教師はもういらないの?ChatGPTで学校と教育はどう変わる?

生徒・先生の声

2023/05/17

2022年に米オープンAIが公開した「ChatGPT」は、インターネット上のデータを学習し、ユーザーの質問や指示に対して自然な対話や文章生成ができる対話型AI(人工知能)のことです。
テキストで質問したことに対して自然で的確な回答を提供してくれるほか、文章の生成や翻訳、意見の表明や簡単なタスクの実行など、多様な応用が可能なことから、世界中で注目が集まっています。

生徒・学生にとっても、レポートや論文、作文の作成などに使えると話題になっており、海外では生徒に使用を禁止するケースも出てきています。

しかし、AI技術がハイスピードで進化している今、教育にどうAIを取り入れていくかは、向き合わなくてはいけない課題です。
それでは、ChatGPTによって、教育現場や子どもたちの学びは、どのように変わっていくのでしょうか。

今回は、ChatGPTを活用した教育機関における働き方改革コンサルティングサービス「SmartTeach」をスタートする、株式会社NEXCENT代表の小澤悠さんにお話を伺いました。

●お話を伺った人

小澤悠さん
株式会社NEXCENT代表。早稲田大学政治経済学部卒。丸紅株式会社勤務、副業での教育プロジェクト代表を経て、2022年3月に丸紅を退職。人のエネルギー総合商社、株式会社NEXCENTを創業。
https://www.nexcent.jp/

ChatGPTができることって何?

ChatGPTを教育現場に導入するメリットは少なくないでしょう。そのひとつには、長らく問題となっている教員の働き方を、改善に向けて大きく一歩前進させられることではないでしょうか。

たとえば、教員の長時間労働に繋がっていたクラス便りの作成、成績管理、さまざまな報告書の作成といった事務作業は、ICT化によって効率化していく動きが進められてきましたが、AIの登場で今後一層加速させられるかもしれません。

株式会社NEXCENTが開始するコンサルティングサービス「SmartTeach」では、ChatGPTを学校、学習塾、大学といった教育機関で活用することで、教員や塾講師、大学教授、学校職員などの業務負担の軽減や業務効率の向上が見込めると言います。

「当社ではこれまで主に企業向け研修やセミナーを手がけてきましたが、2022年にChatGPTが出てきたことで、今後早いスピードで世の中の仕事の多くがAIに置き換わっていくだろうと予測し、学校現場にも導入するメリットや必要性を感じました。現在は静岡県の私立高校さまからお声がけをいただいており、5月中に研修がスタートする予定です。ChatGPTによってできることは、教材の自動生成、部活動のメニュー作成の自動化、学校への問い合わせ対応の自動化、試験の自動採点等、多岐にわたります」

こう話す代表の小澤悠さんは、同社を設立する前には大手商社に勤務しながら、副業として教育プロジェクトの代表も務め、数多くの中学校・高校で講演や授業を手がけてきたそうです。

その中で、「学校の先生たちの業務時間が長く、いかに大変な仕事をされているか、改めて気付いた」と小澤さん。生徒たちのためにも、先生の負担を減らすことが急務だと考えたとのこと。

「ChatGPTで具体的にどんなことができるかというと、たとえば問題作成。志望大学の過去問を読み込ませて、『○○大学の××学部で過去5年間に出題された入試問題をもとに、国語の問題を5問作成して』と指示を出し、生徒に必要な問題をすぐに作成することができます。授業に活用するなら、ChatGPTに織田信長になりきってもらい、生徒たちが信長にインタビューしながら歴史を学ぶ〝タイムトラベルインタビュー〟といった使い方も可能。部活なら、個人の身長や体重などパーソナルデータを入力して、その生徒に合ったトレーニングメニューをつくることもできます。授業以外の業務では、遠足や修学旅行の旅程を作ったり、学校への問い合わせ対応を自動化したりすることも可能です」

AIを使えば、これまで時間がかかっていた作業の効率化が大きく進み、かつ生徒たちに合った授業や部活の内容を組み立てることもできるということです。

教員たちが日々追われている作業の負担が減れば、生徒とのコミュニケーションの時間や、授業の質を高める工夫もよりできるようになるはずです。

(イメージ)

今意識を変えないと、格差の中で置き去りにされるかも……?

メリットの多いChatGPT。一方で、教員たちの仕事をAIに任せることによるデメリットはないのでしょうか。テスト問題や授業に必要なプリントなどをChatGPTが作成してくれたり、勉強のわからないところもChatGPTに聞けば教えてくれるとなると、教員は一体、どんな仕事をすればいいのでしょうか。

「多くの業種と同じように、学校の先生方の中にもChatGPTに自分の仕事が奪われるのではと不安を感じている方もいるかもしれません。教科書に書いてあることを教えるだけなら、生徒はChatGPTと対話をしながら教わることもできてしまいます。ですが、人間にはAIにはできない教え方ができます。国語の先生なら、国語そのものを教えるだけではなく、どういうところが面白いのか、国語を通じて生徒にどんなことを感じてほしいのかなど、思いを伝えることができます。またChatGPTの台頭により、これまでの学校という場の存在意義についても議論が出てくるかと思いますが、学校という〝人が集まる場〟に行かないと感じられないものはたくさんあり、決して無意味な場所にはならないはずです」

