2022/10/13

きっかけはゲーム!ひきこもり・不登校などの若者を支援するサンカクシャの活動を覗きました

教育問題  不登校 

ひきこもりや不登校、貧困など、生きづらさを抱える15〜25歳くらいの若者たちをサポートする、特定非営利活動法人サンカクシャ。

シェアハウスや自由にくつろげる「居場所」の運営や、就職をサポートする当団体では、2022年6月に無償でゲーミングPCを使えるeスポーツ施設を創設、プロのeスポーツ選手を招き入れてeスポーツチーム「Apex Legends」も立ち上げています。

サンカクシャでは、eスポーツをコミュニケーションツールとして使いながら、支援につながりにくい若者たちをサポートしています。
具体的にどんな活動をしているのか、運営する居場所施設を覗かせていただきました。

行政支援が届かない若者たちの自立をサポート

学校などの仕組みに気持ちがついていかない、集団の場に出ていくことに抵抗感が強い、など「支援」からこぼれ落ちやすい若者に居場所を提供し、適切な支援や自立に結びつけているサンカクシャ。
代表理事の荒井佑介さんによれば、コロナ禍以降、特に相談件数が増えていると言います。

「家に居場所がない、虐待する親から離れたいなど、家庭に問題を抱える若者が増えてきています。中でも行政からの紹介でつながるケースが増えており、今の行政の枠組みでは支援が難しい若者が多いことを実感しているところです」

今回訪問したのは、東京都豊島区にあるサンカクシャの居場所施設。夕方近くになると20歳前後の若者たちが集まり、スタッフとリビングで話をしたり、ゲームを楽しんだりと、思い思いにくつろぎ始めます。

そのうちの一人、普段は会社勤めをしているという若者に話を聞くと、
「知り合いに聞いてこの場所を知りました。コロナ禍で仕事はリモートワークになり、人と顔を合わせて話す機会がなくなってしまいました。ここに来たらいろんな人と気楽に話せるので通っています」とのこと。
このように、コロナ禍で日常的なコミュニケーションの場が失われたことで、行き場を求めている若者も増えていることがうかがえました。

「行政の支援は、義務教育である中学生まではいろいろ揃っているのですが、中学を卒業してしまうと支援が切られてしまうことが多いんです。高校を卒業したらもう自己責任のようになってしまっており、若者への支援がほとんどないのが現状。
自立がうまくできない環境で育ってきたなど、自分ではどうしようもない子たちが置き去りになってしまっています」

実際、児童相談所や東京都の子供家庭支援センターなどは、支援の対象となるのは18歳まで。「それ以降は家庭に問題があったり、自立に困難を抱える若者に対する支援はあまり充実していないのが現実」と荒井さん。

とはいえ、居場所の支援をするにしても、そこに居心地の良さを感じられるかや、スタッフに心を開けるかどうかなどが重要になると言います。

居場所施設内のリビングには漫画やゲームなどもたくさん。思い思いに過ごせる

ゲームをきっかけに、自然に人とつながれるように

若者が抱えている問題をクリアして自立していく、そのサポートをするためには、まずは今足りていない「安心できる場所や人」を提供することが重要。そこでサンカクシャでは、ゲームをとっかかりとして活用しています。

「これまでひきこもりや不登校の子どもたちを支援してきた中で、ただ声をかけるだけではなかなか心を開いてもらえませんでした。でも、〝一緒にゲームしよう〟と声をかけ遊ぶだけですぐにコミュニケーションがとれるようになる、ということが多々ありました。
そこで、ゲームをコミュニケーションツールとして使えればと考えるようになったんです。別に誰かと無理に話さなくても、まずはゲームをしに来られればいいのかなと」

