スマホ学習で大卒資格が取れる! 今春開学の「東京通信大学」ってどんな大学?
専門家に聞く
2018/03/25
IT技術の発展とともに、学び方のスタイルも多様化している。パソコンやタブレットを積極的に活用し、eラーニングを導入する教育現場も増えてきた昨今。この春には、スマホ学習で大卒資格が取得できる「東京通信大学」が開学する。すでに同大学には高校生、社会人の他にも海外在住者や親子2代での受験など、多彩な層から出願があるという。
とはいえ、もし自分が実際に進学をするとしたら「働きながらでも通えるのか」「将来、学びはどのように役に立つのか」「通学しないで本当に大丈夫か」といった不安があるのも正直なところ。東京通信大学ではどのような講義が行われ、何をゴールに設定しているのか。村岡洋一学長に話を聞いた。
情報と福祉は、今後ますますニーズの高まる分野
――オンラインで大卒資格が取得できる点が非常に注目されています。東京通信大学の最大の特色は何でしょう?
いわゆるeラーニングを取り入れている大学はすでに数多く存在しています。しかしこれまでの事例の大半は、対面授業の様子を録画してオンラインで配信するなど、あくまでも既存の講義の付加価値を高めるための取り組みでした。
東京通信大学ではそれをさらに一歩進め、eラーニングだけで単位を取得できる仕組みを作っています。学部は「情報マネジメント学部」と「人間福祉学部」の2つ。いずれも世代や立場を問わず、学ぶ意欲を持つすべての方を対象に、次世代を担う優秀な人材の育成を目指します。
――「情報」と「福祉」を学部に選んだのはなぜですか?
一説によると10年後には、今の若者の8割は「現在はまだ存在していない仕事」に就いていると言われます。そうした変化の激しい時代を生きていく上で、今すぐに使える知識だけを重視するのではなく、応用力をもって新しい力を自ら蓄えていける人材を育てることが重要であると考えています。
そのため、「情報マネジメント学部」では、単にプログラミングやシステム開発の技能を身につけるだけでなく、ITを活用して課題を解決できる、トータルな意味でのマネジメント能力を養うことを目的としています。
「人間福祉学部」も同様に、変化の激しい福祉の世界を念頭におき、その時々の社会的課題を的確に把握し、対応できる能力の習得を目的とします。今後は福祉について家庭や地域でも受け入れ体制を整備する必要があります。ただ国家試験に合格するだけでなく、時代や状況に合わせて包括的に福祉の仕事に従事できる人材の育成は欠かせません。
そして、これからの時代は福祉の分野でも情報技術がさらに活用されるようになり、ITの現場に福祉の事情を知ってもらう必要性も増していくでしょう。そのために、2つの学部が学習の過程で、相互に交流し合えるのが理想ですね。
リアルなキャンパスを持たなくても、学びを広げられる環境をつくる
――実際の講義は、どのような形式で進められるのでしょうか?
1コマの講義は、約15分の動画4本と小テスト1回です。それを合計8コマ受け、単位認定試験に合格、あるいはレポートを提出することで、1単位を取得できます。
学生の皆さんはそれぞれ自分のスケジュールに合わせて、パソコンやタブレット、スマートフォンなどのデバイスで講義の受講が可能です。会社員なら通勤中や就業後、主婦なら家事の合間など、時間を有効に使いながらカリキュラムを進めることができます。
すべての授業はオンラインでの完結が基本です。ただ、人間福祉学部はスクーリングと実習が必要なので、東京、大阪、名古屋の3つのキャンパスのほか、全国の主要都市に設けられた会場でスクーリングを実施し、本学の提携施設で実習を行います。学習相談はオンラインシステムでも対応しますが、電話、あるいはキャンパスで直接やりとりできる体制も整える方針です。
――ほぼすべてのカリキュラムをオンラインで進められる点について、現状考えられるデメリットはありますか?