ChatGPTで効率化できる部分は効率化し、「その先生にしかできないこと、その学校でないと感じられないことを追求していく余裕を学校側に生み出すことが重要」だと小澤さん。

そうはいっても、学校へのAI導入は、まだまだ自治体や地域によって大きな差が出てくる可能性があります。それ以前に、ICTの活用が十分に進んでいない地域があることも事実です。

「インターネットが出てきたときにも、教育にインターネットを持ち込むことに批判的な意見は多く上がっていました。AIも、今後すぐにほとんどの業界で標準装備となっていきます。ですが、現段階では創世記ですから、『導入したらどうなるか』を議論するには材料が不十分な段階です。早く取り入れて、トライ&エラーを繰り返しながら使い方を模索していくことが必要と言えるでしょう。心配なのは、『私はついていけない』とノータッチでいることで置き去りになる人とそうでない人がいるように、地域ごとに判断に差が出て、AIに対する意識の格差が広がっていくことです」

将来的に、子どもたちにとってAIは日常的に使いこなすツールになっているはずですが、その使い方を早くから学べるか、そうでないかも、自治体や学校、教員の判断によって変わってしまうということです。

AIを使いこなすために必要な力を身につける

では、教育の内容自体は、AIによってどのように変わっていくのでしょうか。

ChatGPTを使えば、読書感想文や小論文、レポートなどは簡単に作れてしまうため、頼ってしまう子どもも出てくると思われますが、それでいいのでしょうか。

小澤さんに意見を聞くと、「そもそも、読書感想文や論文という形で評価をすることのみが教育において本質的に重要なのか、ということに立ち返って考える時期が来たのだと思います」とのこと。

「大学では、論文を書いて、それに対して評価される仕組みになっていますが、大学という場に求められる学びやアウトプットは本当にそこに集約されるのでしょうか。読書感想文も、本を読んだ感想や意見を文章で表現することだけが生徒のアウトプットの方法なのでしょうか。そういう、そもそもの本質の部分に立ち返って考えてみることが大切です。文章での表現が大切だと考えるなら、ChatGPTに頼らず教室で作文を書く練習をしてもいいでしょうし、自分の考えを表現することが大切だと思うのなら、文章だけにこだわらず絵や音楽などで表現してもいいと思います。要するに、今までそれが普通だったからと過去を踏襲してやっていたことに対して、そろそろ疑問を持ち、今の時代に本当に必要な力や学びは何かを根本から考え直すことが大切だと思うのです」

たしかに、時代に合わせて進化するチャンスが、AIによって教育の分野にもたらされているのが、今なのかもしれません。今、根本に立ち返ることをせず、「AIを使ってズルをする生徒がいるから使用は禁止」として旧来のやり方を守ろうとすれば、日本の子どもたちは時代に取り残されてしまう可能性も……。

ですが、「何でもAIに頼ることで、思考力や表現力が養われなくなってしまうのでは」という考え方もあります。本当にそうなのでしょうか。

「ChatGPTなどAIは、超優秀なアシスタントです。でも、現時点でのAIのメインストリームは指示をする人間がいなければ、AIは適切な答えを出すことはできません。ですから、必要な答えを出してもらうための国語力や論理力などは必ず必要になります。どんなものを創造したいかという発想力も大切です。そういう意味で、人間の力が必要なくなることはなく、AIに指示を出すために必要な力をどれだけ磨けるかが重要になってくるでしょう」

2020〜2022年度に小・中学校、高校で次々と必修化されてきたプログラミング教育についても、プログラム自体はAIを使えば簡単に書いてもらうことができます。ですが、プログラミングによってどんなことを実現したいかという発想や、誰にとって使いやすいものにするか、誰にどんなことを伝えたいか、といったイメージを作り、AIに伝える作業は、人間が行うものです。そう考えると、プログラミング言語をただ覚えて使いこなすことだけでなく、仕組みを知った上で何をしたいかを考える力がより大切だということになります。

また、小澤さんは多くの企業や教育現場を見てきた中で、教員も生徒・学生もこれから伸ばしていくべき力として、「あいたい力」という言葉があると教えてくれました。

「これは、人から『会いたいと思われる力』、また時代や環境に『相対する力』だということです。先生なら人対人で向き合って生徒のモチベーションを上げたり、自ら考える・行動する力を身につけさせたりすること。そのためには生徒から『会いたい』と思われる大人になることが必要です。生徒も、ただ問題が解けるようになるだけでなく、人に共感したり協力したりすることや、一緒に挑戦したいと他人から思われるような力を、社会に出るために身につけることが大切です」

情報収集や計算、文書作成、プログラミングなど、多くの作業をAIが人間に代替していく時代において、人間だからこそ持つ力は、より必要になっていきます。以前から偏差値教育や点数を競う教育からの転換は必要だと指摘されてきましたが、AIの登場によってやっと、それが叶うのではないでしょうか。

<取材・文/大西桃子>

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この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。