ゲーム、SNS、動画視聴がやめたくてもやめられない…… 中高生がネット依存傾向から抜け出すためのテクニック
専門家に聞く
2021/05/28
勉強に集中できず、ついついゲームやSNS、動画サイトに手を伸ばして自己嫌悪……。しかし、やめたいのにやめられないのは、あなたの意思が弱いからではありません。
「コロナ禍、ゲームやSNS、動画などのネットコンテンツに逃避せずにいられない子どもが増えています。背景にあるのは、先の見えない不安や日常が戻ってこないストレス。つらい現実から目をそらすためにネットにのめりこんだ結果、生活に問題を抱えるケースも少なくありません」
こう説明するのは、ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i(ミライ)の臨床心理士である森山沙耶さん。
ネット依存とはどんな状態なのか? どうすれば依存から抜け出すことができるのか? テスト期間や長期休暇中のネットとの上手な付き合い方は? 森山さんに聞きました。
コロナ禍のストレスでネットに依存する中高生が増加している
2017年、厚労省の研究班は、中高生の7人に1人はネット依存傾向にあることを発表しました。大阪府の調べによれば、2020年のコロナ禍で子どものネット依存傾向は性別、年齢を問わず高まっているそうです。
「ネット依存とは、インターネットにのめりこみ、日常生活に支障が出ている状態のこと。多くは、スマホやタブレット、ゲーム機などを使ったゲーム、SNS、動画視聴が、やめようと思ってもやめられないケースです」(森山さん、以下同)
ネット依存が引き起こす問題のなかでも、中高生が自覚しやすいのは、
- 眠れない、寝付けない、起きられない、眠りすぎるなどの睡眠の問題
- イライラしたり罪悪感を抱いたりといった心理面での問題
- 成績が落ちる、授業中に居眠りをするなど学業面での問題
の3つ。
これらが続くと、睡眠不足で学校を遅刻、欠席しがちになったり、イライラで保護者や友人とのトラブルを招いたり、筋力や視力の低下、運動不足などの身体の問題、食が過度に細くなる、過度に食べ過ぎてしまうなど食生活の問題が生じるケースも。
では、なぜコロナ禍にネット依存に陥る子どもが増えたのでしょうか。
「長期にわたる休校期間がきっかけになったというご相談を多くお聞きします。子どもたちは時間を持て余した以上に、突然大きなストレスにさらされるようになり、ゲームやSNS、動画などに逃避せざるを得なかったのだと考えられます。特にプレッシャーが大きい受験生は、私たちへのご相談も多いですね」
特に休校期間、ゲームやSNSが友人とつながる貴重な手段になった一方で、依存を深める要因になってしまったと森山さん。オンライン学習が学びを充実させる一方で、勉強中もネットの誘惑を断ち切りにくい環境も作り出してしまったと指摘します。
ネット依存が引き起こされるメカニズム
そもそも、ゲームや動画、SNSなどは娯楽のひとつ。ただ、これらはもともと夢中になりやすく設計されているため、付き合い方を知らないままでは、大人でも簡単に依存してしまいがちです。
では、どう付き合うのがいいのか? そのヒントになるのが、依存に至るメカニズムです。
「ネットが習慣化すると、知らず知らずのうちに時間が長すぎになったり、頻度が増えすぎになったりしてしまうもの。すると、脳には変化が起きるといわれています。そのひとつが、『前頭前野』のはたらきの低下。行動や欲求をコントロールしづらくなるため、ネットをしたい気持ちを抑えられなくなるのです」
2つめの変化が、『報酬系』という機能の低下です。報酬系は本来、おいしいものを食べたり、プレゼントをもらったりすると活発になる部位。依存がなければ、ゲームや動画、SNSなどを楽しんでいるときにのみはたらき、幸福感や満足感につながる物質を分泌します。
「しかしネットに依存していると、ゲームや動画、SNSなどをイメージさせるものを見ただけで報酬系が反応し、『ネットをして快感を得たい』という衝動がかき立てられるようになります」
また依存が進むと、報酬系にさらなる変化が起き、今まで通りにネットを楽しむだけでは満足できなくなります。さらなる刺激を求め、使用時間や頻度が増えたり、より過激なものを求めたりしてしまうのです。
依存傾向から抜け出すためのルールづくり
ネット依存に該当するのは、下記の3つが1年以上続く場合といわれます。
- ネットをする時間や頻度自分でコントロールできない
- 日常生活でネットを他の何よりも優先させる
- 生活に問題が生じてもネットを続け、エスカレートさせる
心当たりがある人は、下記のネット・ゲーム依存度チェックも参考にしてみてください。
「チェックした結果、あまりに得点が高ければ、周囲の信頼できる大人に相談した上で、専門家、専門機関に相談することをおすすめします。ただ、それほど得点が高くなければ、自分で工夫できることはあります。ネットとの付き合い方を見直し、うまく楽しむためのテクニックを身につけましょう」
最初にしたいのは、自分が1日に何時間ネットを使っているのか、客観的に確認すること。紙に1日のスケジュールを書き出したり、スマホのスクリーンタイム機能などで各アプリを何分見ているのかといったデータをチェックしたりしてみましょう。
「次に、ネット利用のルールを決め、使い過ぎている場面や何か支障が出ている場面では使う時間を減らしていきます。成功のコツは、100%実行可能だと思える目標を設定し、少しずつ進めること。最初から『1日1時間にする!』といった高い目標を掲げるのは現実的ではありません」
時間の制限は、「1日●時間」と時間数で決めても、「○時から○時までは使っていい」と時間帯で決めてもOKです。
