AO入試が総合型選抜に変わる!「やりたいこと」を活かすための対策・準備とは
生徒・先生の声
通信制高校
2021/08/17
英語や数学といった科目のペーパーテストの点数ではなく、学校の成績や小論文、面接での人物評価で入学できるかが決まる「AO入試」。2021年4月から「総合型選抜」という名称に変更されたのはご存知でしょうか。
もちろんただ名前が変わっただけではなく、中身にも変更があります。
そこで今回は総合型選抜専門塾AOIの塾長に、制度や具体的な準備、すぐに始められる対策などを伺いました。
また、通信制高校出身でAOI卒塾生の方に、通信制高校だからこそ可能な総合型選抜対策や、大学に入ってからの生活について教えてもらいました。
AOと総合型選抜、何が違う?
今回、総合型選抜についての疑問に答えてくださるのは、「総合型選抜専門塾AOI」の塾長・藤原照恭さん。AO入試から総合型選抜へ変わったとのことですが、いったいどのような変化が起こっているのでしょうか。
「AO入試は1990年に慶應義塾大学 総合政策学部・環境情報学部(SFC)で最初に導入された制度です。
当初は“一芸入試”の傾向があり、たとえばスポーツで全国チャンピオンになった人や、留学経験があり語学堪能な人が受けるというように、何かの分野で秀でている人が受けるというのが、一般的なイメージだったと思います。
それが昨今は変わってきていて、“大学で何がやりたくて、何を達成したいのか”、“それに対して高校時代からどのような努力を行ってきたか”を問う内容になってきています」
このようにAO入試そのものが変化してきた中で、総合型選抜になったことで大きく変わった点があると言います。
「総合型選抜は、文部科学省が2024年に向けて推進している『生きる力』を養うという教育改革に沿って行われているもので、旧AO入試の名称が改められたものになります。大学のセンター入試に替わる『大学入学共通テスト』も、そうした改革の一環ですね。
総合型選抜では、これまでのAO入試と違って国公私立を問わず、志望理由や自己PRなどの書類だけでなく学力が問われるようになります。これは、小論文やプレゼンテーションなどによって学力を評価する、ということです」
なお、これまでの入試方法は以下のように名称が改められるそうです。
- AO入試 → 総合型選抜
- 大学入試センター試験 → 大学入学共通テスト
- 推薦入試 → 学校推薦型選抜(指定校推薦・公募推薦)
- 一般入試 → 一般選抜
すぐ始められる対策、それは「よく調べる・聞く」こと!
書類と面接だけの受験というこれまでの形とは違って、さまざまな評価基準が定められている総合型選抜。受験するために今すぐ可能な対策はあるのでしょうか。
「まず保護者さんにできることがあります。それはズバリ“情報収集”です。そもそも総合型選抜がどういうものなのか、必要条件や、試験要素などを多くの保護者や生徒さんはご存知ありません。これらを詳しく知ることから始めてください」
そこでまず押さえておくべきは、次の内容だとのことです。
▼ 必要条件
- 評定
- 資格
- 活動実績
▼ 試験要素
- 志望理由書
- 小論文
- 面接、プレゼン、グループディスカッション等
そして、高校生がすぐにできる対策としては、上記の「必要条件」のうち、「活動実績」にあたる部分だとのこと。
「よく“ボランティアとかをやったほうがいいんですよね?”と聞かれるのですが、それは正解でもあり不正解でもあります。もしボランティアが“将来自分のやりたいことに紐づいている”なら、ぜひともやるべきです。たとえば地域創生や街づくりを将来やりたいなら、ボランティアで地域に関わることは素晴らしいと言えるでしょう」
一方、意図を持たずに、漠然と点数稼ぎのためにボランティアに参加するということであれば、あまり意味はないようです。
ただ、“自分のやりたいことと紐づいた活動”というと、難しく考えてしまう人もいるかもしれません。そこで藤原さんにアドバイスをいただきました。
「専門家に話を聞きにいくことなどもオススメです。街づくりでもアートでも起業でも、自分がやりたいことを専門にしている大人に話を聞きに行ってみましょう。
高校生であれば、大学教授やさまざまな専門家、有名人の方々は、思っているよりずっと門を開いてくれて、質問に応えてくれますよ。それも立派な活動実績となりますし、何より自分の将来を切り開くヒントになると思います。
勇気を出して“総合型選抜で必要なので”と理由を添えて、ぜひアプローチしてみてください。SNSなどを利用してみるのもよいと思います」
保護者も生徒も、まずできることは「調べたり、聞いてみたりする」ことのようです。
将来の夢について語れる力を身につける
総合型選抜では将来の夢に沿って活動実績を積むことが期待されるようですが、将来の夢と聞かれても困る生徒がいると思います。その場合、あまり総合型選抜には向いていないということなのでしょうか。
「そんなことはありません。私も入塾者に対面でカウンセリングをするのですが、将来の夢を聞かれて答えることのできる生徒はほとんどいません。そんな質問はあまりされたことがないので、みんな困ってしまうのです。
しかし、興味を持って接していることや調べていること、SNSでフォローしている情報は、誰しもあるはずです。そういうことを大事にしてほしいので、カウンセリングでは“あなたは自然に将来の夢を心のどこかに持っているよ”という気づきを与えるお手伝いをしています」
ただ、その「興味のあること」も、単に好きだというだけでなく、他人に伝える能力が問われるのが総合型選抜です。
