オルタナティブ教育とは? シュタイナー、フリースクール、自宅学習などの種類や懸念点を調べてみた

専門家に聞く

2019/03/07

公教育などの伝統的な教育とは異なる「もう一つの教育」として注目される「オルタナティブ教育」。クラスになじめない、学習進捗が合わないなど、公教育のなかで生きづらさを感じている子どもの選択肢の一つとして、挙げられることもあります。

しかし、オルタナティブ教育で何を学べるか、卒業資格は得られるのか、子どもはどう育つのかなど、あまり知られていない部分もあります。

そこでオルタナティブ教育の基礎知識を整理し、どのような魅力や懸念点があるのかを専門家に伺いました。

そもそもオルタナティブ教育とは?

日本の公教育は、学校の種類や教科、指導要領、運営体制などが学校教育法で規定されています。

それに対して、オルタナティブ教育は、学校教育法の規定によりません。そのため、対象や運営体制もさまざま。例えば、少人数や異年齢集団の授業、子どもや親、スタッフによる自治、多様で柔軟なカリキュラム、共同的な学習などが特徴として挙げられます。

オルタナティブスクールで、卒業資格は得られるの?

学校教育法の第一条に定められている「シュタイナー学園」や「茂来学園 大日向小学校」などを除き、オルタナティブ教育を受けても、小学校・中学校・高校の卒業資格は原則得られません。

ただし、在籍する学校との連携により、オルタナティブスクールなどでの活動が出席扱いとされ、卒業資格を得られるケースも。保護者は子どもの状況を伝え、在籍校の承認を得る必要があります。

また、2016年12月に成立した不登校児童・生徒や夜間中学などを支援する通称「教育機会確保法」によって、今後フリースクールなど多様な学習活動に対する理解が公立学校でも求められるようになりました。

オルタナティブ教育には、どんな選択肢があるのか?

それでは、オルタナティブ教育の代表的な3つの選択肢を紹介します。

1.オルタナティブ教育法が導入されている学校への入学

画一的な伝統的教育に対峙する形で生まれた、子どもの自主性を尊重する教育法。選択幅の広いカリキュラムや少人数授業、グループ学習などの特徴があります。

よく注目されるのは下記の教育法です。

▼教育法1:芸術性と子どもの成長段階に合わせた課題設定を大切にする「シュタイナー教育」

オーストリア生まれの哲学者ルドルフ・シュタイナーが提唱した教育法。世界60カ国以上に展開されています。

<主な特徴>
・授業に芸術的要素を加える
・同じ科目を数週間続けて学ぶ(エポック授業)
・担任とクラスが変わらない
・人間の成長段階を7年ごとに分けそれぞれの時期に合った課題を設定する など

導入校例)
・「シュタイナー学園」
・「京田辺シュタイナー学校」

 ▼教育法2:子ども同士のコミュニケーションを重視する「イエナプラン教育」

ドイツのイエナ大学の教育学者である、ペーター・ペーターゼンが提唱した教育法。名古屋市の小中学校での導入が検討されるなど、日本でも注目が高まってきています。

<主な特徴>
・異年齢のグループ編成
・輪になって話し合う「サークル対話」
・複数の教科を横断して学ぶ「ワールドオリエンテーション」
・対話・遊び・仕事・催しの4つの活動を循環させる時間割 など

導入校例)
国内初のイエナプランスクール「茂来学園 大日向小学校」

そのほかにも、下記のような教育方法が導入されている学校もあります。

・対話を通じて、民主的な自治を行う「サドベリースクール」
・自由を保障し、子どもの好奇心を尊重する「サマーヒルスクール」
・子どもの発達段階に合わせた教育環境を整える「モンテッソーリ教育」
・自由作文を通じて、表現力や思考力を養う「フレネ教育」

2.いつでも入れる自由な場「フリースクール」「フリースペース」へ通う

生徒の自主性を重視する学習法を行い、公教育のような管理や評価などを行わない教育施設の総称。日本では、不登校の子どもの急増を背景に、親・市民・教育関係者によって立ち上げられた学校外の居場所・スペースと捉えられるのが一般的です。

