大学入試改革とは? 2020年以降はどうなる? 目的や求められる力を簡単に説明します

教育問題

専門家に聞く

2020/01/31

今年も受験シーズンがやってきました。大学入試の「センター試験」の実施は、2019年度(2020年1月)が最後となり、2020年度からは新制度「共通テスト」がスタートするとされています。

新制度においては、英語では民間試験が活用され、国語や数学では思考力や表現力を測るために記述式問題を導入するとされていましたが、2019年度末に、この2つの新制度は延期されることが突如発表されました。

その経緯として、英検などの民間試験は、

  • 実施される地域が限られている
  • 費用の面で不公平が出てくる
  • 記述式問題の採点をアルバイトに委託しても問題ないのか

などの声があり、実施するには大きなハードルがあったことが、延期の背景にあります(もっと早く気付かなかったのかという指摘も上がっています)。

では、2020年度からの入試はいったいどうなるのでしょうか。

今決まっていることだけでもわかれば、春から受験生となる生徒たちもしっかり準備を進めていくことができます。そこで今回は、教育ジャーナリストの矢萩邦彦さんに、新入試制度の見通しについて伺ってきました。

新入試制度は白紙状態… 今後の内容はどうなる?

まず、2020年度から始まる予定だった英語民間試験の活用、記述式問題がなくなるということは、共通テストは2019年度までのセンター試験と内容は変わらないということなのでしょうか。

どのような内容になるかというのは現在のところわかっていません。予測はさまざまありますが、決まっていないことに振り回されてもしかたがないので、正式な決定を待つしかありません。

ひとつ変わらないことを挙げるとするならば、大学入試改革は“高大接続政策”の一環として行われるということです。そのことを踏まえて準備を進める必要があるでしょう」

「高大接続政策」とは

「高大接続政策」とは、高校では「学力の3要素」(知識・技能/思考力・判断力・表現力/主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度)を確実に育成し、大学ではさらにそれを伸ばすという考え方となります。

そのため、大学入試においても、学力の3要素が育っているかを見極めるような方法をとろうということだったのですが、先述したように新制度の実施はハードルが高かったわけです。

改革の方向性は決まっているものの、試験方法は漠然…

グローバル化やAIなどの進化が加速し、社会の構造が大きく変わっていく現代において、今までのような暗記中心の教育では国際社会の中で日本は取り残されてしまう……、そこで教育を改革しようというのが新入試制度に向けた動きでした。

しかし、延期が発表され具体的な試験方法がわからない今は、漠然としていますが、「学力の3要素」をしっかり身につけることが重要としか言いようがないとのこと。

そもそも、受験で高い点数をとるためだけに勉強するという考えでは今後の社会ではやっていけなくなるでしょうから、今こそ学ぶとは何かを真剣に考えるタイミングなのかもしれません。

「主体性を持って学ぶ」姿勢が問われるように

とはいえ、これから受験生になる人にとっては、もう少し具体的に、何をやるべきか知っておきたいのではないでしょうか。

たとえば、文部科学省は各大学などに調査書や志願者本人が記載する資料を積極的に評価するように通達しています。
これは学科のテストでは測れない「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を測るためですが、学校での活動が少ない通信制の高校生の場合、全日制の生徒に比べて不利になることはないのでしょうか?

「調査書については、受験生を一律に測るための基準がないので、今まで以上に重視するといっても具体的に採用するのは難しいでしょう。
そもそも、調査書に何を記載するかということも決められているわけではありません。基本的に教員は生徒の良い面しか書きませんし、合否を判断するための公正な評価基準を作るのは困難です。

資格や何かの大会での成績なども、さまざまあるので受験生の誰もが納得するような基準の作りようがありません。受験者数の少ない大学なら可能かもしれませんが、数万人が受験するような大学では難しいでしょう。ただ、『eポートフォリオ』の提出は必要になるかもしれません」

「eポートフォリオ」とは? 義務になる可能性も

「eポートフォリオ」は、大学入学者選抜に活用できる仕組みとして構築された大学出願ポータルサイト「JAPAN e-Portfolio」のこと。

生徒が主体性を持って多様な人々と協働し、学んでいるかということを評価するためのもので、「探究活動」「生徒会・委員会」「留学・海外経験」「部活道」「学校行事」「学校以外の活動」「表彰・顕彰」「資格・検定」といった項目について、生徒自身や教員が入力するシステムになっています。

