保護者の会に聞く「不登校生徒の親が持つ悩み」とは?

保護者の声

2024/10/08

現在、全国の小中学校における長期欠席者の数は約46万人、うち不登校児童生徒は約30万人に上っています(「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査」文部科学省 令和4年度より)。この不登校児童生徒の割合は、30人以上の学級であればクラスに1人はいる計算となっています。

不登校の子どもが増え、最近ではその言葉を耳にすることが増えてきたとはいえ、自分の子どもが不登校になったとき、子どもだけでなく保護者もさまざまな不安や困難を抱えます。

悩みを誰にも打ち明けられず、家庭内だけで解決しようとしてもうまくいかなかったり、子どもとどう接していいかわからなくなってしまったり……。
そんな保護者の悩みについて、今回は不登校の子どもを持つ「親の会」を開催しているフリースクールito(いと)のしんちゃさんに話を聞いてみました。
しんちゃさんも、子ども時代には不登校を経験しており、今現在は自分の子どもが不登校なのだとか。

親の会では、同じように悩んでいる人の声を聞くことで、心の負担が軽くなったり、考え方を切り替えられたりすることもあるようです。

時代が変わっても、学校はなかなか変わらない

—— はじめに、フリースクールitoの活動について教えていただけますか。

しんちゃさん:東京都中野区で活動しているフリースクールで、お出かけ企画のほか、不登校親の会「つながるいと」も月1回で開催しています。フリースクールは不登校の小学生・中学生を対象にしており、お出かけ企画は親子での参加も可能です。親の会のほうは気楽に来ていただけるように、予約不要で入退場自由、つながることを大切にしています。

—— フリースクールを立ち上げるきっかけは、ご自身のお子さんが不登校になったことだとか。

しんちゃさん:はい。私自身も子どもの頃は不登校を経験しているのですが、自分の子どもも小学校に入学後2週間で学校に行かなくなったんです。理由を聞くと、「先生が怒っているのがイヤ」とのことで。僕自身も威圧的な先生がイヤで不登校になったので、自分と同じでびっくりしましたね。僕の時代はまだ学校は絶対に行くものだとされていたので、親は引きずってでもつれていく、という感じでした。でも今はそういう時代ではありませんよね。子どもに合った居場所があってもいいのではと思い、フリースクールを開校しました。

—— 今も昔も、子ども全員が学校という環境に合うわけではないということですね。

しんちゃさん:昨今では学びの多様性を尊重しようという話がよく聞かれますが、実際にはまだ学校ありきですし、学校の雰囲気も変わっていません。やはりみんなが同じように学ばなくてはいけないという風潮があります。社会全体の価値観も同じです。学校を変えていくのには時間がかかるので、自分で開校したほうが早いと思ったんです。

—— 開校前には、学校以外の子どもの学びの場や居場所も見学されたんですか?

しんちゃさん:開校前には他のフリースクールや、ホームスクーリングを選択している人たちのコミュニティなども見て、さまざまな学び方があることを実感しました。また、そのような場所がなければ、子どもが不登校になったときに、子どもも保護者も地域や社会から孤立してしまうとも感じました。

—— 不登校の子どもを持つ保護者が集まる会は、今は多いのでしょうか?

しんちゃさん:全国各地にあり、オンラインの会もあります。教育相談に乗ってくれるところもあれば、お互いの不安や悩みをひたすら傾聴する会など、内容も多様です。不登校を解決しようというよりも、同じ不安を抱えている仲間で話を聞き合うような会が多いですね。

フリースクールitoの親の会「つながるいと」は、子どもも一緒に参加してOK

学習面や将来が不安……「自分のせい」と責めてしまう保護者も

—— では、保護者たちの悩みにはどんなものがあるのか、お聞かせいただけますか。

しんちゃさん:多いのは、学習に関することや進路の悩みですね。このまま勉強しなくて大丈夫なのかと心配になり、家で学習させようとするけれどうまくいかないといった話が多いです。また、お母さんは「ムリして学校に行かなくてもいい」と思っていても、お父さんが「学校に行かないとダメだ」「学校に行かないのは甘えだ」と考えていて、ぶつかってしまったり、理解してもらえないことでストレスを抱えていたりすることも多いです。

