【大人の失敗から学ぼう Vol.03】失敗と思うな。反省はするな。謝罪はしろ!(北大路翼さん)
不登校
2020/09/07
社会で活躍する大人たちにさまざまな失敗談を伺い、明日を豊かに生きるヒントをいただく「大人の失敗から学ぼう」シリーズ。3回目にご登場いただくのは、アウトロー俳句で注目される「屍派」の家元、北大路翼さん。
ここ数年で句集『見えない傷』(春陽堂書店)、『時の瘡蓋』(ふらんす堂)、半自伝的エッセイ『廃人』(春陽堂書店)に俳句指南書『生き抜くための俳句塾』(左右社)などを次々に出版し、テレビなどメディアでも注目を集める存在です。
新宿・歌舞伎町の路地裏にある北大路さんの店「砂の城」(旧芸術公民館)を拠点に活動する屍派の俳句には、泥の中を這いつくばりながらも生きる人たちの強さと弱さ、哀しさや滑稽さがにじみ出ています。その家元である北大路さんは、見た目からすでにアウトロー。
インタビュー当日はスキンヘッドに和服といった出で立ちでカフェに現れました。
「過去の失敗談を聞きたいんですけど……」
とおそるおそる訪ねると、
「考えたんだけど、人から見たら俺の人生って失敗だらけで、何が失敗かわからないんだよね!」
と笑う北大路さん。しかし、こう続けました。
「でも、人生は勝負して、失敗してこそ面白くなる。だから失敗しまくればいいと思う。進んでひどい目に遭いにいけばいいんだよ。で、ひどい目に遭ったって後悔はしてもいいけど、失敗だと思わないことが大事なんじゃないかな」
さて、北大路さんはどんな失敗を重ね、そこからどんな人生哲学を築いてきたのでしょうか。
底辺校の特進コース そこで得た出会い
── まずは子どもの頃を振り返っていただいて、これは失敗だったなという経験を教えていただきたいのですが……。
子どもの頃の失敗と言えば、高校受験で行きたかった公立の学校に落ちて、ムサ苦しい男子校に入ったことかな。女の子がいない高校で、しかもバカをたたき上げて少しでも進学校に見せようとする学校の策略に利用されて特進クラスに入れられたもんだから、1日11時間も勉強させられて。最悪だったよ。
── 高校時代はいい思い出がなかったということですか。
担任の英語の先生が俳句をやっていて、その先生に出会えたのは良かったな。俺は小学生の頃に種田山頭火の句に出会って感動して、俳人になろうと決めていたの。アウトローな生き方をしたいと子どもの頃から思っていて、何がかっこいいかと考えたら、ヤンキーとかありきたりな路線ではなく、旅をしながら酒飲んで俳句作って毎日を過ごすっていうのがかっこよく思えたわけ。俺の中の最強の不良は山頭火だったんだよね。
それで俳人を目指しているときに、高校の先生がたまたま俳句をやっていて。俳句だけでは食えないから、しかたなく英語教師をやっているという人だったんだ。先生には俳句のことをいろいろ教えてもらったし、今でも師事しているよ。もう25年の付き合い。親より一緒にいる時間が長い(笑)。
── 進学や就職などで希望と違う道に進んだとしても、その先に運命的な出会いがあることってありますよね。
何でこんな底辺校に来ちまったんだと最初は思ったけど、入ってみたら底辺校ほど仲間意識が強いというか、友情を大切にするヤツが多いのも面白かったと思う。頭のいいやつは自分のことばっかり考えるやつが多いじゃん 。でも、それじゃ面白い人間になれない。今思えば、いい環境だったと思うよ。
── どこに行っても自分の糧になるものが見つかる可能性はあるというわけですね。
そう思うよ。勝負をすることを恐れず、負けても負けたところから何かを生み出せばいいんだと思う。俳句とか表現の世界でも、何もかもうまくいってるヤツの作品って面白くないんだよ。負けから趣が出てくるわけで。だから人生は本気でギャンブルをして、負けてひどい目に遭ったほうがいいんだ。これを読んでいるのは中高生が多いのかな、みんなにもギャンブルをおすすめするよ!
── あっ、中高生はパチンコも競馬もできませんよ。
そうだった(笑)。じゃあ、大人になったらやってみるといい!
地面にたまる1ミリの雨に溺れても、失敗とは思わない
── 大人になってからの失敗はどうですか?