これを使うかどうかは各高校・大学に委ねられていますが、志望校が提出を義務づけることも出てくるかもしれません。

「新制度がeポートフォリオのようになるとは明言できませんが、本質的な学びに立ち返って、自己成長につながることをしっかりやっていくこと、そしてやったことを振り返っていくことは必要ですよね。それをきちんとやっていれば、eポートフォリオは自然にできあがりそうです。

これからの企業がほしい人材は、ロボットにはできない、クリエイティブでクリティカルな力を持った人。言われた作業をやるだけの人は必要なくなっていきます。

通信制の高校生の場合は、規則などでガチガチに固められた学校に毎日通う必要がなく、自分と向き合って本質的な学びを追う時間が多くありますから、むしろそこは有利な点でしょう

学生期間をただ漫然と過ごすのではなく、自分の学びたいことやできることを追求し、伸ばしていくことに時間を割いてほしいと矢萩さんは言います。

新指導要綱の授業を受けていなくても大丈夫?

2020年度の大学入試制度についてはほとんど白紙に戻されましたが、一方で小・中・高の新指導要綱は段階的に実施されていき、プログラミング教育や外国語の授業は外国語で行うこと(コミュニケーション力を上げる)などが取り入れられていきます。

通信制高校の場合、英語でのコミュニケーションなど、新しい指導要綱に則った授業をじゅうぶんに受けられず、結果的に大学受験や大学入学後に困ったことになる可能性があるのでしょうか?

「確かに、コミュニケーション能力という意味では通信制高校の生徒は不利になる面があるでしょう。教員と毎日顔を突き合わせ、周りの生徒たちと共に学ぶ生徒と、限られた日数だけ通学したりインターネット上だけで学んだりする生徒とでは、コミュニケーションの量には圧倒的な差が出てきます。

ですから、家族や気の合う人以外にも、積極的に多様な人と会うということを意識するといいでしょう。それは必ずしも英語での会話である必要はありません。
そもそも英語以前に、日本語のコミュニケーションができていない人が多い現状です。英語はあくまでもツールであって、まずは母語で伝えたいことがあるかどうかが大切です」

受け身の姿勢より「成長する意思」が大切

文部科学省が指針とする“主体的・対話的な深い学び”を意識して、「与えられた課題をこなして単位をとりさえすればいい」という受け身の姿勢にならないことが重要だという矢萩さん。

「大学進学を目指すなら、だらだらと時間を消費せず、一般入試を受ける場合はタイムマネジメントをしっかりして、学習を計画的に進めること。自力でタイムマネジメントができないなら、予備校や進学塾を利用しましょう。

大学でやりたいことが決まっているなら、AO入試に挑戦するのもいいですね。ただ、AO入試は今では“一般入試の勉強がイヤだから受ける”という人が多く、入学した学生の基礎学力の低さが問題視されるようになっているため、今後変わっていく可能性があります。なので基礎学力をつけ、やりたいことに対して実績をきちんと積み重ねておくことが必要でしょう

いずれにしても、受験に合格するためでなく、学びへの姿勢がきちんとできていれば、どのように入試制度が変わったとしても大きな問題にはならないのかもしれません。

さまざまな情報に振り回されず、変化についていけるように、どんな環境でも普段から「成長する」という意識を忘れずに過ごしていくことが大切です。

取材協力

矢萩邦彦

実践教育ジャーナリスト・知窓学舎塾長・株式会社スタディオアフタモード代表取締役CEO・教養の未来研究所所長。1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場で「パラレルキャリア×プレイングマネージャ」としてのキャリアを積む。15000人を超える直接指導経験を活かし「探究×受験」をコンセプトにした統合型学習塾『知窓学舎』を運営、「現場で授業を担当し続けること」をモットーに実践教育ジャーナリスト・教育カウンセラーとしても活動を広げる。編著書に『中学受験を考えたときに読む本』(洋泉社)、『先生、この「問題」教えられますか?』(洋泉社)などがある。

<取材・文/大西桃子>

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この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。