ストレスで熱が出るって本当? 「心因性発熱」の原因や対処法

専門家に聞く

2020/03/24

長引く原因不明の熱。どこか痛いわけでもないのに熱が続くと、何か悪い病気が隠れているのではないか?と不安になります。

もちろん、身体のどこかに何らかの病気が潜んでいる可能性もありますが、原因不明の微熱の約半数はストレスが原因によるものとのこと。(※1)

そこで今回は、ストレスによって引き起こされる「心因性発熱」について、原因や正しい対処法などを詳しく解説します。

ストレスによって起こる「心因性発熱」とはどういうもの?

日常的によく見られる症状の一つである発熱。皆さんもこれまで風邪を引いたときなどに、熱を出したことがあるはずです。

ストレスが原因となって引き起こされる発熱は、「心因性発熱」と呼ばれます。

嫌なことがあって強いストレスを感じたり、日ごろから常にストレスを感じている状態が続いたりすると体温調節がうまくできなくなって熱が上がってしまうことがあるのです。

心因性発熱は子どもから高齢者まで、どの年代の方でも起こる可能性があります。

とくに近年では、10代の若い方が発症するケースも目立っており、学校に行けない、授業に集中できない、など日常生活に深刻な影響をもたらしている方も少なくありません。

「知恵熱」との違いは?

以前、心因性発熱は「知恵熱」と呼ばれ、何かに熱中しすぎたり頑張り過ぎたりしたときに生じるものと考えられていたこともありました。

しかし、近年では、友人関係や学業の悩み、いじめ、クラスでの孤立、将来への不安、親との不仲、親や教師からの強い期待がプレッシャーとなり、自分を追い込んでしまうことなども大きな原因となっています。

心因性発熱の2つのタイプーー微熱が数カ月つづくことも

心因性発熱には、
・テスト前など強いストレスを感じたときに一時的に体温が症状する「急性心因性発熱」
・慢性的なストレスが加わることによって、発熱が長時間続く「慢性心因性発熱」
の2つのタイプがあります。

急性心因性発熱は一時的な発熱のみで、通常は24時間以内に平熱に戻ります。発熱の程度はケースバイケースですが、体内で熱を作り出しやすい若者ほど高熱が出やすいとのことです。

一方、慢性心因性発熱では微熱が数カ月以上つづき、ストレスの原因を解決してもなかなか平熱に戻らなくなるのが特徴です。

急性心因性発熱は治療をしなくても自然に熱が下がりますので、大きな問題となることはありません。しかし、慢性心因性発熱は長い間熱が上がることでエネルギーが多く消費され、疲れやダルさを感じやすくなるとされています。

それにもかかわらず、風邪のような症状はなく、検査をしても異常が見られないため、周囲に理解してもらえず苦しんでいる方も多いそう。さらに、疲労感などでぼんやりしていることが多くなるため、教師や親から「怠け者」と思われてしまうことも……。発症者本人だけでなく、周囲も心因性発熱に対する正しい理解が必要です。

心因性発熱は、自律神経のバランスの乱れで引き起こされる

心因性発熱と風邪などによる通常の発熱では、発生メカニズムが大きく異なると分かっています。このため、心因性発熱が起きたときの対処の仕方も通常の発熱とは異なります。

しかし、ストレスがどのように体温の上昇を引き起こすのかは、まだ十分に解明されていない部分も多いのが現状です。ここでは、大まかにどのようなメカニズムで心因性発熱が生じるのか見てみましょう。

ストレスは、体のさまざまな機能を調節する「自律神経」のバランスを乱すことが知られています。

「自律神経」とは、交感神経と副交感神経の総称のこと。この2種類の神経は相反する作用をしながら身体の状態を整えています。

簡単に言えば、
・交感神経=身体の状態を活発にする神経
・副交感神経=身体の状態を落ち着ける神経
です。

ストレスは、交感神経を過敏に刺激することが分かっています。みなさんも、ストレスを感じたときにドキドキしたり、嫌な汗が出たり、夜眠れなくなったりしたことがあると思いますが、これは交感神経の興奮によるものです。