ちょっと前だと、酔っ払って道で寝ていたら急に雨が降ってきて、道路に1ミリたまった水の中で溺れたことがあるよ。ギャンブルでお金を使っちゃうから、家賃や水道光熱費が払えなくなることもしょっちゅう。
── それは……失敗していますね……。
でも、失敗とは思わないんだよねえ。そういう生き方を望んでいるというのもあるし、そういう経験がすべて俳句に活かせるから。これを俳句にして、笑ってもらえればいいんだよ。人生って、大きなテーマがあれば小さな失敗はすべて何でもないことのように思えるもので。すべては俳句のためだと思うと、気は楽になるよ。大きなテーマに向かって生きているんだけど、悪いことはすべてそのテーマのせいにしてやればいいんだから。俺の場合なら、「俳句のためだからしかたない」と自己責任から逃れるという(笑)。
── そういう大義名分があれば、小さな失敗にくよくよしなくても済みそうですね。
よく何かに悩んだり愚痴を言ったりする人って、大きなテーマが決まっていないからそのときそのときの出来事に一喜一憂しちゃうんじゃないかな。誰かに相談しても、結局はただの愚痴であることが大半でしょう。つらいことも愚痴を言っているうちに時間が経ったら解決しているっていう感じだと思うんだけど、もっと大きな人生のテーマを見つけて、悩むならとことん悩めばいいと思うんだよね。小さな出来事ひとつひとつは、全部そのテーマに照らし合わせて、その目的にかなっているかどうかだけ考えればいいと思うんだ。
たとえば「規則や人の顔色をうかがわず自由に生きたい」という思いで不登校になったり引きこもったりするのであれば、とことんやり倒せばいいと思う。中途半端に「学校に行かなくていいのかな」なんて思う必要はない。もう一生部屋から出ないくらいの気持ちで、積極的に行動するべきだと思う。意地を張り通した先に、見えてくるものがあるはずだよ。
── 意地を張って後悔することはないんですか?
後悔だらけだけど、それでいいじゃん、と思ってる。一番大きな後悔は、昔本気で付き合っていた女の子にフラれたことかな。俺は、浮気はするものだと思って生きていて、何が悪いのかがわからない。当時も、ダメなことだと思っていなかったから、本気で惚れた子と付き合っても浮気をしてしまったんだよね。それがバレて、怒られてフラれたときにはびっくりしたよ。「ええっ、ダメなの!?」と驚いたけれど、もう取り返しがつかなくて別れることになってしまった。そのときばかりは浮気をしたことを後悔したよ……。
で、未だに未練タラタラで、20年以上誕生日メールを送ったりしているよ。向こうはなんとも思っていないだろうけど、もうこうなったら毎年送り続けてやるよ、こっちも意地だから。
あの経験から、俺は「今後誰と付き合っても、絶対に浮気をする」と決めている。
── えっ、待ってください、「する」ほうですか!?
うん。だって、もうこうなったら意地を通すしかないよ。意地でも浮気する。浮気をしてフラれたことは後悔しているけど、悪いことだと思っていない以上、貫くべきだと思っているから。逆に浮気を貫かなければ、あのとき浮気したことを一生後悔してしまう。
反省しなくても、謝れば生きられる
── では、反省するということはあるんですか?
しない。反省は絶対にしない。失敗や後悔はしても、自分がいいと思ってやったことは反省する必要がない。料理でも、途中で失敗したなと思っても途中で味を変えることができるし、何か手を加えてもっとヒドいことになってもそれはそれで面白いよね。失敗はただの通過点で、終着点ではない。反省は過去を振り返って自分を変えようとする行動だけど、そんな終わったことを考えたってしかたがないし、簡単に反省して自分を変えてはいけないと思う。一時の思いつきであろうと、やりたいように行動したのなら、反省などしてはいけない。
── そういう生き方をしていると、他人から怒られることも多いと思いますが……。
世の中には理不尽なことが多いし、自分の意のままになることは少ないから、「謝る」ということは大事だよ。でも反省なんかしなくてもいい。反省しなくても謝ってやり過ごすスキルさえあれば、理不尽な世の中でも生きていけるから。
── そうやって開き直ると、ラクに生きられそうではありますね。
どんどん思ったことをやって生きていると、悩んだり反省したりしているヒマはないんだよね。
── ありのままに生きろということですか。
うーん、ありのままというと、自分のむき身を世間にさらせというふうに聞こえるから、少し違うかな。自分はこういうキャラで生きていくと決めて、それを貫けばいいと思う。俺だって、北大路翼というキャラクターを演じて生きているよ。本体の自分をそのまま社会にさらしたら、誰も生きていけないと思う。ありのままを受け止めてほしいとか、ありのままで生きようとか思っている人は傷らだけになってしまうと思う。むき身をさらさず、自分がこうありたいと思うキャラクターで武装して生きるほうがいいよ。そして、そのキャラクターがやりたいと思うことはすべてやればいい。
── なんだかお話を伺っていると、自分の悩みがどうでもいいことのように思えてきます。
とにかく、ギャンブルをしろ! ヒドイ目に遭え!
── だからギャンブルはダメですって! 北大路さん、ありがとうございました。
最後に、北大路翼さんの俳句をいくつかご紹介します。
無くていい希望と夏休みの宿題
八月をぜんぶなかつたことにする
昔から網戸についてゐた死骸
健康に見えないけれど日焼け顔
洗つてないコップの味のする麦茶
日直が捨てる月曜日の金魚
振り返るたび消えかけの花火あり
句集『見えない傷』より
中高生のみなさんはギャンブルはしてはいけませんが、何でも勝負ごとのように真剣に取り組んでみれば、失敗を失敗として引きずることはなくなるかもしれません。たしかに人生は、誰でも失敗や後悔の連続です。でも自分でこれをやると決めて動いたことならば、失敗も後悔も何かに活かすことができたり、人生をより面白くするものになったりするものです。
意地を通して生きるということは、せちがらい世の中を生きるためにも強い武器になりそうですね。
<取材・文/大西桃子>
北大路翼さんの句集『見えない傷』を1名にプレゼントいたします!
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この記事を書いたのは
ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。