通信制だけど、仲間もできる――15歳から学べる「放送大学」の利点とは?

専門家に聞く

2019/11/08

BS放送などを通じて独自の番組を放送している「放送大学」。ただ、存在を知っていても「何が学べる大学なのか」、「どういう学習システムなのか」まで詳しく知っている人は多くないかもしれません。

通学制の大学や短大、専門学校などさまざまな進路がある中で、放送大学にはどんなメリットがあるのでしょうか。具体的な履修方法や活用の仕方について、放送大学の広報課にて詳しくお聞きしました。

興味のある授業を1科目から受講できる

――そもそも放送大学は、どういう大学なのでしょうか?

放送大学は、BSテレビ・ラジオ・インターネットによって教養教育を行う通信制大学です。入学試験はなく、15歳以上のすべての人に教育の機会を提供しています。

国民に高等教育を広く提供するために多くの国で「公開大学」が設置されており、イギリスの公開大学が有名です。文部科学省が所管する放送大学もいわば「公開大学」と言い換えられます。

――卒業すれば、大卒資格(学士)も取れるのでしょうか?

放送大学の学生は、「全科履修生」、「選科履修生」、「科目履修生」の3タイプに分けられます。

そのなかで、1つのコースに所属し、4年以上在学して124単位の取得を目指すのが「全科履修生」です。修了すれば「学士(教養)」の学位、つまり大学卒業と同じ資格が得られます。2年次・3年次編入も可能で、その場合は単位数や在籍年数などの条件が変わります。

また、放送大学は「教養学部教養学科」のみの単科大学です。下記の6つのコースから1つを選んで所属することになります。

・生活と福祉コース
・心理と教育コース
・社会と産業コース
・人間と文化コース
・情報コース
・自然と環境コース

もし大卒資格にこだわらないならば、好きな科目だけを選んで学べる選科履修生(1年間在籍)、科目履修生(半年間在籍)という学び方もあります。

▲3つの履修生と選び方の例

――学生は、放送大学の授業をどのように受講するのでしょうか?

放送大学には「放送授業」、「面接授業(スクーリング)」、「オンライン授業」という3つの授業スタイルがあります。

基本となるのは放送授業です。BSテレビやラジオで放送される授業で学習し、学習センターで単位認定試験を受けて、合格すると単位が取得できます。

放送授業はインターネットやアプリでも配信しており、いつでもどこでも学習できます。アプリ自体はどなたでもダウンロードできますが、全ての授業を視聴できるのは学生のみです。通勤途中やカフェやファミレスなどで勉強している方もいらっしゃいます。授業は4~5年でリニューアルされ、同じタイトルの授業でも内容を刷新しているので、クオリティーが維持されています。

授業の撮影風景(放送大学提供)

2つ目は、教員から直接講義を聞く「面接授業(スクーリング)」です。北海道から沖縄まで全国に50カ所の学習センターと7カ所のサテライトスペースがあり、年間約3,000クラスを開講しています。なかには、青森県の白神山地でのフィールドワークや、鹿児島県錦江湾での洋上実習などのユニークな「ご当地授業」も。次学期以降に同じ授業が開催されるとは限りませんが、これらの面接授業は毎回抽選になってしまうほど人気があります。

3つ目は、すべてのプログラムをインターネットで学習する「オンライン授業」です。ほとんどの授業は、学習センターで受ける単位認定試験がありません。単位認定条件は、選択式問題やディスカッション、レポートなど、授業ごとに違います。ただし、まだ放送授業と比べて授業数は少なめです。

放送大学は半年だけ、1年だけの在籍もでき、興味のある1科目からの受講も可能です。また、一部の大学では放送大学の授業を単位として認定する「単位互換制度」を設けています。

千葉学習センターの教室。面接授業などはここで行われる。

――いろいろな学び方ができるのですね。学費は、どのくらいかかるのでしょうか?

放送授業は1科目1万1,000円、面接授業は1科目5,500円となっています。全科履修生として入学した場合、大学卒業資格を取得するまでにかかる学費は、合計で約70万円です(入学料+卒業に必要な124単位を修得した場合の授業料)。

学費を支払うタイミングにも大きな特徴があります。多くの大学では、年間の費用を最初にまとめて納めないといけません。放送大学では入学料を払えば、あとはその学期の受講科目数分の授業料を半年ごとに払っていく仕組みをとっています。

中卒から大学卒業を目指す方法も

――どんな人が学んでいるのでしょうか?

社会人の方が中心で、40~60代以上の方が一番多く、10~20代の割合は全体の約15%となっています。

▲学生の年代別グラフ(2019年度第1学期現在/学部生・大学院生の合計)

――10代、20代はどういう理由で放送大学へ入学するんですか?

「高卒ですぐ働き始めたけど、やっぱり大卒の資格を取りたい」、「他にやりたいことをしながら学びたい」など、理由はそれぞれです。なかには、中学卒業後、高校へ進学せずに放送大学へ入学する方もいらっしゃいます。

過去には、「大学は卒業したいけれど、テーマパークのスタッフになるのが小さいころからの夢」という方がいらっしゃいました。そこで、高校卒業後にテーマパークで働きながら放送大学で学び、4年で卒業して大手企業へ就職されたそうです。

まず科目・選科履修生から入って、特定の16単位を取得して、18歳以上など一定の条件をクリアすれば、全科履修生として入学可能です。つまり、高卒認定試験を受けずに入学資格を得られるわけです。

――中学卒業後、「高卒認定試験」を受けずに大学の入学資格を得られるんですか。興味深いですね。

仕組みは以前からありました。私見として、積極的に進路について調べ、考えてきた方たちが、新たな学び方を発見したのだと思います。あとは、専門学校と放送大学で同時に学ぶ「ダブルスクール」をしている人もいらっしゃいます。

――すごいバイタリティーですね。就職の話もありましたが、就活支援はあるのでしょうか?

