1日中、「食べる」が頭から離れない……。自分が「拒食症」「過食症」かな?と思ったときにできること
専門家に聞く
2021/11/01
摂食障害は、「普通に食べること」が難しくなる病気。10代に多いのは、極端に食べられなくなる「拒食症」とあまりに食べ過ぎる「過食症」です。
「摂食障害は、その人の意志の弱さが引き起こすのではなく、食に問題を抱えてしまうほど苦しい状況に対処しようとして陥ってしまう病気。ストレスの多いコロナ禍で、10代の摂食障害は世界的に急増しています」
こう説明するのは、獨協医科大学埼玉医療センター 子どものこころ診療センター教授の作田亮一さんです。
「やせた」「太った」の変化にとどまらず、心身の健康を損なわせ、長引けば骨粗しょう症や脳の萎縮、不妊などにもつながる摂食障害。ただし、10代の摂食障害治療の第一人者である作田さんは「摂食障害は治る」と断言します。
どんな人が摂食障害になりやすいのか? 摂食障害になると心身にどんな影響があるのか? 不安の続くコロナ禍での摂食障害対策についても伺いました。
コロナ禍、10代の摂食障害が倍増している
新型コロナウイルスの影響で、世界的に10代の摂食障害が急増しています。日本を含め、先進国では2020年に例年の倍近い数が発症。原因は、生活環境の変化によるストレスだといわれます。
摂食障害は、「普通に食べること」が難しくなる病気。発症の9割が女性で、思春期に発症しやすいとされています。
「子どものこころ診療センター」では、2019年は32名だった摂食障害の初診患者数が、2020年では70名と約2倍に。他の総合病院からの紹介や摂食障害治療の相談も増えています。
「2020年の臨時休校中にストレスで心身の健康を崩し、夏休み明けに医療が必要な状態になった人が多かったようです。特に食べずにやせるタイプの摂食障害が多く、そのなかで2020年6月以降に初診で来た人の多くが臨時休校中にダイエットを始めていました」(作田さん、以下同)
「もし下記に1つでも当てはまるものがあれば、摂食障害を疑って」と作田さんは話します。
コロナ禍で摂食障害を発症した10代の特徴
新型コロナウイルスが流行しはじめてから、なぜ10代の摂食障害が増えているのでしょうか。そこには、生活している環境の変化に、大人より中高生のほうが左右されやすいことが関係しています。
「ウイルスの流行や将来に不安を抱いたり、休校期間に部活動や習い事が中止されたり、在宅勤務が始まって家族がイライラするようになったり……。コロナ禍で、中高生たちはいつも通りの生活ができなくなりました。そのストレスが引き起こす不調の1つが、摂食障害なのです」
摂食障害になりやすいのは、物事にコツコツと努力できる完璧主義な人。勉強でもスポーツでも一番にならないと達成感を得ることができず、がんばりすぎる傾向にあります。特に、受験勉強中の人、チアリーディングやダンスなどのスポーツに励んでいる人が多いそう。
「保護者が『あまりにも完璧で文句の付け所がない』と話すような、優秀でいい子ばかりなんです。ただ、本人はいくら褒められても気持ちが満たされず、いつまでも自信が持てない。そのうえ息抜きが苦手なので、ストレスをため込みがちです」
ほかにも、食に強い興味を抱いている、「顔が丸い」「足が太い」といった外見コンプレックスがあるという傾向も見られます。では、そうした人たちは、どんなきっかけで摂食障害を発症してしまうのでしょうか。
「メディアなどから発信される『コロナ太り』『自粛による運動不足』といった言葉を真っ正面から受け止め、ダイエットや自宅でのトレーニングに真面目に取り組み始めたことがきっかけで食べられなくなった人が多いですね。目標を立て、自分自身の努力で体重を減らしていくのは大きな達成感を得られる作業なので、次第にハマッていってしまうようです」
やせていくと一時的に人は飢餓状態からハイになり、成績や運動のパフォーマンスが上がったりするそう。すると、脳に「やせるとうまくいく」という間違った思い込みがすりこまれてしまうのです。
「そこまでくると、今度は自分の体がコントロールできなくなります。過度に食べられなくなったり、食欲を止められなくなったりしてしまい、気づいたときには病気になっているのです」
10代の摂食障害の多くは「拒食症」
摂食障害には、大きく分けて、食べることを制限しすぎる「拒食症(神経性やせ症)と、ひどく食べ過ぎる「過食症(神経性過食症)」があります。2つに共通しているのは、「もっとやせたい」という願望があること。
「10代の摂食障害の多くは拒食症で、その90%以上が食べ物を極端に減らしたり、自分が許せるものしか食べなかったりするタイプ。高校生になると、食欲をコントロールできなくなって食べ過ぎてしまう過食症も増えてきます。このなかには、食べ過ぎた後に吐いたり下剤を飲んだりしてしまう人もいます」
拒食症の人の多くは、異常にやせているのに病気だという自覚がなく、また自分自身に対して「誰よりも太っている」と思い込んでしまっています。脳が自分を正しく評価できない状態にあるため、鏡で自分の体を見ると実際よりも太く、丸く膨らんでいるように見えるのです。
