【不登校の選ぶ居場所・前編】子どもの意志に寄り添うフリースクール
生徒・先生の声
不登校
2023/03/13
小中学校の不登校児童生徒が急増しているという調査結果が、たびたびニュースになっています。文部科学省の「令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によれば、全国の小・中学校において不登校の児童生徒(年間で30日以上欠席)は2021年度に24万4940人に達していたとのこと。
これは前年の2020年度よりも24.9%増というハイペースです。
文部科学省はこの増加の背景として、コロナ禍による影響があると分析していますが、もちろん理由はそれぞれに違い、一律に解決できるような“特効薬”はありません。それだけに、対応も手探りにならざるを得ないのが現実です。
こうした状況に対応するべく、今、全国でさまざまなスタイルのフリースクールが生まれています。運営母体や運営方法も多岐に及び、「フリースクール」とひとまとめにするのもどうかと思えるほど。
今回は、子ども自身や保護者の要望に合ったフリースクールを探すヒントとして、いくつかのフリースクールを取材しました。前編・後編に分けて詳しくお伝えします。
その日の過ごし方は自分で自由に決める
前編でご紹介するのは、2021年10月にオープンした「ビリーバーズ広尾」。
当フリースクールが第一に目的としたのは、「子どもたちの居場所作り」です。公式ホームページにも「小中高生のくつろぎスペース」とうたっているとおり、まずは不登校の子どもたちが「くつろいで過ごせる空間」を目指してスタートしました。
ビリーバーズ広尾は、ひと部屋の空間の中にテーブルセットやソファがいくつか配置されています。壁の棚やテーブルの上には、さまざまな本やおもちゃ、みんなで遊べるゲームなども。
取材で訪れた時間帯にはまだ子どもたちがいるはずでしたが、部屋には誰もいませんでした。聞けば、お昼ごはんの後にみんなで近くの児童館に遊びに行ったとのこと。最近、そこに行って遊ぶことが多いということでした。もちろん外に行くときにはスタッフがサポートします。
ビリーバーズ広尾を運営する一般社団法人ビリーバーズの和田恭代理事に、スクールについてお聞きしました。
「21年の春頃に、熊野英一代表理事が中心となって、『子どもの居場所を考えよう』ということで対話会を始め、実際にやってみようということで始動しました。基本理念は、『子ども自身が自分らしくいられること。人とつながる中で自分自身の存在を考え、自分の足で一歩を進めるきっかけにしたい』ということです」
その方針通り、スクールに来た子どもたちは『その日どう過ごすか』を自分たちで考えます。勉強したい子は勉強する。ゲームをしたくて持ってきている子は、ゲームをして過ごす。学校のオンライン授業に、スクールから参加する子もいます。また、昼食をとる時間も最初に「何時頃」と決めます。
「こちらから『これをしなさい』と言うことはありませんし、昼食の時間も『この時間にみんなで食べましょう』ということもしません。何かやりたいという声があれば私たちスタッフがキャッチアップしますし、場合によっては『一緒に遊ぼうよ』という提案をすることもあります」
ただ基本的には、そのときに過ごしやすい場所で、やりたいことをやって過ごすことを最優先としているのだそうです。
「たとえばゲームをするにしても、自宅の自分の部屋でやるのと、ここでやるのとでは違うはずなんですね。音を出すのもお互いの関係の中で、ヘッドホンを持ち込んでいる子もいれば、他の子の音が気になったら『小さくしてくれる?』と交渉する子もいます。こうして子どもたちはいろんな人がいる中で過ごす体験ができますし、保護者の方にも、子どもたちを信じて見守ってもらうという体験ができると思っています。
不登校で、ずっと親子で家にいるとお互いに気詰まりになることもありますが、子どもがここで安心に過ごしているということで、保護者も安心して自分の時間を持てると思うんです」
保護者としてはつい「学校に行かないならこれをやってみたら」とさまざまな提案をしたくなることもあると思います。ですが、子どもを信じて一歩離れて見守ることで、親子関係がよりよくなることもあるかもしれません。
他者との関わりの中で成長していく子どもたち
保護者の中には、子どもの将来の進路なども考えて「勉強させてほしい」という要望のある人もいるでしょう。その場合にはどうしているのでしょうか。これに対しては、
「実際に勉強するかどうかは子ども自身が決めること。『お母さんはこう言ってるけど、どうする?』と話すなどしてサポートしながら、最終的には子どもの意思に任せます」
と和田理事は言います。あくまでも、子どもの意志を最優先した運営方針となっているようです。
「子どもがやりたくないのに、『やらなきゃいけないからやる』というのは本末転倒なんですよね。子ども自身にもそこを考えてほしいんです。自分でも、勉強しないといけないことはわかっているんですよ。その上で折り合いをつけていく体験が大事。ここにいる時間は、今ある選択肢の中から自分で責任を持って選ぶことが大切なので、私たちはそこをサポートしています」
定員は決まっていませんが、部屋で過ごすのは6~7人ぐらいのことが多く、一番多いときで10人ほどとのこと。お互いが慣れてくると、ケンカが起きることもあります。スタッフの西真由子さんは、子どもたちのケンカが起きたとき、実は内心うれしかったと話します。
「最初の頃は、みんな自分の殻に閉じこもっていたんです。ソファに座っていても、みんな足を畳んで、丸まるような姿勢でした。でも少しずつ交流が生まれてくると、だんだん足を伸ばし始めて、今ではみんなビローンと寝転がったりしています(笑)。表情も柔らかくなりました。
そんな中でケンカが起きて泣く子が出て、私はなだめながらも内心は『しめしめ』と思ったんです。それまでは言いたいことがあっても呑み込んでいた子たちが、少しずつ主張してみるようになって、ケンカができるまでのぶつかり合いができるようになったということなので」
他人との関わりの中で多くのことを学ぶことも、子どもにとっては大切なこと。フリースクールではそうした関わりの機会を持つこともできます。
ビリーバーズ広尾では、子どもたちの発案で、遠足などのイベントも行われています。植物が好きな子が、ベランダのプランターでサツマイモを育ててみたところうまく育たなかったので、畑にイモ掘りに行ったこともあるそうです。
イベントにも、参加するかどうかは子どもの意思次第。クリスマスやハロウィンの催しも、部屋にはいるけれど参加しないという子もいるとのこと。
また、スクールで過ごすことがきっかけとなって再び学校に通い出した子もいるそうですが、和田さんは「決して、学校に戻るためにここがあるわけではありません」と言います。
「私たちは、ここに来た子どもが学校に通うことではなく、子どもと親がそれぞれ穏やかにいられる居場所であることを最重視しています」
そんなビリーバーズ広尾には、都外など遠くから通っている子もいるとのこと。運営側では需要を感じると同時に、もっと子どもの身近にこうしたスペースがあるといいとの思いから、「自分たちでそういうスペースを作りたい」という人がいたら連携していきたいそうです。
「学校にも家にも居場所がない」と感じて不登校になり、つらい日々を過ごしている子ども。そんな子どもを心配しながらも、ときには衝突してしまう保護者。そんな人たちは、ビリーバーズ広尾のような空間を体験してみるとよいかもしれません。
取材協力
学校でも家でもない居場所で、主体性を尊重しながら子どもが過ごせる場所を提供。
※後編は3月27日(月)公開予定です
<取材・文/高崎計三>
この記事を書いたのは
高崎計三
1970年、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年に有限会社ソリタリオを設立。編集・ライターとして幅広い分野で活動中。