「総合型選抜では、主に“得意を伸ばす”ことが重要です。どんどん好きなことを突き詰めていって、何時間でも語れるようにしていってほしいのです。そのためには、多くの情報のインプットや勉強も、もちろん必要になってきます」
決して総合型選抜は楽な道ではないということは、覚えておきたいですね。
通信制高校の生徒は総合型選抜向き? その理由とは
通信制高校に通う生徒が総合型選抜を目指すことのメリットについても、藤原さんに伺いました。
「通信制高校の生徒の場合、“成績”と“時間”という点で有利だと考えています。
“成績”に関しては、他の高校に比べてきちんと努力を重ねていればよい評定が取りやすいということです。評定については、通っている高校が進学校であろうとなかろうと関係ありません。自学自習ができる生徒であればきちんと評定をとれる通信制は、そういう意味で総合型選抜に向いています。
もうひとつの“時間”については、通信制のメリットはかなり大きいです。全日制では日中は学校に行かなければなりませんが、通信制であれば日中ある程度自由がきくので、活動実績を積んでいくのにベストな環境と言えます。
ですから早い段階で自分のやりたいことを見定めて、目標に向かって活動につなげていきましょう」
また、通信制高校に転入した人の場合でも、転入以降にきちんと頑張ればOKとのこと。
「仮に転入の理由をネガティブに考えているとしても、それをポジティブな経験に変換できれば、これもまた強みになります。困難を乗り越えて達成できたことはむしろ評価の対象になりますし、実際に人間としても成長しているはずです。
ネガティブな経験を突き詰めるのはつらい作業にはなりますが、ぜひ向き合ってみてください。ネガティブ経験とポジティブ経験とのギャップが大きい人ほど、総合型選抜で必要となる感動的な志望理由書が書けるようになります」
こうしたことは就職試験でも活かせるスキルになっていきます。ぜひチャレンジしてみてください。
通信制高校から大学へ進学した先輩に聞く!
今回は、「総合型選抜専門塾AOI」の卒塾生で、通信制高校から公募推薦(旧AO入試)を経て上智大学総合人間科学部へ進学した三原さん(仮名)にもお話を聞くことができました。
― 三原さんが通信制高校に入ったきっかけは?
「私は中学・高校といじめに遭って学校に通えなくなってしまい、高校では留年する可能性も考慮して、通信制へ転入することにしました。日本航空高校の通信制課程で、トライ式高等学院をサポート校に選びました」
― なぜ旧AO入試をやってみようと考えたのでしょう。
「サポート校のAO合宿で教えてもらい、関心を持ちました。AOというと甲子園出場とか数学オリンピックに行ったとか、すごい子しか受験できないと思っていました。でも、通信制高校からも有名大学に行っているという話を聞いて、初めて「自分もできるかも」と思いました」
― 受験するにあたって、つらかった点、楽しかった点は?
「受験生のほとんどが全日制高校に通っていることが気になっていました。大学も当然、普通の学校生活を送った子を求めていると考えていたので、つらかったです。
でも、活動実績づくりを通して自分の可能性を感じられたことや、新たな人間関係を築けたことは楽しかったです。学校には馴染めなかったけれど、他に自分の居場所はあるのだと実感できました」
― 何をやりたくて、どんな活動実績を積みましたか。
「私は大学でジェンダーやセクシャリティについて学びたいと思っていたので、LGBTQ+関連のイベントでボランティアスタッフとして働きました。そこを通して交友関係が生まれ、また縁があって医療関係者向けのトランスジェンダー講習会などにも出席して勉強もしました。
それから、AO受験を考える前から通っていたネイルアートの学校も、私にとっては大切な居場所でした。これらの経験はすべて、通信制高校に通っていたからこそできたことだと思っています」
― 旧AO受験で培った経験を、大学でどのように活かしていますか。
「AO受験にあたってすごく時間をかけて勉強したのが、小論文でした。今は、これが大学のレポート作成で活きています。コロナ禍で授業はほとんどオンラインという状況で、先輩や同級生などに頼れない中でどんどん出されるレポート課題も、お陰で良い成績をとることができました。また、AOでの面接の練習は、授業での発表にも活かされています」
― 通信制高校へ通っているみなさんに、先輩として伝えたいメッセージはありますか。
「通信制高校に通っていたことが、大学受験や入学後にマイナスに働いたことはありませんでした。もし不安に思っている人がいるのなら、そこは心配しなくていいよと伝えたいです。
私は通信制高校と同時にネイルの学校にも行っていたので、全日制の子から「ズルい」と言われることはありました。でも通信制高校はみんなに開かれている選択ですから、ちっともズルくないと私は思っていましたし、みなさんも自分の選択に自信と誇りを持ってほしいなと思います」
自分らしさを追求することそのものが評価される総合型選抜。通信制高校の生徒が受験するメリットはたくさんあるようです。早めに詳細を調べたり、話を聞きに行ったりしてみてはいかがでしょう。
<取材協力>
総合型選抜専門塾AOI
藤原照恭 塾長
https://aoaoi.jp/
<取材・文/ 中島理 >
この記事を書いたのは
1981年、北海道生まれ。バーテンダー・会社員を経てライターへ転身。ムックを中心に編集や執筆に携わる。引きこもり経験を持ち、若年層の進学・就労にまつわる心の問題に関心。