この交感神経には、細胞を刺激する働きをもつ「褐色脂肪細胞」があります。褐色脂肪細胞は肩甲骨や背骨の周囲に存在する特殊な細胞で、交感神経の刺激を受けると脂肪を分解して熱を生み出す性質があります。

本来は体温調節を行う重要な細胞なのですが、ストレスによって交感神経が活発に働きすぎてしまうと、より多くの褐色脂肪細胞が刺激されることに……。その結果として、発熱を引き起こしてしまうと考えられているのです。(※2)

風邪のときの発熱とどう違うの?

一方、誰もが経験したことのある風邪の発熱は、体内に侵入した細菌やウイルスなどの病原体を退治するために引き起こされるものです。

私たちには病原体などから身体を守るための「免疫」と呼ばれる仕組みが備わっています。病原体が体内に侵入すると、血液中の細胞がすばやく感知。

脳に働きかけて体温をアップさせる性質を持つ「サイトカイン」や「プロスタグランジン」と呼ばれる物質が産生されるようになります。風邪による発熱は、これらの物質によって引き起こされるのです。

心因性発熱にはどう対処すればいい?

残念ながら現時点では、心因性発熱に対する治療法は確立されていません。というのも、心因性発熱は通常の発熱で使用する解熱剤や鎮痛薬が効かないからです。

解熱剤や鎮痛薬はプロスタグランジンの働きを抑制することで発熱を抑えます。このため、交感神経の過剰な働きによる心因性発熱には効果がないのです。

そのため、心因性発熱を起こしたときは、第一に良く休んでよく眠り、ストレスを遠ざけて生活することが大切です。

学校や家庭内での悩みがストレスとなっている場合は、落ち着いた生活が送れるよう本人と周囲の方で協力し合いながら環境を整えていきましょう。習い事や部活などで忙しい方は少しの間休んでしっかり身体を休めることも大切です。どうしても休めないときはせめて小まめな休憩とることを忘れずに!

また、心因性発熱は元から起立性調節障害(立ちくらみが起きやすくなる病気)や不安障害など別の病気を持っているケースが多いとされています。

生活リズムや環境を整えても熱が下がりきらないときは、これらの病気の治療を行うことで熱が下がっていくことも珍しくありません。思い当たる病気のある場合、その治療にも目を向けることも大切です。

自己判断は危険ーー思い当たったら病院へ

ストレスが原因の心因性発熱の多くは医学的な治療を必要としません。だからといって、「発熱の原因はストレスだから病院へ行かなくてもいい!」という判断は非常に危険です。

長引く発熱の中には、感染性心膜炎(心臓を包む膜に炎症が起こす病気)や白血病など命に関わるような恐ろしい病気が原因となるケースもあります。熱が長引くときは、思い当たるストレスがある場合でもまずは病院で診断を受けるようにしましょう。

心因性発熱はストレスによって引き起こされる発熱ですが、中学生や高校生が発症するケースも少なくありません。目立った症状や検査上の異常がないため、周囲からの理解を得られずに悩んでいる方も多いとされています。

今のところ、心因性発熱に確立した治療法はありませんが、生活リズムを整えてストレスをためない生活を心がけることが大切です。心因性発熱と診断されたときは親や教師と協力して対処していくようにしましょう。

参考文献:
※1)産業医科大学医学部神経内科学講座「ストレスのメカニズムについて」
http://uoeh-neurology.org/activity/1.html

※2)国立循環器病研究センター「褐色脂肪細胞においてエネルギー消費を促す新たなメカニズムを発見—からだの熱産生に褐色脂肪細胞の TRPV2 チャネルが関与—」
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2015/documents/160219_2/01.pdf

(企画・取材・執筆:成田亜希子  編集:鬼頭佳代/ノオト)

専門家のプロフィール

成田亜希子

2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。プライベートでは二児の母。

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2020年3月24日)に掲載されたものです。

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