【不登校の選ぶ居場所・後編】オンラインフリースクール・学習の不安を克服する個別塾
生徒・先生の声
不登校
2023/03/27
不登校の児童生徒の居場所や学びの場として、フリースクールという選択肢があります。しかし、ひとことでフリースクールと言っても内容はさまざま。子どもに合ったフリースクールを選ぶためには、まずどんなフリースクールがあるのか、情報を集めてみるのがよさそうです。
そこで今回は、3つのフリースクールを取材。前編では、「子どもたちの居場所を作ろう」というコンセプトの「ビリーバーズ広尾」をご紹介しました。子どもたちがまずは学校以外に居場所を見つけられるということは、確かに大事です。一方で、外出すること、どこかに通うことに抵抗のある子どももいます。
個人で不登校支援の活動をしていた株式会社WIALIS代表の中島由貴子さんも、そのような状況にある子どもに接していた1人でした。不登校児童・生徒の保護者からも、「子どもが居場所を見つけて、家族以外の誰かと話してもらいたいけど……」という要望を聞いていました。
そこで「一番安心できる自宅からPCを使って、クリックひとつで外と繋がれるオンラインのフリースクールを作ってみようか」と思い立ち、2022年11月にスタートしたのがオンラインフリースクール「WIALIS(ウィアリス)」です。
WIALISはリアルの教室を持たず、基本的にすべての活動がネット上のバーチャルキャンパスで展開されます。
バーチャルキャンパスには2つのフロアがあり、2階には職員室、面談などに使われる部屋、チェックイン時に入口が渋滞した際の待合室があります。1階は子どもたちのメインフロアとなっていて、ホームルームや説明会が行われる広場、部活動や「ちょこっと授業」に使用されるA~Dの教室、自習室、図書室、食事や休憩時に使われるランチルームなどの部屋があります。
では、その中で子どもたちはどう過ごしているのか、具体的に見てみましょう。
多様な体験ができるオンラインフリースクール「WIALIS」
オンラインオフィスなどの環境を提供している「oVice」の協力で、中島さん自らデザインしたというバーチャルキャンパス。ネットとゲームに慣れ親しんだ生徒たちは、みんなすぐに使い方に慣れるとのこと。
連動するzoomを利用して、サポートクルーは顔を出して声がけなどを行っていますが、生徒は顔を出すかどうかを選択でき、会話もチャットのみで済ませることも可能です。
「自宅からチェックインして、時間の管理ができる子の場合は、サポートクルーと『今日は何をやる』という打ち合わせを一人ひとり行い、自習室で『スタディサプリ』や『スクールTV』などの映像教材を使って学習します。また学習に乗り気でない子は図書室で思い思いに過ごすこともできます」
12時になったらアバターをランチルームに移し、食事して休憩します。13時から15分間はホームルーム。ホームルームの時間にはクイズが出され、出席者がリアクション機能を使って反応することも。
午後にはサポートクルーが学年ごとの授業を行ったり、「ポモドーロ学習法」(タスクを分割し、1つ1つを短時間で終わらせて休憩することを繰り返す学習法)を導入して自習を行ったりするほか、クラブ活動が行われ将棋や人狼など、オンラインで可能なゲームで盛り上がる日もあります。
このクラブ活動はサポートクルーが1週間の予定を決め、興味のあるものがあれば自由に参加するという形なのだとか。
さらには課外活動として、月に1回、zoomでのフィールドワークを実施しています。これはデジタルマーケティングのアースダイバー株式会社の協力を得て、国内外の名所などを現地スタッフからの映像でリアルタイムに体験するもの。第1回はエジプトのピラミッドを見学し、子どもたちにも大好評だったとのこと。
このように学習だけでなく、子どもたちが興味を持って楽しめる行事がいろいろと用意されています。
保護者には、チェックイン、チェックアウト時はスマホを通じて通知される仕組みになっているので、職場からでも確認できます。また1日の学習内容は学習支援アプリ「Studyplus(スタディプラス)」を使って記録。毎日のチェックイン&アウトに加え、学習内容も記録していくことで、学校の出席認定につながっています。
「学校での出席認定が取れるかどうかは現状、各学校長の判断に任せられていますが、最近になって文科省から通知が出たこともあり、私たちのようなオンラインスクールも認知され始めました。WIALISはバーチャルでもキャンパスがあってチェックイン、チェックアウトの管理もできているので、学校長にも説明がしやすいんです。
ご家庭から出席認定がほしいというご要望があれば、私が保護者さんと一緒に学校長と直接お話ししてご説明しており、今までは100%認定をいただいています。まだ成績に反映していただくところまでは難しいのですが、出席認定をいただけていることで、子どもたちの自己肯定感にもつながっています」
講師陣の質を担保する個別指導塾「ココロミル」
