高校生でも「宇宙で学ぶ」は可能! JAXAの宇宙教育プログラム

生徒・先生の声

2020/11/15

科学の進化につれて、宇宙についての研究も飛躍的進化を遂げ、日本人宇宙飛行士も続々と誕生しています。そして、民間の宇宙旅行も現実的になってくるなど、宇宙がだんだんと身近になっているように感じます。

「宇宙についてもっと知りたい」「将来は宇宙に関連する仕事をしてみたい」と思っている中高生もいるのではないでしょうか?

日本の宇宙開発・研究の先端に立つJAXA(宇宙航空研究開発機構)では、そんな生徒・学生たちに向けてさまざまなプログラムを用意し、宇宙教育に取り組んでいます。今回はJAXA宇宙教育センターの鈴木保志さんに、そうしたプログラムの詳細や目的についてお聞きしました。

宇宙を素材に、好奇心や冒険心を伸ばそう!

── JAXAでは「宇宙で学ぶ」というテーマのもと、小学生から高校生向けの教育プログラムを展開されていると伺っています。まず「宇宙を学ぶ」ではなく「宇宙で学ぶ」というのはどういうことなのでしょう?

JAXAで行っている宇宙教育は、「宇宙のことを知ってほしい」というだけではなく、「宇宙の素材を使って学んでもらう」ことを目的としています。「宇宙“を”学ぶ」ではなく「宇宙“で”学ぶ」としているのは、私たちの身の回りで起こっていることの中にも実は宇宙につながっていることがたくさんあるといった発見をしてほしいと思っているからです。
子どもたちが秘めている好奇心や冒険心を我々がうまく引き出し、彼らに気づいてもらいたい。そこで我々JAXAが宇宙探査や宇宙開発で養った知識、素材をうまく使って気づきを与えるということが、宇宙教育の理念となっています。

── その中で、高校生に適したプログラムというのは?

年代別にさまざまなプログラムを用意していますが、高校生向けでは『エアロスペーススクール』と『君が作る宇宙ミッション(きみっしょん)』とがあります。

『エアロスペーススクール』のテーマは「ホンモノ体験」です。これはJAXAの事業所を会場にホンモノに触れてもらうというプログラムで、「モノ」「ヒト」 「コト」 という3つの柱があります。
「モノ」は事業所にあるいろんな設備や施設に触れてもらうこと。「ヒト」はJAXAの職員とのふれあい。そして「コト」は、そこに集まった仲間とともに、一緒に考えてもらうことです。

エアロスペーススクールでは応募の際には動機を書いてもらうんですが、高校生で多いのは「進路に悩んでいる」という内容です。
「進路を決めるにあたって、今考えている道が自分に合っているのかどうかを確かめたい」とか、「宇宙には全然興味がなかったけど、これを機会に新たな発見があるのではと思った」というものが多いですね。そんな高校生の進路を決める手助けになればということも、目的のひとつです。

種子島で行われたエアロスペーススクールの様子

── もうひとつ、「君が作る宇宙ミッション(きみっしょん)」というものもありますね。

こちらはJAXAの相模原キャンパスで行います。ここでは5日間、宇宙科学研究所の大学院生のサポートを受けて学べるところが大きな特徴です。

きみっしょんでは、最初に参加者に課題(ミッション)を与えて、それを大学院生のサポートを受けて解決し、最終的にそれを発表してもらうという流れになっています。
ミッションはかなり難しいものになっており、発表ではJAXAの職員や研究者に聞いてもらった後に意見をもらいます。厳しい意見が容赦なく飛んだりもするのですが、それが生徒さんたちにはいい刺激になっています。

── 公開されている発表会の動画を見させていただきましたが、このミッションは本当に難しいですね。「超塑性現象を利用した宇宙機用構造材料の組織制御」など……何を言っているかすらよくわからないのですが(笑)。

我々JAXAの職員でも手に負えないような課題もありますからね(笑)。でも知識がなくても考えなくてはいけないので、生徒さんは大学院生やJAXA職員を捕まえて話を聞いています。
参加者にはものすごく宇宙に詳しい子もいれば、そうでない子もいるので、そんな全員が協力して解決に向かうというところも面白さのひとつになっています。

2018年 第17回 「君が作る宇宙ミッション(きみっしょん)」の紹介動画

文系でも宇宙関連の仕事はたくさん

── 『エアロスペーススクール』と『きみっしょん』では、『きみっしょん』のほうが宇宙に詳しい生徒が多いイメージでしょうか?

いえ、そんなに差はありません。ただ事業所ごとの特色はあります。『きみっしょん』が行われる相模原キャンパスには宇宙科学研究所があって、宇宙の謎を探るという性格が強いんですね。なので、そういう方向に興味を持つ生徒さんが集まります。
また『エアロスペーススクール』を行っている事業所はいくつかありますが、宮城県の角田宇宙センターではロケットエンジンを扱っていたり、調布宇宙センターでは航空がメインだったりするので、それぞれに興味を持つ子が多くなっている傾向はあります。

── ということは、参加者は理系がほとんどなんでしょうか?

