お酒の飲みすぎ、服の買いすぎ、食べることがやめられない…あなたは何に依存している? 和歌山ダルクに聞く「依存症」の正体

専門家に聞く

2018/09/07

「依存症」(addiction-アディクション)とは、特定の何かに心を奪われ「やめたくてもやめられない」状態になることだ。

アルコールや薬物、ニコチンなどの“物質への依存”と、ギャンブルや窃盗、買い物、性行為、ストーキングなど、特定の行為や過程にのめりこんでしまう“プロセスへの依存”がある。

飲酒や買い物を適度に楽しめる人もいれば、依存症にまでなってしまう人がいるのはなぜ? もしも自分や周囲の人が依存症になったら、どうすればいい?

依存症からの回復を支援する、和歌山ダルクの島田ゆかさんと池谷太輔さんに話を聞いた。

民間の依存症リハビリ施設「ダルク(DARC)」

左から、和歌山ダルクの池谷太輔さんと島田ゆかさん

――ここは、依存症からの回復に寄り添う施設なんですよね。

島田:はい。ダルク(DARC)とは、ドラッグ(drug-薬物)、アディクション(addiction-依存症)、リハビリテーション(rehabilitation-回復)、センター(center-施設)の頭文字を取った言葉です。

2018年現在、ダルクは日本各地に100カ所ほどあります。それぞれの施設は独立していて、運営母体も違います。

▼全国のダルク等(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/yakubutsuranyou_taisaku/darc/index.html

池谷:ダルクの特徴は、「依存症の当事者が支援すること」「生活をともにすること」です。ダルクのメンバーは、基本的に入寮することになります。

島田:ここは和歌山県にある団体で、入寮施設の「ロイズホーム」を運営しています。日本で唯一の「母子入寮」ができる回復施設です。

――ここに入寮するのは、何に依存されている方が多いのでしょうか。

島田:覚せい剤への依存や処方薬への依存、アルコール依存症、買い物依存症、クレプトマニア(万引き依存症)などですね。摂食障害の人もいます。

お酒やギャンブルを適度に楽しめる人もいれば、依存症にまでなってしまう人がいるのは、なぜ?

和歌山ダルク代表理事の島田さん。最近は公認心理師の試験勉強にチャレンジ中。見た目もかわいい料理を作って写真を撮ることが、勉強の息抜きになっているそう

――飲酒や買い物は、日常的に行う普通の行動でもあります。対象に依存する人と、依存しない人の違いはなんでしょうか。

島田:依存する人としない人の違いは、その人の中にストレスや生きづらさがあるかどうか、そして、それを根本的に解決しようとしているか、依存対象でまぎらわせようとしているかどうかだと考えています。つまり、依存の対象側ではなく、自分側に原因があるという考え方です。

池谷:例えば、お酒を飲みすぎてしまう人が「お酒を飲むとストレスが解消されるから、自分にお酒は必要なんだ」と考えているとします。でも、自分がストレスを感じている原因を解決しないと、いくらお酒を飲んでも根本的な解決にはならないですよね。骨折しているのに保湿クリームを塗っているようなものです。

島田:しかも、依存症の人たちの中には、「自分がストレスを感じている原因」が何なのか、それ自体がわからない人が多くいます。もっと言うと、「自分がストレスや生きづらさを感じている状態にある」ということ自体を自覚していない人も多いのです。

――ダルクでは、その人が対象に依存してしまう根本的な原因は何なのかを一緒に考えるということでしょうか。

池谷:はい。ダルクでは、依存の原因である「生きづらさ」を探り、それを解消していくために「12ステッププログラム」と呼ばれる行動療法を行います。

アルコール依存症当事者が考案した行動療法

2017年から和歌山ダルクの運営に携わる池谷さん。元調理師。シンガーの氷室京介さんのファンで、BOØWYのファンが集まれる飲食店を開きたいと考えている

――12ステッププログラムとは?

池谷元々はアルコール依存症当事者のための行動指針で、アメリカでビル.Wをはじめとする最初の100人のメンバーが考えました。それを、和歌山ダルクでは、それぞれの依存対象に置き換えてセッションを行っています。

<12ステップ>
1.私たちはアルコールに対し無力であり、思い通りに生きていけなくなっていたことを認めた。
2.自分を超えた大きな力が、私たちを健康な心に戻してくれると信じるようになった。
3.私たちの意志と生き方を、自分なりに理解した神の配慮にゆだねる決心をした。
4.恐れずに、徹底して、自分自身の棚卸しを行ない、それを表に作った。
5.神に対し、自分に対し、そしてもう一人の人に対して、自分の過ちの本質をありのままに認めた。
6.こうした性格上の欠点全部を、神に取り除いてもらう準備がすべて整った。
7.私たちの短所を取り除いて下さいと、謙虚に神に求めた。
8.私たちが傷つけたすべての人の表を作り、その人たち全員に進んで埋め合わせをしようとする気持ちになった。
9.その人たちやほかの人を傷つけない限り、機会あるたびに、その人たちに直接埋め合わせをした。
10.自分自身の棚卸しを続け、間違ったときは直ちにそれを認めた。
11.祈りと黙想を通して、自分なりに理解した神との意識的な触れ合いを深め、神の意志を知ることと、それを実践する力だけを求めた。
12.これらのステップを経た結果、私たちは霊的に目覚め、このメッセージをアルコホーリクに伝え、そして私たちのすべてのことにこの原理を実行しようと努力した。

(『アルコホーリクス・アノニマス』より)