強いて挙げるとすれば、サークル活動などのキャンパスライフを伴わないため、学生同士の日常的なコミュニケーションを通した体験が得られにくいことでしょうか。キャンパスライフは本来、科目以外の学びや発見の機会となりますから。
リアルのキャンパスを持たずにそうした機会を学生の皆さんにどう与えられるかは、東京通信大学の大きなチャレンジとなります。この点については、実際に講義を進めていく中で様々な施策を講じていくことになるでしょう。
学ぶ意欲を持つ人に、新たな選択肢を
――学費は4年間で62万円※と、非常にリーズナブルに設定されています。
金銭面を理由に、学ぶ意欲のある人からその機会を奪うことがあってはいけません。しかしながら、単に受講料が安いだけでは学生はついてきませんから、学費を抑えること以上にカリキュラムと講義のクオリティをいかに上げていくかを第一に考えています。
――少子化によって経営難に喘ぐ大学も少なくないこの時代に、新たな大学を設立することに懸念や不安はありませんか?
一般的な大学と私たちとでは対象としている受講者の層が異なるので、それはさほど気になりません。ただ、たとえば社会人教育という視点で考えた時、今の世の中は社会人のスキルアップに必ずしも寛容ではない側面があります。まだまだ会社員が働きながら望む知識や資格を得るのは簡単ではなく、時間が捻出できない方や機会が得られない方は少なくないでしょう。
これは、学習の機会を提供する側の工夫と企業側の努力の両輪が作用しなければ、なかなか解決できないと思います。
――なるほど。東京通信大学という場が、教育の分野に新たな一石を投じることになりそうですね。
大言壮語を口にするのは容易ですが、実際には東京通信大学が誕生したからといって、すぐに世の中が変わるほど甘くはないでしょう。それでも、本当に学ぶ意欲を持っている人たちに選択肢が与えられることは重要で、その選択肢を提供する側の責任が私たちにはあります。東京通信大学から最初の卒業生が出る4年後以降に、本当の意味での本学の評価が決まるのではないでしょうか。
――現状で想定される課題はありますか?
新しいことを始めるわけですから、課題は数え切れないほど存在します。たとえば、今では各大学で当たり前になっているオンラインでの科目登録にしても、導入当初は予期せぬシステムエラーが頻発していました。私たちに今できることは、予想できるトラブルに対して対策を打ち続け、実際に講義がスタートしてからも、その努力を怠らないことですね。
※該当の科目を履修する場合には、上記の他に教材費、スクーリング費、インターンシップ費、実習関連費が必要。
それでも学びたい人々を全力でサポート
――初代学長として、東京通信大学というこの新たな取り組みについて、どのような点にやりがいを感じていますか?
ただ学ぶだけであれば、教員の存在がなくても、書物やインターネットから知識を身につけることは可能です。私は長年、教育の現場に携わってきましたが、「授業とは何か」「講義とは何か」ということを、今あらためて考えさせられています。その意味で教員とは、ディレクターでありアクター(俳優)でもあり、学生に対してフェイス・トゥ・フェイスで刺激を与えられる立場でなければならないでしょう。大学生活が、ただ単位を認定するだけの通過儀礼で終わっては意味がありません。
その上で、学生の皆さんが求め、世の中が必要とするものを、いかに効果的に提供できるか。これからの大学には求められるはずです。たとえば、米スタンフォード大学が無料公開したAIやデータベースに関するオンライン授業を見ても、時代に即した新しい取り組みがされていることがよくわかります。まさにそうした新しいチャレンジができることが、私にとっても大学にとっても大きな意義があると考えています。
――最後に、大学進学に迷いを持つ中高生の読者層に向けてアドバイスをいただけないでしょうか。
もし既存の大学と東京通信大学とで迷う余地があるなら、通学制の大学へ進むことを私はお勧めします。働きながら学びたい人や通学できない事情がある人など、東京通信大学への進学を望む人は何らかの明確な理由を持っているはずですから。私たちは、事情を持ちながらも「学びたい」という強い意思を持つ人たちを全力でサポートします。
そしてリアルのキャンパスを持たないとはいえ、様々な世代や立場の人と一緒に学べる環境も、これまでになかなかありませんでした。若い方々には、そこからもぜひ刺激を受けてほしいですね。
(取材・執筆:友清哲 編集:鬼頭佳代/ノオト)
取材協力
村岡洋一さん
東京通信大学学長。日本電信電話公社(現NTT)電気通信研究所、早稲田大学理工学術院教授、同大学副総長、日本学術会議会員などを歴任。 アメリカ・イリノイ大学Ph.D.。 現在、早稲田大学名誉教授、早稲田情報科学ジュニア・アカデミー総合監修。
※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2018年3月25日)に掲載されたものです。