—— 両親がぶつかってしまうと、子どもにとってもつらいですよね。

しんちゃさん:そうなんです。お母さんは傷ついている子どもを見ているけれど、お父さんはそうではなく、子どもやお母さんに問題があるのではないかと考えてしまう。そうなると、お母さんも子どもとお父さんの狭間で苦しい思いをしてしまいます。

—— 両親がいるならば、双方が不登校の状況を理解するために寄り添わなければ、難しいわけですね。

しんちゃさん:学校に不安を抱えている子が、家でも安心して過ごせないのはつらいんですよ。家族関係がよくないと、子どもはどこにも居場所がないように感じてしまい、さらに生きづらさを感じることにつながっていきます。学校で傷ついた経験を持つ子が、家でも傷つき、より回復に時間がかかってしまうこともあるんです。

—— まずは保護者が精神的に余裕を持って構えることが大切だと。

しんちゃさん:ところがそうはいかず、「自分の育て方が間違っていたのではないか」「現状を変えるにはどうしたらいいんだろう」と自分を責めたり、現状を受け入れられなかったりする保護者が多いんです。それは、社会全体がまだ「学校には行かなければいけない」という思想から抜け出せていないからです。不登校が理解されてきていても、「でも、行けるなら行ったほうがいい」と考える人が大半ですよね。それがある限り、保護者が精神的に休まることはありません。

—— 登校することが正解だという考えから離れなければ、苦しさは変わりませんね。

しんちゃさん:また、最近では夫婦共働きの世帯やシングル世帯も増えています。そうした家庭で子どもが不登校になった場合には、仕事に行く前に毎日の昼食を準備したり、子どもが昼間どう過ごしているか心配になったりと、さらに肉体的・精神的な不安が大きくなると思います。

—— 毎日の仕事で疲れている中では、子どもと向き合うのも大変そうです。

しんちゃさん:このようにライフスタイルによってさらに負担を感じる保護者もいますが、やはり一番は、「学校に行かせたいのにどうにもならない」というストレスです。精神的にボロボロになって、親の会にたどりつく方も多いんです。

保護者にも、安心できる場所は必要

—— 親の会に参加することで、保護者のみなさんは変わっていくのでしょうか?

しんちゃさん:大きく変わることはないかもしれませんが、親の会では同じつらさを味わっている人たちと交流することができるので、「救われる思いがした」という方は多いです。子どものことで行政に相談に行っても、窓口の人によっては保護者の大変さをわかってもらえずに、かえってつらい思いをして帰ってくるケースもあるんです。

—— 助けを求めに行ったのに、余計に孤立を感じてしまうわけですね。

しんちゃさん:子どもと同じように、保護者にも安心して過ごせる場所は必要なんです。子どもを変えるより前に、保護者がまず不安を取り除き、「不登校でもさまざまな学び方がある」「学校に行くことが必ずしも正解ではない」と知っていくことが大切なんだと思います。痛みを共有してもらえて安心できる親の会のような場所で、少しずつ情報を集めていってもらえれば。

—— 不登校の子どもやその家庭に役立つ情報も、同じ経験者から聞けるのはよさそうですね。

しんちゃさん:今はインターネット上にもたくさんの情報が出ていて、オルタナティブスクールやホームスクーリングなど、いろいろな学び方について知ることができます。ネット上で「学校に行かなくても大丈夫!」とキラキラした発信をしている保護者もいて、自分もそうなりたいと思う人もいるかもしれません。でも子どもにとって何がいいかは異なりますので、まずは自分とは別の視点をたくさん知ることが大切だと思います。

—— ネットでは自分がほしい情報のみをつい集めてしまいますから、直接たくさんの人の考え方を聞けたほうがよさそうです。

しんちゃさん:親の会に行こうと思っても、最初は勇気がなくて参加できないという人がほとんどです。子どもの不登校という現実をなかなか受け止められない人もいて、親の会に踏み出せない人もいます。でも、同じように苦しんでいる人と一緒に考えていく親の会では、自分の話が誰かの役に立つかもしれません。自分に合った雰囲気の会があれば、ぜひ行ってみてほしいです。

—— ありがとうございました。

取材協力

<取材・文/大西桃子>

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この記事を書いたのは

大西桃子
ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。