一方、「学力の担保」と「受験」という課題に、より力を入れているのが、「不登校を『受験』で解決する!」というキャッチフレーズを掲げている「個別指導塾ココロミル」です。塾長で『不登校からの進学受験ガイド』の著者でもある山田佳央さんにお話を伺いました。
ココロミルのオフィシャルサイトを見ると、まず目につくのが講師陣の顔写真。そこには氏名とともに「慶應義塾大学文学部卒」など最終学歴も掲載されています。
「もともと、私は不登校生徒のための塾をやっていたわけではないんです。大手の進学塾や学校で学力的についていけない子どもに個別対応する塾をやっていて、そこで不登校の子どもの割合が増えてきたことを感じていました。その中で、勉強が嫌いな子どもや、楽しくないという子どもでも、良い講師が指導にあたり成長できる機会を提供し続けようとしているだけなんです」
山田さんはそれ以前には、ある大手企業に務めていたそうです。そこで感じたのは「いい人材はいいところに集まる」ということだと話します。
「逆に学習塾の業界には、講師にいい人材が集まっていないんですね。特に大手塾は教室を増やしていくのに生徒数を増やしていくのに反比例して、講師陣の質は落ちていると感じました。だから最初のコンセプトとして、『いい人材が勉強の苦手な子たちを教えるという構造を作りたい』ということがありました。それが教育的にも一番インパクトが強いという研究結果も出ているんです」
そこで、講師採用にあたっては山田さん自身が全員と面談し、全員正社員として採用することで、質の高い人材を確保しているとのこと。「サイトでも全講師の卒業証明書を公開しています」と山田さん。これは料金に見合った結果を約束するという意思の表れでもあります。
「個別塾には、サイトを見ても講師や料金の情報がないところが多いんです。実際にどのように教えているのか、講師が正社員なのかアルバイトなのかもわからないところがほとんどですよね。また、個別塾では『先生がすぐ替わる』という声もよく聞きます。講師が替わっても『情報共有はしています』と言われますが、個別指導の共有は、実は難しいんです」
ココロミルでは情報をしっかり開示したうえで、講師一人ひとりが責任を持ち、料金に見合った質を担保しながら生徒の指導に当たっているとのことです。
個別指導で確実に結果を出し、自信につなげていく
こう聞くとココロミルの基本コンセプトはわかりますが、キャッチフレーズにある「不登校を『受験』で解決する」というのはどういうことなのでしょう。
「文科省が発表したデータによれば、子どもたちが不登校になった原因は、約40%が『学業不振』です。『いじめ』よりも断然多いんですね。勉強ができる・できないは子ども間のマウントにもつながります。しかし、不登校になった子たちでも、行きたい学校を選べるようになるまで学力をつけて、受験にパスするということで、変われたという場合も実際に多いんです」
ココロミルでは完全個別対応を掲げていますが、これについては、
「不登校の子たちと接した際の最初の衝撃が、『学力のバランスが非常に悪い』ことだったのが大きいんです。小学生でも国語はすごくできるけど、算数は九九もおぼつかないという子も。これだと学校での集団授業はつらいですよね。復学を目指しても、授業の中で先生に指される恐怖感もある。そういった子たちには個別指導の対応が合っていると考えています」
また、不登校の子どもへの学習指導においては、講師が替わると「自分のせいじゃないか」と思ってしまう子どもも少なくないと言います。
「保護者も子どもも、自己否定的な考え方をしてしまう傾向があるんです。でも、本来塾と家庭、子どもとは公平であるべきですよね。勉強が嫌いという子のほとんどは、実は本当に嫌いというわけではありません。先生との相性でそうなってしまったというようなケースが多いんです。でも特に小学生の場合は、そうなってしまった子どもの意識を変えることはできます。現状では、不登校になると、いい教育を受ける機会を逃してしまうことが多いですが、それを防ぎたいというのが私たちの思いです」
受験重視、結果重視というと、一見ネガティブなイメージもありますが、ココロミルではすべてを不登校の解決のために行っていると言います。多くのフリースクールとは対照的なアプローチですが、それだけに今後の動向にも注目です。
前編・後編で、子どもの居場所であることに重点を置く「フリースクールビリーバーズ広尾」、オンラインでも繋がれて出席日数にもなることを目指す「オンラインフリースクールWIALIS」、学業不振を克服し受験を目指す「個別指導塾ココロミル」の3つの選択肢を紹介してきました。
今回記事の中で紹介したように、不登校の子どもの居場所とひと言で言っても、不登校への考え方もアプローチもさまざまです。フリースクールを選ぶ際には、子どもが今どのような場所を求めているのか、どのような場所が合っているかを考えながら、検討してみるとよいでしょう。
取材協力
<取材・文/高崎計三>
この記事を書いたのは
高崎計三
1970年、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年に有限会社ソリタリオを設立。編集・ライターとして幅広い分野で活動中。