その流れで、豊島区の居場所には2022年6月からeスポーツ施設を創設。株式会社サイコムから寄贈してもらった8台のゲーミングPCを自由に使えるようにしました。
さらに、プロのeスポーツ選手たちを招いてeスポーツチーム「OWLRISE(アウルライズ)」を結成。施設に来る若者たちが一緒にプレイしたり、プロと交流したりできるようになりました。

「もうすぐ世界大会が始まり、うちのチームも参加するので、みんなで応援して盛り上がれたらと思っています。ただ、今はネットカフェで暮らす若者も多く、〝ネットカフェ難民〟という言葉もここ数年よく聞かれるようになりましたよね。

若者にとって、インターネットは社会と繋がる重要なツールであり、なくてはならないものとなっています。ゲームにこだわらず、この施設もネットカフェのように使ってもらえればと思っています」

さらにゲームの他にも、サンカクシャを通じてITスキルを得ることで、社会的自立をサポートする取り組みをいくつか手がけているとのこと。

「動画作成をプロデザイナーに学べて、配信デビューをサポートするストリーマー部門を立ち上げたり、豊島区のデザイン事務所と連携してデジタル人材を育成したりと、さまざまな方面からのご支援でサポートの幅を広げています。
また、私自身がVtuber〝あらいちゃん〟としてゲーム配信等を通じて若者とつながり、相談支援に結びつけていく取り組みもしています」

若者支援においては、若者がいるフィールドを理解し、そこにアウトリーチ(積極的に働きかけ、情報や支援を届けること)をしていくことが重要だと言います。

8台のゲーミングPCが並ぶeスポーツ専門の部屋。若者たちはeスポーツ選手とオンラインで交流することもできる

若者支援にSNSでのアウトリーチは必要不可欠

今後の展開について荒井さんに聞くと、SNSを使ったアウトリーチもより活性化させていきたいとのこと。

「今の若者は、知りたいことを検索する場合、Googleなどの検索エンジンよりもTwitterやInstagramなどのSNSを多く使います。ですから、困っている若者に支援を届けるにはSNSの活用が必須です。実際、当団体でもTwitterを通じて住まいの相談をしてくる若者が多いんですね。

炊き出しなどの情報もTwitterで知る若者が少なくありません。行政ではまだそこまで手が届かず、困っている若者がどこにいるかキャッチしきれていないのが現状。そこをカバーしていくために、SNSでのコミュニケーションに力を入れていきたいと思っています」

現在、SNS上でSOSを発信する若者も増えていますが、一方で適切な支援情報はなかなかSNS上に流れてこず、その隙間をついて声を掛けてくる大人によって若者が被害に遭ってしまうケースも相次いでいます。
こうした支援の隙間を埋め、被害に合う若者を減らすためにも、「SNS上でのアウトリーチは欠かせない」と荒井さん。

「さらに、ゲームだけでなく、演劇や音楽などさまざまな文化に活動を広げて、若者が好きなことを通じてつながれる場所となっていければいいな、と。
また、居場所施設は現在22時には閉めていますが、夜間に安心して過ごせる場所がない若者も増えているので、深夜から朝までの時間も開けられるようにできないかと計画中です。ハードルが多くて、難しいんですけどね……」
やりたいことはまだまだたくさんあると語ってくれました。

コロナ禍で徐々に顕在化してきた、さまざまな課題を抱える若者たち。支援のニーズはますます高まっていますが、まずは若者の文化に寄り添うことがポイントになることがわかりました。今後こうした活動がさらに広がっていくことを願います。

取材協力

特定非営利法人サンカクシャ

https://www.sankakusha.or.jp

学校や社会に馴染めない15〜25歳ぐらいの若者が社会で生きていくために、経験値を獲得できる機会を作る。人とつながり、自分を応援してくれる人と出会える「タマリバ」と、何かにチャレンジするための「サンカク」の機会を作り出し、若者の経験値が上がるように応援。

活動を支えるためのご寄付はこちらから。

https://www.sankakusha.or.jp/donation/

<取材・文/大西桃子>

この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。

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