基本的には社会人向けの大学なので、就活支援はありません。そのため、もし高校を出てすぐ放送大学へ入る場合、その先の進路は自分で考え、行動する必要があります。

――取得できる資格についてはいかがでしょうか?

国家資格の看護師免許を取りたい准看護師向けの授業や、養護教諭・司書教諭の資格を得たい教員向けのカリキュラムがあります。ただ、これらはすでに教員や准看護師の資格を持っている方向けのもので、教員免許や看護師の資格を取得できるわけではないので注意してください。また博物館学芸員など、他の大学での実習が必要な資格もあります。

日本心理学会の認定心理士は、放送大学で認定資格を取得可能です。人気のある資格で、放送大学での資格取得者(要件取得者)は2018年度末時点で累計10,700人以上になります。

――お話を聞いて、「放送大学で勉強しながら自分の興味を探る」という使い方もできるのかな、と思いました。

たしかに、高校生が「大学での学び」を知るために利用することも可能です。入学しなくてもBS放送はどなたでも視聴でき、テキストは書店で購入できます。自分に合った進路や学部選びのために、放送大学を利用するのも一つの手段ではないでしょうか。

テキストは学習センター内にも置かれている

ほかには、定められた条件の授業科目群を取ると、卒業とは別に学びの成果を認める「科目群履修認証制度(エキスパート)」があり、高校生でも一定の条件を満たせば「認証状」を取得できます。履歴書に書くことができるので、他大学の推薦入試などにおいてアピール材料となるのではないでしょうか。

――進路の一つとして「放送大学」を考えている中高生に向けて、アドバイスをお願いします。

多くの通学制大学は、学生を丁寧に支援しながら就職まで導く仕組みがあります。しかし、放送大学はそのようなサポートはありません。教員が「卒業しなきゃダメだよ」と言ってくれることもないし、出席するだけで単位がもらえる授業もありません。

入学試験はありませんが、自己管理をしながら学び続ける必要があります。また、教養学部教養学科のみなので、深く学びたい分野があるのなら、本学では足りない部分もあるでしょう。

しかし、自ら考え行動できる人であれば、放送大学は利用価値があると思います。現役高校生の進路検討時に、「関心がある学部・学科に近い授業を放送大学で体験してみる」という使い道も考えられるでしょう。また、本学を卒業後に、大学院で専門的な学びを深める方法もあります。

不登校を経験した2人が語る「放送大学での学び」

放送大学には、通学制大学と同じようにサークルや同好会があります。その一つが「若者の集い」。いったいどんな人が、どんな理由で学んでいるのか。千葉学習センター「若者の集い」に参加している2名の体験談を紹介します。

まずは、中学で不登校になった後、通信制高校へ進学したAさん(28歳、女性)の話から。

Aさん「電子部品の分析・解析をする技術職として働きながら、放送大学で学んでいます。仕事の幅が広がりつつあったので、関連した勉強ができないかなと探していたら、放送大学の授業を見つけて。軽い気持ちで入りました。

学んでみたら、他にも面白そうな授業があって。2019年前期は、個人的に興味のあった授業も受けました。土日も図書館が開いているので、みんなで勉強会をやったり、終わったあとにご飯食べたりしています。ゆくゆくは全コースを受講して“名誉学生(※)”を目指したいですね」
(※)教養学部6コースをすべて卒業した学生は、「放送大学名誉学生」として表彰される

週末も利用できる附属図書館

次に、小学校、中学校で不登校を経験したBさん(22歳、男性)のケース。

Bさん「アルバイトをしながら、放送大学で心理学を学んでいます。もともと定時制の高校に通っていたのですが、人に会うのが辛い時期があって、最後は不登校になってしまったんです。でも勉強は好きだし、大学には行きたかった。

放送大学ならスマホやPCで勉強できるので、自分に合っているかなと思って選びました。入学前は、ずっと家で勉強するだけかな、と想像していたんです。でも入ってみると、若者が集まるコミュニティーやゼミもあって、ちょっと意外でした。自分と似たような境遇の人も多く、話しやすいですね。将来的には、不登校の生徒を支援する仕事に就きたいと考えています」

「若者の集い」の様子

お二人に共通していたのは、不登校の経験があるという点。しかし現在は、放送大学で学ぶことによって仲間もでき、楽しい学生生活を送っているようでした。

大学での学びがどういうものか、中高生にとってはイメージしづらいかもしれません。でも放送大学の授業であれば、テレビやラジオを通じて誰でも触れることができます。

通学制であれ通信制であれ、学びたいという気持ちさえあれば未来に繋がる……放送大学で学んでいるお二人の話を聞いて、改めて「学び続けること」の大切さを実感しました。

(取材・執筆:村中貴士  編集:鬼頭佳代/ノオト)

取材先

放送大学

千葉県千葉市に本部を置く私立大学。1983年に設置。放送大学学園法に基づき作られた通信制大学・大学院。日本で唯一、「放送授業」、「オンライン授業」、「面接授業」という3つの手法で教育を行っている。在学生数は約8万人。学生が自由に使える学習センターとサテライトスペースは、全都道府県の57カ所に設置されている。

https://www.ouj.ac.jp/

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2019年11月8日)に掲載されたものです。

この記事をシェアする