「ネットから離れる時間に『何をするか』決めておくのもコツです。例えば、食事の時間はネットをせずに家族と話す、スマホやゲーム機を家族に預かってもらい勉強をする、スマホは目に見えないところに置く……といったように」
ネットを別の行動に変える場合も、実行可能な小さな目標に。初めから『勉強をする!』といった難しい課題に取り組むより、家族とボードゲームをしたり、マンガを読んだりと楽しい活動を選ぶと長続きします。
「物理的な制限をかけ、自分をコントロールするのも有効です。端末にフィルタリングをかけて使える時間帯を制限する、ネットを使うときはタイマーをかける、誘惑を断ち切るためにSNSの通知を切ったり、勉強用と遊び用で別のタブレットを用意したりするなど、ツール面でも工夫を考えてみましょう」
目標を定めたらルールとしてリストアップ。いつでも見られる場所に貼っておき、守れるようになったら定期的に見直しましょう。
周囲とともに取り組み、「できた」を記録しよう
ネット使用のルールを決めたら、次にしたいのは周囲の協力を得ることです。
「スマホやネットはそもそも短時間で満足できないように作られているため、大人でも一人でコントロールするのは難しいもの。未成年は欲求をコントロールする能力が大人より未熟なので、よりハードルが高いのです」
また年齢を問わず、だれかに話をすることは、新しい物の見方や選択肢に出合うきっかけにもなると森山さんは強調します。
「家族でなくても、保健室の先生やスクールカウンセラーでも信頼できる大人に、相談してみましょう。ゲームやSNSでつながる友達に正直に話をしてみたら、相手も実は同じように困っていたというケースもあります」
協力者が見つかったら、自分で決めたルールや目標を共有して。協力を得られるだけでなく、他人に目標を宣言すると人はそれを行動に移しやすいともいわれています。
もし1つでも目標が達成できたら、目に見える形で記録しましょう。
「動画を観ずにマンガを読んで時間を過ごせた、ゲームの続きが気になっていたけれど『ご飯だよ』は呼ばれてゲームやめられた……。もしできて当たり前だと思うことでも、できたことはできたこと。現実の問題に向き合い、行動できた証です。よくやったと自分を認め、記録していきましょう」
リビングに貼ったカレンダーにできたことの数だけシールを貼っていくのもよし、できたことを日記のようにつけるのもよし。1つ、2つとできることが増えれば、目標に向かってがんばれていることを実感できるはず。また、「できたこと」は、自分が守りやすいルール作りのヒントにもなります。
「もしうまくいかなくても、焦らなくて大丈夫。うまく付き合うのが難しいからこそ、私のようなネット依存を相談する専門家がいるのです。『自分なんてダメだ』という感情も、自分を変えたいというモチベーションがあるからこそ生まれるもの。できていないことではなく、できたことを数えて自分を認めてあげましょう」
テスト期間、長期休暇中のルール作りのコツ
森山さんは、テスト期間中や長期休暇はその生活に応じたルールに変更することをすすめます。勉強に集中できない自分を責めたり、ついつい遊びの誘惑に負けてしまったりしがちな期間、どうすればネットとうまく距離が取れるのでしょうか。
「ルールを決める際は、まず何をするのか、それをするにはどんな環境がいいのかを考えるといいですよ。例えば勉強ならば、どういう場所なら自分が集中できるか。誰もいない静かな空間なのか、少し雑音がある空間なのか、それは図書館なのか、自分の部屋なのか……」
どんな環境がいいのかわかれば、どんな誘惑を断ち切るべきか見えてくるはず。また、勉強などの気が進まないことに取り組むときは、終わった後にご褒美も用意してみるのも一つの工夫です。
「おやつを食べたり、30分テレビをみたり、それこそゲームやSNS、動画でもいいと思います。がんばったという達成感も感じられますし、頑張り続けやすくもなる。目標通りがんばれたら、カレンダーにシールを貼ったり、勉強記録アプリを使ったり、手帳に書いたり記録しておくのもおすすめです」
ストレスがたまりやすいテスト期間は、あえてゲームやSNS、動画をやってもよい時間、時間帯を確保するのがとても大切だと森山さん。自分の気持ちがリラックスする時間として生活に組み込むことで、気持ちの切り替えにも役立ってくれると話します。
「長期休暇の場合は、なるべく学校がある時期と同じ生活リズムを目指しましょう。例えば、授業のある15時ぐらいまではゲームやSNS、動画はしない時間にし、宿題をしたり、友達と遊ぶ予定を入れて、夕方以降から夕食までは自由にネットができる時間にしたり……といったように」
ネットであれ、ゲームであれ、夢中で取り組めることは、あなたらしさを形作る一要素。ほどよい距離を保ちさえすれば、人生をより豊かにするパートナーになってくれるはずです。
(取材・執筆:有馬ゆえ 企画・編集:鬼頭佳代/ノオト)
取材協力
森山沙耶さん
ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i(ミライ)臨床心理士、公認心理師、社会福祉士。2012年、東京学芸大学大学院修了。家庭裁判所調査官を経て、病院・福祉施設に勤務。2019年、国立病院機構 久里浜医療センターにて「インターネット/ゲーム依存の診断・治療等に関する研修(医療関係者向け)」を修了。現在は、ネット・ゲーム依存専門のカウンセリングや予防啓発のための講演・セミナー活動を行う。
※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2021年5月28日)に掲載されたものです。