBTに関心を持つ方、どなたでも参加できるミーティングを開催しています。現在は、神戸、東京、福岡、名古屋で開催しており、他にも講演会やワークショップを行っています。
つなげて広めていく、みんなとつながっていくことでみんなに知ってもらう。そして、当事者だけが解決する問題や当事者の家族だけの問題ではなく、社会の問題だ、ということを知ってもらう。そういう想いを込めて会の名前に「友人」を入れたんです。
あらゆる人たちが自分らしく生きられる社会になってほしい、それが私たちの願いです。
セクシュアリティや立場を越えて、みんながつながる
――日本でLGBTの認知度は高まっていると思いますか。
認知度は本当に高まっていると思います。当事者のカミングアウトや勇気ある活動の成果によるものだと思います。それと同時に、それを受け止め理解できる方々も増えてきたのかな、と思いますね。
――「LGBTの家族と友人をつなぐ会」も認知度の高まりに貢献されている実感はありますか。
私たちがどこまで貢献できているかはわかりませんが、「つなぐ会」発足後、一冊の本が発表されました。『カミングアウト・レターズ:子どもと親、生徒と教師の往復書簡』という本です。ゲイ/レズビアンの子とその親、生徒と教師の往復書簡が綴られていて、その最後に、「つなぐ会」の座談会が収録されています。その本は「つなぐ会」を知ってもらう大きなきっかけになりました。
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――ミーティングを見学させていただいて、親御さん同士が気軽に話せる雰囲気がよいなと思いました。
参加されて号泣される親御さんもいます。最初は何も話さない方が、2回目、3回目と回を追うごとに笑顔になられることもたくさんあります。仲間に出会えることってとても大きいです。当初は神戸にしか「つなぐ会」がなかったので、静岡や東京、仙台から来られる方もいました。
こんなに遠いところから来られる方もいるのだ、各自治体に一つくらいこのような、何の気兼ねもなく話せる場があればいいなとも思いました。「つなぐ会」は発足から12年、ようやく4拠点を構えることができました。
つなぐ会の参加者は、セクシュアリティも立場も年齢もさまざまです。親が自分の子どもには聞けないことを他の当事者から聞くことができ、また当事者が自分の親には聞けないことを他の親から聞くことができます。当事者の方から、他のセクシュアリティを持つ当事者の苦しみを知ることができた、という声を聞くこともあります。みんながつながれる会を作って本当によかったなと思います。
世界はLGBTからSOGI(ソジ)へと進もうとしている
――LGBTという言葉で性的マイノリティをまとめられていることに違和感はありますか。
会の名前にはわかりやすいように「LGBT」と入れているのですが、最近はLGBTQだったりLGBTTQQIAAPだったり、とても長くなっていますよね。
「100人いれば100通りの性」と息子から聞いたとき、腑に落ちるものがあったんです。だから、セクシュアリティはLGBTだけではないし、マイノリティだとすればみんながマイノリティだと言えるのではないか、と最初から違和感がありました。私は同性に対して恋愛感情を持ったことはないですが、それは「異性を好きになるのが当たり前」と思っていたからであって、可能性としてはあるのかも、と。
――SOGI(ソジ)(※1)という新たな言葉があると聞いたのですが。
(※1)Sexual Orientation and Gender Identityの頭文字を合わせた呼称。直訳すると「性的指向と性自認」。国連の国際人権法などの議論で使われている。日本語では「ソジ」または「ソギ」と呼ばれることが多い。
SOGI(ソジ)が生まれた背景に、当事者であるかどうかは周りが決めることではない、という考え方があるのでは、と思っています。
例えば「それはLGBTハラスメントだ」という表現をしたとき、対象者は当事者になりますよね。つまり、当事者であるということが明らかになるということです。それがさらに差別を助長することにつながるかもしれません。
SOGI(ソジ)という言葉は「誰にでも性的指向・性自認がある」という考えを示すもの。SOGI(ソジ)とすることで、差別的な概念が取り払われ、ある意味全員が当事者意識を持つことができます。
LGBTという問題ではなく、すべての人の問題として捉えるという動きは、社会が、人間が一歩大きく前進したと思いますね。
――最後に一言お願いします。
カミングアウトできる社会に、カミングアウトしなくてもいい社会に、そしてもしカミングアウトされても親が悩まなくてもいい社会になってほしいと思っています。そしてつなぐ会のような団体が必要とされない時代が来ることを願ってやみません。
さまざまな価値観を教えてくれて、いろいろな人と出会わせてくれた子どもたちには本当に感謝しています。人間は多様だということを知ることが大切です。みんなそれぞれ違っていいということ、一人ひとりがかけがえのない存在だということを教育の根幹に置けば、社会はもっと変わることでしょう。
(企画・取材・執筆:水本このむ 編集:田島里奈/ノオト)
取材協力
※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2018年1月18日)に掲載されたものです。