全国各地に点在し、不登校の子どもの学校復帰から発達障がいの子どもの支援、居心地の良い場所作りまで幅広い目的で運営されています。また、一定の要件を満たせば、在籍校の出席扱いにしたり、通学定期券制度が受けられたりします。

3.「ホームスクーリング」として自宅で学習する

原則に学校に通学せず、家庭を拠点に学習を行う教育法。義務教育の一環として法律で認められているアメリカでは、5〜17歳の子どもが受ける教育の約3%を占めます。日本でも一定の要件を満たせば、在籍校の出席扱いとなります。

家庭によってスタイルはさまざま。学校のように時間割を定めて保護者が指導する、子どもの興味や自主性に基づいて放任する、インターネット講義やeラーニングを使用するなどがあります。

それ以外にも、
・通信制高校に通う生徒の勉強面と精神面を支援する「サポート校」
・主に外国籍の子どもを対象とし、英語での授業を行う「インターナショナルスクール」
などもオルタナティブ教育に含まれることもあるようです。

オルタナティブ教育の魅力や注意点は?

あまりにも多様な日本のオルタナティブ教育。現場はどんな状況にあるのか、子どもはどう育つのか、課題は何か。オルタナティブ教育を研究する聖心女子大学・永田佳之教授を訪ねました。

――日本と海外のオルタナティブ教育は何が違いますか?

その国(地域)の法律や文化によって、オルタナティブ教育のあり方は変わります。例えば、ホームスクーリングが法律で認められているアメリカと、放任されてきた日本では、ホームスクーリングをした子どもに対する周囲の反応や卒業に関する手続きなどが全く異なります。

こうした多様な状況を整理するため、世界のオルタナティブ教育を「クォリティ・アシュアランス(品質保証)」と「公費助成」の2軸を使って4つに分類したことがあります。

『オルタナティブ教育 国際比較に見る21世紀の学校づくり』(新評論)より

「クオリティ・アシュアランス(品質保証)」は、オルタナティブスクールの質保証のこと。高いほど、行政から細かいルールが設けられます。「公費助成」は、国や自治体からの金銭的な補助を指します。

例えば、日本のフリースクールなどは公費助成が少ないと同時に、カリキュラムや設備に関するルールも少ない「消極支援・放任型」にあたります。

ただ現在、世界のオルタナティブ教育の主流は「積極支援・管理型」(公費助成が多く、同時に細かな規定も設けられる)に向かいつつあります。その背景には、オルタナティブ教育の支援体制が各国で議論され始め、これまで市民の手によって営まれてきたオルタナティブスクールが公的な学習機関として認められやすくなっていることが挙げられます。

日本でも、多様な教育のあり方を望む声が大きくなるにつれて、「積極支援・管理型」に移っていくかもしれません。

――そうなると何が起こるのでしょうか?

「積極支援・管理型」はルールが細かく規定されるため、それぞれのオルタナティブスクールの独自性が失われる可能性があります。そこで大切なのが、デンマークのような「積極支援・育成型」(公費助成が多いが、規定は少ない)の視点をもつことです。

公費助成をしっかりとし社会全体で子どもを育む文化を作ると同時に、オルタナティブスクールの独自性を大切にする仕組みをどれだけ入れられるか。これが日本を含めた世界におけるオルタナティブ教育の課題の一つです。

――オルタナティブ教育らしさが失われないよう、これから注意が必要である、と。公教育に比べるとオルタナティブ教育には、どのような魅力があるのでしょうか。

近代の公教育の発想には画一的な評価基準を設け、子ども同士を競争に駆り立てるなどがあります。そのため、「制度化された生活指導」や「強制的な勉強」を押し付けがちでした。

反対に、オルタナティブ教育では国や経済、大人の都合で子どもを規定せず、一人ひとりの権利を大切にしてきました。そのため、子どものイキイキとした「暮らし」とワクワクする「学び」を重視しています。

――子どもの「暮らし」と「学び」を保証するために、具体的には何が行われているのでしょうか?