そうとは限りません。実際に「文系でも何かできることはないのかなと思って応募しました」という生徒さんもいます。JAXAに入るには理系じゃないとダメなのではと思っている生徒さんも多いんですが、実際にはそうではなくて、JAXAの約3分の1は文系の職員なんですよ。実は私も文系なんです。

── えっ、そうなんですね。

文系でないとできない、文系のほうが長けているという仕事もありますからね。事務系の仕事や広報などは文系が多いです。プロジェクトを回すにも、マネジメント系の仕事や研究者のサポートなどは文系の人のほうが向いている場合もあります。私も会計や総務などの仕事もしてきました。
また、どうしてもマニアックになりがちな研究プロジェクトの内容を担当省庁の人間にも分かるようにプレゼンして、理解してもらうために資料をまとめるという作業も、文系向きですよね。

── プログラムを受けた生徒には、どのような変化がありますか?

変化は確実に感じます。最初は20数名集まってもみんな知らない子ばかりなので、お互いによそよそしいんですよ。でも終わった頃には仲間意識がすごく強くなって、その後何年も交流を続ける子たちもたくさんいます。
また個人レベルでは、人前での発表が苦手だったのが物怖じせずしゃべれるようになったなど、学校の先生も認める変化も見られています。

── プログラムはどのようなタイムスケジュールになっているのですか?

エアロスペーススクールの場合だと、だいたい朝は学校の始業時間ぐらいに始まって、17時まではプログラムが行われます。それからホテルに帰るんですが、まだ続きがあって、ホテルの会議室でその日の反省会や議論の続きを行います。
また就寝時間の後も、同じ興味を持った高校生が集まるのでそのまま終わるわけはなく(笑)、誰かの部屋で話を続けていたりしますね。翌日もあるので、遅い時間になったら注意はしますが、我々もある程度は大目に見ています。

── 応募に際しては何か準備などは必要ですか?

特別な準備は必要ありません。20数名の枠にそれ以上の応募があるので、やむを得ず選抜させていただいていますが、その方法は先ほどお話しした「動機についての作文」。400字以内で提出してもらうのですが、そこで熱意や興味をうまく伝えてもらえたらと思います。
あと、規定の400字を超えて書いてくるとか、200字しかないといったものもあります。入試と違ってそれでバッサリ落とすということはしませんが、不利になることは確かなので、気をつけてほしいです。

今後は民間でも宇宙関連事業が広がっていく

── プログラムを通して、高校生に一番学んでほしいのはどのようなことでしょうか?

コミュニケーションをとりながらグループワークをするとはどういうことか、考えてもらえれば。「きみっしょん」で言えば、仲間で議論してひとつのものを発表するというプロセスから、そうしたことを学べると思っています。

高校生たちが大学院生のサポートを受けて課題を解決する「きみっしょん」

── このプログラムを経験して、実際にJAXAに入った人もいますか?

いますね。『エアロスペーススクール』に参加した後に大学を経てJAXAに入った人は何人もいます。またJAXA以外にもロケットに関係する企業や、科学や物理の知識を生かせる企業など、けっこう多様に広がっていますね。
最近は我々もさまざまな民間企業と連携していますので、「宇宙」というキーワードでの就職先は無限に広がっていると思います。もうすぐ「はやぶさ2」が小惑星から地球に戻ってきますが、その実験過程でも部品単位に特化した町工場など、大小さまざまな会社が関わっていますからね。

── 堀江貴文さんの会社※のように、民間企業でロケットを打ち上げるというような例もありますよね。(※ホリエモンこと堀江貴文氏は、ロケット開発と打ち上げサービスを実施するベンチャー企業を創業している)

そうですね。JAXAの職員が独立しての起業も増えていますし、JAXAの中にある「新事業促進部」という部署では民間企業との連携を進めているので、これからさらに広がっていくでしょうね。

── JAXAではこの他にも教育関係で取り組まれていることはありますか?

『授業連携』というプログラムがあります。これは学校への出張授業とはまた違って、我々と学校の先生が共同で、我々の持っている宇宙関連の素材を使って、授業を作っていくというものです。また教員研修も行っていて、そういったことを通じて生徒に宇宙への関心を高めてもらえればと思っています。

── では最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

高校生というのは自分の進みたい道筋がだんだんと見えてくる頃です。我々は宇宙に関係する仕事をしているので、宇宙を素材にした教育プログラムを実施していますが、こうしたプログラムを通じて自分の可能性や新たな発見を探してみてほしいと思います。

── 鈴木さん、ありがとうございました。

画像提供:JAXA

取材協力

JAXA宇宙教育センター

http://edu.jaxa.jp/

<文・取材/ 高崎計三 >

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この記事を書いたのは

高崎計三
1970年、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年に有限会社ソリタリオを設立。編集・ライターとして幅広い分野で活動中。