「そのため、さらに食事量やカロリーを制限したり、過度に運動をしたりして体型、体重をコントロールします。しかし、どこまでいっても『まだ努力が足りない』『まだ評価されない』と自信をもつことができず、焦っています」
一方、過食症の人たちもまた、自己評価が低い傾向にあります。病気のせいで食欲をコントロールできないにもかかわらず、やせたいのに食べることを我慢できない自分を「意志が弱い」と責めてしまうからです。その結果、自傷行為に及ぶケースも少なくありません。
「過食症の人の多くが、医療機関での治療を受けられていません。体重が維持できるため、知らない人から健康だと見られがちなせいです。しかし実際は、拒食症も過食症も同様に心身に悪影響をおよぼしています」
摂食障害になると、栄養状態が悪くなるため、心身にさまざまな変化が現れます。
「やせていくのにともなって、筋力の低下や疲れやすさを感じるようになり、生理がいつもどおり来なくなったり、便秘やむくみ、肌荒れ、貧血やめまい、毛が濃くなったり、抜けたりするなどの症状が見られるようになります。過食症で嘔吐がある人では、唾液腺が腫れたり、ひどい虫歯になったり、歯が溶けてしまったりするケースも」
ゆううつな気分や不安、こだわりが強くなるなど、精神面での影響も現れるでしょう。不登校や成績不振、対人コミュニケーションがうまく取れなくなるといった生活への支障も出てきます。
なお、摂食障害には「やせたい」という願望をともなわないタイプもあります。強い不安が募ったり、「食べ物を喉に詰まらせるのでは」と心配になったりして食べられない「食物回避性情緒障害」、給食の時間に嘔吐してしまった経験などがトラウマになって食べられなくなる「機能的嚥下障害」、極端な偏食でやせていく「選択性摂食」などです。
自分は摂食障害なのかな?と思ったら
中高生の体は、大人になろうと成長している最中。そもそも「体重を減らす」という発想は、そぐわない時期だと作田さんは念を押します。
「女の子だからダイエットをするのは当然だという風潮がありますが、小中学生の場合、体重は落ちてはいけないもの。月経が始まり、第二次性徴の完成した17〜18歳頃になれば、多少の増減は許容範囲ですが、1年で10kgも落とすような無理なダイエットはすべきではありません」
摂食障害は長期化すれば、骨粗しょう症や腎機能障害、脳の萎縮にもつながる病気。将来的に妊娠に支障をきたす可能性も。思春期の前半に発症した場合、身長が伸びなくなったり、初潮が遅れたりもするのです。
じわじわとやせているため、周囲も、悪くすれば学校の検診でも病気だと気づかれないかもしれません。しかし、過剰にやせるのは不健康なことです。
「10代の摂食障害は、必ず治ります。もし『自分は摂食障害かも?』と思ったら、勇気を持って保護者や学校の養護の先生、担任やクラブのコーチ、スクールカウンセラーなど信頼できる大人に打ち明けてみてください」
摂食障害を治すために必要なのは、誰かに助けを求める勇気。家族や医師、看護師などのサポーターに支えられるなかで生活を取り戻していく人たちはたくさんいる、と作田さんは断言します。
withコロナの時代、摂食障害とどう向き合えばいいのか
コロナ禍、私たちはさまざまな変化を経験する一方で、“いつも通り”を求められることもあります。作田さんは今、受験の追い込み期間にさしかかっている中3、高3の世代や、将来を左右する試合、コンテストを前にした人たちを心配しています。
「大切な試験や試合の前に自分を追い込みすぎて発症するケースもありますし、体調を崩したことをきっかけに食べられなくなる子もいます。悩みの多い時期に気をつけてほしいのは、自分だけで解決しようとしないこと。あなたは一人ではない。だれかに助けを求めてもいいのです」
もし悩みで頭がいっぱいになってしまったり、過度なストレスを感じたりしているときは、意識的に勉強とダイエットに関係のない“遊び”の時間を取りましょう。
「お金がかからず、きれいなものができあがる単純作業がオススメです。アクセサリー作りや小物作り、ネイル、ぬり絵、刺繍、折り紙など、100円ショップの趣味コーナーで楽しめそうなものを探してみてください。集中して手を動かしている間は、他のことを考えなくてすむので、よいストレス対処になり、心の健康に役立ちますよ」
「不安を抱える人には、未来がどうなるかではなく、今、何をするかを考えてほしい」と作田さん。あなたがもし真っ暗闇のなかにいるならば、取るに足らない幸せこそが先を照らす光。ほんの小さな「できた!」を拾い集めていった先に、その出口は見えてくるはずです。
(取材・執筆:有馬ゆえ 企画・編集:鬼頭佳代/ノオト)
取材先
作田亮一(さくた りょういち)さん
獨協医科大学埼玉医療センター子どものこころ診療センター教授。日本大学医学部卒業。1993年、獨協医大越谷病院小児科講師。神経性やせ症の治療を始める。2009年に子どものこころ診療センターを立ち上げ、現職。発達障害と小児心身症(不登校、摂食障害、睡眠障害など)を専門に診療している。著書に『10代のための もしかして摂食障害? と思った時に読む本』(監修・合同出版)など。
※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2021年11月1日)に掲載されたものです。