それぞれの子どもの「個性」に応じた柔軟な学びを用意する、自己決定を最大限尊重し、規則による管理をしないなどがあります。

また最近は、社会の課題に対応するプロジェクト型の共同的な学びも重視されています。身近なコミュニティや地域、あるいは、社会全体が抱えている問題の解決策を探る「PBL(プロジェクトベースドラーニング)」はその好例でしょう。実際に海洋プラスチックごみ問題に対して、身近なプラスチックの問題から解決しようとするオルタナティブスクールもあります。

こうした活動により、子どもたちは自らの興味関心を生かして学習を進めたり、自律して物事を考えられるようになったりすると考えられます。

――社会課題が多く、変化の激しいこれから時代、そうした姿勢や能力はとても大切だと思います。一方で、オルタナティブ教育ならではの懸念点はありますか?

「知識が偏ったり、視野が狭まったりしないか」と懸念する声はよく聞きます。確かに公教育は、人間が生きていく上で必要な教養やリテラシーを体系化したものです。そのため、ある程度のクオリティは保証されるでしょう。

ただ一方で、公教育を受けた人全員が深い知識と広い視野を持っているわけではありません。むしろ最近では、公教育における画一的なものの捉え方などは問題視されています。

オルタナティブ教育でも子どもたちの興味関心を中心に据えて、そうした教養やリテラシーを身につけるのは不可能ではありません。現在も、さまざまなオルタナティブスクールが試行錯誤を重ねています。

大きな課題は、社会からの信頼を得ることです。オルタナティブ教育はまだあまり日本では普及しておらず、十分な理解が得られていない面があります。そのため、教育がしっかり行われていないのではないか、あるいは閉じられた空間で暴力を振るわれているのではないかと心配する声も耳にします。

また、オルタナティブ教育の制度が整っていく過程では、評価方法も課題になるでしょう。

学習の進捗度合いは全く異なりますし、数値化しづらい能力を大切にしているところもあるので、オルタナティブスクールを公教育の評価基準で適切に評価するのは難しい。そもそもオルタナティブ教育に対して公教育と同様の評価基準を設け、カリキュラムや設備などを導入したら、それはもうオルタナティブ教育ではないですからね。

――教育の成果はすぐには見えにくいので、安易に評価を下さないことが大切ですね。最後にオルタナティブ教育はどんな子どもが向いているのか、選ぶ際の注意点を教えてください。

例えば、「集団生活が苦手な子どもはフリースクールがいい」とよく言われますが、私はそうは思いません。

なぜなら、オルタナティブ教育は基本的に子どもが学校に合わせるのではなく、学校が子どもに合わせるものだから。個人の尊厳を守られることが前提の場。だから集団生活の得手不得手などにかかわらず、どんな子どもにも合わせられると考えています。

まとめ

いじめや不登校など学校にまつわる諸問題。テクノロジーの発達やグローバリゼーションの進行による急速な変化。こうした状況の中で、個々に合わせた教育はますます大切になってくるしょう。これからもさまざまな形の教育が登場しそうです。

(企画・取材・執筆:野阪拓海/ノオト  編集:鬼頭佳代/ノオト)

取材先

永田佳之さん

詳細: 聖心女子大学文学部教育学科教授。1962年生まれ。国際基督教大学博士後課程修了、博士(教育学)。1995年に国立教育政策研究所に入所して以来、国際事業や国際比較研究に携わる。著書に『日本のESDを捉え直す――国際的な潮流から見た実践・研究・政策課題』(みくに出版)や『オルタナティブ教育 国際比較に見る21世紀の学校づくり』(新評論)、『新たな時代のESD: サスティナブルな学校を創ろう―世界のホールスクールから学ぶ-』(共著、明石書店)など。

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2019年3月7日)に掲載されたものです。

この記事をシェアする