――「神」「自分を超えた大きな力」など、ちょっと馴染みのない……はっきりと言うと、日本人の多くが敬遠しそうな単語が入っていますね。

島田:確かに、現代の一般的な日本の人がいきなり「神」って言われたらびっくりしますよね(笑)。元々英語で考案され、キリスト教文化のアメリカで発展してきたプログラムなので、「God(神)」という言葉が入っているんです。

池谷:どう日本語に訳すかという問題だとも思うのですが、必ずしも「神」じゃなくてもいいんです。重要なのは「自分の考えだけではどうにもならないことがある」ということを受け入れること。

自分ひとりで一生懸命考えて「これですべてうまくいく!」と思っても、地震や大雨、津波など天災は起こるし、こんなに多くの人や生き物がこの地球に住んでいるんだから、自分の考えがすべて通るはずがありません。

依存症も一緒で、どんなに自分で「やめよう、今日こそやめよう」と考えても、どうにもならない病気なんです。「自分だけでどうにかしよう」という考えをいったん手放して、その上で回復を信じるために「神」という言葉が使われています。

迷惑をかけた地元の人たちに謝りに行ったら、自分の精神状態が変わった

アルコホーリクス・アノニマス』は、1939年に初版発行。70の言語に翻訳され、世界180カ国でAA(飲酒がコントロールできなくなった当事者たちの集まり)の基本テキストとして活用されている

――12ステップを読んで、9の「埋め合わせ」が一番ハードルが高いなと感じました。これは、傷つけた人に謝りに行くということですよね。

池谷:そうです。でも、「埋め合わせ」は強制的に行うものではなくて、自分が「埋め合わせをしたい」と思えた時に実行するものなので、そんなに構えなくて大丈夫ですよ。ダルクに参加したら、無理やり謝りに行かされるとか、そういうことはありませんから(笑)。

――池谷さんも薬物依存の当事者とのことですが、「埋め合わせ」は実行しましたか?

池谷:はい、それまでに迷惑をかけた人たちのところに謝りに行きました。本当に多くの人に迷惑をかけていたので、以前はシラフで地元を歩くことが怖かったんです。お恥ずかしい話ですが、私が道を歩いていると、「にいちゃんには売らん」と店を閉められるような状態で……。そこに一軒一軒謝りに行きました。

――謝りに行って、いかがでしたか。

池谷:応援してくれた人もいたし、許してもらえないところもありました。でも、終わって駅に向かっている時、景色がキラキラして見えて。行きは、謝りに行くのが怖くて下を向いて歩いていたのに、帰る時には全く違う気持ちでした。「やっと謝れた」と。それまでの人生でずっと背負っていたものを下ろせたような気がしました。

それから7年、クスリは使用していません。

依存の原因を解決しなければ、対象物を取り上げても、また何かに依存する

和歌山ダルクでの講義の様子。池谷さんが講師となり、入寮者が12ステップについて学ぶ

――やはり、12ステップを実行したことが依存から抜け出すきっかけになったのでしょうか。

池谷:そうですね。自分の気持ちに向き合い、「シラフで地元を歩くのが怖い→クスリを使う」など、自分の感じている恐怖や後悔などを紛らわそうとしてクスリを使っていたことを自覚できたことが、依存から抜け出す一歩になったと思います。

そして、12ステップを行動指針として、自分の生き方が変わったことが、依存から抜け出せた本当の理由だと思います。

――何かに依存していた頃とは行動や考え方を変え、依存しない生き方をしていくのですね。

池谷:そうです。生き方を変えなければ、対象物を取り上げても、その人はまた何かに依存します。私は「違法薬物の使用者に罰則だけ与えても意味がない」と考えているのですが、それはこうした理由からです。

島田:和歌山ダルクが身元引受人になって仮釈放された40代前半の女性は、今までに何度も刑務所に入っていました。彼女は「自分が依存症だと知らなかった」そうなんです。

「どうやったらクスリをやめられるかは、まったくわからなかった。クスリを使ってしまうことが病気だともっと早くわかっていたら、こんなに何度も刑務所に入らずに済んだかもしれない」と話していました。

違法薬物の使用者には法的措置を取れるので、ぜひそれを活かして、依存症とは何か、どうすれば依存から脱することができるのかを伝える機会を作りたいですね。

――記事を読んだ人へ向けて、メッセージをお願いします。

池谷:中学校や高校などで講演をする時に言うのは、「してしまったことを周りが裁くな」ということ。特に、子どもたちと毎日接する先生たちに、「やったらあかん」ではなくて、「なぜそういうことをやらなければならなかったのか」を考えてほしいと思います。依存行動や問題行動の根本的理由を考えられる社会になってほしいです。

例えば親などが依存症だったら、子どもにとってはものすごい恐怖だと思います。「嫌だ」と感じることがあったら、とにかく走って逃げてください。住まいが一緒だったり、養われていたりする場合、どうやってこの状況から抜け出せばいいのか、自分だけではわからないこともあるかと思います。まずは、周囲のいろいろな大人に伝えてください。1人に伝えて、何もしてもらえなくても諦めないで、たくさんの大人に状況を話してください。

島田もし周囲の人や自分が依存症かもしれないと思ったら、とにかくダルクに電話をください(TEL:073-496-2680、080-2427-5525)。私たちは和歌山県にいますが、他都道府県の方でも、そこの場所の支援グループや施設を紹介できるかもしれません。あなたが感じている痛みや苦しみを、ひとりで抱えないでください。

(企画・取材・執筆:田島里奈 編集:鬼頭佳代/ノオト)

取材先

和歌山ダルク

住所:〒641-0007 和歌山県和歌山市小雑賀3-2-12
TEL:073-496-2680、080-2427-5525
薬物依存症をはじめとする嗜癖行動問題に関する支援を行う施設。女性とその子どもへの支援をメインに活動する。

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2018年9月7日)に掲載されたものです。

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